介護情報メディア ケアケア 介護士向けコラム 介護資格・スキルアップ 言語聴覚士の実習とは?実習の内容から目的、具体的な流れまで丸わかり!

介護資格・スキルアップ

2023-05-02

言語聴覚士の実習とは?実習の内容から目的、具体的な流れまで丸わかり!

言語聴覚士を目指す上で、必ず受けなければならないのが臨床実習。臨床実習は病院や施設を訪問し、専門家として実践的な知識や技術を学べる貴重な機会です。それだけに事前にしっかり準備し、必要なことを残さず吸収することが大切です。

 

ここでは言語聴覚士の実習内容が気になる方に向けて、目的や内容、事前に準備しておきたいことなどをわかりやすく解説します。

言語聴覚士の実習とは

言語聴覚士の実習カリキュラムは養成校によって異なりますが、基本的に見学実習・評価実習・総合実習の3つです。ここではそれぞれの実習の内容について紹介します。

見学実習

病院・診療所などの医療機関や福祉施設などを訪れ、現役の言語聴覚士の仕事を見学します。目的は授業で学んだ知識を早期に実際の体験へつなげていくことです。また医療・福祉の現場を体験して、責任感や心構えなど知識以外の部分で得るものが多いことも見学実習のメリットといえます。

見学実習の時期は養成校によって若干異なりますが、2年制の養成校では1年生の夏ごろ、3年制では2年生で実施されることが多い傾向です。1週間ほどの期間を設定している場合がほとんどです。

評価実習

見学実習に続いておこなわれるのが評価実習です。勤務する実習指導者の下、患者さんに対して言語聴覚療法の評価やさまざまな検査をおこないます。続いて検査結果分析、訓練プログラムの作成へと続きます。期間は5週間程度と考えておくとよいでしょう。

評価実習では検査を通して対象者の機能・状態を正確に知ることが重要です。この実習で言語聴覚士にとって重要なスキルである観察力・コミュニケーション力・共感力など、座学で理解することが難しい要素を学べます。この実習の学びは、今後の実務に生かせる場面は多いでしょう。

総合実習

学びの総仕上げになる実習です。基本的な知識・対象者への接し方・言語聴覚療法の評価や検査・結果分析・訓練プログラムの立案と実施・ケースレポート作成など多くの業務を担当します。

期間は6~8週間と長く、検査や分析、レポート作成など対応することが多いため、体調に留意しながら進めていくとよいでしょう。また関連する他職種との連携もこの研修で経験できます。

続いては、実習の目的について解説します。

言語聴覚士の実習の目標

臨床実習の目標は、医療や福祉の現場に役立てるための実践的な知識やスキルを身につけることです。

一般社団法人日本言語聴覚士協会が定めた「言語聴覚士養成教育ガイドライン」では、見学・評価・総合実習のそれぞれに「一般目標」「到達目標」の2つを設けています。

ここではそれらの詳細と共に、実習を通して到達すべき目標について解説します。

見学実習の一般目標

修得した知識・技能・態度を統合して言語聴覚療法の役割・職務を理解し、対象児・者の特徴と問題を把握できる。

見学実習の到達目標

(1)見学者として適切に行動できる。
(2)共感をもって臨床場面を観察できる。
(3)施設の機能・特徴について理解できる。
(4)言語聴覚士の役割・職務について理解できる。
(5)他職種の専門性と職務について理解できる。
(6)臨床観察から対象児・者の問題を大まかに把握できる。(機能、活動、参加、背景要因)
(7)臨床場面を記述できる。(目的、言語聴覚士の働きかけ、対象児・者の反応、環境)
(8)見学内容を報告書にまとめることができる。
(9)見学内容を報告・発表できる。

