介護情報メディア ケアケア 経営・マネジメント向けコラム 取り組み事例 【必見!】介護ICTの導入で起こる3つのメリット。導入事例で詳しく紹介!

取り組み事例

2022-12-27

【必見!】介護ICTの導入で起こる3つのメリット。導入事例で詳しく紹介!

少子高齢化が進む現在、介護業界への需要と期待はますます高まっています。それにもかかわらず、人手不足が止まらない介護業界こそICT導入が必須です。しかし、コストがかかる上に、導入後に対応できる人材がいないなど、ICT導入をためらう介護事業所・施設が大半ではないでしょうか。介護の現場にICTをスムーズに導入するには、事例から効果や導入までの流れ、注意すべきポイントなどを知ることが大切です。今回は介護ICTの事例をご紹介し、実際に使われている製品や技術、解決した課題や継続に向けて意識すべき点などについてお伝えします。導入をお考えの介護事業所・施設の方々はぜひ参考にしてください。

介護ICTを導入するメリット・デメリット

介護の現場にICTを導入するにあたり、多くの介護事業所・施設の責任者が知りたいのが導入によるメリット・デメリットではないでしょうか。そこで、はじめにICT導入によるメリット・デメリットについてご説明します。

メリット

業務の効率化
介護職の業務時間を圧迫する記録業務をはじめ、さまざまな事務作業を効率的に処理することができ、介護ケアを行う時間の捻出につながります。

スムーズな情報共有
介護事業所・施設内はもちろん、これまで郵送やFAXなどで対応していた情報共有をデータでやり取りできるようになれば、医療機関とのスムーズな情報共有につながります。

大規模な導入ならケア・顧客満足度向上なども期待できる
排泄予測機器や見守り支援システムなど大規模なICT導入が実現すれば、介護事業所・施設のケア品質の向上も期待できます。それによって、介護職の離職率低下、顧客満足度の向上などさらなるメリットも考えられます。

デメリット

対応できるスタッフの雇用・育成が必要
ICT導入の規模が大きくなるほど、現場スタッフにそれらを使いこなすスキルが求められます。介護職の平均年齢が上がっている現在、導入後に専門的なシステムを問題なく使えるかどうかは大きな課題です。

コストがかかる
導入するICTの規模が大きいほど初期費用がかかります。ツールやシステムだけでなく、インターネット開設などの費用についても考えておく必要があります。

介護ICT導入時に注意したい課題

介護ICT導入を検討している介護事業所・施設に向けて、導入時に注意したい課題をまとめました。ぜひICT導入の参考にしてください。

コストがかかる

ICT導入にはさまざまなコストがかかります。例えば、ICT機器を導入するにはインターネット環境を整備し、パソコンやスマートフォン、タブレットなどをそろえる必要があります。お悩みの際は、国が行っている補助制度を利用する方法もあります。補助金の利用については、「介護ICT導入のポイント」でさらに詳しくご説明します。

ICT製品に関する知識の不足

ICT製品を使いこなすには、ある程度の知識が必要になります。導入を決める経営層と実際に利用する現場スタッフとの間に知識や認識の差があると、導入後のトラブルにつながる恐れがあります。まず現場スタッフの知識やスキルを確認することが重要です。

技術を使いこなせる人材の不足

コストをかけて導入しても、現場に使いこなせる人材がいなければ宝の持ち腐れになりかねません。現在、ICTで使うツールやシステムについてある程度の知識がある、あるいは新しいことを学びたいという意欲をもつ人材がいなければ、そういった知識に強い人材を雇用するとよいでしょう。

介護ICT導入の押さえておくべきポイント

介護ICTを導入する際に、必ず押さえておきたいポイントについてご紹介します。

現場の潜在的なニーズを把握する

ツールやシステムの導入は介護のICT化に必要不可欠ですが、導入そのものが目的になっては本末転倒です。介護の現場で働く介護職の労働環境を改善したり、利用者の満足度を上げたりすることこそ、本来の目的です。

そのため、本当に解決すべき課題や問題点について、現場の意見から現状をしっかりくみ取ることが最初のステップになります。

スタッフや利用者に直接、質問する方法もありますが、「行動観察」という手法があることをご存じでしょうか。行動観察は、観察者がサービスの現場に入り、介護職・利用者の無意識の行動や、当事者には見えづらい事実などを第三者的に捉えることで、介護職や利用者の潜在的なニーズや課題を明らかにします。

