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介護の基礎知識

2023-11-30

ヤングケアラーが感じる負担|現代の実状とサポート体制

超高齢社会となった日本において、家事やご家族の世話を子どもが日常的に行う「ヤングケアラー」が社会問題になっています。
勉強や自分の時間が確保できず悩んでいる子どもが増加傾向にあり、進学や健康に影響を与えている状況です。このことは、発達途中の子どもにとって、身体的にも精神的にも大きな負担となっているでしょう。

 

本記事では、ヤングケアラーの現状と子どもたちが抱える負担、現在取り組まれている支援策について解説します。

ヤングケアラーとは

ヤングケアラーとは、ご家族の病気や障がい・高齢などの理由により、家庭内のケアを担う立場にある、18歳未満の子どもを指します。本来なら大人が担うような事柄でも未成年の子どもに任せてしまい、ほかの子どもに比べて大きな負担となっているのは、いうまでもありません。

具体的には、次のような事柄があります。

・家族に病気や障がいがあるため、買い物や掃除・洗濯などの家事を日常的に行っている

・家族の代わりに幼いきょうだいの世話をしている

・家族の家計のために働いている

行政の支援システムや専門家の助けが必要である一方、ヤングケアラーの抱える負担が表面化しにくいケースが多く、発見が遅れてしまう傾向があります。

ヤングケアラーが抱える負担

ヤングケアラーは、ほかの子どもたちと同様に学校に通いながらご家族の用事もこなしているため、ストレスやプレッシャーを感じています。具体的には、以下のような5つの課題が挙げられます。

・勉強の時間が取れない

・友達と遊べない

・自分の時間が取れない

・健康が維持できない

・相談していいかわからない

それぞれ見ていきましょう。

勉強の時間が取れない

ヤングケアラーは、ご家族の世話に時間を取られ、宿題や勉強する時間の確保が難しい傾向です。

令和2年度に埼玉県が実施した「ヤングケアラー実態調査」によると、小学6年生で6.5%、中学生2年生で5.7%、高校2年生で4.1%に、ご家族の世話をするヤングケアラーがいることがわかっています。

ご家族の世話にかかる平均時間(平日)は、小学6年生で2.9時間、中学2年生は4時間、高校2年生では3.8時間です。小学生で15.2%・中高生で22.6%の子どもが、ご家族のケアのために宿題や課題に時間が取りにくい状況があります。

疲れやストレスが解消されず、授業に集中できないケースもあり、遅刻や早退をする小学生は22.9%、中高生で26.6%、欠席については小学生で24.7%、中高生で34.6%となっています。

どの年齢でも、ヤングケアラーはほかの子どもより早退や遅刻・欠席する割合が2倍以上になっています。中には、成績の低下で進学や就職に影響しているケースやご家族の面倒を見るために進学そのものを諦めるケースもあるようです。

友達と遊べない

ヤングケアラーは、ご家族の世話に時間が取られるため、友達と遊ぶ時間がほとんどありません。小学6年生の19.3%、中高生の11.1%が友達と遊ぶ時間が少ないと感じているようです。

また、共通のテレビやコンテンツに関わる時間が取れないため、友達同士の話題についていけず、孤立感や疎外感を感じやすい傾向があり、小学6年生の9.4%、中高生の12.0%が、学校を1人で過ごすことが多い状況となっています。

自分の時間が少ない

ヤングケアラーにきょうだいがいる場合、世話や家事に時間が取られ、自分の時間を持てない状況です。そのため、趣味や息抜きの時間すら取れなくなってしまい、ストレスや疲労につながることが懸念されています。

子ども自身が感じている影響の調査では、ヤングケアラーの子どもの半数以上は、学校の影響について「特にない」と答えました。しかし、小学6年生の15.1%、中学2年生の20.1%、高校2年生の16.6%が「自分の時間が取れない」と回答しています。

