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介護業界の給料と年収

2023-04-11

作業療法士で年収1,000万円稼ぐのは難しい?臨床その他の年収アップ方法を解説

病気や障害で困難を抱える対象者の機能訓練やADL訓練、作業活動などのリハビリをおこなう作業療法士。

 

高齢化社会のなか需要が高まるといわれていますが、年収について気になる方も多いのではないでしょうか。特に若手の作業療法士であれば「長く働けばどのくらい年収が上がるのか」「年収1,000万円くらい稼げるのか」など一度は考えたことがあるかもしれません。

 

しかし残念ながら、作業療法士で年収1,000万円を稼ぐのは困難です。この記事ではその理由や作業療法士の平均年収、臨床で働きながら年収アップを目指す方法について解説しました。確実に年収を上げたい方は、ぜひ最後までご覧ください。

作業療法士で年収1,000万円稼ぐのは難しい?

結論からいうと、作業療法士で年収1,000万円を稼ぐのは困難です。一般的な病院や施設勤務では、ほぼ不可能といってよいでしょう。

理由としては診療報酬に関連するため、医療職に共通する点も多いといいます。またリハビリ職ならではの要因もあるため、以下で解説します。

診療報酬によって収入を得ているから

作業療法士は診療報酬や介護報酬を元に収入を得ています。
病院などで作業療法をおこなう場合、20分あたり1単位で点数が決まっており、リハビリ内容によって点数を増減させることはできません。この点数が病院の収入となり、作業療法士の給料の元となっているのです。

8時間勤務であれば単純計算で最大24単位算定できるという計算にはなります。しかし、移動時間やカルテ記録の時間を考慮すれば、24単位分の作業療法をおこなうのは不可能です。また残業すれば単位数が増やせると思われるかもしれませんが、1日あたりの最大単位数は24単位、1週間あたりでは108単位と上限が定められています。

そのため、作業療法士がどんなに頑張ろうとも得られる収入には限りがあり、その結果病院からの給料も頭打ちとなるのです。

昇給が少ないから

医療職全般にいえますが、昇給が少ない点も年収1,000万円稼ぐのが難しい要因となっています。

昇給が少ないのは、上記の診療報酬に起因する部分が大きく、年に一度の昇給は少ない金額である職場も多い傾向です。また、リハビリ職の役職が少ないのも要因の1つといえます。多くの病院では主任程度の役職しかなく、規模の大きい病院でも技師長のポストがある程度でしょう。昇格がなければ必然的に給料も上がりにくくなり、年収の伸び代も期待できません。

養成校が増加しているから

作業療法士の養成校は増え続けており、1999年から2016年までの間に2倍近くとなっています。なお、有資格者にいたっては同期間で12,601名から79,955名まで増えており、作業療法士人口の増加は顕著です。

高齢化社会で、リハビリ職の需要は高いといわれていますが、2019年の時点で作業療法士の供給数は既に需要数を上回っています。さらに2040年頃には供給数が需要数の約1.5倍になると推計されているほどです。

飽和状態が続けば年収アップも期待できません。同じ診療報酬なら扱いづらい年長者より若手を安く雇おうとする事業者も増える可能性があります。このように養成校の増加も年収が上がりにくい要因の1つとなっています。

そもそも作業療法士の平均年収は?

作業療法士で年収1,000万円を稼ぐのは難しそうですが、そもそも平均年収はどの程度なのでしょうか?厚生労働省の令和3年賃金構造基本統制調査から、見ていきましょう。

男女別の年収

まずは全平均と男女別の平均年収や勤務時間等のデータです。10人以上の事業所を対象にしています。

平均年齢勤続年数所定内実労働時間数超過実労働時間数きまって支給する現金給与額年間賞与その他特別給与額(年収)
全平均35.1歳7.4年161時間5時間29.6万円71.3万円(426.5万円)
男性35.2歳7.5年162時間5時間30.67万円74.94万円(442.98万円)
女性35.1歳7.4年160時間4時間28.34万円67.13万円(407.21万円)

引用:令和3年賃金構造基本統計調査
※年収は「きまって支給する現金給与額」×12+「年間賞与その他特別給与額」で算出

男女で比較すると、男性の年収の方が40万円弱多いといえます。
上記の表の平均勤続年数から見ると、中堅レベルの作業療法士のものを示していることが分かります。参考までに初任給のデータと比べてみましょう。