サービスの比較検討

近年はさまざまなICTサービスが提供されていますが、それぞれを冷静に比較することも大切です。現在、現場が抱えている課題を本当に解決できるサービスはどれなのか、見極めずに導入してしまうと、せっかく導入したのに役に立たなかった…ということにもなりかねません。

また、新しいICT機器やサービスを導入する際には、必ず実際に利用する現場スタッフの意見を聞いておきましょう。

補助金等の活用

ICT導入を検討している方が、最も頭を悩ませているのが費用の問題ではないでしょうか。現在、政府はロボットやセンサーなどの技術を活用した介護の質・生産性向上を進めており、それに伴い医療・介護などの分野においてICT化を奨励しています。

そのため、補助金も多数設けられています。例えば、都道府県が作成した計画をもとに事業を実施する「地域医療介護総合確保基金」においては、対象としてICTを活用した事業も認められています。

また、介護ロボットの普及促進を目的とする「介護ロボット導入支援事業費補助金」は、機器を購入する事業所に対し、補助率1/2以内(要件を満たす場合は3/4以内)で補助金が支給されます。こういった制度を積極的に利用することをお勧めします。

人材の育成

ICT導入直後は、そういった分野に詳しい人材を新たに雇用するという対策もありますが、長く利用していく上では、やはり現状のスタッフの教育が欠かせません。

比較的簡単に使用できるツールやシステムだけならいいのですが、介護ロボットなどの導入をお考えの場合は、使用するスタッフ全員が使い方をしっかり理解していなければ事故につながる恐れがあるためです。

介護職の平均年齢は上がりつつありますが、生まれたときからパソコンやスマートフォンが身近にあったという若いスタッフに注目し、適性をもった人を抜てきするのも1つの方法です。

実際にICTを導入した介護施設の事例について詳しくご紹介します。

介護ICTの導入事例

ここでは比較的導入しやすいデジタルツールから、専門性の高いシステムを導入した例まで、介護ICTのさまざまな事例をご紹介します。

チャットツールを用いた情報共有

事業内容:訪問入浴サービス / 訪問介護サービス / 居宅介護支援サービス / 福祉用具貸与・販売 / 住宅改修工事 / 通所介護サービス / サービス付き高齢者向け住宅
導入したICT:チャットツール
製品名:ChatWork(チャットワーク)

【導入の背景】
サービス責任者の業務時間の多くがスタッフからの電話に割かれ、介護ケアの業務時間を圧迫していた。サービス責任者とスタッフ間で、電話では情報が正確に伝わりにくいという課題に悩んでいた。

【導入後の効果】
1日あたり約2時間半かかっていた電話業務が約半分まで減り、業務効率化につながった。チャットのテキストで情報のやり取りを行うため、内容が正確に伝わるようになり、サービス責任者とスタッフのストレスが軽減された。

記録作業のクラウド化・リアルタイムな情報共有

事業内容:特別養護老人ホーム / デイサービス / ショートステイ / ケアハウス / など
導入したICT:ケア記録
製品名:ケアカルテ「ちょうじゅ」

【導入の背景】
スケジュール管理やケアプランの対応はExcel、請求は他のソフトを利用するなど、バラバラなツールを使用していたため、転記など無駄な作業が多かった。さらに情報共有もスムーズにできないなど、スタッフが負担やストレスを感じていた。

【導入後の効果】
従来の業務の効率化に加え、書類削減の意識が高まり手書きの記録削減につながった。また、日本語の入力が難しかった外国人職員が、導入製品によって定型文の入力・タブレットでの記録入力が簡単にできるようになった。

勤務シフト自動作成システム導入による作成時間の短縮

事業内容:特別養護老人ホーム / デイサービス / 居宅介護支援 など
導入したICT:介護記録システム
製品名:「勤務シフト作成お助けマン」

【導入の背景】
勤務シフトをExcelで作成していたが時間がかかり、作成後の修正も度々発生。リーダーに負担がかかっていた。パソコンが苦手なスタッフもいるため、勤務シフトの業務引き継ぎのシステム化も図れなかった。

【導入後の効果】
最小の労力で勤務シフトの作成が可能になり、作業時間が大幅に短縮できた。また、システム導入により、客観的で公平なシフトが誰でも作成できるようになり、業務の引き継ぎが容易になった。

