介護サービス・制度
2025-07-01
介護美容とはどんなサービス?内容と効果、働き方などを紹介

「介護美容」は、介護が必要な方を対象としたサービスの一つです。身体機能や認知機能が低下した方にとって身だしなみを整えることは、おしゃれをするだけでなく、衛生管理や心のケアという意味合いが含まれています。
本記事では、介護美容の概要やニーズ、注意点を中心にまとめました。有用な資格や働き方についても紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
介護美容とは?

介護美容とは、要介護の方向けにヘアケアやメイク、ネイル、マッサージなどを提供するサービスです。身体機能や認知機能が低下し介護が必要になると、身だしなみを整えることが難しいというケースがあります。また、要介護の方の中には、美容室へ足を運ぶこと自体が負担になることもあります 。
そこで介護美容では、主にご自宅や施設、特設のスペースなど、介護が必要な方が利用しやすいバリアフリー仕様にしてサービスを提供しています。
介護美容のニーズ
近年の高齢化に伴い、介護美容の需要は増加しています。美容業界にとっては、医療・福祉との連携によって新たな可能性を見出すチャンスと捉えることもできるでしょう。
一方で、介護美容の担い手は決して多くはなく、人口の少ないエリアでは出張サービスに対応できないなど、地域格差が生じているのが実情です。そのため、介護美容は、全国のさまざまな場所で大いに必要とされているサービスなのです。
介護美容においては、美容は単なるファッションではありません。美容を通じて、介護や福祉を支え、介護が必要な人の生きがいを支援する意義があります。
介護美容がもたらす心と体への効果とは?

介護美容で施術をすることで、利用者さんにどのような効果があるのでしょうか。ここでは主な効果についてまとめています。
自尊心やQOL(生活の質)の向上
要介護の方は、自分のできることが減り、他人に頼らなければならないため、自尊心が低下しがちです。そんな時、外見がプロの手により美しく整えられ、かつ周囲から「きれい」と評価されることで、自然と笑顔が増え、自信が生まれるでしょう。また、外に出ようという気持ちも芽生えることで、周囲の人との関わりが増え、社会的な孤立も防ぐことが期待できます。
介護美容は、自分を大切に思い、生活習慣や社会的な関わりも改善する可能性を秘めています。
気分の安定やうつ予防への効果
メイクをしてもらったり、ウィッグをつけてもらったりすると気分が華やぐのは、介護を受ける方も同じです。自分がきれいになる、いつもとは少し違う雰囲気になることで、リラックスできるといわれています。心地よい時間を過ごすことは、不安の軽減や、うつなどの予防にもつながるでしょう。
また、美容のケアの際に髪や身体に手が触れることで、痛みや不安が和らぐケースもあります。これは、肌と肌が触れ合うことで、不安を緩和する脳内ホルモン「オキシトシン」が分泌されるからです。美容のケアは、精神面の安定やうつ予防に大きく寄与しているといえるでしょう。
会話や触れ合いによる認知機能への刺激
美容施術中の会話や触れ合いが、要介護者の方にとって良い刺激となって認知機能を高めてくれる側面もあるといわれています。スキンケアを週2回以上行っている要介護高齢者は、行っていない人より認知能力が高く、生活が良好であるという研究結果もあります。 このデータからも、介護美容をしてもらうことが認知機能の維持・向上に寄与する可能性が裏付けられているのです。
参考:一般社団法人日本介護美容セラピスト協会|学術発表データ
介護美容の主な対応メニュー

