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ヤングケアラー

2022-12-29

ヤングケアラー先進国のイギリスの実情は?事例を挙げてご紹介!

「ヤングケアラー」という言葉ができた国のイギリスは、長年ヤングケアラーの存在と彼らが抱える問題に向き合い、支援に力を入れてきました。

 

イギリスでは、1990年代前半から、ヤングケアラーという言葉がイギリス国内の関係者などの間で少しずつ使われ始めた言葉です。

 

日本でもヤングケアラーが増加傾向にあるため、イギリスでおこなわれている支援内容や事例を知り、自国の対策や支援に取り入れることは非常に有益といえるでしょう。

 

今回はイギリスのヤングケアラー支援内容・事例を紹介します。そこから見える課題や日本との違い、共通点を確認していきましょう。

イギリスのヤングケアラー支援の歴史

まず、イギリスのヤングケアラー支援の歴史を見ていきましょう。

1988年にサンドウェル市の教職員によって、同市の中学生16,000人の中に、95人のヤングケアラーが存在すると発表しています。

さらに、1993年には、当時サセックス大学教授だったソール・ベッカー氏が調査報告書を発表。親や兄弟姉妹の介護・日常生活の世話などを担っている子どもたちが一定数いることを示し、ヤングケアラーになると健康・教育・幸福度に大きな影響を及ぼす恐れがあると指摘。ヤングケアラーは支援が必要な存在であることを証明し、イギリス社会に大きな影響を与えました。

2014年、イギリスは「ヤングケアラー」という新たな項を設けた「2014年家族と子どもに関わる法律」と「2014年ケア法」を制定。これにより、地方自治体はヤングケアラーの発見、および、そのニーズに関するアセスメント(評価・分析)を積極的におこなうことを求められるようになりました。

35年ほど前から、本格的なヤングケアラー支援に取り組んできたイギリスでは、2021年時点で約300にも及ぶヤングケアラー支援団体が活動をおこなっています。

他国に先んじたヤングケアラー支援がおこなわれてきた同国であっても、現在のような支援体制が整うまでにかなりの時間がかかりました。日本でも、一歩ずつヤングケアラー支援を進めていくことが大切といえます。

次に、イギリスではどのようなヤングケアラー支援がおこなわれているのか、その概要を見ていきましょう。

イギリスのヤングケアラー支援の概要

イギリスではヤングケアラーに対し、公的・私的の両面から積極的な支援がおこなわれています。

公的支援

教職員やソーシャルワーカーなどが専用のアセスメントシート(評価・分析用のシート)を使い、休みが多い・宿題の提出が遅れるなどの生徒に対して聞き取りをおこない、ヤングケアラーの発見に努めています。

また、ヤングケアラーの相談にのる専門職員を校内に配置し、ヤングケアラー自身が相談しやすい体制を整えている学校もあります。

民間支援

イギリスには「ヤングケアラーズ・プロジェクト」と呼ばれる、約300のヤングケアラーを支援する民間団体が存在しています。ヤングケアラーへの直接的な支援はそれらの団体が行っているケースがほとんどです。

組織の規模はさまざまで、全国的なものから地域密着型まであります。ヤングケアラーズ・プロジェクトは、主に次のような支援をおこなっています。

・ヤングケアラーが集まれる場の提供
・遠足やゲームなどの企画
・ヤングケアラー本人との定期的な面談
・ヤングケアラーの家庭を訪問

放課後に学校や地域の施設でヤングケアラー同士が集まり、悩みや不安を共有できる交流の場を設けて支援するほか、家庭訪問などで相談を受け必要なサービスへの架け橋となっています。

各自治体と民間団体のつながりが整っているイギリスならではの充実した支援です。現在、日本でも自治体による支援が少しずつ進められているため、今後に期待したいところです。

イギリスのヤングケアラー支援の概要に続いて、イギリスのヤングケアラー支援事例をご紹介します。

イギリスのヤングケアラー支援の事例

ここからは、イギリスで実際におこなわれている支援の詳細についてご紹介します。

シェフィールド・ヤングケアラーズ

イギリス中部にある都市シェフィールドで、ヤングケアラーの支援をおこなっている「シェフィールド・ヤングケアラーズ」では、およそ10年前から当事者・家族への支援をおこなっています。

ヤングケアラーだけでなく家族まで支援の対象にしている理由は「ヤングケアラーの負担を減らすためには、家庭内の環境を改善する必要がある」と考えているためです。

ヤングケアラーの親は、支援が必要な状況でも、認めないケースが多くあります。また、家庭内の問題について外部に助けを求めることに抵抗を感じる人もいるのです。そのため、支援が必要な状況に陥ったときに問題を認識し、自分たちで助けを求めることができるようにサポートしています。

