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介護の基礎知識

2024-02-16

ヤングケアラーの学校生活への影響は?|教育現場における取り組み

自宅で高齢者や障がい者の介護や、幼い兄弟の世話を日常的にする子どもを「ヤングケアラー」と呼びます。
ヤングケアラーが家庭で担う役割は大きく、精神的・身体的なストレスを抱えているため、子どもたちへの理解と支援が必要です。

 

しかし、ご家族の世話が日常化しており家庭のことを相談しにくい状況があります。

 

また、本人に自覚がなく、学校ではヤングケアラーの悩みは表面化しにくく、必要な支援を受けられないことが課題です。

 

本記事では、ヤングケアラーの学校生活に注目し、早期発見と具体的な事例を交えて解説します。社会資源を使ってどのような対策ができるのか考えていきましょう。

ヤングケアラーの学校生活への影響とは?

ヤングケアラー家庭での役割と学校生活でストレスや疲労が蓄積しやすく、集中力ややる気が低下します。

ヤングケアラーが直面する問題点は多岐にわたりますが、とくに学校生活においては、以下の3つが大きな課題です。

・学業への影響

・友人関係への影響

・健康面の影響

具体的なヤングケアラーの問題点について見ていきましょう。

ヤングケアラーの問題点

ヤングケアラーの4割以上が、毎日ご家族の世話をしている現状があります。

1日平均2時間以上をご家族に費やしており、宿題や課題に取り組む時間や睡眠時間の減少から、忘れ物の増加・成績の低下が問題視されています。

また、学業だけではなく、友人と遊ぶ時間が取れず、周囲の話題についていけなくなるケースも少なくありません。

学校生活への影響や課題は、ヤングケアラーの年齢によって異なります。

小学生では、周囲のヤングケアラーへの認知が低く、自分がヤングケアラーである自覚もあまりありません。

さらに、小学生は自身の状況を言語化できない一面も見られます。中学生になると、塾や部活を継続することが難しくなり、高校生では、金銭面でも家庭の援助をするなど、自身の負担が大きくなる傾向です。

金銭面やご家族の状況を考えて、行きたい学校や就職先をあきらめるケースもあります。

具体的に学校生活への影響はどのようなものがあるのか

令和4年6月15日~7月19日に小中学校の教職員・学校関係者にヤングケアラーに関してのアンケート調査が行われました。

担任のクラスにヤングケアラーらしき子どもがいるかとの問いに「いる」と答えた人は約6.2%、担任以外のクラスでは約7.9%いると答えています。

また、ヤングケアラーと思われる子どもが学校生活において、どのようなことに影響しているか聞いたところ、次のような結果が出ています(複数回答)。

回答割合
精神的な不安定さがある45.1%
保護者の承諾が必要な書類などの提出遅れや提出忘れが多い41.8%
学校を休みがちである39.6%
遅刻や早退が多い39.6%

友人との交流の機会が減ることや家庭内のストレスで、精神的な不安定さが見られます。

ヤングケアラーと思われる子どもの学校生活においても、「精神的な不安定さがある」という項目で約45.1%。「保護者の承諾が必要な書類などの提出遅れや提出忘れが多い」という項目では、約41.8%が学校生活で影響が出ていたと答えています。

ヤングケアラーは家事や介護を全面的に請け負っており、その結果、「学校を休みがちである」で39.6%、「遅刻や早退が多い」で39.6%という結果も出ています。

中には学校に行けない子どももいるため、教育現場では普段の様子を観察しヤングケアラーにいち早く気付くことが大切です。

ヤングケアラーとご家族を支援する地域のネットワーク

ヤングケアラーとそのご家族の支援は、福祉・教育・地域コミュニティなど、さまざまな関係者が協力しています。

しかし、ヤングケアラーとご家族が抱える課題は複雑で、必要としている支援も家庭によって異なります。

ヤングケアラーの支援は1つの機関だけでなく地域全体で協力し、ケースに応じた支援が必要になるでしょう。

具体的なヤングケアラーおよび、そのご家族を支える関係機関の一例は次のとおりです。

地域包括支援センター

・市町村の教育委員会

・児童相談所

・市町村の福祉事務所

・保健所

・保健センター

・医療機関

・市町村の障がい福祉部門

例えば、ヤングケアラーの家庭には介護や医療が必要な場合が多く、介護保険制度や医療機関の利用が必要です。

しかし、ヤングケアラーの保護者に対するケアと、子どもの支援とでは関係機関が異なります。

そこで、各機関が協力・連携し問題解決につなげることが求められるのです。

教育現場におけるヤングケアラーへの取り組み

教育現場では、ヤングケアラーが学校生活で直面する問題に対応するために、次のような取り組みが実施されています。

・ヤングケアラーの早期発見

・教職員対象の研修

次から解説します。

ヤングケアラーの早期発見

ヤングケアラーが安心して学校生活を送るために、教育現場では次のような取り組みが進められています。

・ヤングケアラーの早期発見・把握

・ヤングケアラーへの理解と関わり

・地域や家庭との連携

学校には、ヤングケアラーの早期発見と把握をするためにスクールソーシャルワーカーの配置が推奨されています。

担任やスクールソーシャルワーカーが、ヤングケアラーが疑われる子どもの様子を観察し、早期発見を担います。

ヤングケアラーの支援は、日常生活のサポートである場合がほとんどです。地域の支援機関や家庭と連携し、1人のヤングケアラーに対して、必要な支援を提案します。

例えば、ヤングケアラーがご家族のケアをしていた分の負担を軽減するために、訪問介護やデイサービスの利用が考えられます。

教育現場におけるヤングケアラー支援の全体的な流れは、以下のとおりです。

・ヤングケアラーが疑われる子どもを発見

・本人やご家族の意思確認とアセスメント

・関連機関と連携

モニタリング(評価)

