介護情報メディア ケアケア 一般介護向けコラム 介護の基礎知識 親の介護をしないとどうなる?親の介護ができない、つらい場合の対策とは?

介護の基礎知識

2023-01-24

親の介護をしないとどうなる?親の介護ができない、つらい場合の対策とは?

「親の介護、もうやめたい」「もし、親の介護をしないとどうなるの?」
超高齢社会の現在、そんな悩みを抱える方も多いのではないでしょうか。法的には親の介護は子どもの義務とされ、放棄した場合「保護責任者遺棄罪」に問われる恐れもあります。

 

しかし、親の介護は子どもの「義務」ではありますが「強制」ではありません。また子ども側に何らかの事情がある場合は、親の介護による負担を軽減する方法もあります。

 

今回は、親の介護がつらくなってきた時や、介護の負担を少しでも軽くしたい時の対処法について紹介します。ぜひ参考にしてください。

親の介護は子どもの義務

親の介護をやめたらどうなるかを考える時、気になるのは「親の介護は子どもの義務」という点です。ここではまず、親の介護に関して子どもにどんな義務が生じるかを紹介します。

直系親族(親と子)には扶養義務がある

民法第877条では「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」と定められています。直系血族とは祖父母や父母、子どもや孫などを指す言葉です。そのため子どもの配偶者である嫁・姑などにおいて扶養義務は発生しません。

具体的な扶養義務として挙げられているのは、「身の上の面倒を見る」「経済的な支援をする」という2点です。直系親族を扶養する場合は、原則として「経済的な支援」をおこなえば良いことになっています。

例えば、親に認知症の症状が見られ、自立した生活を送ることが難しくなった場合は、お金を支援して介護ヘルパーの利用や、施設に入るための資金を援助することで、義務を果たしているといえます。

子ども自身が要介護状態の親と一緒に暮らし、介護を担当しなければならないわけではありません。

義務と強制の違いは?

経済的な支援は強制ではなく、あくまで子どもとその家族の生活に親を支援するだけの余裕がある場合に発生します。親に資金援助をする余裕がない場合、法的には子どもに扶養を強制することはありません。

余裕があるかどうかは、子ども世帯の生活レベルや保有資産などを調べて、家庭裁判所が判断します。判断基準の一例として、子ども世帯の生活費が「生活保護基準額」を下回っているかどうかです。下回っていれば、親を扶養する余裕がないと判断されることがほとんどです。

まとめると以下のとおりです。
・親の介護は法律で定められた子どもの義務
・身体的な介護をしなくても、経済的支援で十分に義務を果たせる
・経済的支援は支援者の生活に余裕があるかどうか判断される

続いて、扶養義務があると判断されたにも関わらず、親の介護を放棄したらどうなるのかについて見ていきましょう。

親の介護を放棄するとどうなる?

家庭裁判所に「親の扶養をおこなうだけの余裕がある」と判断されたにも関わらず、親の介護を放棄した場合に起こりうる事態は次のとおりです。

■親の介護ができる状態で、何もしなかった・おこなうべき手続きを無視した場合、「保護責任者遺棄罪」に問われ、3か月以上5年以下の懲役に科される恐れがある。

■子どもが親の介護を放棄したことが原因で親が怪我をした場合、「保護責任者遺棄致傷罪」に問われ、3か月以上15年以下の懲役に科される恐れがある。

■子どもが親の介護を放棄したことが原因で親が死亡した場合、「保護責任者遺棄致死罪」に該当し、3年以上20年以下の懲役に科される恐れがある。

親の介護は強制ではありませんが、できる状態にあるにも関わらず対応を取らなかったケースでは、厳しく処罰される恐れがあります。

自身や家族の生活が親の面倒を見られる状態ではない場合は、これらに該当しません。

また、親の介護を始めた当初は経済的に余裕があったものの、長引く不況や長期間の介護の影響で、環境が大きく変わる場合もあるでしょう。そんな時でも、適切な対処をおこなえば罪に問われることはありません。

