ビジネスケアラー
2023-12-22
ビジネスケアラーが抱える負担とは?現状から改善策までまとめて解説!
働きながら親や配偶者などの介護をする「ビジネスケアラー」。高齢化の影響で、その数はますます増加傾向にあります。
ビジネスケアラーには、介護と仕事の両立による心理的、身体的、経済的な負担を感じている人も少なくありません。
ビジネスケアラーの負担は、本人はもちろん、ビジネスケアラーを雇用している企業にも大きな損失を招く恐れがあります。
ビジネスケアラーの負担を軽減するためにはどうしたらよいのでしょうか。この記事では、ビジネスケアラーが抱える負担や改善方法について解説します。ビジネスケアラーの方はもちろん、ビジネスケアラーとして働く社員がいる企業の方も、ぜひ参考にしてみてください。
ビジネスケアラーが感じる負担とは
ビジネスケアラーは介護と仕事の両立において、どのような負担を抱えているのでしょうか。ここでは心理、身体、経済の3つの視点から解説します。
①心理的負担
ビジネスケアラーの多くが「介護にかかる心理的負担がつらい」という悩みを訴えています。ご家族が要介護状態であることから来る強い不安に加え、要介護者に対する適切なケアやサポート方法がわからない、コミュニケーションがうまく取れないなどのつらさを感じている人も少なくありません。
特に要介護者が認知症の場合は、徘徊や失禁・ろう便(自分の便を素手で触ったり周囲になすりつけたりすること)・暴言・暴力などの症状が現れることもあり、心理的なストレスが非常に大きくなる傾向があります。
さらに、介護を巡ってほかのご家族との関係が悪化したり、悩みやつらさを1人で抱え込んで周囲から孤立したりするケースもあります。
(参考:株式会社リクシス ビジネスケアラー/予備軍の「介護に関する不安や悩み」に関する調査結果)
②身体的負担
介護には、ベッドから車椅子への移乗や移動・排泄の介助など、肉体的な作業が多くあります。慣れていない人には足腰への負担が大きく、特に女性が男性の介護を行う際は支える・持ち上げるなどの動作がより困難になりがちです。
実際に、ビジネスケアラーの6割以上が腰痛などの身体的負担を感じると訴えています。身体への負担が大きくなると治療や服薬などが必要になる恐れもあります。
(参考:ビジネスケアラーの身体的負担)
③経済的負担
介護サービスの利用をはじめ、在宅介護で実家が遠方にある場合の交通費など、ビジネスケアラーには経済的な負担もかかります。さらに、介護が原因で仕事を休んだり、より責任が少ないポジションや職種にキャリアダウンしたり、時短勤務に切り替えたりすることによって、収入が減少する方もいるでしょう。
介護と仕事の両立が不可能になった、あるいは心理的・身体的に耐えられなくなったなどの理由で、介護離職した場合は、収入がゼロになってしまう可能性があります。
ビジネスケアラーの負担が招く「介護離職」
介護と仕事を両立させていくのが難しく、やむなく介護離職を選ぶビジネスケアラーも少なくありません。ここでは、介護離職の内容やその現状、問題点などについて解説します。
介護離職とは
介護離職とは、ご家族の介護に専念するために、介護者が仕事を辞めることを指します。厚生労働省の「令和4年就業構造基本調査」によると、2022年(令和4年)は2017年に比べて介護離職者が約7,000人増え、全体で10万人以上にのぼっています。
また介護離職者の男女比を見ると、2018年では女性8万人、男性2万人と、女性が8割近くを占めています。
(参考:男女共同参画局 男女共同参画白書 平成29年度 第2節 仕事と子育て・介護の両立の状況)
また、介護離職者は45歳頃から増え始め、50~60代がその6割を占めています。40~50代は会社で管理職などの重要なポジションに就いていることが多く、ビジネスケアラー当人にとっても、会社にとっても介護離職は大きなダメージになることがわかります。
(参考:総務省 令和4年就業構造基本調査)
介護離職が招く損失とは
介護離職者は40〜50代の働き盛りに多く、この世代の離職は企業、社会にとっても大きな損失といえます。
企業における損失の一例が労働力不足です。現在、多くの企業が深刻な人員の不足に悩んでいますが、介護離職が増加すれば企業から人材が流出し、労働力不足がさらに深刻化する恐れもあります。
また、経済的損失も見逃せません。2022年は10万人の介護離職者が出ていますが、10万人の介護離職で失われる所得を平均270万円とすると、全体で約2,700億円となります。介護離職に伴う経済全体の付加価値損失は1年あたり約6,500億円となり、付加価値損失と所得損失の差額、つまり企業が失う利益(※)は実に3,800億円にのぼるのです。
これらの試算からも、介護離職が企業や社会に与える影響の大きさがわかります。ビジネスケアラーの負担が大きくなるほど、介護離職が増えると考えられるため、企業や国はビジネスケアラーへの支援をいっそう強化すべきといえるでしょう。
(※)社会保険料込みとする
(参考:経済産業省 2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について)
ビジネスケアラーの負担を解消するための対策とは?
