ヤングケアラー・若者ケアラー
2024-03-20
元ヤングケアラーに聞く「ヤングケアラーと若者ケアラーの支援体制」~介護で孤立しないための相談窓口~
今回は、ご自身も幼い頃からケアが生活の中にあったという八木様にインタビューを行いました。
八木様はカウンセリングルーム「あしたの」を運営され、介護で悩む若者たちへの支援を行っていらっしゃいます。
ご自身の経験に基づき、介護のかたちは100家族に100通りあるということを優しい目線で語ってくださいました。
何歳の頃から介護などに携わっていましたか?
2歳下の弟が難病による身体障がい者で、物心ついた時からケアが生活の中にありました。
小さい時から病院の待合で過ごす時間は日常的なものでしたので、特別なことという意識はあまりありませんでした。
また、高校生の頃から22歳までは亡くなった母の介護に携わっていました。
当時、ヤングケアラーとしての不安や辛かったことは何ですか?
この先、どんな風にして過ごすのだろうという将来への不安はずっと持ち続けていました。母のケアが始まり、先の見えない不安がさらに増しました。
就職先なども家族優先で考えたりしていたので、選択肢は非常に少なかったです。
自分自身の体調不良も重なり、辛かったですね。休むほどではない微熱が続いたり、頭痛があったりしました。今から考えると自律神経の乱れだったのかなとも思いますが、周囲から取り残されたような気持ちでした。
辛かったのは衰えていく母の姿を受け止めなくてはいけなかったことです。周りから求められている姿と自分は違うとも感じていて、そのギャップにも悩んでいました。現実に起こっていることを受け入れることの難しさを感じていました。
辛くならないように、(自分1人で悩まないために)意識して行っていたことは何ですか?
気持ちがしんどくなった時は、現実から離れることができる本を読んでいました。当時はインターネットもそんなに普及していなかったのですが、私は図書館でアルバイトをしていたので、幸いさまざまな情報を得ることができました。
それが今考えるととても救いになりましたね。例えば、女性誌などには40代、50代の方が親世代の介護に悩んでいる特集が組まれていたり、疲れた時に簡単にできる料理のレシピが掲載されていたりしました。
大人でも悩んだり、困ったりしているということを、雑誌を通して知ることができ、自分1人が悩んでいるわけではないと前向きな気持ちになりました。
バイトで収入を得られるようになってからは、30分ほどカフェでゆっくりお茶を飲みながら本を読んだり、欲しいものを買ったりして自由な気持ちを味わいました。誰にも気兼ねなく使える自分で稼いだお金でリフレッシュすることで気持ちが落ち着きました。
どのような環境や支援があったら安心しますか?
サードプレイスになる居場所、子どもらしく家族から離れても安心して遊べる環境があればいいですね。教師やカウンセラーによって対応が違うこともあるので、当たりはずれがないように全国的な底上げが必要だと思います。
今、各地でヤングケアラー支援が行われていますが、連携までなかなか至っていないので、横断的な連携ができ、支援からこぼれ落ちない体制が必要です。都心部では比較的支援が手厚くなってきていると感じますが、地方ではまだヤングケアラーへの理解が足りない部分もあると思います。18歳まで継続的な支援体制があればいいですね。
ヤングケアラーの啓発により、存在や実態も知られるようになってきましたが、ケアの重さを伝えると、家族からはヤングケアラーにしてしまうのではという不安を感じてしまう場合もあります。急にケアが必要になったとしても、家族が不安にならずに支援を得られる環境になればいいと思います。しんどくなるのは介護する側も、される側も同じなのですから。
現在、国の支援策では下記4つを打ち出していますが、それぞれどのように感じましたか?
