介護情報メディア ケアケア ケアラー向けコラム ビジネスケアラー 介護と仕事の両立に悩むビジネスケアラーの実態や対策は?

ビジネスケアラー

2023-11-28

介護と仕事の両立に悩むビジネスケアラーの実態や対策は?

親やご家族の介護と仕事を両立させているビジネスケアラー。その数は年々増え続けています。

 

団塊の世代が後期高齢者となる2025年には、要介護者が爆発的に増え、ビジネスケアラーもいっそう増加すると考えられています。誰もがビジネスケアラーになる可能性がある現在、介護と仕事を両立するにはどうすればよいのでしょうか。

 

本記事では、ビジネスケアラーが介護と仕事でどんなことに悩んでいるのか、より少ない負担で両立するために、どのような施策が必要なのかについて紹介します。両立に悩んでいるビジネスケアラーや介護しながら働く社員を雇用しているが支援方法がわからず困っている企業の方は、ぜひご覧ください。

介護と仕事、両立に悩むビジネスケアラー

まずビジネスケアラーの現状、そして介護と仕事の両立に悩むビジネスケアラーの実情について紹介します。

ビジネスケアラーの現状

総務省統計局が2022年に行った調査によると、ビジネスケアラーは約274万人存在しています。さらに2021年10月~2022年9月の間に、介護・看護を理由に離職したビジネスケアラーは約10万6,000人に上るという結果でした。

また経済産業省が公表した将来推計では、2030年には介護者833万人に対し、その4割である約318万人がビジネスケアラーとなり、経済損失額は約9兆円に上るとされています。

ビジネスケアラーの中心になっているのは40~50代と、企業では管理職など責任あるポジションで働いていることが多い世代です。

現在の40代、50代は未婚率や1人っ子率が高く、親の介護を行う際に協力できるご家族が少ないという特徴があります。そのため、介護の負担が分散しにくいという点に注意が必要です。

また晩婚化も進んでいることから親子の年齢が離れており、20~30代という若い時期からビジネスケアラーとなる人も少なくありません。

(参考:総務省統計局 「令和4年就業構造基本調査 地域結果 第128-1表」(2022年)

(参考:ワーク&ケアバランス研究所 『「どうする?どうなる?介護離職者10万6000人~2025年に向けて企業ができること」』)

両立に悩むビジネスケアラーたち

オーダーメイド介護サービスを運営するイチロウ株式会社が、ビジネスケアラーの男女400名を対象に行った調査では、介護と仕事の両立について約45%が「とても難しいと感じる」と回答しています。「やや難しいと感じる」(41.3%)と合わせると、約86%が両立に悩んでいることがわかります。

実際に、ビジネスケアラーたちは介護と仕事の両立において、どんなことに悩んでいるのでしょうか。同調査によると、両立を難しいと感じる理由は「身体的な負担」や「勤務時間の調整」、「介護によるストレス」、「介護と仕事によりプライベートな時間が取れない」などが挙げられました。

「介護が理由で仕事上の制約を設けたことがあるか」という設問に対して、全体の約52%が「はい」と答えています。制約の例として最も多いのが時短勤務、続いて異動不可による昇進の断念、雇用形態の変更(正規→非正規)という順になっています。

これらの結果から、多くのビジネスケアラーが介護と仕事を両立させるために、キャリアの変更や中断、見直しなどを余儀なくされているのです。

(参考:イチロウ株式会社 「介護と仕事の両立に関する意識調査」)

ビジネスケアラーが両立で悩む4つの課題

ビジネスケアラーが介護と仕事を両立する上で抱える悩みについて、より詳しく解説します。

仕事量をセーブしなければならない

多くのビジネスケアラーが、介護のために時短勤務を選択したり、会社を欠勤したりしています。

また、要介護者の急な体調不良や自宅での事故などのアクシデントで、予定外の早退もあるかもしれません。物理的に働く時間が短縮されるため、仕事量をセーブしなければならず負担となるケースがあります。

仕事に集中できない

例えば在宅介護なら転倒していないか、きちんと食事は摂れているかなど、会社で仕事をしている間も親がどうしているかが気になり、集中できないという悩みを訴えるビジネスケアラーもいます。

