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ビジネスケアラー

2024-06-21

ビジネスケアラーの両立モデル|介護への意識変化|介護のミライ会議Vol.2

近年、仕事と両立しながら介護をするというビジネスケアラーの数が増えています。
離職せず仕事を継続できるよう、行政や企業でさまざまな対策が練られるようになっていますが、キャリア半ばにして介護離職を選択する人も一定数いるのが現状です。

 

今回の記事では、ビジネスケアラー支援を精力的に行っている、一般社団法人りぷらすの代表理事・橋本大吾様に、今起きているビジネスケアラーの問題点と将来の展望などについてお話を伺いました。

りぷらす様について教えてください。

りぷらすは、ビジネスパーソンの介護離職を防ぐことを目指し、仕事と介護の両立を支援する団体です。いわゆるビジネスケアラーの方たちが働きながら家族の介護をすることでうつ状態になったり、離職してまうことがあり、問題の重要性は高まっています。

私はりぷらすの代表であり理学療法士ですが、「両立支援コーディネーター基礎研修」も終了しました」。

こちらの資格は厚生労働省所管の労働者健康安全機構が研修を設計し、患者・家族と医師・MSWなどの医療側と産業医・衛生管理者・人事労務担当者などの企業側の3者間の情報共有のためのコーディネーターの配置・養成をすることで、治療と仕事の両立を図ることとしています。

ビジネスケアラー支援を始めたきっかけについて教えてください。

ビジネスケアラー支援を始めたのは、私が宮城県石巻市でデイサービスを始めた2013年のことです。当時は東日本大震災から2年が経過し、避難所生活を強いられている被災者の健康問題が心配されていた時期でした。

りぷらすが設立したデイサービスで、40代のご夫婦と出会いました。奥様が脳卒中で倒れ、病院に入院し、退院するタイミングで初めて会いました。ご主人は奥様の件がきっかけで仕事を辞められ、介護に専念し、介護うつになってしまいました。

「介護」と聞くと、高齢の親の介護が思い浮かぶかもしれませんが、高齢でなくても病気や障がいを持つ妻や夫、子どもや兄弟姉妹の場合もあります。私はそのご夫婦の一件で、仕事をやめなくても介護と両立できるようにしたいと考えるようになり、ビジネスケアラーの支援を始めました。

具体的な支援策について教えてください。

デイサービスなどの事業も行っていますが、ビジネスケアラーに対する支援策のメインは「企業研修」の実施です。まず働いている職場、つまり企業の理解がなければ進めることができないので、「介護離職の予防」をテーマに年に4回、講師を務めさせていただいています。

研修の主な内容は「介護離職の社会背景」「介護のポイント」「実際の事例を用いたシミュレーション」「介護保険サービスの使い方」「企業における介護を抱える社員とのコミュニケーション」などです。研修はオンラインで行うので、全国の企業の責任者の方、ケアラー当事者の方や将来的にケアラーになるかもしれないという、いわゆる予備軍の方など、多くの方が参加されています。

貴法人が感じられるビジネスケアラーの就労・介護離職などの現状の課題はどのような点だと考えられますか。

これまで現役社員の離職というと、出産や育児によるものが多かったのですが、最近では企業側の理解も高まり、子育てにまつわる離職は減っています。一方で、離職理由として介護については横ばいです。ビジネスケアラーの介護離職の問題は、当事者や管理職が情報を知らないということです。

さらに、子育てと違って介護は誰がしているのか分かりませんし、職場や地域住民とのコミュニケーションがないと孤立していくリスクが高まります。そして、言葉を知らなければ検索して適切な情報を得ることもできません。介護保険や介護休業を知らないというビジネスパーソンは一般的です。

加えて、兼ねてより問題である介護人材が、昨今の人材不足と重なり、より深刻化していきます。     

     

恒常的な働き手不足が社会背景にあるので、組織的にコミットメントを取るなどの対策を講じなければなりません。2025年には団塊の世代が完全に75歳以上となるので、今後、5年、10年と介護離職者が増え続ければ、大変なことになります。また、経済産業省は、2030年時点のビジネスケアラーの経済損失額は9兆円を超えると掲載されています。

ビジネスケアラーの両立モデルの構造に変化が起きつつあると感じますか?