1)早期支援(ヤングケアラー問題の周知、実態調査の推進など)
本人が自覚していないヤングケアラーも存在しますので、早期発見が大切です。家族が病院に通院した際に説明や支援につながる体制が整っているのが理想で、病院の先生や看護師さんへのヤングケアラーの周知が必要です。
例えば、こんな支援を受けることができますよ、といったことをまとめたパンフレットなどを置いているだけでも変わってくるのではないでしょうか。
2)相談支援(スクールカウンセラーの配置、オンラインでの相談受付など)
家の様子を話さないでと親に言われている子どもたちも一定数います。小さい頃から耳にしているとその言葉に囚われて、なぜ一緒に遊べないのか、なぜ宿題ができなかったのかなどの理由を話すことができません。
大人同士なら察することもできますが、子どもには察することは難しいですよね。そういった子どもたちに家のことを話しても大丈夫、秘密は守るという安心安全の相談体制を整えることが重要だと思います。
最近ではチャットでの匿名相談なども普及してきているので、少しずつ話しやすい環境になってきているのではないかなと思いますが、ソーシャルワーカーや学校、行政といった地域における連携や他機関連携をレベルアップさせることができれば、よりよい環境ができるのではないでしょうか。
3)家事育児支援(福祉サービスの拡充)
子どもや若者が、自分たちが住んでいる自治体の福祉サービスに簡単にたどり着けるシステムを構築していくべきだと感じています。当事者の声を聴いた上での支援体制を整えていきたいですね。
4)介護サービスの提供
現在の日本の社会全体ではヘルパーさんの派遣数が少なく、サービスを受けたくても受けることができない人が数多く存在します。給与面での待遇をよりよい方向へ転換し、結果的に介護サービスを多くの人が受けられるようになればよいと思います。
今後ヤングケアラーの支援の中で何が一番大切だと考えますか?
まずは話を否定せずに聞くことです。
テレビやネットでは重度のケアをする人ばかりがクローズアップされていて、ヤングケアラーの中には自分はここまで大変ではないから違うのかな?我慢するべきなのかな?と感じていることもあります。
そういったヤングケアラーの一人一人の困りごとに寄り添ったコーディネートをしていく支援が理想的です。
また、コロナ禍以降はさまざまな働き方が生まれましたね。ケアが必要であっても 仕事ができる環境は作りやすくなっているはずです。在宅ワークやフレキシブルな勤務時間など、未来の働き手として企業と社会が連携して新しい形を生み出していってほしいです。
ケアする人の不安などを取り除くレスパイトケアも大切です。近年、介護に疲れて親を殺してしまったり、自殺してしまったりというニュースもあるので、そういったケースにならないように、ケアラーの人権を尊重した支援を行っていければいいと思います。
自分の時間、人格を犠牲にするのではなく、ほっと一息つける瞬間を持つようにしてほしいです。
支援が広がることで、どのような社会になっていってほしいですか?
自分がケアラーだと話しても、そういう家族もあるよねと特別視されない社会が理想的ですね。就職や進学の際に、家族を中心に考えるのではなく、一旦ケアを休んだり止めたりすることをその時々で選択できて、サポートするシステムがあればいいと思います。
たとえケアがあっても、自分の人生があるということが気持ちに余裕を生み、よりよいケアにつながると思います。
ご家族のケアで悩んでいる若者に伝えたいことは何ですか?
1人じゃないよということを伝えたいです。ケアしている間は、孤独になってしまうケースが多く見られますが、100の家族があれば100通りのケアがあります。
メディアに登場するようなケアではないからと比べたり我慢したりしないでください。私は我慢しすぎて体調不良になってしまいました。しんどい時は声をあげていいです。
自分らしい人生を生きるために、悩みを抱えすぎないでほしいです。自分を責める気持ちが生まれることもあると思いますが、気持ちが不安定になることは多くの方が経験することです。
ポジティブな気持ちでケアに向き合えるように、抱えすぎずにさまざまな支援を利用してほしいと思います。
まとめ
「ケア」はどのご家族にも予期せぬタイミングで訪れるもので、その形も千差万別であるということが分かりました。少しぐらいの苦労や犠牲は苦にならないと感じていても、やはり辛くなる瞬間は誰にとってもあることだと思います。
実際に経験したことのある人や、理解度の高いカウンセラーに相談できるということが、支援の第一歩となり、ケアラーの心を軽くします。
働き方にも多様性が生まれてきている昨今、職場や学校でもケアラーへの理解が深まり、学びやすい、働きやすい環境が増えることを願わずにはいられません。
さまざまな支援があるということを、まずはケアラーの方や病院の先生方が知っていけるように、ケアラーに優しい社会を創っていく必要があると感じました。
八木たかみ
心理カウンセラー
キャリアコンサルタント
ヤングケアラー、元ヤングケアラー、その家族の方へ支援の心理カウンセリングを行う、カウンセリングルーム「あしたの」を運営。