ビジネスケアラー
2024-01-18
ビジネスケアラーがやりがいを失わず働き続けるには?企業が取るべき対策は?
ビジネスケアラーとは、会社や企業で働きながらご家族などを介護する人を表す言葉です。
これまでビジネスケアラーが介護と仕事を両立するための国の施策は、介護疲れや介護離職を防ぐことに重点を置いてきました。
その結果、2007年に約14万5,000人の介護離職者数は、2012年から2022年まで9万9,000人~10万6,000人にとどまっており、一定の効果があったことがわかります。
一方、ビジネスケアラーが仕事をする上でのやりがいやキャリア形成が、二の次になってきたことは否めません。今後、ビジネスケアラーがやりがいを感じながら仕事を続けていくにはどうすればいいのでしょうか。
今回は、ビジネスケアラーがやりがいを持って仕事を続けるための対策や、企業が行うべきサポートなどについて考えます。
ビジネスケアラーの皆さんはもちろん、これからビジネスケアラー支援に取り組みたいと考えている企業も、ぜひ参考にしてください。
(参考:総務省 「令和4年就業構造基本調査結果の要約」)
ビジネスケアラーと仕事のやりがい
まず仕事について悩んでいるビジネスケアラーの現状や、どのような悩みを抱えているのかを見ていきましょう。
仕事について悩んでいるビジネスケアラーは8割
介護と仕事の両立に関する意識調査によると、30~60代のビジネスケアラーの約8割が両立に悩みを抱えていることがわかりました。悩みの内容は世代によって異なります。
【世代別の悩み】
30~40代:介護で疲れて仕事をするのが難しいと感じることがある
50代:常に介護のことが頭にありストレスが蓄積する
60代:両立によりプライベートの時間が取れない
さらに、「介護と両立する上で仕事上に制約を受けたことがある」と答えたビジネスケアラーは全体で50%を超えています。制約の内容として「時短勤務」「異動不可による昇進断念」「正社員から契約社員やパート、アルバイトへの変更」「管理職への昇進断念」などが挙げられました。
これらの中で、昇進の断念や雇用形態の変更などは、仕事のやりがいを失うきっかけになるため、企業のサポートが必要不可欠です。
(参考:イチロウ株式会社 「介護と仕事の両立に関する意識調査」)
やりがいを持って働くビジネスケアラーたち
さまざまな悩みを抱えながらも、介護と仕事を両立する経験を通して、仕事に新たなやりがいを感じるビジネスケアラーは少なくありません。リクルートワークス研究所がまとめた資料によると、介護をする前に比べ、回答者の約半数が「仕事のありがたみを実感するようになった」、約4割が「仕事は社会との接点を確保する機会と感じるようになった」という結果になっています。
介護と仕事の両立には「勤務時間が減る」「仕事中も要介護者のことが気になる」など、さまざまな負担やストレスが付いて回ります。
しかし、すべてのビジネスケアラーが仕事へのやりがいや意欲を失うわけではなく、むしろ高まるケースも少なくないことがわかります。
(参考:リクルートワークス研究所 「介護中でもやりがいを失わずに働く 新しいビジネスケアラー支援入門」)
ビジネスケアラーがやりがいを持てないのはなぜ?