評価実習の一般目標

修得した知識・技能・態度を統合して臨床に適用し、言語聴覚療法の評価診断の技能を修得する。

評価実習の到達目標

(1)評価計画を立案できる。
(2)面接、観察、検査を適切に実施できる。
(3)言語聴覚障害に関連する全身状態を把握できる。(意識・バイタルサイン
(4)面接、観察、検査などによって、障害をスクリーニングできる。
(5)適切な評価方法を選択し必要な情報を収集できる。
(6)収集した情報を分析総合し、障害の種類、重症度、症状・特徴、発症機序、問題点、予後を把握できる。(機能・活動・参加、背景要因の観点)
(7)評価記録を作成できる。
(8)評価サマリーを作成し報告できる。

総合実習の一般目標

修得した知識・技能・態度を統合して臨床に適用し、言語聴覚療法の評価診断および訓練・指導・支援の技能を修得する。

総合実習の到達目標

(1)評価結果に基づき、言語治療(訓練・指導・支援)計画を立案できる。
(2)科学的根拠に基づいた言語治療(訓練・指導・支援)法を述べることができる。
(3)障害の全体像に基づき言語治療(訓練・指導・支援)の優先順位を決定できる。
(4)典型的例に対し、基本的な言語治療(訓練・指導・支援)が実施できる。
(5)訓練・指導・支援記録を作成できる。
(6)訓練・指導・支援の効果を測定し、臨床計画を修正できる。
(7)臨床経過報告書を作成できる。
(8)ケース・カンファレンス等で報告し、専門的視点からの意見を述べることができる。
(9)症例報告書を作成し発表できる。

※以上の出典
一般社団法人日本言語聴覚士協会「言語聴覚士養成教育ガイドライン」
https://files.japanslht.or.jp/upload_file/kyoiku_guideline_20181027.pdf

では、実際の実習はどのように進められていくのか、実際の流れについてみていきましょう。

言語聴覚士の実習①全体の流れ

「言語聴覚士養成教育ガイドライン」に従い、言語聴覚士の実習は症例を担当する方法が採用されています。ここでは総合実習(8週間)で取り組む内容を例に、全体の流れをみていきます。

【臨床実習の流れ(8週間の場合)】

臨床実習の流れ

担当症例の決定

実習がスタートする前に、実習生が担当する症例が決定されます。

担当症例の初期評価

臨床における評価の流れに沿って、スクリーニング検査(障害の有無や程度を短時間で大まかに把握する検査)や鑑別診断検査(類似の障害と鑑別し、主な障害を多面的・総合的に評価し確定する)などをおこない、担当となった患者さんの状態を評価します。

報告書の作成も必要になるため、それぞれの養成校で指導された内容に従ってまとめていきましょう。例えば「評価」「問題点」「目標」「訓練内容」「考察」などの項目が挙げられます。

担当症例の最終評価

「担当症例初期評価」で立案した「訓練内容」の効果を検証します。問題があれば訓練内容を見直し、初期評価の項目に「訓練経過」を追加します。

症例発表

「初期評価」と「最終評価」の結果を報告書にまとめ、現役の言語聴覚士、担当の理学療法士や作業療法士などの前で症例発表をおこないます。他職種からさまざまなフィードバックをもらうことで、新しい気づきにつながるでしょう

臨床見学

言語聴覚士がおこなう臨床を見学します。訪問先によっては、見学以外に言語聴覚士の検査や訓練のサポート・カンファレンス・訪問リハビリへの同行などを実施できることもあります。

対象者の症状の把握に努め、言語聴覚士がおこなうリハビリや質問の意図を考えつつ、「自分ならどうするか」と施術者の視点になって見学しましょう。

実習振り返り

実習の修了時には、全体の振り返りをおこないます。実習でできたこと・できなかったことを洗い出し、今後の目標について考えていきましょう。

実習全体の流れに続き、実習の1日の流れをご紹介します。

言語聴覚士の実習②1日の流れ

実習の1日の流れについて例を挙げて説明します。

8:45朝礼参加
9:00見学
10:00担当症例介入
11:00見学
12:00昼休み
13:00見学
14:00見学
15:00実習日誌作成、症例報告書作成、検査練習など
16:00
17:00帰宅

見学から日誌・報告書作成、検査練習など対応することが多々あります。疑問があれば早めに質問して、その日のうちに解決しておきましょう。

言語聴覚士の実習はきつい?注意点は?

