ビジネスケアラー
2025-01-15
【遠距離介護の始め方】今からできる準備とポイントとは
離れた場所に住む親の介護が必要になったとき、どのようにサポートすればよいのかと悩む方も多いのではないでしょうか。
遠距離介護は、介護者の仕事やご家族との生活を守りながらも、大切な親を支えるためのサポートが必要となり、生活のバランスが取りづらくなります。
本記事では、遠距離介護をスムーズに進めるための具体的な準備や成功させるためのポイントを紹介します。自分の生活と親の介護を両立させるためにも、ぜひ参考にしてみてください。
遠距離介護とは
遠距離介護とは、親と子どもが離れた場所に住んでいる状態で介護することを指します。例えば、親が地方に住んでいるのに対し、子どもは都市部で暮らしている場合です。
遠距離介護では、物理的に距離が離れているため、頻繁に帰省して日常的なサポートが難しいといった特徴があります。
遠距離介護が必要となる背景には、親と子それぞれの生活習慣の違いや、仕事の都合、親が住み慣れた土地から離れたくない気持ちなど、さまざまな理由があるでしょう。
「令和4年版高齢社会白書」によると、介護をしている人のうち遠距離介護をしている人は、全体の13.6%いるとされています。
親が健康な状態でも、いつ介護が必要になるかわかりません。遠距離介護は、親と自分の生活を両立させるために、計画的な取り組みが求められます。
遠距離介護のメリット・デメリット
遠距離介護では、離れて暮らすからこそ生じるメリットとデメリットがあります。
それぞれを理解したうえで、自分と親の生活がよりよい形で両立させられるのかを考えていくとよいでしょう。
遠距離介護のメリット
遠距離介護には、次の2つのメリットがあります。
- ・生活環境を維持できる
- ・介護負担が軽減される
遠距離介護の大きなメリットは、住み慣れた環境で生活を続けられることです。親にとって長年暮らしてきた地域で生活できることは安心感があり、周囲との交流を保つことで精神的な安定にもつながります。
また、子どもは育児や仕事をしている場合も少なくありません。遠距離介護であれば、転居や転職を考えなくても今の生活を維持できます。さらに、離れて暮らす分、日常的な介護の負担は少なくなるといえるでしょう。介護サービスや見守りサービスなどの地域の支援で日常的な介護を依頼すれば、離れて暮らす不安を解消しつつ、介護負担は減らせます。
施設入所が必要になった場合、子どもが離れて暮らしているケースや独居生活の方は緊急性が高まり、入所選考に通りやすいということもあります。
遠距離介護のデメリット
遠距離介護のデメリットは、次の2点です。
- ・緊急時にすぐ対応できない
- ・費用の負担が大きくなる
遠距離介護では、親の緊急時にすぐに駆けつけられないケースがほとんどです。離れて暮らしていると、日常の様子がわからないため、小さな変化にも気づけず、介護中の急な体調変化や事故が起きた場合に、適切な対処が取れなくなる可能性があります。
また、介護のために帰省する回数も増加します。親の自宅が遠いほど交通費がかかるため、経済的負担が大きくなるでしょう。
遠距離でも適切な介護をするために、住環境を整えたり介護サービスの利用頻度を増やしたりすることも必要です。これらの介護費用を親の資産から出してもよいか、確認しましょう。
遠距離介護を始める前に準備しておきたいこと
遠距離介護になっても事前に準備しておけば、安心して介護が提供できます。必要な準備は、以下の5つです。
- ・利用可能な介護サービスを確認しておく
- ・介護にかかる費用を把握しておく
- ・ご家族で介護方針や役割を決めておく
- ・要介護者の周囲の人と連絡をしておく
- ・介護休業制度について調べておく
利用可能な介護サービスを確認しておく
遠距離介護を始めるには、親が住む地域で利用可能な介護サービスを事前に確認しておくことが大切です。
介護保険で受けられるサービスには、通所や訪問による生活支援のほか、福祉用具のレンタルや購入、住宅改修なども含まれます。また、一人暮らしが難しくなったときに利用できる入居施設の種類や特徴も、あらかじめ知っておきたい情報のひとつです。
まずは親の身体の状態や住環境を確認したうえで、どのような介護サービスが必要か判断しましょう。
また、市町村が独自のサービスや助成制度を提供している場合もあります。どのような支援が利用できるのか知るためにも、地域包括支援センターや市町村の窓口で相談してみましょう。
介護にかかる費用を把握しておく
介護サービスの利用料や医療費など、介護には予想以上に費用がかかることがあります。介護保険の適用範囲や助成制度を調べておくと、経済的な負担を軽減できるケースもあるでしょう。実際に必要な費用を明確にしておくと、家計とのバランスを考えた介護サービスが選択できます。
