ビジネスケアラー
2023-11-23
増加するビジネスケアラーの現状と問題点をわかりやすく解説
近年、増加の一途をたどるビジネスケアラー。今後も増え続けるビジネスケアラーの問題と向き合うためには、ビジネスケアラーの現状を把握しておく必要があります。
高齢の家族がいるビジネスパーソンにとっては、他人事ではない問題です。その理由は、1947年~1949年生まれの団塊世代の方が、一気に75歳以上に突入するためです。高齢者が増加する中で、ビジネスケアラーの存在はますます重要になるでしょう。
この記事では、ビジネスケアラーの現状と問題点を解説します。ぜひ、参考にしてみてください。
ビジネスケアラーの現状
ビジネスケアラーが抱える問題を考えるためには、現状を把握しておく必要があります。どの程度の方がビジネスケアラーの役割を担っているのか、確認してみましょう。
ビジネスケアラーの特徴
ビジネスケアラーとは、仕事をしながら家族介護をおこなう人を表す言葉です。経済産業省では、仕事と介護を両立する人のうち「仕事を主としている人」をビジネスケアラーと定義しています。
女性の社会進出にともない、管理職を務める女性ビジネスケアラーの数も増加傾向です。ビジネスケアラーの数は、2025年以降も増え続けると予想されています。
家族介護の約40%がビジネスケアラー
2020年には、家族介護をおこなう方の人口が678万人に上りました。このうち262万人がビジネスケアラーとなっており、約40%の方が仕事と介護を両立している計算です。
(参考:経済産業省「介護政策 」)
また、年齢別のデータを見ると、親が高齢で介護が必要な状況にある50代以上の方が、多くの割合を占めているのがわかります。
(参考:日本総研「令和4年度ヘルスケアサービス社会実装事業 」)
労働人口に置き換えた場合、全労働者の約4%がビジネスケアラーになる計算です。働く人の25人に1人がビジネスケアラーになると考えれば、遠い存在ではないことがわかります。
他人事ではないビジネスケアラー
現在、家族介護をおこなう方の半数近くが、仕事と介護を両立するビジネスケアラーです。
現時点でご家族全員が元気な場合でも、突然介護が必要になる可能性は十分にあります。働き盛りの方で親が高齢の場合は、特にビジネスケアラーになる可能性は高くなるでしょう。
日本総研によると、2030年には50代後半のおよそ5人に1人が、何かしらの介護をしているとの推計が出ています。
そのため、現在40代以降の方や親が高齢の場合は、今のうちから介護について意識しておくことが重要です。
今後も増加し続けるビジネスケアラー
2012年の時点で211万人だったビジネスケアラーの人口は、2020年には262万人にまで増加しています。
毎年4万人以上の方がビジネスケアラーになっている計算です。そして、2025年には307万人、2030年には318万人に到達すると予想されています。
また、家族介護者すべてを含めると、2012年に557万人だったその数は、2030年には800万人にもおよぶ推計です。
今後も増加する家族介護者やビジネスケアラーに対して、支援や施策の検討が急務とされています。
ビジネスケアラーが抱える問題点
近年、ビジネスケアラーが与える経済への影響が、大きな問題となっています。ビジネスケアラーが抱える悩みは、社会全体で考えていかなければならない課題です。
まずは、ビジネスケアラーの問題点を確認してみましょう。
ビジネスケアラーが抱える悩み
多くのビジネスケアラーが、日々の役割に負担を感じています。家庭や介護の悩みを職場に相談できずに抱え込んでしまう人や、いつ終わるかわからない状況に、疲弊してしまう人も多いです。
また、介護と育児のタイミングが重なる場合は、より負担が大きくなります。日々の役割に疲労を感じていても、自身をケアするための時間確保が難しいのが実情です。このように、ビジネスケアラーはさまざまな場面で、肉体的・精神的な負荷を受けています。
ビジネスケアラーによる経済損失
ビジネスケアラーが与える経済損失は年々増加しており、その額は2030年までに9兆円を超える見込みです。特に、仕事の中核を担う40代・50代の年齢層におけるビジネスケアラーの割合が高く、企業にとっても重大な課題となっています。
日本総研の調査によると、ビジネスケアラーとそうでない人とでは、1人当たりの生産性に約28%の差があることがわかりました。
(参考:日本総研「ビジネスケアラーの実態と企業に求められる取り組み」)
ビジネスケアラーの増加は、社会全体にとって無視できない問題となっています。
低迷する介護休暇の利用率
現在、家族介護をする方のために、さまざまな制度が設けられています。令和4年には、育児・介護休業法において「介護休業取得要件の緩和」が施行されました。
一方で、育児に関連する制度の利用率が30%ほどなのに対して、介護を理由とした制度の利用率は、11%ほどにとどまっています。
(参考:日本総研「企業における介護の実態把握」)
育児の場合、法によって産後8週間の休業期間が定められてる一方で、介護の場合はこのような法的措置はありません。
また、育児休業と比較して、介護休業では制度の存在を知らなかったり、利用しづらさを感じたりする人が多いのも実情です。
ビジネスケアラーの問題点を解決するには?