グループ通話機能を活用したインカムによる情報共有

事業内容:特別養護老人ホーム / 障がい者支援施設など
導入したICT:インカム
製品名:LINE WORKS

【導入の背景】
職員同士の連絡手段としてPHSを使用していたが、片手がふさがるため介護ケアの妨げになっていた。また、1対1での通話しかできないため、スタッフ間の情報共有に時間がかかる点も問題だった。トランシーバーでは利用者の声や周囲の音が聞こえにくくなり、介護ケアが行き届かなくなる恐れがあった。

【導入後の効果】
職員間の連絡がスムーズになり、情報共有に必要な時間が職員1人あたり15~20分/日ほど削減できた。それに伴い、他職員の手間も削減され、情報共有のリードタイムが全体で1/2~2/3程度、新人教育に要するOJTの時間も約2/3の削減につながった。
また、インカムなら一斉に連絡でき、レスポンスもすぐ返ってくるため、スピーディーな対応が可能になった。

コミュニケーションアプリを活用した家族との連絡・面会

事業内容:特別養護老人ホーム
導入したICT:家族・職員とのコミュニケーションツール
製品名:HitomeQ コネクト

【導入の背景】
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、入居者の家族とのやり取りが増加し、スタッフの時間的・精神的負担が大きくなっていた。ツールはいろいろあったが、より介護施設に特化したツールを探していた。

【導入後の効果】
郵送も含め、家族の連絡にかかっていた時間・コストの大きな軽減につながった。さらに、職員の安否確認機能も搭載されているため、個人情報の問題から難しかった連絡網の作成にもつながり助かった。

排泄予測機器を活用した効率的なトイレ誘導

事業内容:特別養護老人ホーム
導入したICT:排泄予測機器
製品名:Dfree

【導入の背景】
定時での誘導・ケアを行っていたが、もっと利用者の状況に合わせたタイムリーなトイレ誘導・排泄ケアを望んでいた。

【導入後の効果】
通知に基づいた適切なタイミングで排泄ケアをすることで、スムーズにおむつ交換できるようになった。

ベッド型見守り支援システムの活用による業務効率化

事業内容:特別養護老人ホーム
導入したICT:見守り支援
製品名:眠りSCAN

【導入の背景】
入居者の見守りによるスタッフの肉体的・精神的負担の削減と、今まで以上にきめ細やかなケアをしたいという課題があった。

【導入後の効果】
入居者ごとの睡眠日誌を作成でき、その睡眠データをもとに適切なタイミングでのトイレ誘導が可能になった。また、呼吸数の測定・記録により体調管理ができ、肺炎や発熱などの早期治療の判断ができるようになった。

カメラ型見守り支援システム導入によるケア品質の向上

事業内容:特別養護老人ホーム
導入したICT:見守り・コミュニケーション
製品名:HitomeQ ケアサポート

【導入の背景】
転倒事故が課題になっており、再発防止策の検討や家族への説明のためにエビデンスを取りたい。

【導入後の効果】
利用者様の動きを起点とした映像通知による”見てかけつけ”により空訪室が激減し、適切なタイミングで訪室できるようになった。ベッドやマットのセンサーではベッド・マットから離れてしまえば動きが見えないが、HitomeQ ケアサポートは利用者の動きがわかるので助かっている。転倒事故はベッドから起きた後が最もリスクが高いが、天井から死角なしで映像が見えるので適切な対応が可能になった。

まとめ

介護ICTについて事例を挙げながらご紹介してきました。実際に導入するにはさまざまなハードルがありますが、最初に手を付けるなら、やはり現場のスタッフの声を聞き、解決すべき課題をしっかりと認識することです。

その上で課題解決に最適なシステムやツールを選択し、補助金も積極的に利用した上で導入に踏み切りましょう。深刻な人材不足に悩まされている介護業界こそ、導入による大きな効果が望めるはずです。

石井 英男

第2種情報処理

東京大学大学院工学系研究科材料学専攻修士課程修了。工学修士。フリーライター歴は30年を超える。PC/IT系からSTEM教育、医療分野まで幅広い分野で執筆を行っており、多くの媒体に寄稿している。インタビュー経験も豊富で、トップインタビューから導入事例までさまざまな実績がある。セキュリティ関連や経営関連のオウンドメディアなどへの執筆も多数行っており、最近は、AIや量子コンピューター、SDGsなどの分野の記事執筆も増えている。