また、親の預貯金や年金額、加入している保険についても把握しておきましょう。親の資産や貯蓄を介護費用に充てられるかを、ご家族で話し合うことが重要です。親に同意を得ておくことで、後々のトラブルを防げるでしょう。
介護が突然必要になっても困らないように、預貯金や保険証書の保管場所を聞いておくことも肝心です。お金にまつわることは、話題にしにくい内容ですが、時間をかけ了承を得られるように進めていきましょう。
ご家族で介護方針や役割を決めておく
遠距離介護を1人で担うには限界があります。兄弟姉妹などのご家族がいる場合は、事前に介護方針やそれぞれの役割を決めておきましょう。
例えば「誰がどれくらいの頻度で親の様子を見に行くのか」や「緊急時の対応はどうするか」「誰がケアマネジャーとの対応をするのか」などを話し合うことをおすすめします。
頻繁に通えない場合には、兄弟姉妹の経済的な援助をする方法もあります。兄弟姉妹で負担を分散し、1人だけに負担が集中しないことが大切です。
介護者の周囲の人と連絡しておく
親の住まいの近隣に住む方や交友関係を把握することも大切です。普段から交流をしている方は、親のことを知っている方かもしれないので、帰省時には親と一緒に友人や近所の方へあいさつしましょう。連絡先を交換しておくと何かと安心です。
また、近所の方であれば必要に応じて様子を見に行ってもらえるように頼めることもあるでしょう。近所の方も親の緊急連絡先(子の連絡先)を知っていれば、万が一のときでも安心です。
介護休業制度について調べておく
介護で仕事ができない労働者のために、介護休暇や介護休業制度があります。介護と仕事を両立するための制度を活用すれば、仕事への影響を最小限に抑えられるでしょう。また、介護で仕事を休むことで収入が減少しないように、介護休業給付金制度もあります。
これらの制度を利用すれば、介護のために離職することや収入がなくなる心配も防げます。まずは勤務先の就業規則を確認し、自分が使える制度を把握しておくとよいでしょう。
遠距離介護を成功させるポイント
遠距離介護を成功させるためには、事前の計画や工夫が重要です。距離が離れていても、次のポイントを押さえておくと、互いの生活を安定させられます。
- ・要介護認定を受けておく
- ・見守りサービスを利用する
- ・コミュニケーションを取る
要介護認定を受けておく
遠距離介護を成功させるためには、親の状態を知っておくことが大切です。介護が必要になってから慌てないために、市町村の窓口で要介護認定の申請をしておきましょう。
今はまだ必要ないと考えていても要介護認定を受けておけば、万が一、介護が必要になったときでも、遠距離介護を踏まえた介護計画を立てられます。早めに手続きを進め、必要なサービスが利用できる準備を整えておきましょう。
見守りサービスを利用する
頻繁に帰省して親の様子を見ることが難しい場合には、見守りサービスの導入がおすすめです。
見守りサービスには、センサーやカメラを設置して家の中の様子を確認できるものや、定期的にスタッフが訪問するサービスなどがあります。
最近ではスマートフォンと連携して、位置情報を確認できたり外出時や帰宅時に通知が届いたりして、手軽に安心感を得られるでしょう。
自治体によっては、高齢者の見守りや緊急システム装置の設置や貸与をしてもらえるため、市町村の窓口で相談してみましょう。
コミュニケーションをしっかり取る
離れて暮らしている分、親とのコミュニケーションは重要です。定期的に電話やビデオ通話をして、親の健康状態や生活状況を確認しましょう。
ただ情報を聞くだけでなく、親が感じている不安や悩みに寄り添うことが大切です。親との信頼関係を築き、安心感を持ってもらうことで介護をスムーズに進められます。
遠距離介護を始める方はご家族間で話し合っておこう
遠距離介護は、親の住み慣れた環境を維持しながら、子どもの生活も守れる介護方法です。しかし、物理的な距離があることで緊急時の対応や費用面の負担といった課題もあります。
遠距離介護を成功させるためには、介護サービスの把握やご家族間の役割分担など、事前の計画や工夫が重要です。親とのコミュニケーションを大切にしながら、無理なく介護を続けられる仕組みを整えておきましょう。
この記事を参考に、遠距離介護でも、互いに安心できる環境を作りましょう。
渡口 将生
介護福祉士
介護支援専門員
認知症実践者研修終了
福祉住環境コーディネーター2級
介護福祉士として10年以上介護現場を経験。その後、介護資格取得のスクール講師・ケアマネジャー・管理者などを経験。現在は介護老人保健施設で支援相談員として勤務。介護の悩み相談ブログ運営中。NHKの介護番組に出演経験あり。現在は、介護相談を本業としながら、ライター活動をおこなっており、記事の執筆や本の出版をしている。