次は、さまざまな事情で親の介護ができない、または続けることができなくなった際に取るべき対応についてご説明します。

親の介護ができない時の対処法

身体的・経済的な理由などで親の介護ができない時に、おすすめする対処法は次のとおりです。

生活に余裕がないことを公的に証明してもらう

子どもが親を介護する義務は、子どもの生活に余裕がある場合に発生します。もし経済的な余裕がなければ、扶養義務は発生しません。しかし、経済的に余裕があるかないかは、個人の感覚によるところが大きいものです。

そのため自身の感覚だけで扶養の余裕がないと訴えても、正式に認められるかどうかはわかりません。その際は家庭裁判所に申し出て、収入や生活水準などをもとに審判してもらう必要があります。

「生活に余裕がなく親の面倒を見ることができない」と証明されれば、放置ではなくなるので、犯罪とみなされるリスクを回避できます。

介護費用の負担軽減につながる制度を利用する

公的に認められる基準は上回っていても、親の介護をするほど生活に余裕がないという場合や、親の介護費用がないという場合は国や自治体による介護費用の軽減制度を利用しましょう。

代表的な軽減制度として以下の5つが挙げられます。

軽減制度内容
特定入所者介護サービス費介護保険施設入所者などの利用者で、所得が一定以下の方に対して負担限度額を設け、超えた分の居住費と食費を介護保険から支給する制度。
介護保険料の減免制度生計が困難な方に対し、介護保険料が減額される制度。自治体によって減額を受ける条件が違うため、お住まいの市町村に問い合わせて確認が必要。
高額介護サービス費1か月に自己負担する介護サービス利用料が、所得区分に応じて決められた限度額を超えた場合、申請すると超過分の払い戻しを受けられる制度。
高額医療・介護合算制度1年間の医療保険と介護保険の自己負担合算額が一定額を超えた場合、申請することによって自己負担額の一部が払い戻される制度。
自治体独自の助成制度各市町村では介護に必要な費用の助成など、高齢者の生活や健康維持を支援する独自のサービスを提供している。お住まいの市町村に問い合わせて確認が必要。

親の介護を1人だけでおこなうリスクがある場合

親の介護を担当している方に兄弟姉妹や親族がおらず、介護の分担が望めない場合は、各市町村にある「地域包括支援センター」に相談してみましょう。

地域包括支援センターでは、高齢者とその家族が支援や介護に関する悩みを相談できます。当事者だけでは解決が困難な問題について、情報や解決策を提示してもらえるケースもあるため、気軽に問い合わせてみるとよいでしょう。

介護施設の入居を検討する場合

自身や兄弟姉妹、親族などで協力しながら親を介護することが難しい場合、介護施設への入居を検討するとよいでしょう。

在宅介護は身体的・精神的な負担が大きく、場合によっては介護者が体調を崩したり、精神的に追い詰められたりする恐れがあります。また、働きながら親の介護をおこなう場合、介護離職につながってしまうかもしれません。自身の生活に大きな影響が出る前に、介護施設の利用を考えてみてください。

親が介護施設に入居する際の費用については、親の預貯金や年金から捻出するのが一般的です。もし金銭的に不安があるなら、市町村の役場や地域包括支援センターに相談してみるとよいでしょう。

次は、「介護ができないわけではないけれど、負担はできる限り減らしたい」という場合の対策について紹介します。

親の介護の負担を減らすための対策

現在、親の介護をしているが、もっと負担を減らしたい方に向けて対策をまとめました。

兄弟姉妹や親族に協力してもらう

現在1人だけで親を介護しているものの、身体的・精神的な疲労から介護を続けることが難しくなった場合は、1人で抱えこまず兄弟姉妹や親族に相談することをおすすめします。

親の介護は「長男とその配偶者家族がおこなうもの」というイメージが根強くある家や地域もありますが、そもそも親の扶養義務は、他の兄弟姉妹も負っています。さらに親自身の兄弟姉妹も扶養義務者に該当するので、親の介護負担を兄弟姉妹や親族の間で分担できないか、一度相談してみましょう。