最近では障がいを持ちながら仕事をしている人、また治療しながら仕事をする人が増えています。それと同時に、ビジネスケアラー及び予備軍は確実に増えていることを実感しています。ケアをしながら働く人は、もうマイノリティだとは言えなくなっていると思います。

障がいを持っている人は全国に約1千万人いると言われています。そして、要介護者は約700万人以上に登ります。仕事と治療の両立をしている人は全労働者の約3分の1。一方で、全世帯の約38%は単身世帯というデータもありますから、高齢者や若い方に関係なく、社会全体で単身世帯が多いことがわかります。

結婚しない選択や自ら望んで単身暮らしをしている方もいますが、問題は「望まない孤独」です。この場合、うつ病や認知症になりやすく、特に高齢者の単身世帯に介護は不可欠です。

現在、約3人に1人が「複数人介護」、30〜40代の「育児&介護」ダブルケアも加速している状況にありますが、そのような社会に対してどのように考えられますか?

私たちは何のために仕事をするのか、改めて考えるときが来ているように思います。労働時間が長くなることで生産性が上がるわけではありません。また、生産性を追求するということは、AIやテクノロジーを活用することにつながり、人が仕事をする機会が減少します。これは、社会から孤立する人を生み続けるでしょう。

他者とのつながりこそが「望まない孤独」を防ぐのだということを誰もが認識し、必要なコミュニティや居場所をを作り出していくことが大切です。国の施策にも期待する一方で、 省庁だけでビジネスケアラー対策として動くには限界があるように思います。何より大切なのは、国や企業に任せっぱなしにせず、私たち一人一人が望む暮らしや働き方を考え、その実現のために小さなところから始めていくことだと思います。

企業研修はどのような層の参加者が多いですか?

企業研修の参加者で言うなら、約半数はビジネスケアラー予備軍ですね。親に介護が必要になりそうな兆候が見られたり、周囲にビジネスケアラーがいると、やはり他人事ではなくなるのだと思います。ほかには、ビジネスケアラー当事者が25%、企業の人事担当者が25%といったところでしょうか。

どのような悩みをご相談いただくことがありますか?

介護休業制度はいつ使えるのか、会社にどう伝えればいいのかなどといった、ご相談が多いですね。ほかには介護サービスの使い方、ケアマネの選び方、呼び寄せ介護(=離れて暮らす親を呼び寄せる)について、親が介護サービスを受けたがらなくて困っているなどのご相談を受けています。仕事と介護の両立の事例をお話しすることもあります。

在宅介護をしていたお母さまが病気で手術をし、施設に入所することになった方がいまして、介護休業を利用して手続きをし、うまくいったという事例はとても参考になったと思います。

今後の未来がどのようになってほしいですか?

一人ひとりが「こうありたい」と願う暮らしが選択できる社会になってほしいと思っています。皆が経済的に豊かになるために、介護される人や周囲の人が犠牲になってはいけません。それは社会としての豊かさではありませんよね。

助け合いながら生きていく「相互扶助」が当たり前の社会になれば、「望まない孤独」は減っていきます。効率や生産性を求めるのはAIに任せて、小さくてもいいからコミュニティに参加できる社会になればいいですね。

最後にメッセージをお願いいたします。

ビジネスケアラーの皆さんには介護の知識を持つだけでなく、専門家とのつながりを持っていただきたいと思っています。例えば、認知症カフェや地域にあるサービス、町内活動のコミュニティなどをもっと活用できれば、ネットや本の情報だけでは知り得ないことが学べ、問題解決につながることがあります。そのためにはビジネスケアラーだけでなく、そのご家族や周囲の協力も必要です。悩みがない人はきっといないと思います、誰もが助け助けられるお互い様の社会になってほしいですね。

【プレスリリース】について

ビジネスパーソンの働き方の選択肢を増やす取り組みとして、新しいコミュニティを立ち上げました。特定非営利活動法人ArrowArrowとの協働で、毎月オンラインで定例会を行っています。仕事を取り巻く環境は多様になり、育児、介護など課題も複合的になっています。そういった方々が働き方を選ぶ際の選択肢の多様化につながればと考えています。

コミュニティにはビジネスケアラーや予備軍の方、企業の担当者の方も参加されています。講師をお招きし、感想や自分の経験を語り合ったり、情報を共有したりしながら、参加者の方たちが大変有意義であると感じてくださっているようです。

橋本 大吾

「一般社団法人りぷらす」 
代表理事

理学療法士
両立支援コーディネーター
健康経営アドバイザー

2011年東日本大震災後、災害支援団体を設立し、延200名以上のボランティアのマネジメントを行う。
2011年12月に石巻市に移住し、2013年に一般社団法人りぷらすを起業。
仕事と介護の両立支援事業では、2017年より研修講師として、介護離職予防の取り組みを実践。
その他含め、述べ500名以上の方に研修を実施。
現在は、長野県に移住し事業の現場からは離れ、遠隔にて経営を行い人材育成と組織づくりに注力。