・必要であれば支援内容の改善

アセスメントは、子どもの権利が守られていることやご家族の状況についてなど、詳しい聞き取り内容が用意されています。

また、関連機関との連携後もサポート内容が本人に効果的であるか確認し、必要があれば改善していきます。

教職員対象の研修

令和4年に行った区立小中学校の教職員・学校関係者を対象にした調査によると、ヤングケアラーの認知度は次のようになっています。

認知度結果(割合)
言葉を知っており、意識して対応している30.4%
言葉は知っているが、特別な対応はしていない46.6%
聞いたことはあるが、具体的な内容は知らない12.6%
聞いたことがない8.5%
無回答1.9%

このように、教職員・学校関係者でも「聞いたことがない」「聞いたことはあるが、具体的な内容は知らない」という人が20%以上存在していることがわかります。

そのため、ヤングケアラーを守るためにも、教職員に対する理解促進や意識啓発が必要だといえるでしょう。

政府はヤングケアラー支援体制強化事業の拡充も進めており、実態調査や研修を実施する地方自治体に対して、財政支援を実施しています。

研修の対象者は、教育現場では学校・教育委員会・スクールソーシャルワーカー・スクールカウンセラーなどです。

教育現場の認知度が向上すれば支援も早く、連携・協力が容易になるでしょう。

このように環境や体制を整備することで、ヤングケアラーの生活を改善しサポートできると考えられています。

学校で行われたヤングケアラーの支援事例

学校で行われたヤングケアラーを支える取り組みは、各地で報告されています。

次の3つの事例は、学校の取り組みにより地域の関連機関への連携や支援が成功した例です。

■ケース1:兵庫県尼崎市の事例|スクールソーシャルワーカーのヤングケアラー支援

■ケース2:大阪の府立高校における支援

■ケース3:東京都江戸川区|早期発見のために個別面談を実施

それぞれ、詳しく解説します。

ケース1:兵庫県尼崎市の事例|スクールソーシャルワーカーのヤングケアラー支援

兵庫県尼崎市では、小学生から高校生までの幅広い年代を対象に、年齢特有の課題やリスクを調査し、ヤングケアラーへの支援を進めています。

具体的には、ヤングケアラー当事者会の開催やLINEオープンチャットを通じて、日常的な交流の場を設けました。

その結果、家庭内のコミュニケーションの増加やアセスメントの進展など、目に見る効果が得られています。

年代別のヤングケアラーには以下の特徴があります。

学年課題
小学生学習や人間関係・運動面など、学校で身につける基礎経験が不足する
中学生自己肯定感の低下や対人トラブルのリスク
高校生授業単位が取れないことやアルバイトで家計の負担を求められる

このように、各年代によって課題が異なるため、それぞれに合わせた支援が求められているのです。

ケース2:大阪の府立高校における支援

大阪府立高校では、母親に身体障がいがあるため、幼い弟の世話と家事全般をしていた生徒の事例があります。

生徒の欠席が多いことがきっかけでヤングケアラーが明らかになり、教師と面談をした結果、福祉サービスの利用をしていないことが判明しました。

スクールソーシャルワーカーの協力で母親が市町村の福祉担当課に相談し、家事支援や弟の保育所入所といった福祉サービスの利用につながり、この生徒は学校の出席状況が改善しています。

ケース3:東京都江戸川区|早期発見のために個別面談を実施

東京の江戸川区では、中学生全員を対象に個別面談を実施して、ヤングケアラーを早期に発見し、適切な支援サービスにつなげる取り組みを行っています。

個別面談の相談内容は学校で共有され、支援が必要な状態であればソーシャルワーカーと面談し、行政や児童相談所・NPOなどの関連機関につなげます。

「いつか自分が祖父母の面倒を見るのではないか」と不安を抱えているヤングケアラーも存在するため、介護サービスで負担を軽くする方法も伝えられているようです。

今後は、進学や就職などの節目で相談に乗ることも重要だと考えられており、ご家族も含めた信頼関係の構築が必要となるでしょう。

学校ではヤングケアラーを早期発見し、関連機関に支援の協力を

ヤングケアラーは、家庭の介護や兄弟の世話にかかりきりになるために、学校生活に影響を与えます。

その結果、宿題や課題が提出できないケースや遅刻・欠席が多い傾向です。

学校ではヤングケアラーを早期に発見し、スクールソーシャルワーカーとともに支援することが大切です。

教職員のための研修や地域社会や関連機関との連携できる環境整備が進められています。学校と地域が連携して、子どもが安心して過ごせる場所が求められているのです。

本記事を通して、ヤングケアラーに関する意識が高まることを願っています。

渡口将生

介護福祉士
介護支援専門員
認知症実践者研修終了
福祉住環境コーディネーター2級

介護福祉士として10年以上介護現場を経験。その後、介護資格取得のスクール講師・ケアマネジャー・管理者などを経験。現在は介護老人保健施設で支援相談員として勤務。介護の悩み相談ブログ運営中。NHKの介護番組に出演経験あり。現在は、介護相談を本業としながらライターとしても活動、記事の執筆や本の出版をしている。