ビジネスケアラーが抱える問題を解決するためには、社会全体で連携していかなければいけません。これから、ビジネスケアラーの問題を解決するために必要なことを解説します。
それぞれ確認してみましょう。
イメージと現実のギャップを理解する
ビジネスケアラーで起こりやすい問題の1つが、イメージと現実の間に生じるギャップです。ビジネスケアラーになった際、時間の確保の難しさや負担の大きさに初めて気づく場合があります。
もしかしたら、ビジネスケアラー本人とそれをサポートする側では、悩みやニーズにギャップがあるかもしれません。この問題を解消するためには、聞き取り調査などによって家族介護の実態を把握し、お互いの相違を埋めることが重要です。
家庭や介護の困りごとを開示する
ビジネスケアラーとしての役割に悩みを抱えている場合は、自分から状況を開示することが重要です。家庭の事情は周囲に伝わりにくく、普段からコミュニケーションを取っていてもわからない場合があります。育児についての悩みと比較して、相談しにくいと考える人も多い傾向です。
そのほか、周囲の考えと本人の悩みが必ずしも一致するとは限りません。適切な支援やサポートを受けるためには、自分から困りごとを開示する必要があります。日頃から、悩みを相談できる人間関係の構築や、環境づくりへの取り組みが大切です。
介護保険外サービスの利用を検討する
仕事と介護の両立による負担を軽減するには、介護サービスの利用がおすすめです。介護サービスというと、要介護認定を受けた人しか利用できないイメージがあるかもしれません。介護保険サービスを利用するためには、要支援・要介護認定を受ける必要があります。
一方で、介護保険外のサービスであれば、要支援や要介護認定を受けなくても利用可能です。家事支援や見守り、送迎・宅食など、さまざまなサービスが適宜利用できます。
家族介護で困りごとがある場合は、各市町村の福祉相談窓口や地域包括支援センターなどで相談してみるとよいでしょう。
ビジネスケアラーを支援するために企業ができることは?
ビジネスケアラーをサポートするためには、会社や企業全体で支援していかなければいけません。これから、ビジネスケアラー支援のために、企業ができることの一例を紹介します。それぞれ確認してみましょう。
会社や企業全体でビジネスケアラーをサポートする
介護の悩みを会社に相談できずに、抱え込んでしまうビジネスケアラーは少なくありません。育児の悩みと比較して、介護の悩みにネガティブなイメージを抱く方もいるでしょう。管理職などの場合は、同僚や部下に家庭の事情を相談しづらいと感じる方もいるかもしれません。
そのほか、仕事の責任感から相談できないケースもあります。介護休業による人員不足を懸念して、抱え込んでしまう人も少なくありません。ビジネスケアラーをサポートしていくためには、相談しやすい環境づくりが必要不可欠です。
ビジネスケアラーが利用できる制度の拡充
これまで「介護離職者ゼロ」の政策によって、介護離職を防ぐための施策がされてきました。その結果、2010年頃から増加傾向にあった介護離職者数は、落ち着きを見せています。
一方で、ビジネスケアラーへの支援制度は、まだ十分ではありません。今後は、仕事と介護の両立をどのように支援するか考えていく必要があります。
例えば、フレックスタイムやテレワーク導入のほか、社内に相談窓口を設置するのも有効です。相談内容をもとに、担当者が地域包括支援センターなどへの橋渡しをおこなう方法も考えられます。難しい場合は、介護相談ができる窓口を紹介するところから始めるのもよいでしょう。
介護知識の共有
介護は、突如として必要になるケースが少なくありません。そのため、日頃から介護の情報に触れておくことが重要です。特に50代以上では、ビジネスケアラーの割合が高くなる傾向があります。20代や30代のうちから、介護について準備しておくことが大切です。
例えば、職場の介護経験者や、ビジネスケアラーに話を聞く機会を設けるのもよいかもしれません。リアルな声は、貴重な参考資料になります。企業や会社、職場全体を通じて、介護について考える機会を検討してみるとよいでしょう。
企業の取り組み事例
企業や会社ごとに、ビジネスケアラーに対してさまざまな取り組みがおこなわれています。
例えば、その1つが介護休業奨励金の活用です。奨励金制度の活用によって、介護休暇の取得サポートや、労働環境の向上を図っています。
そのほか、外部のビジネスケアラー支援サービスを導入する企業も出てきました。ビジネスケアラーに特化した研修プログラムによって、職場全体の介護リテラシー向上を目指しています。
会社の風潮や職場に合った方法で、ビジネスケアラー支援に取り組むことが重要です。支援方法に悩む場合は、上記の事例などを参考にするとよいでしょう。
まとめ
この記事では、ビジネスケアラーが抱える問題点と現状について解説しました。ビジネスケアラーが与える経済への影響は、今後も大きくなる見込みです。この問題に対処していくためには、社会全体で考えていく必要があります。
また、自身がビジネスケアラーになった時のために、日頃から介護の情報に触れておくことも重要です。環境整備や制度の導入が難しい場合は、介護の相談ができる窓口の共有など、できることから検討してみてください。