ビジネスケアラー
2023-10-04
ビジネスケアラーが抱える問題とは?対策と心構えを解説
近年、ビジネスケアラーの増加が問題視されています。
いつか来る親の介護に不安があるものの、具体的にどのような心構えをしておけばよいかわからず、悩む方も少なくありません。
ビジネスケアラーになる可能性がある場合は、事前にリスクや問題点を把握し、対策を考えておくことが重要です。
この記事では、ビジネスケアラーの現状や課題を解説します。ビジネスケアラーとして介護をする際のポイントも、あわせて紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
ビジネスケアラーとは
ビジネスケアラーとは、ビジネス(仕事)と介護を両立する人を指します。
ビジネスケアラーの抱える問題や、将来を考えていくためには、現状を把握しておかなくてはいけません。
まずは、ビジネスケアラーの定義や現状を確認してみましょう。
ビジネスケアラーの定義
ビジネスケアラーとは、会社や企業で働きながらご家族などを介護する人を表す言葉です。
経済産業省では「介護をする有業者のうち、仕事を主にするもの」をビジネスケアラーと定義しています。
近年、高齢化の加速により、ビジネスケアラーは増加傾向です。また、女性の社会進出に伴い、女性ビジネスケアラーの数も増えています。
経済産業省のデータによると、ビジネスケアラーは今後も増え続け、2030年頃まで増加を継続する予想です。
ビジネスケアラーの現状
2020年現在、ビジネスケアラーの人口は262万人に上っており、2025年には307万人、2030年には318万人に到達する見込みです。
この数字は「仕事を主にするもの」に絞ったものであり、有業者まで広げた場合、2022年で365万人、2030年には438万人と推計されています。
割合にすると、家族介護者の約4割がビジネスケアラーになる計算です。今後も増加するビジネスケアラーに対して、支援やサポート体制の整備が急務とされています。
企業におけるビジネスケアラーの価値
ビジネスケアラーの増加は、会社や企業にとっても重大な問題です。
主に親の介護が必要になる40〜50代以上は、企業内で重要なポジションを担う層になります。
企業の中核になる人材の介護離職、時短勤務などで起こる生産力の低下は、企業にとって考えなければいけない課題です。
このようなビジネスケアラーの影響による経済損失額は、2030年には9兆円にもおよぶと予想されています。
ビジネスケアラー増加の要因
現在、増加傾向にあるビジネスケアラーですが、今後も数年間にわたり継続すると言われています。
ビジネスケアラー増加の背景には、どのような要因があるのか、確認してみましょう。
晩婚による親の高齢化
近年、晩婚化により初婚の平均年齢が上昇しています。
厚生労働省のデータを見ると、1990年の初婚の平均年齢は、「男性28歳:女性25歳」でした。
一方で、2019年には、「男性31歳:女性29歳」まで上昇しているのがわかります。
(参考:厚生労働省「婚姻年齢の推移」)
晩婚化による影響は、出産年齢の上昇だけではなく、相対的な親の高齢化にもつながっているのです。
40代〜50代のビジネスケアラー増加要因の1つには、このような晩婚化の影響が考えられます。
共働きによる家庭の変化
この数年で、一般家庭の働き方や、生活スタイルは大きく変化しました。
現在は、共働きが一般的になり、以前のような、どちらかが家事を専業にする家庭は少なくなっています。
これまで、専業主婦が親を介護するケースは少なくありませんでした。共働きで家族介護をする場合、仕事と介護を両立しなくてはいけません。
ビジネスケアラー増加の背景には、働き方や介護スタイルの変化による影響があります。
未婚率の増加
晩婚化のほか、未婚率の増加がビジネスケアラーを増やす要因になっています。
厚生労働省による未婚率の推移データを見てみると、1990年の40代以上の男性の未婚率は、10%ほどでした。一方で、2015年には約3倍の30%にもおよんでいます。
女性も同様に増加しており、1990年に14%ほどだった30代以上の未婚率は、2015年では35%に迫る勢いです。
(参考:厚生労働省「年齢階級別未婚率の推移」)
年代が上がるにつれて、未婚率は低下する傾向にありますが、どの年代においても25年間で約3倍に増加しています。
未婚によって、親の介護を支えるパートナーが不在となり、ビジネスケアラーになるケースが少なくありません。
ビジネスケアラーが抱える問題点
介護と仕事を両立するビジネスケアラーには、さまざまな問題や悩みがあります。