初年度の基本給等の推移

初年度の基本給・手当・賞与の推移は以下の通りです。

2015年度(円/月)2021年度(円/月)
1年目の基本給188,863191,785
1年目の手当31,16535,634
1年目の賞与598,905533,286
(年収)(2,896,426)(2,870,340)

引用:作業療法白書2021
※年収は「基本給」×12+「手当」+「賞与」で算出

初任給と比較すると、勤続年数に応じて多少は年収が上がっていることがうかがえます。

事業所規模別の年収

次は、事業所の規模別の平均年収や労働時間等について記載します。

平均年齢勤続年数所定内実労働時間数超過実労働時間数きまって支給する現金給与額年間賞与その他特別給与額(年収)
全平均35.1歳7.4年161時間5時間29.6万円71.3万円(426.5万円)
10〜99人35.4歳5.8年165時間5時間29.43万円60.84万円(414万円)
100〜999人35.9歳7.7年161時間4時間29.07万円69.9万円(418.74万円)
1,000人以上35.6歳8.2年158時間7時間31.44万円85.5万円(462.78万円)

引用:令和3年賃金構造基本統計調査

事業所で比較すると、規模が大きいほど月給、特に賞与の金額が高い傾向にあり、比例して年収も上がっています。
しかし、それでも年収1,000万円にはほど遠いことが分かるでしょう。

作業療法士で年収1,000万円を目指す方法

残念ながら、作業療法士で年収1,000万円以上の求人情報はありません。
そのため年収1,000万円を目指すのであれば、以下の手段を考える必要があります。ただし、一般的な臨床勤務とはかけ離れた働き方となることは念頭に置いてください

大学教授になる

作業療法士に限りませんが、大学教授になれば年収1,000万も現実的となるでしょう。ただし、国公立大学か私立大学かで差があり、一般的には私立大学の教授の方が高額となる傾向にあります。

高収入が期待できる大学教授ですが、そこに至る道のりは決して易しくありません。
大学教授になるための最初のステップとしては、大学院に進み博士号を取得するのが一般的です。その後、助教や講師となり研究・論文発表を重ねていきます。しかし、准教授・教授と進むのは狭き門であり、定年が近くなればなれるとは限りません。

また、大学教授の年収自体は著しく高いともいい切れず、国公立大学であれば、800万円を下回るケースもあります。ただし教授となると、研究を活かして書籍を出版している方も多いため、その印税で年収が上乗せされるケースも少なくありません。

いずれにせよ、教授への道のりは厳しいため、大学で研究・教育に携わりたいと考えている人にのみ、すすめられる方法になります。

治療院などを開業する

柔道整復師とは異なり、作業療法士には開業権がありません。あくまで「医師の指示・処方のもと作業療法を提供する」と法律で定められているため、開業して作業療法をおこなうことはできないのです。

しかし、独立そのものができないわけではありません。整体院・治療院・サロンなどとして起業・独立することはできます。この場合、診療報酬とは関係なく収入を得ることとなり、サービスに対する金額の設定は自由です。そのため、繁盛すれば年収1,000万円を超える可能性も期待できます。

施設を経営する

近年、作業療法士・理学療法士といったリハビリ職で、施設を経営する人が増えています。
特に注目されているのが訪問看護ステーションです。訪問リハビリの需要が高いことや、病院と異なり取得単位の制限がないことも起業を後押ししている要因といえます。

少ない設備投資で起業しやすく、条件を満たせば助成金を受けられるなどのメリットはあるものの、注意すべき点もあります。
管理者となる看護師の設置や配置基準などをクリアしなければならず、人材の確保に苦労する場合もあるでしょう。

しかし軌道に乗れば、併設してデイサービスやその他施設を開設しやすく、事業を拡大できる可能性は高まります。そのため、リハビリはもとより経営者としても活躍したい場合に向いている方法といえるでしょう。

臨床の作業療法士として年収を上げる方法

作業療法士で年収1,000万円を目指すのは難しく、叶える方法には限りがあることが分かりました。病院で作業療法士として年収1,000万円の収入を得るのは困難ですが、臨床で仕事をするのが好きな方も多いのではないでしょうか。そこで、ここからは臨床に携わりながら年収を上げる方法を紹介します。

資格を取得する

まずは、キャリアアップとして資格を取得して年収を上げる方法です。作業療法士協会の会員であれば、認定作業療法士・専門作業療法士の取得を目指す人もいます。

作業療法士協会以外であれば、呼吸療法認定士や心臓リハビリテーション指導士を取得する人も少なくありません。それぞれ呼吸器リハビリ・心大血管リハビリの施設基準として必要になるものです。