「特にない」と回答した子どもたちの中には、今の状況が日常化しているため影響を感じない、また課題と考えたくないなどの心情があると推測できます。

健康が維持できない

ご家族の介護は夜間まで及ぶことがあり、十分な睡眠が取れないケースも少なくありません。そのため、疲労が蓄積し心身の健康に悪影響を与えるほか、学力の低下にもつながってしまいます。

ヤングケアラーの子どもが感じている影響についての調査でも、十分な睡眠が取れないと回答している子どもが、小学6年生で6.7%、中学2年生で8.5%、高校2年生で11.1%となっています。

学校でも健康状態があまりよくない割合が小学生が4.6%、中高生で10.9%となっており、この調査でも同学年の子どもより2倍以上の割合で睡眠不足や不調があるという結果が出ています。

相談していいのかわからない

ヤングケアラーは、ご家族の世話や悩みで不安を抱えながらも、相談できる相手がいないと考えています。約7割のヤングケアラーは、ご家族にケアが必要な人がいることに対して「相談したことがない」と回答しました。また、誰かに相談した場合でも、相談相手の7~8割はご家族であり、次いで友人となっています。

そのため、周囲の大人が子どもの様子を見ただけでは、家庭の事情までわからない点が課題となっています。そのため、ヤングケアラーの発見が遅れ、十分な支援が行えていない状況があるのです。

ヤングケアラーが増える理由とは

ヤングケアラーが増加する要因は以下のとおりです。

・ひとり親の増加

・核家族化

・地域住民との付き合いの減少

それぞれの課題について解説します。

ひとり親の増加

ヤングケアラーが増える要因の1つに、ひとり親家庭の増加が考えられます。厚生労働省が調査した「令和3年度全国ひとり親世帯等調査結果の概要」によると、母子世帯・父子世帯合わせて134.4万世帯があります。親が1人で子どもを育てている場合、親が病気や障がいを持つと、子どもがその親の介護を担うケースが多くなります。

また、ヤングケアラーが世話をしている続柄で最も多いのはきょうだいです。小学6年生で71.0%、中学2年生で61.8%、高校2年生で44.3%いることがわかりました。このように、ひとり親の世帯で低年齢のきょうだいがいる場合には、その世話を子どもが担うケースは少なくありません。親が生活のために仕事をしていることで、必然とこういった構図が出来上がるのです。

核家族化

核家族化が進んでいる社会では同居家族が少ないため、子どもが負担を担う可能性が高くなります。昔は三世代同居によって、家族同士が支え合えました。つまり、親の両親によるフォローが受けやすい環境があったのです。しかし、核家族が進んだ現代では、子どもがご家族の世話を担わざるを得ないケースが増えています。

地域住民との付き合いの減少

地域住民との付き合いの減少も、ヤングケアラーの増加に影響していると考えられます。地域とのつながりが希薄になると、家庭内の問題が表面化せず、社会から孤立しやすくなります。

周囲の支援が不足すると、子どもたちは家庭内の負担を1人で抱えることになるのです。ケアについて相談する相手についても、近所の人に相談する割合は全体の1.4~1.8%となっており、現代社会において近隣住民とのコミュニティが希薄になっていることがわかります。

ヤングケアラーへの支援策

厚生労働省の調査によると、自身がヤングケアラーだと自覚している子どもは中学2年生で1.8%、高校生でも2.3%と低い割合です。

ヤングケアラーへの対策は次の3点が行われています。

・学校と児童福祉関連機関との連携

・ヤングケアラー相談窓口の設置

・ヤングケアラーの交流の場や家族会

ヤングケアラーがご家族の世話を始めた年齢は、平均9.9歳となっており、小さいうちからケアする環境に身を置いているため「当たり前」だと感じている可能性も考えられます。そのような状況を打破することが今後の課題といえるでしょう。

学校と児童福祉関連機関の連携

ヤングケアラーの存在は、周囲の大人が早く気づき、対応することが重要です。スクールカウンセラーやソーシャルワーカーが入っている学校はまだ多くありません。そのため、子どもの様子を見て、いつでも話を聞いてあげられる環境作りはとても重要です。