ビジネスケアラーがやりがいを感じつつ仕事を続けるためには、どのような働き方がよいのでしょうか。
望ましい働き方を考える前に、まず、ビジネスケアラーから仕事のやりがいを奪う要因について考えてみましょう。
仕事に集中できずミスしてしまう
仕事中も要介護者であるご家族などの様子が気になり、仕事に集中できないビジネスケアラーは少なくありません。
例えば、自宅で転倒をしていないか、施設できちんとサービスを受けられているか、何か問題があって施設から連絡が来るのではないかなど、さまざまな不安が集中力を欠いてミスをしてしまうことがあります。ミスが続くと、次第にやりがいを感じられなくなる恐れがあるのです。
好きな仕事、やりたい仕事から遠ざけられる
時短勤務や介護休業・介護休暇を利用している場合、仕事に従事できる時間が減る、問題が起きた際に社内にいないとスピーディーな対応が難しいなどの理由から、やりがいを感じていた仕事やポジションから外されるビジネスケアラーもいます。
これでは仕事に対するやりがいが失われかねません。
ほかの社員に比べ昇給・昇進が遅れる
介護によってキャリアの停滞やペースダウンが起こり、同僚や後輩など他の社員に比べて昇給・昇進が遅れるケースも見られます。
昇給・昇進は、仕事にやりがいを感じるための重要な要素になるため、やる気を失ってしまうこともあるでしょう。
ビジネスケアラーがやりがいを取り戻すには
仕事のやりがいを取り戻すために、ビジネスケアラーにお勧めしたいのが「ジョブ・クラフティング」です。
ジョブ・クラフティングとは仕事の内容や進め方・捉え方・周囲との関係を主体的に見直し、自分に合った仕事の形をつくろうとすることです。仕事への満足や役割へのやりがいを高めるといわれています。
ビジネスケアラーのジョブ・クラフティングの例としては、仕事を若手社員に任せる・積極的にほかの社員と関わり協力関係を築いて仕事を行うなどが挙げられます。ビジネスケアラーが自分に合った形にするべく主体的に見直すことで、仕事のやりがいを維持することにつながると考えられます。
(参考:リクルートワークス研究所 「介護中でもやりがいを失わずに働く 新しいビジネスケアラー支援入門」)
会社がやりがいを求めるビジネスケアラーに行うべき支援
ビジネスケアラーが介護と仕事を両立しながらやりがいを持って働き続けるためには、会社の支援が欠かせません。ここでは、会社にできる支援について具体的に考えました。
仕事やキャリアに関する不安がないか確認する
まずはビジネスケアラー本人に、仕事やキャリアに不安を感じていないか、困っていることはないかなど、直接確認しましょう。
できればビジネスケアラーがリラックスして話せるよう、周囲に聞かれる心配がない場所でヒアリングするのが望ましいです。
ヒアリングする側が介護について詳しくない場合、相談を受けることをためらうかもしれませんが、大切なのはビジネスケアラーが「話を聞いてくれる人がいる」「見ていてくれる人がいる」と安心できることです。回答を焦らず、「会社にもわからないことはたくさんあるけれど、一緒に解決策を考えていこう」と声をかけてあげてください。
・仕事から外すことを解決としない
ビジネスケアラーが仕事に関する悩みを抱えている場合、会社側はよかれと考えて、忙しい仕事や責任あるポジションから外すことがあります。
一見、ビジネスケアラーの負担を減らすため、かつ業務を効率的に進めるために最適な方法に思えますが、ビジネスケアラーにとってやりがいを奪われることにつながります。安易にビジネスケアラーを担当業務から外さず、ほかの方法を考えることが必要です。
・介護を理由に、昇進やキャリアアップの機会を奪わない
介護にリソースを割く分、ビジネスケアラーが担当している業務の成果が上がらないケースもあるでしょう。会社としては、ほかの社員と同等に昇進やキャリアアップの機会を与えるのは難しいかもしれません。
しかし、ビジネスケアラーは介護を理由に昇進・キャリアアップの道が閉ざされると、仕事にやりがいを感じられなくなる恐れがあります。
・ビジネスケアラーと他社員の良好なコミュニケーションを促進する
ビジネスケアラーが介護と仕事を両立する悩みを話せたり、情報を共有できたりする人間関係を、社内に構築することが重要です。
そのためには、ビジネスケアラーが置かれている状況を周囲が理解できるよう、情報共有を行うことも効果的な対策のひとつです。
その場合は、ビジネスケアラーに「どこまで周囲に開示してよいか」を確認した上で行ってください。
悩みや不安を相談しやすい環境をつくる
職場に悩みや不安を相談できる相手がいないビジネスケアラーは、疎外感を感じがちです。社内に相談相手がいるビジネスケアラーは、悩みを相談したり情報を共有したりすることで、自分の仕事をうまくやって行ける感覚を持つ傾向にあるといわれています。
会社はビジネスケアラーが孤独感が原因で仕事のやりがいを失う前に、悩みや不安を相談しやすい環境づくりを意識しましょう。