いずれも作業療法士の養成校のカリキュラムにはない領域であるため、取得に向けて最初は難航するかもしれません。しかし、臨床で関わる機会の多い疾患であるため、取得すれば日々の臨床にも大いに役立つでしょう。

そのほかであれば、ケアマネジャー、福祉住環境コーディネーターなどの福祉系の資格を取得する人もいます。

勤務先によっては資格の取得で手当が出る場合もあるため、自己研鑽も兼ねて勉強・資格を取得するのも1つの方法です。だたし劇的に年収が上がるわけではありません。さらに研修会などへの出席が必要な場合もあるため、休みを犠牲にすることもあるでしょう。

転職をする

作業療法士は、同じ職場に長くいても昇給があまり見込めません。
そのため、そもそもの基本給を上げるべく他の病院施設に転職するのが年収アップへの一番の近道といえます

基本給は対象領域や診療科によって変動しやすいものです。そのため、自分の経験や強みを活かしつつ、基本給や賞与が高い職場を探すと年収アップも可能でしょう。

また作業療法士の資格を活かして他業種へ転職する選択肢もあります。パーソナルトレーナーや福祉用具の企業などがその最たる例です。

いずれにせよ今の勤務先で収入の伸び代が期待できないと感じたら、転職することをおすすめします。

副業をする

臨床の作業療法士として働きながら、副業で稼いで年収の上乗せをするのも1つの方法です。

訪問リハビリや施設での非常勤アルバイトであれば、普段の業務との差が少なく、ハードルの低い副業といえます。また、資料などの準備が苦でなければセミナー講師として活動するのも1つの選択肢でしょう。

また、作業療法士と関係のない副業で稼ぐ選択肢もあります。近年在宅ワークも増えているため、自宅にいながら稼ぐ方法を模索するのもよいかもしれません。作業療法士は体を動かす仕事であるため、在宅ワークのように身体的負担の少ない仕事であれば長期的にも継続しやすいといえます。

海外で働く

同じ臨床でも、海外で作業療法士として働けば年収が大きく上がる可能性もあります。特にアメリカでは、作業療法士は非常に人気の職業であり、2019年の「最高の職業ランキング」では数ある職業を押しのけて4位となったほど。

アメリカにおける作業療法士は給与や職業満足度が高い職業であり、平均年収は84,950ドル(日本円にして約11,200,000円)といわれています。2023年3月の時点で日本円にすると、平均年収1,000万円を優に超えることが分かるでしょう。

ただし、海外で働くためには、その国によって資格の取得方法が異なるため注意が必要です。「WFOT認定の日本の養成校を卒業」「現地で一定期間の就労」などの要件を求められる場合もあるため、希望する国の作業療法士協会に問い合わせましょう。

一例としてアメリカで働くのであれば、日本国内のWFOT認定の養成校を卒業して作業療法士免許を取得したのち、適格性審査・英語試験・各州の協会の基準を満たさなければなりません。アメリカ以外の国でも作業療法士は世界中で活躍しています。そのため、海外で働くことは、外国での生活や他国語に抵抗がなければ、文化の違いも体感でき貴重な経験となるでしょう。

まとめ

臨床で働く作業療法士で年収1,000万円を稼ぐのは困難です。それは、診療報酬から収入を得ており、なおかつ有資格者が激増して供給数が上回っていることからも必然といえます。

どうしても年収1,000万円に到達したいのであれば、研究の道へ進むか、作業療法士以外のサービスで起業するしかありません。

臨床で働きながら年収をアップさせたいのであれば、現実的な方法として転職や資格の取得、副業などがあります。言語や文化の壁に抵抗がなければ、海外に活動の拠点を移すのもよいかもしれません。

年収アップの方法はさまざまです。将来の金銭的な不安を軽減させるためにも、自分に合った年収アップの方法を探してみましょう。

渡口将生

介護福祉士
介護支援専門員
認知症実践者研修終了
福祉住環境コーディネーター2級

介護福祉士として10年以上介護現場を経験。その後、介護資格取得のスクール講師・ケアマネジャー・管理者などを経験。現在は介護老人保健施設で支援相談員として勤務。介護の悩み相談ブログ運営中。NHKの介護番組に出演経験あり。現在は、介護相談を本業としながらライターとしても活動、記事の執筆や本の出版をしている。