親の加齢などにより、ビジネスケアラーになる可能性がある場合は、事前に介護について考えておくことが重要です。
ビジネスケアラーが、どのような問題を抱えているのか、確認してみましょう。
仕事と介護の両立により自分の時間が不足
主に、仕事と介護を両立する場合、帰宅後や休日など、仕事の合間を利用してご家族のケアをおこないます。
忙しいビジネスケアラーにとって、時間不足は重大な問題です。時間の確保が難しく、介護に関する情報や、利用可能なサービスについてのリサーチができない方もいるでしょう。
もっと効果的な方法がある場合でも、考える時間や余裕がなくなるケースも少なくありません。
職場に相談できる環境がない
ビジネスケアラーの中には、ご家族の介護状況や、家庭環境を相談するのが恥ずかしいと思う方も少なくありません。
余裕がなかったり辛かったりしても、職場の上司や同僚に相談できずに悩む方もいるでしょう。
また、介護の悩みを理解するには、話を聞く側にも介護についての知識が必要です。一般的なビジネスパーソンの場合、介護に関する知識を学ぶ機会はあまりないかもしれません。
このように、職場に相談できる環境がなく、悩みを打ち明けられないビジネスケアラーも多いようです。
先の見えない介護によるモチベーションの低下
一般的に、介護は長期的なサポートが必要になります。
状況や状態にもよりますが、現状をできる限り長く維持することが目標になるケースも多いでしょう。
仮に、これが育児の場合、成長して自立する子どもの姿をイメージできるかもしれません。一方で介護の場合は、現状を維持し長期間にわたって支え続ける必要があります。
劇的な回復が難しい介護の状況に疲れて、モチベーションが低下してしまうビジネスケアラーは少なくありません。
育児と介護のダブルケアによる負担
晩婚化や親の高齢化によって、育児と介護の両方を、同時に考えなければいけない方が増えています。
ビジネスケアラーの場合、時間的・体力的な問題に悩む方も少なくないでしょう。さらに、育児とのタイミングが重なる場合、負担は一段と増加します。
仮に、どちらかが育児休暇を取った場合でも、パートナーの分まで、育児と介護の両方に対応することになるかもしれません。
こうした、育児と介護のダブルケアによる負担に悩むケースが増えています。
精神的な負担
仕事と介護の両立によって、精神的な負担に悩むビジネスケアラーは少なくありません。
年齢が上がるにつれて、管理職を任されるビジネスケアラーもいるでしょう。仕事で考えなければならないことが増える中で、同時に慣れない介護にも対応しなければいけません。
このような状況から、精神的な負担に悩むビジネスケアラーが多いのが実情です。
ビジネスケアラーに求められる対応策
現在も増え続けるビジネスケアラーと、その背景にある悩みや問題を解決するためには、社会全体で考えていかなければいけません。
ビジネスケアラーには、今後どのような対応策が求められるかについて見ていきましょう。
サポート体制や制度の整備
国や企業など社会全体を通じて、ビジネスケアラーをサポートしていく必要があります。
なぜなら、ビジネスケアラーの問題は、企業や経済にとっても無視できないリスクだからです。
近年、ビジネスケアラーの介護離職や時短勤務による生産性の低下が、大きな問題になっています。これらの課題に対処するためには、ビジネスケアラー向けの支援制度の拡充が必要です。
生産性の維持向上と、福祉の充実を図るためには、社会全体が協力して取り組んでいかなければいけません。
介護に必要な知識や情報の共有
介護とは関係のない仕事の場合、介護に関する情報に触れる機会があまりないかもしれません。
いざ、自分がビジネスケアラーになった場合、どのように対応してよいかわからず、戸惑う方もいるでしょう。
家族介護が必要になった際でも冷静に対応するためには、日頃から介護の情報に触れておくことが重要です。
そのためには、会社や企業内でも、介護に関する知識や情報を共有しておく必要があります。このような情報共有の機会を、どのように確保するのか考えてみるとよいでしょう。
介護やご家族の悩み相談ができる環境の確保
介護や家庭の悩みを打ち明けられずに、悩む方は少なくありません。
とくに職場では「周囲に迷惑をかけたくない」「自分の評価が下がるのが心配」などの理由から、悩みを相談できなくなるケースもあります。
こうした問題を解消するためには、日頃から相談しやすい環境を整えておくことが、非常に重要です。
また、職場以外にも友人や知人など、悩みを打ち明けられる関係を作っておくとよいでしょう。
ビジネスケアラーを成功させるためには?
