介護情報メディア ケアケア 介護士向けコラム 介護業界の就職・転職 【インタビュー】訪問看護ステーションで働く理学療法士に訊く、訪問リハビリのリアル(前編)

介護業界の就職・転職

2023-07-20

【インタビュー】訪問看護ステーションで働く理学療法士に訊く、訪問リハビリのリアル(前編)

理学療法士の中でも一定のスキルや経験が求められる訪問リハビリ。病院で働く理学療法士とはまた違った立ち位置にいる訪問リハビリの働き方を知っている人は意外と少ないのではないでしょうか。

 

今回は訪問リハビリの理学療法士として働くKさんに、そのリアルな働き方を伺うことができました。

訪問リハビリに携わる理学療法士にインタビュー

ーこれまでの経歴について教えてください。

これまで7年ぐらい理学療法士として働いています。一番はじめに就職したところでは6年ほど維持期・生活期の利用者さんを担当していました。その中で通所・訪問リハビリをそれぞれ2年ほど、いわゆる介護保険のリハビリですね。要介護支援になる前のまだ元気な方を対象としたリハビリに携わりました。

ー訪問を目指そうと思ったきっかけはなんだったのでしょうか。

結論からいうと、自分が理想とするリハビリのかたちに一番近かったというのが答えです。理想のリハビリというのが、機能回復や生活する中での動作に限らず、その人が一番やりたいことを実現できるものなんですね。入院・通所・訪問と経験する中で、訪問リハビリが最も近いのかなと感じました。

実際、これまで訪問リハビリに携わる中で、某有名店のラーメンが食べたい、長年の行きつけだったイタリアンに行きたい、椅子ではなく正座で家族とご飯が食べたいといった利用者さんのご要望に寄り添ってきました。

ー以前、理学療法士に訪問リハビリに行くにはある程度のスキルや経験が必要だと伺ったのですが、何年くらいで訪問リハビリに転向する人が多いですか。

一概にはいえませんが、石の上にも3年という言葉があるように、病院等で最低でも3年間は臨床を経験してから訪問リハビリに転向する方が多いように感じます。

ー訪問リハビリの仕事内容について教えてください。

まずは体調の確認から行います。血圧や体温、酸素飽和度などをチェックし、その時点でなにか問題があればその日のリハビリを中止することもあります。そのうえで問題がなければ、1週間の生活状況の確認をし、利用者さんが抱えている悩みに対してアプローチを行っています。

必要があれば介護保険でレンタルができる福祉用具を一緒に選ぶほか、手すりをつけたり段差をつけたりといった住宅改修を業者さんに相談しつつ提案することもあります。また、手作りで自助具を作成するほか、自主トレメニューの作成なども行いますね。

ー関係各所との調整も業務の一環として行うんですね。

はい。理学療法士以外の担当でいえば、医師やケアマネージャー、看護師、作業療法士、言語聴覚士などが挙げられますね。ときには地域の運動教室の先生とも連携を取りながら業務に取り組むこともあります。

ー訪問リハビリで担当する方はどういった方が多いのでしょうか。

全体としては70代後半から90代の方が多いですね。男女比はそれほど差がなく、女性が少し多いくらいでしょうか。症状も人によってさまざまで、中にはコロナの影響などで回復期のときに思うようなリハビリを受けられなかった方もいらっしゃいます。

ーもしかしたら混同する方もいるかと思って伺いたいのですが、いわゆる介護士と訪問リハビリの大きな違いはなんでしょうか。

いわゆる訪問介護、ヘルパーの方は「身体介助」と「生活援助」というのが主な仕事になります。このうち、「身体介助」は食事や排泄行為、入浴介助があたります。一方で、生活援助は掃除や洗濯、買い物、調理といった動作に対するサポートですね。それから通院の付き添いなんかもする場合があります。訪問リハビリではそういったサポートは基本的に行わないので、介護福祉士とはこうした点が大きく違うかなと。

ーここまでお話を聞いていて、業務内容が非常に多岐にわたるだけでなく、求められるスキルも非常に高いなと感じたのですが、訪問リハビリに向いている人はどういった人だと思いますか。

訪問リハビリに向いている、適性がある人の特徴は大きく5つあると思っています。1つ目は退院後の生活に興味がある人ですね。病院だと患者さんに退院してもらうことが大きな目標になるため、退院後どう生活しているのかよくわからない。つまり、自分がやったことが正しかったのかわからないんです。なので、患者さんの退院後の生活に興味を持てる方は訪問リハビリに向いているのではないかと考えています。

