ヤングケアラー・若者ケアラー
2022-10-11
ヤングケアラーの現状と問題点は?今後の支援や取り組みを解説
ヤングケアラーと呼ばれる子どもたちをご存じでしょうか。子どもでありながら、本来は大人が担うべき家族の介護や世話、家事などを日常的に行うヤングケアラーは、勉強や人間関係、進学・就職などで大きな問題を抱えています。
今回は、社会的に大きな問題となりつつあるヤングケアラーの現状と問題点、今後の支援や取り組みなどについて解説します。また未来を担う子どもを今後ヤングケアラーにしないために、知っておきたい公的介護保険制度もご紹介します。
ヤングケアラーの実態
はじめにヤングケアラーとはどのような子どもたちなのか、どれくらいの数にのぼっているのかなど、ヤングケアラーの実態についてご紹介します。
そもそもヤングケアラーとは?
一般社団法人日本ケアラー連盟によると、ヤングケアラーとは「家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている18歳未満の子ども」と定義されています。
厚生労働省の特設サイト「子どもが子どもでいられる街に。」は、ヤングケアラーについて「障がいや病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている」「家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている」などの例が挙げられています。
ヤングケアラーの現状
令和2年度に厚生労働省が中学生・高校生を対象に行った「ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書」では、調査に参加した中学校の46.6%、全日制高校の49.8%にヤングケアラーがいるという結果が出ています。また同調査において、ヤングケアラーが家族のケアを始めた年齢は中学2年生が平均9.9歳、全日制高校2年生が12.2歳で、ヤングケアラーが平日1日あたりでケアに費やす時間については、中学2年生で平均4.0時間、全日制高校2年生で平均3.8時間という結果も出ています。
ヤングケアラーの問題点とは?
ヤングケアラーが抱える具体的な問題点についてみていきましょう。
家族の介護や世話がヤングケアラーに与える影響
はじめに、ヤングケアラーは日常生活やさまざまな選択に対して、どのような影響があるのかご紹介します。
1.学業への影響
ヤングケアラーは、家族のケアに時間を取られ、自宅での勉強時間を削りがちです。またトイレ介助など、夜も対応が必要な家族の介護をしていると、十分な睡眠時間を取ることが難しいケースも。睡眠不足のため遅刻をしたり、体調不良になって欠席・早退が増えたりすると、成績不振や出席日数の不足につながり、志望校への受験を断念するケースや、進学自体を諦めるなどの影響も考えられます。
2.就職への影響
ヤングケアラーは家族のケアを最優先する(させられる)ため、自分の希望に合わない就職先を選ぶことがあります。例えば、家族をケアするために自宅からなるべく近い職場を選んだり、さらには就職そのものを諦めたりすることも珍しくありません。その他にも、学生時代に勉強や部活動などに打ち込めなかったため、就職活動 において自分を存分にアピールできず、採用に至らないというデメリットもあります。
3.友人関係への影響
学生時代は同級生や先輩・後輩などさまざまな人たちと触れ合い、自分を成長させる時期でもあります。しかし、自分で使える時間が極端に少ないヤングケアラーは、友人とのコミュニケーションが十分に取れない傾向があり、孤独を感じがちです。
ヤングケアラーが抱える悩み(具体例)
ヤングケアラーは、どのような悩みを抱えているのでしょうか。ここでは、具体例から考えてみます。
【例1】父が不在の家庭で母・祖父のケアをしているケース
中3(女子)の場合:家族構成は本人、70代の祖父、母親(1年前に他界)。脳梗塞により車いすが必要になった母のケアおよび家事全般を担い、母親が他界してからも健康に不安のある祖父に代わって家事を続けています。当人は周囲に自分がヤングケアラーであることは打ち明けていましたが、だんだん自宅に帰りたがらなくなるという問題が起きていました。
【例2】精神疾患を抱えた母のケアをしているが、本人が自覚できていないケース
高2(男子)の場合:父・母・長男(成人)・次男(本人)・長女の5人家族。食事や洗濯などは家族それぞれが各自で対応していますが、母が精神疾患のため通院・投薬治療中で、本人はそのケアを行っていました。しかし、本人は自分がヤングケアラーであると自覚していませんでした。
ヤングケアラーへの支援
ヤングケアラーが抱える問題の解消・解決に向けて、国や自治体などのさまざまな支援を確認していきましょう。
国が行っているヤングケアラーへの支援
ヤングケアラーの支援体制構築を進めるため、国が行っている支援「ヤングケアラー支援体制構築モデル事業 」についてご紹介します。
1.ヤングケアラー・コーディネーターの配置
ヤングケアラーを適切なサービスにつなぐパイプ役として、ヤングケアラー・コーディネーターを自治体に配置する取り組みです。コーディネーターは介護支援専門員(ケアマネージャー)、介護福祉士、社会福祉士など、介護・社会福祉の専門家が担当しています。
2.ピアサポート等相談支援体制の推進
ピアサポートとは「仲間同士の助け合い」を指し、各自治体においてヤングケアラー・元ヤングケアラーが、同じ悩みを抱える仲間たちの相談先として窓口になる取り組みです。比較的近い世代なので相談するまでの心理的なハードルが低く、気軽に悩みを打ち明けられる点が大きな特徴です。
3.オンラインサロンの設置・運営を支援
