介護情報メディア ケアケア ケアラー向けコラム ヤングケアラー・若者ケアラー 【ケアラーが語る:後編】家族だけで家族のケアを抱え込まない社会~ヤングケアラー支援に向けた包括的なアプローチと社会変革~|介護のミライ会議Vol.4

ヤングケアラー・若者ケアラー

2024-09-11

【ケアラーが語る:後編】家族だけで家族のケアを抱え込まない社会~ヤングケアラー支援に向けた包括的なアプローチと社会変革~|介護のミライ会議Vol.4

ヤングケアラーの支援は近年、社会的な関心を集めています。しかし、その支援体制は整っておらず、発展途上の段階です。

 

前半に引き続き、一般社団法人ケアラーアクションネットワーク協会の代表理事を務める持田恭子さんに現在の支援策や今後の展望についてお話をうかがいました。持田さんの豊富な実経験と視点から、ヤングケアラー支援の未来像を探ります。

―現在の国の支援策についてはどう感じていますか?

2024年6月12日  に「子ども・若者育成支援推進法」が改正され「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」として、国と地方公共団体等が各種支援に努めるべき対象にヤングケアラーが明記されました。

こども家庭庁が公表した「法改正に係る施行通知の概要①」によれば、「こども期(18歳未満)に加え、進学や就職の選択など、自立に向けた重要な移行期を含む若者期を切れ目なく支えるという観点からおおむね30歳未満を中心としているが、状況等に応じ、40歳未満の者も対象となり得る。」と示されています。家族のケアは生涯にわたり継続していくこともありますので、年齢で区切って支援を打ち切ることがないように配慮されました。

ヤングケアラー支援体制強化事業は更に拡充され、ピアサポートに「キャリア相談支援加算」と「レスパイト・イベント実施加算(※)」が追加されました。

出典:令和6年度予算案関係資料(支援局虐待防止対策課)

(※)介護する側の一時休息や負担軽減を目的としたイベントを実施する際に加算される介護報酬

―今回の法改正を通して、どのように支援のあり方が変わっていってほしいと考えていますか。

もともと政府としては、年齢を区切っていたわけではないのですが、自治体によって解釈が異なっていたようです。今回の法改正を通してヤングケアラー支援の根拠となる法律が整備されたことによって、ヤングケアラーの年齢層も大幅に拡充されたので支援の幅も広がるのではないでしょうか。

これまでは縦割り構造の中で、自治体、学校、民間支援団体それぞれが子どもに関わってきたのですが、「ヤングケアラー」という多様かつ新たな分野が出てきたことで、各分野が横の連携をすることができるようになることを期待しています。例えば、自治体の対応時間外であっても民間支援団体では対応できます。お互いに連携することで、子どものニーズに合わせた対応ができるのではないかと思います。

―効果的な支援のために大切なことは何だと思いますか?

ヤングケアラーにとって効果的な支援を行うためには、子どもや若者の声を聞いてニーズを把握し、何をしたらいいのか考えていくことが大切だと考えています。いきなり「何をしてほしいの?」と問いかけても、ヤングケアラーがすぐに要望を伝えられません。子どもや若者と一緒に現状を把握して、気持ちを言語化する過程を経て、ようやくニーズが出てくるのです。

―持田さんの団体では、どんな支援活動を行っていますか?

私たちは、中学生と高校生、大学生のヤングケアラーときょうだい児を対象にしたZoom会を毎月第3水曜日の夜8時に開催しています。そこでは学校や家庭での最近の出来事について話したり、サポートプログラムを受講したりすることができます。参加費は無料で、中学生や高校生で家族のケアをしている人であればどなたでも参加可能です。

大学生以上のケアラーには「きょうだい&ケアラーの集い」という対話会を対面で年4回行っています。それぞれの関心事について小グループで話し合い意見交換をしたり情報交換を行ったりしています。他にも、ヤングケアラーやその保護者や家族、支援者がチャットで気軽に話せる『ほっと一息LINE』という個別相談支援事業も行っていて、4人の相談員が平日18時から22時までチャット相談に対応しています。また、毎週月曜日には対面で個別相談も受け付けています。個別相談の内容は守秘義務があるので具体的な内容は申し上げることはできませんが、進学や就職、障がいの特性や症状、施設やグループホームの情報などに関心が高い傾向があります。

―支援の輪を広げるために、どんな取り組みをされていますか?

これからの日本社会を担うヤングケアラーやケアラーを応援する仲間を増やすために、会員を募集しています。また、子どもや若者が自らの経験を公表することは容易なことではないので、彼らの経験談をもとにした映画を制作しています。2021年には『陽菜のせかい』という短編映画を制作し、YouTubeで公開しました。現在は、U-NEXTでインターネット配信されています。次回作である『ツナガル』は3人のヤングケアラーの実話をもとにしたオムニバス短編映画で、学校や市民ホールで上映する予定です。

このほかに、『ケアラーズプレス』という情報ポータルサイトをリリースしました。家族のケアをしているケアラーや、これから家族のケアをするかもしれない人に向けてライフスタイルやエンタメの要素を取り入れた情報を発信するサイトです。一般の方がヤングケアラーやケアラーの心情を理解でき、その日常生活の一端を知ることができるので、サイトを通じた啓発活動にも力を入れています。

――この先、どんな日本になっていってほしいと思いますか?

今、私たちは「共感的な理解」を推進する活動をしています。これは、もし自分の家族がケアを必要とする状態になったら、自分はどう感じるのか、何が今まで通りできて、何ができなくなるのかを想像することによって、他人事ではなく自分に置き換えて自分事として物事を捉えていくという考え方です。

自分が相手の立場だったら、自分だったらどうしてほしいのかを想像することができる人が増えれば、自ずと人の話に耳を傾ける人も増えて、必要なときに必要な人につながることができるようになるのです。そんな社会になれば、家族だけでケアを抱え込まずに、支援サービスを活用して、ケアラーだけが無理をしなくてもいい社会になるのではないかと思います。

また、ヤングケアラーも「人に頼ってもいい」ということを知ってもらう必要があるのですが、今まで家族に頼られてきたので、いきなり「人に頼っていいよ」と言われてもどうすればいいのかわからないでしょう。

まず、ヤングケアラーが他者に頼る力を身につけるためには、誰かに今まで頑張ってきたことを認めてもらう必要があります。自分のことを他者に認めてもらうことで、初めてケアを頑張った自分を自身で認めることができるようになります。人はこのように他者から尊重されることで、初めて自分の体験を客観的に見ることができるのです。

自分が経験してきたことを認めて受け入れることができるようになって初めて自分自身を「労わろう」という気持ちが芽生え、相手の声を聞き入れる準備が整います。ヤングケアラーで他者にすぐに相談できる人はあまりいないので、こうした居場所がこれからも増えてほしいと思います。一人ひとりができることから、少しずつ始めていけたらいいですね。

本日はお忙しいなか、インタビューにご協力いただきまして、誠にありがとうございました! これからのご活躍をお祈りいたします。

持田 恭子

一般社団法人ケアラーアクションネットワーク協会
代表理事

一般社団法人ケアラーアクションネットワーク協会は同じ立場のケアラー同士で語り合う場を提供し、ケアラーが自分の気持ちを整理することから始めた。
その後、様々な年代のケアラーに沿った支援活動を行う。
それらの知識と経験をもとに、ケアラーが家族のケアを家族だけで抱え込まずに、自分の人生を自分らしく生きることができる社会づくりを目指して活動の幅を広げている。