支援しているヤングケアラーの中から、特に深刻だと感じた家庭にアプローチし、年間約40組の家庭を対象に支援。

支援が必要だと判断した家庭には、主に次の3つのメニューを用意しています。

1.担当者と家族の1対1の面談
およそ1ヵ月に1回、支援団体の担当者が家族と面談をおこない、子どもや家族の負担を減らす方法について相談を受けます。子どもへの影響を考慮し、基本的に担当者と家族のみで面談を実施。

担当者が家庭を訪問して状況を見ることで、その家庭が必要としている支援のヒントを得ることもあります。相談の内容は行政サービスを受ける方法・経済面に関するもの・親子関係まで多岐にわたります。

2.グループワーク
毎月、地域にある公共施設を利用してヤングケアラーの親が集まり、日頃の悩みや不安を共有します。

精神的・身体的・薬物依存など、さまざまな悩みを抱える親が参加中です。軽食を用意して、気軽に参加できる雰囲気づくりをおこない「学校との関わり方で困ったこと」など、毎回、テーマを決めて意見交換をします。

3.ペアレント・ネットワーク・サポート
ヤングケアラーの親同士がつながり、不安や悩みを共有するイベントを開催。

映画鑑賞会やクリスマス会などを開催し、身体的・心理的な理由で公共交通機関の利用が不安な親に対して送迎サービスも行っています。

Carers UK

Carers UKは、ヤングケアラーを含めたケアラーの人権擁護や啓発活動をおこなう団体です。

ケアラー支援の制度化に向けて大きな役割を果たしてきた団体で、1988年にイギリスで最初のケアラー団体として設立されました。

Carers UKが行っている支援は、下記のとおりです。

・専門的アドバイスや情報の提供
・ケアラーの組織化
・調査研究とそれに基づくケアラーの生活改善のための運動
・教育・訓練・介護用品の開発

ケアラーに対する直接的なサービスとしては、電話相談・地域のボランティアによるピアサポートのみです。一方で、政策立案のための運動・調査研究・ケアラーについての啓発など、社会に関する活動に力を入れていることが特徴です。

Carers Trust

ヤングケアラーを含むケアラーへのレスパイトサービス(ヤングケアラーが家族のケアから離れ、リフレッシュできる時間を設けること)を中心とする「Crossroads Care」と、情報提供・アドバイス・サポートグループの運営・研究・運動などをおこなう「The Princess Royal Trust for Carers」の2団体が統合されてできた団体です。

全国的な規模を誇る支援団体で、サービスは全国に広がる地域支部センターを中心におこなわれています。

Carers Trustがケアラーおよびヤングケアラーに行っている支援は、下記のとおりです。

・レスパイトサービスの提供
・介護を受けている家族に緊急対応が必要な場合(転倒、失踪など)の電話応対サービス
・支援を受けていないケアラーに対するアウトリーチ活動
・給付金・助成金に関する情報提供とアドバイス
・地域の意思決定などでケアラーが発言できる場の創出
・ケアラー同士のグループサポート活動や社会活動の提供
・教育、訓練、雇用機会に対する支援
・ヤングケアラーの支援

さまざまなサービスが提供されていますが、その中でもヤングケアラー支援に先進的・積極的に取り組まれてます。

Sutton Carers Centre

創立から30年を超える支援団体。多様な形で直接的なサービスを提供していることが特徴です。

Sutton Carers Centreの主な活動内容は、下記のとおりです。

・情報提供のサービス
・実際的な支援
・訓練・トレーニングとワークショップ
・経済的支援
・ケアラーの就労に関する支援

Sutton Cares Centreは、ヤングケアラーの支援活動に積極的なサポートをおこなう団体です。年間を通して支援活動がおこなわれ、3ヵ月に1回ヤングケアラー向けの印刷物も刊行されています。

Barnardo’s Sutton Short Breaks Service

性的虐待を受けている・親が服役しているなど、弱い立場の子どもと、その家族の支援活動をおこなっている「Barnardo’s」の支部組織です。

この団体が行っている主な支援は、下記のとおりです。

・障害児の家族に対するレスパイトケアとして自宅でのシッターサービスを提供
・5~18歳までの学習障害・知覚障害・身体障害を持つ子どものグループセッション開催

障害に関わらず、子どもたちの能力を最大限に引き出し、さまざまなサービスの提供にアクセスできるように、各グループのケアプランや学習目的の検討を目的に開かれています。