介護美容として対応しているメニューについて、解説します。
カット・ブロー・カラーリング
要介護者にとって、定期的なヘアカットやシャンプー、ブローは、清潔感を保つためにも重要です。また、カラーリングなども気分転換や白髪を隠すために有効な手段といえます。
施設や自宅などでヘアケアを行う場合、施術内容は設備によって制限されることがあるため、特にシャンプー台を設けていない場合、ドライカットのみの対応となります。
一方、美容室の機能を備えた専用車両、いわゆる移動美容所はシャンプー台が設置されていることが多いため、カットやパーマ、カラーリングが可能です。
ただし、介護美容としての施術メニューは、設備だけでなく、利用者の体調や体勢にも左右されます。そのため、長時間椅子に座るのが難しい方や、シャンプー台で身体を後ろに倒せない方もいることを想定したうえで、メニューを考えることが必要です。
フェイスケア・メイクアップ
肌の清潔さを保ち、若々しい印象を与えるために、フェイスケアやメイクアップは効果的です。一般的に高齢者の肌は皮膚のバリア機能の低下によって乾燥しやすいため、クリームやローション、場合によってはパックなどで入念に保湿することが重要です。近年、さまざまな原料、方式のフェイスケアがありますが、高齢者の肌を考慮し、刺激の大きなケアは避けましょう。
フェイスケアができたら、メイクアップも楽しみたいものです。プロによるメイクをしてもらうことで気分が晴れやかになり、外出への意欲が高まります。メイクグッズも敏感肌の人向けのものなど刺激が少ない化粧品を選ぶようにすると良いでしょう。
マッサージ
身体へのマッサージは、リラックスやストレス軽減、健康増進にも寄与します。例えば、ハンドマッサージは場所を選ばず施術することが可能です。
第2の脳とも呼ばれる手をほぐすことで、脳の血流量が増えることで認知機能にも良い刺激を与えるといわれています。
また、フットマッサージは、むくみや冷えを改善し、足裏のアーチ崩れの予防にもつながります。糖尿病の方は足の痛みや傷に気づきにくく、放置すると、最悪の場合、足を切断しなければならないケースもあります。フットケアの一環として、フットマッサージを受けるのも良いでしょう。
そのほかに、エッセンシャルオイルを使ったアロママッサージがあります。香りによって気分が安定し、消化促進やホルモン分泌の調節、自律神経などに良い影響を与えることも期待できます。一方でアロマオイルには、種類によって刺激や毒性を持つものがあるので、十分な注意が必要です。
介護美容が必要とされるシーン

介護美容が必要とされているシーンとして、主に以下の3点が挙げられます。
自宅や施設での定期的な身だしなみケア
介護美容は、身体の清潔感を保つため、定期的に必要です。例えば、爪切りやヘアカットなどは、感染予防や肌トラブルを防ぐためにも行わなければなりません。フットマッサージによって、足裏を整えて転倒を予防したり、肌ケアによってかゆみや老人性乾皮症(※)を防いだりすることは、医療の面からも意味のあることです。
また、セルフケアを習慣化することで、自尊心や認知機能の維持・向上にもつながります。プロによるケアだけでなく、介護を必要とする方が少しでもセルフケアできるようなサポートも行われると良いでしょう。
(※)年齢を重ねるとともに肌が乾きやすくなる状態のこと
特別な日のおめかし
介護美容がより大きな力を発揮するのは、特別な日です。例えば、誕生日にプロにメイクしてもらい、写真を撮って思い出として形に残すのも、素敵なひとときになるでしょう。
孫の誕生日や特別な記念日などに、介護美容を利用できることもあります。髪型を整えたり、メイクやネイルでいつもとは違う装いを楽しんだりすることで、若々しい気持ちを取り戻せるかもしれません。
また、メイクやヘアセットをしてもらうことで、「どこかへ出かけたい」という意欲が湧くこともあるため、介護美容が普段とは違う時間を楽しむきっかけにもなるでしょう。
認知症の方への心のケア
認知症への薬以外のアプローチとしても、介護美容は効果的です。ケアやトリートメントを受けている時は、自然に会話が増えるでしょう。普段話さない人との会話は、脳への良い刺激になるといわれています。また、施術後に鏡を見ることで、表情が豊かになるといった変化が認知機能の向上に良い影響を与えてくれるかもしれません。
認知症の場合、ご家族による美容ケアにも限界があるという側面もあります。ヘアカットをしようとしたら怒り出す、または施術中に突然抵抗するといった事例もあります。こうした場合には、なおさらプロのケアが必要とされます。認知症の方の心を傷つけず、質の高いケアをするためにも、介護美容を活用するのが良いでしょう。
資格は必要?介護美容を仕事にするために押さえておきたいポイント