(参考:リクルートワークス研究所 「介護中でもやりがいを失わずに働く 新しいビジネスケアラー支援入門」)
・ピアサポーターとの連携
過去にビジネスケアラーとして介護と仕事を両立してきた社員がいれば、ピアサポーターとして相談相手になってもらえないか、会社から依頼してみましょう。
ピアサポーターとは、自らの過去の体験を生かし、同様の境遇にある仲間をサポートする人を指します。過去に同じ体験をしてきた社員には、早めに悩みや不安を相談しやすく、ビジネスケアラーのやりがい喪失を防ぐ存在になってくれるはずです。
社員にピアサポーターを依頼する場合は、指導や押し付けではなく、あくまでも対等な立場でビジネスケアラーに接してもらうことを伝えましょう。ピアサポーター側が過剰な負担を抱えないように配慮してください。
・介護に関する講習の開催
ビジネスケアラー以外の社員にも介護に関する知識を持ってもらうことで、間接的にビジネスケアラーを支援する方法です。周囲の理解が深まれば、ビジネスケアラーに対して自然な手助けや気遣いができるでしょう。
また、ほかの社員がビジネスケアラーとなった場合に必要な知識を持っておくことにつながります。周囲の理解によって、やりがいを失う危険性が軽減することも期待できます。
ビジネスケアラー支援制度・サービスの導入を検討
ビジネスケアラーがやりがいを持って働くため、会社に支援制度やツールを導入する方法もあります。ここでは3つの制度・サービスについて解説します。
①介護休業制度の導入
介護休業は、仕事と介護の両立に向けて介護サービスの手配など体制を整えるため、要介護者1人につき計93日まで、3回を上限に分割して休みを取得できる制度です。
介護休業時は、休業前の賃金の2/3程度の介護休業給付が支給されます。
②介護休暇制度の導入
ご家族の介護を行う労働者は、5日/年(要介護者が2人以上の場合は10日/年)を上限に、1日または時間単位で介護休暇を取得できます。
平日に通院や介護サービス利用の手続きなど、会社を休む必要があるときに利用可能です。ほかにも時短勤務や残業免除などの制度もあります。
③外部サービスの活用
国の制度に加え、外部のサービスを導入する企業もあります。その一例が、東京に本社のある半導体メーカー・エイブリック株式会社です。
同社では介護の手続きに詳しいNPOと提携し社員の代行を依頼します。年中無休で社員とその配偶者、親が無料(一部有料もあり)で電話やSNSを利用して相談できるホットラインを開設しました。介護施設を探すための情報収集から、役所・医療機関などでの手続き代行まで依頼可能です。
代行を依頼することで会社を離れる必要がなくなり、安心して仕事に集中できます。ビジネスケアラーがやりがいを持って、仕事を続ける一助になるのではないでしょうか。
(参考:NHK首都圏ナビ 「経済損失9兆円の試算!増える“ビジネスケアラー”(1)対策進める企業は」)
制度・サービスを利用した前例がない会社はどうする?
「ビジネスケアラーがやりがいを持って働くための支援をしたいけれど、制度やサービスの導入経験がなく、やり方もわからない」と悩む企業も多いのではないでしょうか。そんな場合は、下記の3段階で支援の取り組みを進めてみてください。
<STEP1>制度の整備と情報の周知
●制度の整備
- テレワーク、フレックス制など柔軟な働き方を推進
- 相談窓口の設置:介護に関する制度の利用を社員に通知
●情報の周知
- パンフレットなど既存の広報物を利用
- ケアマネージャーなど、介護のプロからの情報収集や社員への提供
<STEP2>マネジメント層の意識改革および組織への浸透
●意識改革
- マネジメント層向け研修の実施
- マネジメント層が学び合う場の提供
●組織への浸透
- 介護と仕事の両立を支援する制度の内容とその意義の説明
<STEP3>対話の場づくり
- ビジネスケアラーをはじめ、上司や同僚、予備軍などとの対話の場を提供
- ビジネスケアラー支援のノウハウ蓄積
上記を例として、それぞれの企業に適したやり方で進めてみてください。
(参考:日本総合研究所 「【ビジネスケアラーの実態と企業に求められる取り組み】第2回:企業に求められる取り組みや実践のポイント」)
まとめ
本記事では、ビジネスケアラーが働く現状や、やりがいを持つための対策、企業の支援などについて解説しました。介護と仕事の両立にはさまざまな負担がありますが、その中でも介護の体験を生かし、仕事に新たなやりがいを見つけるビジネスケアラーは少なくありません。
従来、ビジネスケアラーの支援は両立に伴うストレスや疲労を軽減するための休業などに焦点が置かれ、「介護と仕事を両立しながら、やりがいを感じて働き続けるにはどうすればよいか」という視点が欠けていたのかもしれません。
しかし、国がビジネスケアラー支援に本格的に乗り出し、民間の介護サービスがさらに充実しつつある現在では、やりがいについて新たに考えるよい機会となったといえるでしょう。ビジネスケアラー支援をすでに進めている、または今後進めていきたいという企業は、ぜひこの記事を参考にしてください。