また、地域の保育所や幼稚園などと連携して情報共有を行い、自治体の児童福祉関係機関と連携し、ヤングケアラーの逃げ場所となる形も必要です。

ヤングケアラー専門相談窓口の設置

周囲の大人に相談する人がいなくても、児童相談所や専門の相談窓口が設置されています。

「家族のことを身近な大人に話しにくい」「偏見を持たれたくない」と思っている可能性も考えられるでしょう。

下記は、相談窓口の一例です。

・児童相談所(相談専用ダイヤル):0120-189-783

・24時間こどもSOSダイヤル(文部科学省):0120-0-78310

・こどもの人権110番(法務省):0120-007-110

ヤングケアラーの交流の場や家族会

地域によっては、交流の場や家族会が設けられています。

同じヤングケアラーの子どもたちや元ヤングケアラーだった人が運営していることもあり、相談や話しやすい環境となっています。悩みを共有するだけでも、ヤングケアラーの気持ちを軽くできるかもしれません。

ほっと一息タイム(一般社団法人ケアラーアクションネットワーク協会)

ふうせんの会(特定非営利活動法人ふうせんの会)

全国きょうだいの会(全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会)

精神疾患の親をもつこどもの会(こどもぴあ)

中には、地域が限定されている場合もありますが、Zoomで交流可能なものもあるため、気軽に参加してみるとよいでしょう。

ヤングケアラーだけではなく家族全体に支援を

ヤングケアラーには、家庭の事情と深い関わりがあり、ご家族や保護者へ支援が必要になることも少なくありません。介護サービスや障がい福祉サービスを利用すれば、負担が軽減する可能性も考えられます。すでにサービスを使用している家庭でも、子どもがどの程度ケアに関わっているのかわからないため、担当のケアマネージャーに相談してみるとよいでしょう。

自治体に相談するヤングケアラーは、高校2年生で1.4%しかいないため、支援を求める方法を知らない可能性も高いと考えられます。また、介護分野では自宅で話をする機会もあるため、支援機関とつなげる役割として期待できるでしょう。

介護保険サービスについて

65歳以上の方もしくは、40歳から64歳までの特定疾病の方は市町村に要介護認定を申請し、認定が出れば介護保険サービスが利用できます。ただし、未成年者が申請をする場合は、親権者の同意が必要です。さまざまなサービスがあるため、ケアマネージャーと相談して必要なサービスを選択しましょう。

障がい者福祉サービスについて

障害福祉サービスについても、市町村の窓口で手続きが可能です。サービスを受けるためには「障害支援区分認定」が必要で、障害福祉サービスは区分によって利用できるサービスや市町村によって申請方法が異なるため、まずは市町村の窓口で相談してみてください。

本人の申請が基本ですが、できない場合はご家族や保護者・特定相談支援事業者が代理で申請可能です。また、障害福祉サービスを受ける対象者には、年齢による制限はありません。

まとめ

本記事では、ヤングケアラーの負担やサポート体制について紹介しました。ヤングケアラーは、中学生で約17人に1人、高校生で約24人に1人いるといわれており、自身の学業や健康・友人関係に影響を与えています。

ヤングケアラーへの支援には、本人の居場所を作る交流会や相談・カウンセリングなどがあり、有効に利用することで負担の軽減が期待できるでしょう。また、本人だけでなくご家族の支援も必要なケースがあるため、学校や福祉事業所・医療機関などが連携し、サポートすることが大切です。

渡口将生

介護福祉士
介護支援専門員
認知症実践者研修終了
福祉住環境コーディネーター2級

介護福祉士として10年以上介護現場を経験。その後、介護資格取得のスクール講師・ケアマネジャー・管理者などを経験。現在は介護老人保健施設で支援相談員として勤務。介護の悩み相談ブログ運営中。NHKの介護番組に出演経験あり。現在は、介護相談を本業としながらライターとしても活動、記事の執筆や本の出版をしている。