介護美容の仕事として検討されている方の中には、資格や経験などが気になる方もいることでしょう。ここでは押さえておきたいポイントについて解説します。
資格はある方が有利
介護美容としてヘアカットやヘアカラーなどをする場合、美容師・理容師の資格以外に特別な資格は必要ありません。ただし、福祉介護系の民間資格も保有していると、高齢者や介護についての理解も深まり、介護美容の利用者からの信頼も得やすいでしょう。福祉美容師の資格は、以下のようなものがあります。
一般社団法人日本訪問理美容推進協会|ヘアメイクセラピスト(訪問福祉理美容師)
養成講座1日または養成スクール3日のいずれかを受講することで、資格を取得できます。高齢者や介護が必要な方に向けた正しい介助知識を習得できるのも特徴の一つです。
関連サイト:一般社団法人日本訪問理美容推進協会|ヘアメイク・セラピスト養成講座
NPO法人日本理美容福祉協会|福祉理美容士
自宅学習と2日間の実技講習で介助の知識や訪問理美容技術を学びます。
関連サイト:NPO法人 日本理美容福祉協会|養成講座ご案内
医療福祉情報実務能力協会|認定福祉美容介護師・認定福祉理容介護師
指定機関での通信講座とスクーリングで、病院環境衛生学・医科薬科学・衛生・介護・応急手当など、医療にも関連する高度な知識と技術を身につけることができます。
関連サイト:特別非営利法人医療福祉情報実務能力協会|美容師・理容師資格:認定福祉理容・美容介護師
一般社団法人 日本介護美容セラピスト協会|ビューティータッチセラピスト
ハンドセラピーやフェイシャルなどの基本講座を受講し、認定試験に合格すると、専門性の高い美容サービスを提供する知識・技術を習得できます。
関連サイト:一般社団法人 日本介護美容セラピスト協会|ビューティタッチセラピストになるには
また、「介護×美容」を軸とした専門スクール介護美容研究所では、介護・看護の現場でカットやメイク、ネイル、エステティックなどの技術を習得できます。スクール卒業後支援の体制も整っているのが特徴です。
関連サイト:介護美容研究所|ケアビューティーコース
現場経験が強みになる
各種資格と同じくらい強みになるのが、介護施設や福祉関連の実務経験です。介護が必要な方や認知症の方と触れ合い、生活面の介助や支援をした経験があれば、戸惑うことなく介護美容のケアができるでしょう。
また、サービスの利用者からの信頼にもつながります。介護美容は、美容と介護・福祉の掛け合わせで、最強のキャリアを築くことができる領域といえるでしょう。
介護美容職の働き方モデル
介護美容を仕事にしたい場合の働き方として次の3点があります。
雇用型
まず、訪問美容を実施している美容室、サロンなどに就職する方法があります。美容師やセラピストとして勤務し、要介護の方や施設へ出向いてケアをするのが一般的です。
独立開業型
独立開業し、介護美容を行うことも可能です。美容院やサロンの開業はもちろん、個人事業主として介護美容を請け負うこともできるでしょう。
副業型
個人事業主であれば、普段は美容院などに勤務して一般施術を行い、副業として介護美容を行うこともできます。施設や個人のニーズをヒアリングし、どのような形で展開するかを考えるのも良いでしょう。
笑顔と健康をサポート、介護美容にチャレンジ

高齢化社会の今、介護美容のニーズはさまざまな場所や場面で高まっています。介護美容には、美容師などの特別な資格は必ずしも必要ありません。例えば、美容業界での経験を活かしたり、ホスピタリティや介護福祉の専門知識を基盤にしたりすることも可能です。
また、介護美容は働き方も選べます。ご自身に合ったキャリアを築くことができます。要介護の方の笑顔と健康をサポートする、介護美容の世界にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。
コラム記事執筆者

鈴木 満優子
2010年よりフリーライターとして、医療系メディアや医療機関の広報コンテンツに携わる。これまでに、クリニックや総合病院、大学病院、介護施設などを数多く取材。医療法人や障害者施設の年史制作や、自治体の医療福祉系の予算報道から、美容医療のレポートまで、幅広く執筆している。