実習の難易度や実習前後に注意すべき点など、言語聴覚士を目指している方や実習を控える方にとって気になる点を確認していきましょう。

実習をきついと感じる時

多くの実習生が「非常に役立った」「とても貴重な体験だった」という一方で、「課題が多く、時間内に終わらせるのが大変だった」「実習指導者(バイザー)との相性について悩んだ」など、先輩たちの声があります。それぞれみていきましょう。

課題が多い

実習の課題は主に実習日誌(デイリーレポート)、症例報告書(ケースレポート)の2種類です。実習日誌は各養成校が指定する様式に従い、1日あたり5~10名程度の患者さんの症状について書くことが多い傾向です。タイムスケジュールに従い、1日の振り返りや気になった点、翌日の目標などを記載します。

症例報告書は指導者のフィードバックに沿って、実習期間内に1~3症例分を作成します。
近年は実習生が実習施設に残って課題を終わらせたり、自宅に課題を持ち帰って対応したりすることを避けるための配慮がおこなわれているため、安心して取り組めるでしょう。

実習指導者と合わない場合がある

実習先の指導者(バイザー)との相性が悪く、良好な関係づくりに苦労する実習生もいます。話しかけることすら気を遣う場合、質問もできないでしょう。しかし、実習は今後、現役の言語聴覚士として現場で活躍するための、非常に重要な機会です。

「目的は指導者に気に入られることではなく、多くの知識や経験を身につけること」と割り切り、聞くべきことを淡々と質問していきましょう。

質問しても無視される、理不尽な叱責を受けるなどのパワハラ、またはセクハラなどが明らかな場合は、養成校にすぐ相談してください。

実習で注意すべき点は?

実習前に準備すべきことや注意点は次のとおりです。

実習前に準備しておくこと

まず、養成校で学んだ全般的な知識や検査方法とその解釈について、実習前にしっかり理解しておきましょう。

慣れない環境で忙しく動き回り、多くの人と触れ合う実習は、思っている以上に心身が疲れます。帰宅後は十分に栄養と睡眠を取り、翌日に備えることが大切です。また実習中の体調管理も言語聴覚士の役割の一つ。

実習中はこまめにメモを取ることがおすすめです。すぐに取り出せるよう、小さめのメモと筆記用具を用意しておきましょう。

実習中に注意したいポイント

実習中は最低限のマナーを理解しておく必要があります。具体的には下記の点を意識しましょう。

①挨拶は元気よくはっきりとおこなう
②言葉遣いや態度に気をつける
さまざまな年代の対象者と接するため、人生の先輩として敬意を払うことを忘れずに。カジュアルすぎる言葉遣いはNGです。
③実習先の施設で知ったことは口外しない
④遅刻はしない
⑤体調不良などで欠席をする際は必ず連絡する

言語聴覚士の実習を通して役割や意義を見つめよう

実習で大切なのは、実践的な知識と技術を身につけることです。慣れない環境で緊張したり、たくさんの課題に取り組む必要があったりと大変な面もありますが、現場で活躍できる言語聴覚士になるためにも、前向きに取り組んでいきましょう。実習を通して、障害に悩む方々と接する場合が増えるでしょう。言語聴覚士として何ができるのか、仕事の責任と存在意義をあらためて考えてみてください。

ぜひ、今後需要が高まる言語聴覚士を目指してみてはいかがでしょうか?

渡口将生

介護福祉士
介護支援専門員
認知症実践者研修終了
福祉住環境コーディネーター2級

介護福祉士として10年以上介護現場を経験。その後、介護資格取得のスクール講師・ケアマネジャー・管理者などを経験。現在は介護老人保健施設で支援相談員として勤務。介護の悩み相談ブログ運営中。NHKの介護番組に出演経験あり。現在は、介護相談を本業としながらライターとしても活動、記事の執筆や本の出版をしている。