また夜間のトイレ介助やおむつの交換などによる睡眠不足で、仕事に集中できない場合もあるでしょう。

昇進が遅れる

介護による心理的・身体的負担によって仕事に打ち込めない、物理的に仕事をする時間が減り従来のポストから降格した、異動ができないなどの理由で、昇進を諦めざるを得ないビジネスケアラーもいます。

身体的な負担がつらい

要介護者の移動を手伝う、倒れないように支えるなど、介護では身体を使う場面が多々あります。そのためビジネスケアラーの多くが腰痛や肩こり、関節の痛みなどに悩まされています。

しっかり身体を休めれば改善を期待できますが、介護は毎日繰り返し行うため、治癒しないまま介護を続けているビジネスケアラーも少なくありません。また、夜間のトイレ介助などによって十分な睡眠時間が取れず、身体的な疲労がたまってしまうケースもあります。

最悪は離職の検討をするケースも

仕事量の減少、集中できないことによるパフォーマンスの低下、昇進の見送りによるモチベーションの低下、身体的な負担など、心身ともに疲れてしまい、介護離職を選択するビジネスケアラーもいます。

管理職など責任ある立場で活躍するビジネスケアラーが退職すると、本人はもちろん、企業や社会にも深刻な損害をもたらします。介護離職を防ぐためには、ビジネスケアラー自身が両立しやすい働き方を模索し、企業も介護と仕事を両立しやすい環境を整えるなどの取り組みが欠かせません。

ビジネスケアラーが仕事を辞めない方がいい理由

介護と仕事の両立が難しくなると、介護離職を選択するビジネスケアラーも多い傾向です。しかし、介護離職にはさまざまなデメリットがあります。

ここではビジネスケアラーの介護離職によるデメリットについて、詳しく解説します。

収入がなくなる

介護離職における最大のデメリットは収入がなくなることです。ビジネスケアラーとそのご家族の生活が成り立たなくなることに加え、親の介護にかかる費用が不足する恐れもあります。

もちろん、親の介護は本人の年金や預貯金で賄うことが基本です。しかし、家計経済研究所の調査では、介護期間の平均は約10年、必要な費用は約7万円/月かかるため、合計約840万円になると試算しています。

親側に十分な費用がなく、子どもであるビジネスケアラーが工面している家庭もあるでしょう。介護離職により収入がなくなると、月々の生活費に加え介護費用も掛かることを考えておかなくてはなりません。

(参考:株式会社リクシス 【第1部】『介護って結局いくらかかるんですか?』来る大介護時代までに知っておくべきお金の問題

再就職が難しい

介護離職をして介護に専念した後、再就職を考えるビジネスケアラーもいます。しかし再就職までには男性の38.5%、女性の52.2%が1年以上かかる上、収入は男性で4割、女性は1/2になるというデータがあります。

つまり介護離職をする場合は、最低でも1年間分の収入、または5、6割になっても生活していけるだけのお金が必要ということです。それだけの預貯金があるかどうかを検討してから、介護離職の最終決断をしましょう。

(参考:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 『仕事と介護の両立に関する実態把握のための調査研究(労働者調査)』)

(参考:産経新聞『衝撃…介護転職した人の年収は男性4割減、女性半減! 「介護離職ゼロ」掲げる政府や企業は有効な手立てを打てるのか?』)

周囲との関係が絶たれる

介護離職をすると会社で培ってきた人間関係がいったん絶たれるというデメリットもあります。また在宅介護をする場合は家庭中心の生活になりがちで、周囲とのコミュニケーションが大幅に減少する恐れもあるでしょう。

慣れない介護によってストレスを感じても、愚痴をこぼしたり一緒に気晴らしをしたりする友人・知人がいなければ、介護をする人のメンタルに悪影響を及ぼしかねません。

介護以外のつながりを持つことは、介護者のメンタルを安定させるためにも重要です。

介護給付金を取得できない

介護給付金とは、介護休業の取得によって支給されるお金です。原則として月給の67%が支給されますが、介護離職してしまうと介護休業と見なされず、給付金は支払われないため注意が必要です。

ビジネスケアラーが介護と仕事を両立させるには?