ビジネスケアラーの負担を解消するためには、どのような対策や支援が必要なのでしょうか。ここではビジネスケアラーにおすすめしたい対策や、企業に意識してほしいビジネスケアラー支援について紹介します。
まず、ビジネスケアラー側にチャレンジしてほしい、負担を軽減するための対策について紹介します。
介護のプロの手を借りる
責任感や周囲に迷惑をかけたくないなどの思いから、1人あるいはご家族のみで介護を続けるビジネスケアラーも少なくありません。しかし、介護度が上がるにつれ、介護者の負担は大きくなり、仕事との両立も困難になってきます。
無理を重ねて心身への負担が大きくなる前に、介護のプロの手を借りることを考えましょう。例えば、在宅介護の場合、訪問での介護や入浴、リハビリテーションなどの介護サービスが利用可能です。
また、要介護者が施設に通う形で利用するデイサービスや通所リハビリテーション、さらに数日~数週間程度、施設に入所して介護を受けられるショートステイなどもあります。
介護のプロの手を借りれば、ビジネスケアラーの負担を大幅に軽減できるはずです。
国の制度を利用する
国や自治体が行っているビジネスケアラー支援に、「介護休業制度」「介護休暇制度」があります。
どちらも国が定めた制度ですが、介護休業は主に介護サービスの手配など介護の体制を整える目的で取得できます。要介護のご家族1人につき最大93日間を取得でき、3回まで分割が可能です。休業期間は介護休業給付の支給が申請でき、賃金の2/3ほどの金額が支給されます。介護休暇はご家族の通院などに使用することを目的としたものです。要介護のご家族1人につき年間5日を取得でき、時間単位での取得も可能です。ほかに短時間勤務や残業免除などの制度もあります。
介護休業 | 介護休暇 | |
---|---|---|
対象者 | 同一の事業主に1年以上雇用されている 要介護状態の対象家族を介護している | 雇用期間が6か月以上 要介護状態の対象家族を介護している |
期間 | ご家族1人につき93日間 (3回まで分割で取得可能) | ご家族1人につき年間5日 (対象家族が2人以上の場合年間10日) |
休業・休暇中の賃金 | 定めがなく企業の裁量による | 定めがなく企業の裁量による |
雇用保険の給付 | 介護休業給付の申請可能 (賃金の2/3ほど) | 制度なし |
申請方法 | 開始日の2週間前までに必要書類を提出 | 当日でも申請可能 |
市役所・区役所などへの相談
ビジネスケアラーが介護に関する疑問・不安がある場合、相談先として真っ先に思い浮かぶのが行政の窓口ではないでしょうか。
市役所・区役所では、高齢福祉課や障がい福祉課などが介護の相談を受け付けています。また、ビジネスケアラーを対象に、介護に関するセミナーを開催している自治体もあります。
例えば、東京都が設置した「東京しごとセンター」では、過去に「~“ビジネスケアラー”その時のために就活中からできること~『仕事』と『介護』の両立」を開催しました。
介護に関する悩みを相談したいとき、介護についてもっと知りたいと思ったときは、お住まいの自治体に問い合わせてみてください。
(参考:東京しごとセンター)
地域包括支援センターへの相談
地域包括支援センターは、介護をはじめ福祉や医療、保健などにおいて高齢者を支える相談窓口です。総合的に話を聞いてくれるので、「何を聞いたらいいかわからない」「介護に関する基礎的な知識を、一通り教えてもらいたい」という方に、特におすすめです。
市町村、または市町村から委託された法人により設置され、ケアマネージャーや社会福祉士、保健師などの専門家が、介護をはじめ医療や暮らしの支援などの相談に、無料で対応してくれます。
地域包括支援センターは管理する地域が決められているので、まずお住まいの自治体に確認してみましょう。
会社が意識すべきビジネスケアラー支援
続いては、ビジネスケアラーの負担を軽くするために会社に取り組んでもらいたい支援について紹介します。
介護に関する相談窓口や担当者を設置する