介護サービス・施設を利用する

介護の負担を軽減するためには、介護サービスや施設を上手に利用することが大切です。例えば、日中は訪問介護の利用や、デイサービス・デイケアに通うと、利用中の時間は介護から解放されます。また親を病院に連れていく負担が大きい時は、訪問看護や往診を利用することも可能です。

さらに、ショートステイなど短期宿泊のサービスを利用すれば、数日間は休息でき、気分転換に出かけるなど、リフレッシュを図れるでしょう。

在宅介護で利用できる介護サービスは以下のとおりです。

訪問介護・訪問入浴

ホームヘルパーが自宅を訪問し、排泄や入浴、食事介助などをおこなってくれるサービスです。訪問入浴では専用の浴槽などの道具を持ち込んでくれるため、自宅で準備をすることはありません。介護のプロに任せれば安心な上に、介護負担を軽減するスキルを吸収できるチャンスもあります。

デイサービス

介護施設に通い日常生活支援やレクリエーションを日帰りで利用できます。利用中は安心して自分の時間を使えるでしょう。また、利用しやすい料金設定のため、気軽に利用できる点もメリットです。

ショートステイ

介護施設などに短期間、宿泊するサービスです。1日から最大30日まで利用できます。遠方に出かける用事がある・自宅をリフォームするなど大きなイベントがある際はもちろん、介護者がリフレッシュするための目的で利用可能です。

介護者のコミュニティに参加してみる

地域には親を含め家族を介護している人々が集まるコミュニティがあります。コミュニティに参加し、介護をしている当事者でなければわかり合えない悩みや不安などを打ち明けると、気持ちが楽になれるかもしれません。

介護の専門家に相談する

各市町村には介護支援をおこなうさまざまなサービスがあります。各専門職に日頃抱えている悩みや不安を打ち明けることで解決につながることもあるでしょう。具体的な窓口は以下のとおりです。

地域包括支援センター

地域包括支援センターは地域の総合的な福祉や育児の相談窓口であり、高齢者の生活や介護に関する悩みを気軽に相談できる場所です。高齢者自身はもちろん、家族も相談できます。ケアマネージャー社会福祉士が関わっているため、介護について悩んだ際は、まず地域包括支援センターに問い合わせてみるとよいでしょう。

お住まいの自治体

介護保険制度の手続きなど、介護認定に関する疑問や悩みは市町村に問い合わせるとよいでしょう。

市町村により、手続き方法やルールが異なることもあるため、まずは相談してみてください。

病院・診療所など医療機関の相談室

病院や診療所などの医療機関の多くが、患者に向けて相談室を用意しています。医療ソーシャルワーカーなど専門家が所属しており、病気だけでなく介護に関する悩みにも対応してくれることがほとんどです。

介護サービスの基本的な知識や適切な介護サービスの選び方、退院後のアドバイスをもらえるでしょう。

まとめ

親の介護をおこなうことは子どもの義務とされていますが、求められることは主に経済的な援助です。子どもが直接、親の介護をおこなう義務はありません。子どもの生活に余裕がない場合は、申請すれば金銭的な負担も減るので、ご安心ください。

「親の介護で悩みや不安があるけれど、どこに相談したら良いかわからない」とお悩みの方は、まず地域包括支援センターに問い合わせることをおすすめします。

介護をはじめ、地域住民が抱えるさまざまな悩みを相談できる窓口のため、気軽に利用してみましょう。地域包括支援センターの連絡先は、各市町村のホームページなどから検索してみてください。

渡口将生

介護福祉士
介護支援専門員
認知症実践者研修終了
福祉住環境コーディネーター2級

介護福祉士として10年以上介護現場を経験。その後、介護資格取得のスクール講師・ケアマネジャー・管理者などを経験。現在は介護老人保健施設で支援相談員として勤務。介護の悩み相談ブログ運営中。NHKの介護番組に出演経験あり。現在は、介護相談を本業としながらライターとしても活動、記事の執筆や本の出版をしている。