ビジネスケアラーが介護と仕事を両立させるには、負担を抱え込まずにうまく分散させつつ、勤務する会社に支援を求めるなどの対策が必要です。ここでは介護と仕事を上手に両立するための方法について解説します。

介護のプロとの接点を作る

介護の負担を減らすには、活用できる介護サービスや制度などについて教えてもらうため、介護のプロと接する機会を持つことが重要です。

日本の介護保険制度は非常に充実していますが、介護サービスを利用するには自治体に申請しなければなりません。それを知らなければ、いかに優れたサービスであっても活用できないのです。

また近年は、介護保険でのカバーが難しい外出時の身体介護や、認知症の方の見守りなどを提供する民間の介護サービスも、次々と登場しています。そういった知識を教えてくれる介護のプロとの接点を、意識して作るとよいでしょう。

自助グループに参加する

介護と仕事の両立によって心理的なストレスを抱えるビジネスケアラーも少なくありません。そんな心の負担を軽減するには、ビジネスケアラー同士が交流する家族会など、自助グループに参加してみるとよいでしょう。

不安や不満を打ち明けたり、情報を交換したりすることでストレスが発散され、メンタルが安定する効果が期待できます。家族会に参加したい場合は、介護や福祉などの生活に関する相談窓口の地域包括支援センターや、ケアマネージャーに相談してみてください。

会社に支援を打診する

介護と仕事の両立に限界を感じた時は、1人で考えて介護離職を決めてしまう前に、勤務している会社に相談してみてください。多くの企業が深刻な人手不足に悩む現在、貴重な人材を失うことは会社にとっても大きなダメージです。

時短勤務や介護休業・介護休暇の利用、より両立しやすい業務やポジションに配置転換するなどの方法も考えられます。まず上司や社内の相談窓口などに話してみるとよいでしょう。

両立したいビジネスケアラーは、働き方を見直してみる

現在の職場では、介護と仕事の両立がどうしても難しいという場合は、転職を検討するという方法もあります。令和4年から、介護休業の取得要件だった「入社1年以上であること」が撤廃され、原則として転職後1年以内でも介護休業を取得できるようになりました。

ただし、会社によっては条件が異なるケースもあるため、あらかじめ就業規則を確認する必要はありますが、打診してみることは可能です。

また、派遣社員や契約社員など、働き方をいったん変えてみることも選択肢の1つです。再度、正規雇用を目指したいという方は、これまでのキャリアを生かせる職種を選び、空白の期間をできる限り防ぐことを意識しましょう。

(参考:厚生労働省 育児・介護休業法 改正ポイントのご案内

まとめ

ビジネスケアラーが、より快適に介護と仕事を両立するための方法についてみてきました。さまざまなデータから、両立に関する悩みやストレスを感じながらも、1人でそれらを抱え込み、苦労しているビジネスケアラーの姿が理解できます。

悩みやストレスが限界に達し、介護離職を選ぶビジネスケアラーもいますが、収入が途絶え生活できなくなること、さらに親の介護費用という負担がかかってくるため、できる限り介護離職は避けたいものです。

最も大切なのは、1人でがんばり過ぎず、周囲の力を借りながら、少しでも負担を軽くすることです。介護のプロへの相談や自助グループへの参加、働き方の見直しなど、ビジネスケアラー自身が対策すると同時に、会社にも積極的に相談してみてください。

また、企業も相談窓口を設ける、ビジネスケアラーと定期的な面談を行うなど、ビジネスケアラーの支援をいっそう手厚くする取り組みが求められています。

渡口将生

介護福祉士
介護支援専門員
認知症実践者研修終了
福祉住環境コーディネーター2級

介護福祉士として10年以上介護現場を経験。その後、介護資格取得のスクール講師・ケアマネジャー・管理者などを経験。現在は介護老人保健施設で支援相談員として勤務。介護の悩み相談ブログ運営中。NHKの介護番組に出演経験あり。現在は、介護相談を本業としながらライターとしても活動、記事の執筆や本の出版をしている。