ビジネスケアラーが大きな負担を感じることなく介護と仕事を両立させるには、会社に悩みや不安を相談できる人間関係、あるいは窓口の設置が重要です。
相談先があるビジネスケアラーは、「今の仕事で、うまくやっていける」と感じる傾向にあるといわれています。
その理由は、介護と仕事の両方に関する悩みを打ち明けられる安心感と、両立に関する情報を共有することで、ビジネスケアラーが将来的な見通しを立てやすくなるためです。
(参考:新しいビジネスケアラー支援入門 介護中でもやりがいを失わずに働く)
時短勤務や急な休みなどに対応する
ビジネスケアラーは、ホームヘルパーの帰宅時間に合わせて退社する、要介護者を施設・医療機関へ送迎する、要介護者の体調不良により帰宅するなど、勤務時間の急な変更が必要になるケースが多々あります。会社はビジネスケアラーがより負担の少ない働き方を実現できるよう、時短勤務やテレワーク、フレックスタイムなど勤務体制を柔軟にする配慮が求められます。
介護休業・介護休暇を活用する
介護休暇や介護休業など、国が定めた制度を導入することも、ビジネスケアラーの負担を軽くするために効果的な支援です。ビジネスケアラーの中にはこれらの制度を知らない人もいるため、会社側から情報共有するとよいでしょう。
従業員向けの介護セミナーを実施する
多くのビジネスケアラーが、介護の開始時期にご家族との話し合いや介護サービスの検討・決定・手続きなど、さまざまな負担が集中したと述べています。それらの負担は、介護開始前に介護に関するさまざまな知識をもっておけば軽減するでしょう。
介護の知識が乏しく、介護体制を整えるまでに時間がかかったビジネスケアラーは、仕事やキャリアに対する不安が大きい傾向があることがわかっています。
今後、知識不足により両立に悩むビジネスケアラーを生み出さないために、会社は介護を始める前の「ビジネスケアラー予備軍」に対し介護セミナーなどを実施し、介護に関する知識を伝えていく必要があります。
(参考:新しいビジネスケアラー支援入門 介護中でもやりがいを失わずに働く)
国もビジネスケアラーの負担解消に本腰
ビジネスケアラーの中心は40~50代であり、企業で管理職として活躍している人材も多くいます。そういった人材が、介護が原因で業務のパフォーマンスが低下したり、介護離職してしまったりしたら、社会にとって非常に大きな損失につながります。
この事態を重く見た国は、経済産業省の主導で介護を「個人の課題」から「みんなの話題」へ転換することを目的としたプロジェクト、「OPEN CARE PROJECT」を立ち上げました。
さらに、経済産業省は、企業文化の変革に向け仕事と介護の両立支援への取り組みも進めています。
【仕事と介護の両立支援の3ステップ】
1.制度の整備と情報の周知
2.マネジメント層の意識改革と組織への浸透
3.対話の場づくり
上記の施策で、ビジネスケアラーの介護と仕事の両立支援を推進しています。
また、これまで介護保険では対応できなかった外出時の身体介護、家事支援・代行などに対応する介護保険外のサービスも近年、ますます充実しています。保険外になることもありますが、これらのサービスを利用すれば、さらにビジネスケアラーの負担軽減につながるはずです。
(参考:経済産業省 OPEN CARE PROJECT
日本総合研究所 「ビジネスケアラーの実態と企業に求められる取り組み」第2回:企業に求められる取り組みや実践のポイント)
まとめ
本記事では、ビジネスケアラーが介護と仕事の両立において抱える負担について解説してきました。心理的・身体的・経済的負担を感じているビジネスケアラーが多く、耐えきれずに介護離職してしまうケースも少なくありません。
しかし、ビジネスケアラーにも企業・社会にとっても、大きな損害を与える介護離職はできる限り避けるべきです。
ビジネスケアラーは介護や行政のサポートを最大限に利用して負担軽減を図り、企業は相談窓口の設置や時短勤務への対応、介護休業・介護休暇の導入、さらに介護に関する知識の理解を深めるためのセミナー実施など、ビジネスケアラーの支援に積極的に取り組んでいきましょう。