自治体に対し、ヤングケアラーが気軽に悩みや経験を共有し合える場所を提供するために、オンラインサロンの設置・運営などの支援を行っています。
ヤングケアラー支援のために公的介護保険を活用
祖父母・父母の介護を担っているヤングケアラーは決して少なくありません。しかし介護に関する公的なサービスをうまく用いれば、ヤングケアラーはもちろん、介護を受ける要介護者自身の負担も軽くなる可能性があります。
要介護状態と認定された場合、以下の介護サービスを受けることができます。
・在宅サービス
訪問介護・訪問入浴や、自宅から通所するデイサービス・デイケアなど。その他、車いすや特殊寝台など介護用品のレンタル、手すりの増設や段差の解消などの際には住宅改修費用も支援されます。
・地域密着型サービス
2005年に新設された制度で、事業所のある市区町村の要介護者・要支援者に提供されるサービス。
・施設型サービス
介護老人保健施設や特別養護老人ホームに入所して日常生活の支援を受けるサービス。
介護休業や介護休暇の利用も検討
仕事が忙しい、休みが取れないなどの理由で、親が子どもに介護を任せてしまうことがあります。そんな事態を防ぐために、「介護休業」や「介護休暇」などの制度を活用しましょう。
介護休業
介護休業とは、2週間以上にわたり常に介護を必要とする家族がいる場合に休みを取得できる制度です。介護が必要な家族1人につき通算93日までの休みを取得できます。また3回までなら分割して休みを取得することも可能です。
介護休暇
介護休暇とは、会社員が働きながら介護をするために、短期間の休暇を取得できる制度です。介護が必要な家族1人につき年に5日まで、対象家族が2人の場合は10日まで休暇の取得が可能です。
これらの制度を取得中に給与が支払われるかどうかは、企業によって異なり、もし給与が支払われない場合でも、雇用保険から「介護休業給付金」が受け取れます。金額は休業を開始する前の日給の67%とされています。
ヤングケアラー支援の事例
最後に、ヤングケアラーに対し、どのような支援が行われているのか、事例をご紹介します。
【事例1】群馬県高崎市「ヘルパー無料派遣」
令和4年9月から「ヤングケアラーSOS」というサービスを提供。家事やきょうだいの世話、家族の介護などを行っている市内在住の中学生・高校生(ヤングケアラー)に代わって、家事や介護などを行うヘルパーを無料で派遣しています。
【事例2】兵庫県明石市「包括的支援へのチャレンジ」
スクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラーによる支援の充実
ヤングケアラーを早期に発見・把握し、生活支援や福祉制度につなげていくために、スクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラーによる支援に力を入れています。国や県、市町村の支援制度に関する情報も提供しています。
教職員へ研修の実施
ヤングケアラーに対する意識の向上や、教育現場での課題を把握してもらうために県立高校の教職員を対象に研修を実施。さらにスクールソーシャルワーカーなどを対象に、ヤングケアラーへの対応について周知を図っています。
【事例3】ヤングケアラー先進国と呼ばれるイギリスの事例
ヤングケアラー支援の先進国であり、1990年代の初めからこの言葉が使われ始めたイギリスでは、次のような支援を行っています。
「子どもと家族に関する法律」制定
2014年に成立した法律で、ヤングケアラーを「他の人のためにケアを提供している、または提供しようとしている18歳未満の者」と定義し、地方自治体に対してヤングケアラーを特定し、適切な支援につなげることを義務づけました。
学校での取り組み
見過ごされるヤングケアラーを減らすため、最も見つけやすい場所である「学校」において進められている取り組みです。例えば教職員やソーシャルワーカーなどが、休みがちだったり、宿題の提出が遅れていたりしている生徒や児童に対して聞き取りを行います。相談に乗る専門の職員を配置し、ヤングケアラー自らが言い出しやすい体制を整えている学校もあります。
ヤングケアラーズ・プロジェクト
イギリスでは、「ヤングケアラーズ・プロジェクト」と呼ばれる慈善団体が全国でおよそ300以上あるといわれています。ほとんどが政府から資金提供を受けており、支援メニューは団体によって多少異なるものの、ヤングケアラーが学校や地域の施設に集まり、悩みや不安を共有できる交流の場を設ける、あるいは遠足やゲームなどのイベントを企画し、介護から離れる時間をつくるなどの試みを行っています。また介護の負担が重い家庭には家庭訪問を行い、そこから公的サービスにつないでいる団体もあります。
まとめ
ヤングケアラーの存在は徐々に認知されつつありますが、その実情を初めて知ったという方も多いのではないでしょうか。
国や自治体はそれぞれに支援を行っていますが、残念ながら国内のヤングケアラーに対し、十分に行き届いているとはいえません。未来ある子どもがその可能性を狭めてしまうようなヤングケアラーにしないためにも、今後のさらなる支援の拡大が望まれます。そして大人は親や自らが要介護状態になる前にどのような対策を行うべきか、また介護が必要になったらどのような介護サービスがあるのかを知ることが、ヤングケアラーを減らすことにもつながるのです。
渡口 将生
介護福祉士
介護支援専門員
認知症実践者研修終了
福祉住環境コーディネーター2級
介護福祉士として10年以上介護現場を経験。その後、介護資格取得のスクール講師・ケアマネジャー・管理者などを経験。現在は介護老人保健施設で支援相談員として勤務。介護の悩み相談ブログ運営中。NHKの介護番組に出演経験あり。現在は、介護相談を本業としながらライターとしても活動、記事の執筆や本の出版をしている。