ビジネスケアラーとして、仕事と介護を上手に両立するためには、どのようなことに気をつければよいのでしょうか。
これから、ビジネスケアラーとして成功させるためのポイントを紹介します。それぞれ確認してみましょう。
収入の維持・確保
ご家族で介護が必要になった場合、介護用品の購入や介護サービスの利用など、さまざまな支出が発生します。
そのため、ビジネスケアラーになる際は、現在の収入を維持しつつ、適切な対策を検討しなければいけません。
まだ、ビジネスケアラーでない場合は、将来の介護に備えて少しずつ貯蓄をしておくなど、計画的に取り組んでおくとよいでしょう。
介護をする側のケア
介護の問題は、介護を受ける方だけのものではありません。
誰かを介護するためには、サポートをおこなう方のケアも必要です。サポートをする方が疲弊してしまうと、介護そのものが困難になる可能性があります。
日々の介護で疲れや悩みを感じる場合は、自身のケアにも気を配りましょう。
介護で困りごとがある場合は、地域包括センターや自治体の福祉相談窓口などで相談が可能です。相談できる場所を、事前に把握しておくと精神的負担の軽減にもつながるでしょう。
あらかじめ介護について考えておく
年齢を重ねるにつれて、介護を必要とする方の割合は増加します。とくに、後期高齢者になる75歳以上では、さらに増加傾向です。
介護が必要になる具体的なタイミングは予測できませんが、統計データから一定の傾向は読み取れます。
親が介護を必要とする年齢に近づいている場合は、ビジネスケアラーになる可能性があることについて考えておくことが重要です。
介護サービスを利用する
現在、介護が必要な方に対しては、さまざまなサポートが提供されています。
ご家族だけでの対応が難しい場合は、必要に応じて介護サービスを活用しましょう。介護サービスを利用検討の際は、自治体や地域包括センターなどで相談できます。
家族介護に悩んだ場合は、抱え込まずに、自治体や地域包括センターへ相談してみましょう。
ビジネスケアラーの今後
2023年現在、ビジネスケアラーの数は増加傾向にあり、2030年頃まで続く予想です。
ビジネスケアラー増加の問題は、経済にも大きな影響を与えています。その損失額は、数年で9兆円にも上る見通しです。
政府は、これらの問題への対策として「経済財政運営と改革の基本方針2023」において、ビジネスケアラーへの支援を強化する方針を発表しました。
今後は、国と企業が連携し、社会全体でビジネスケアラーを支援していく必要があります。しばらくの間、ビジネスケアラーへの支援拡充が急務となるでしょう。
まとめ
この記事では、ビジネスケアラーの定義と、現状の問題点を解説しました。
晩婚化や生活スタイルの変化により、仕事と介護を両立する方が増えています。そして、このようなビジネスケアラーは、今後も増え続ける予想です。
ビジネスケアラーは、個人だけの問題ではなく、社会全体にも大きな影響を与えています。この問題に対応していくためには、国全体で考えていかなければいけません。
日頃から、介護について考える時間や、情報に触れる機会を作っておくといざという時に役に立ちます。少しずつでも介護の情報について触れていくとよいでしょう。