Centre 404

1951年に学習障害を持つ子どもの親たちによって設立された歴史のある団体です。現在も学習障害を持つ子ども・成人とその家族に対するサービスの提供を中心に活動。特に学習障害を持つ人の自立を目的に住宅に関する支援に力を入れています。

Centre404の主な支援内容は、以下のとおりです。

・経済的問題・教育・健康状態・社会的ケアに関する助言・情報提供・支援
・グループセッション・ワークショップの支援
・意思決定に家族ケアラーの声を反映させるための集会
・ケアラーと家族全体を対象とするイベントの開催

これらの活動以外にも、イギリスで改正されたSEND(特別支援教育に関する改革)について、改正点やどのような権利を有しているのか、また自治体の責任などを詳しく学ぶ教育ワークショップも実施しています。

これらの事例から、イギリスではヤングケアラーに対して多様なサービスがおこなわれていることがわかるでしょう。

続いては、イギリスのヤングケアラー支援から、日本はどのようなことを学ぶべきなのかについて考えていきましょう。

ヤングケアラー支援|イギリスから学ぶべきことは?

日本のヤングケアラー支援は進んでいるとは言い難い状況ですが、イギリスでも今のような支援体制がスピーディーに整ったわけではありません。

「イギリスのヤングケアラー支援の歴史」で紹介したように、1990年代に国の調査をきっかけに地域レベルで支援の動きが少しずつ広がっていき、やがて関係機関との連携へと徐々に進んでいきました。

日本もイギリスの例から積極的に学ぶことで、よりヤングケアラー支援へとつなげることができるはずです。

イギリスから学ぶべき点について、以下の3点が挙げられます。

1.ヤングケアラーが安心して話せる場をつくる
適切な支援をおこなうには、まずヤングケアラーが抱えている悩みや不安、さらに各家庭の実情を知ることが欠かせません。

そのためには、ヤングケアラーが安心して気持ちや悩みを打ち明けられる場をつくることが肝心です。ヤングケアラーが気軽に話せる場を大人が用意し、その声を指針にしながら、本当に必要な支援とは何かを考えていくことが求められています。

2.ヤングケアラーが担う負担を減らす
ヤングケアラーが家庭で担っている負担や責任を減らしていくことは、重要なポイントになります。

ヤングケアラーはケアラーである前に「子ども」です。本来は子どもが担わなくてよい負担を背負わされていないか、大人が適切に判断しなければいけません。家族に余裕がなく気づけない場合は、周囲にいる大人が手を差し伸べて適切な公的・民間サービスにつなげていくことが大切です。

3.ヤングケアラーに対する社会的な意識を高める
学齢期の児童や若者、家族をはじめ、彼らを取り巻く教育・福祉・医療関係者などが「ヤングケアラー」という言葉と存在を広く知らせることが必要です。

ヤングケアラーがどのようなサポートを必要としているか、それぞれの地域ではどのようなサポートが受けられるのかなどを理解して共有していくことで、支援体制はさらに整いやすくなるでしょう。

また、大人だけでなくヤングケアラー自身が「自分は支援を受けるべき存在なのだ」と認識できるよう伝えていくことも重要です。

まとめ

ヤングケアラーに対して、イギリスの支援概要や歴史、事例などを紹介しました。

日本がイギリスから学ぶべき点として、第一に当事者であるヤングケアラー自身の声を聞くこと・負担を減らしていくこと・関係機関が連携し柔軟に協力していくことなどが挙げられます。

何よりヤングケアラーの周囲にいる大人たちが、「もしかしたら…」という視点を持って彼らに接することが必要ではないでしょうか。

「ヤングケアラーを支援したい」と考える方に向けて、日本のヤングケアラー支援団体をいくつかご紹介します。

一般社団法人ヤングケアラー協会
認定NPO法人カタリバ
Learning for All
認定NP法人D×P(ディーピー)
日本ケアラー連盟

支援にはさまざまな方法がありますが、ご自身に合った支援からスタートしてみてはいかがでしょうか。

渡口将生

介護福祉士
介護支援専門員
認知症実践者研修終了
福祉住環境コーディネーター2級

介護福祉士として10年以上介護現場を経験。その後、介護資格取得のスクール講師・ケアマネジャー・管理者などを経験。現在は介護老人保健施設で支援相談員として勤務。介護の悩み相談ブログ運営中。NHKの介護番組に出演経験あり。現在は、介護相談を本業としながらライターとしても活動、記事の執筆や本の出版をしている。