2つ目は創意工夫が好きな人、そういった作業が苦にならない人です。病院ではなく利用者さんの自宅なので、環境が整っているわけではないんですね。そのため、限られた選択肢の中でどうリハビリの効果を最大限引き出していくか、自分で考えて工夫する力が求められるかなと思います。

3つ目は体力に自信がある人です。地域によっても異なるのですが、基本的に東京だと訪問リハビリの主な移動手段は自転車になるんです。自転車に乗りながら1日5~6人ほど、利用者さんの自宅を訪問するので体力は重要かなと感じます。実際、僕も今日は9時から18時まで6人の利用者さんを担当しました。

4つ目は、日頃から家事に取り組んでいる人も向いていると思います。利用者さんから「料理や洗濯など日常動作の中で困っていることがある」と相談を持ちかけられた際、やっぱり自分で普段から家事をしていないと本当のところってわからないんですよね。なので、自ら率先して家事に取り組んでいるかといった部分は大事なんじゃないかと考えています。

5つ目が、自分で実績を上げて収入アップを目指したいといった意欲が強い人。訪問リハビリは病院と違って、やればやっただけきちんと収入に反映されるので、そういった点にやりがいを見出せる人は向いているんじゃないかなと。

ーなるほど。先ほど自助具の話が少しあったかと思うのですが、そういったものは基本手作りで作られているのでしょうか。

担当者によりますね。その人のタイプをはじめ、自分でどこまでやりたいかという部分が大きいのかなと思います。先ほどの話にも繋がりますが、僕自身は創意工夫が好きなので自助具の作成が苦にならない一方、苦手な人は利用者さんの自宅にあるものを活用して自助具の代わりとするケースもよく聞きますね。

ー訪問リハビリは他の理学療法士とかなり異なった立ち位置にいると感じたのですが、仕事をしていて感じる難しさはありますか。

病院で働く理学療法士と比べ、訪問リハビリは相手のテリトリーに飛び込んでいかなければならないところが、一番異なる点であり苦労するポイントかなと感じています。病院は、理学療法士にとってホームのような場所になるので、ある程度融通が利くんですね。ただ、場所が相手の自宅となれば話は変わってきます。利用者さんはもちろん、ご家族とも良好な関係を築かなければいけないといった点で、難しいなと。

歓迎されていない中でやる仕事は精神的にも辛くて、僕もこれまでに2回ほど「もういいよ」といわれてしまったことがあるんです。見過ごしてしまいそうな小さな不満にも気を配り、常に相手のホームに伺わせてもらっているという姿勢を大切にする。そういったところで常に難しさを感じています。

ー基本1人で対応しなければならないといったところも難しそうですよね。

そうですね。自宅に1人で伺うことがほとんどなので、自分しか利用者さんの状況がわかっていないといったケースも珍しくありません。そういった意味で、先輩や上司に悩みを相談しにくいのも難しさの1つかなと思います。

それから最後に1つ、番外編のような話になるのですが、気軽にトイレに行くことが難しいんですよ。訪問先のトイレを借りることでトラブルになる恐れがゼロではないので。訪問リハビリあるあるだとは思うのですが、訪問途中のトイレポイントには詳しくなりますね。

ーこれまで対応した中で突発的な対応が求められたこともあるのでしょうか。

あります。僕の場合は、伺った際に利用者さんが転んでしまっていて。状態を確認してからベッドに戻っていただいたんですが、それでも痛みが引かず、車椅子に乗せて整形外科まで付き添ったことがありますね。結果、その方は骨折していることがわかって入院したのですが、そういった際に取るべき行動を少ない情報の中から判断しなければいけないというのは、訪問リハビリの難しさでもあるかなと感じています。

ー介護士やケアマネージャーなどと連携を取る機会も多いかと思うのですが、具体的にどういったかたちで関わるのかお聞かせいただけますか。

先ほどの転んでしまった話をはじめ、熱があったり、普段と少し様子が違ったりしたらまずはケアマネージャーに連絡をしています。

ケアマネージャーは各担当のまとめ役のようなポジションを務めているので、各担当者に連絡がいくような流れになるんですね。なので、ネガティブなことはもちろん、ポジティブなこともすべてケアマネージャーに連絡するように意識しています。どれだけ密に連絡を取れるかが、関係性の構築に大きく影響してくるかなと思います。

また、介護士には寝たきりの人を担当したときに相談する機会が多いですね。たとえば、おむつを履かせることが困難になってしまった、床ずれが生じそうだといった内容ですね。介護士の方が頻繁に利用者さんのもとを訪ねているので、その状況を介護士経由で教えてもらうこともあります。お互いにリスペクトし合いながら、情報を交換するように心がけています。