介護情報メディア ケアケア 介護士向けコラム 介護業界の就職・転職 【インタビュー】訪問看護ステーションで働く理学療法士に訊く、訪問リハビリのリアル(後編)

介護業界の就職・転職

2023-07-25

【インタビュー】訪問看護ステーションで働く理学療法士に訊く、訪問リハビリのリアル(後編)

インタビューの後半では訪問リハビリの理学療法士として働くKさんに、仕事をするうえで心がけていることや周囲との関わり方について伺うことができました。

訪問リハビリに携わる理学療法士にインタビュー

ー仕事に携わる中で利用者さんのご家族などと関わる機会も多いかと思うのですが、コミュニケーションを取るうえで特に意識されていることがあれば教えてください。

コミュニケーションの観点でいえば、敬語を崩さないことを徹底しています。病院という患者さんの家族がいない空間だからこそ、医療従事者の中にはどうしても患者さんに対して赤ちゃん言葉に近い口調で話しかけたり、タメ口を使ったりする人がときどきいるんですね。

ただ、僕がもし家族だとしたら自分の親に対してなれなれしくされたり、まして赤ちゃん言葉で話しかけられたりしたら絶対に嫌なので。だからこそ自分は基本的に敬語を崩さないことを意識しています。

言葉遣いとあわせて最低限のマナーも守るように心がけています。利用者さんの部屋に入室する際は「よろしくお願いします」と一礼をする、膝を折って目線を合わせてお話をするといった具合に。また、身だしなみに気を遣うのはもちろんのこと、初対面であれば名刺をお渡しするようにしています。

ーなるほど。利用者さんのお部屋に入られてから、なにか意識されていることはありますか。

そうですね、僕の場合ですが初回の訪問は特に丁寧な対応を心がけています。初回ということもあって、きちんと現状の問題や困っていること、そのあたりを丁寧にヒアリングして認識のズレがないように気をつけていますね。また、なるべくその場で解決できることは対応するようにしています。

また、言葉だけではなくて写真や文章など、なにか物が残るようなかたちで提示することも大切にしています。中には忘れてしまったり、イメージがつかなかったりする利用者さんもいるので、誰が見ても分かるように情報を残すことは意識していますね。

ー特に初回の訪問でどれだけ利用者さんのことを把握できるかが重要なんですね。

はい。その点でいえば利用者さんのパーソナリティというか、どういった人生を歩んできて、どのような価値観を大事にしているのかといったところも気に掛けるようにしています。そこが意識できていないと、こちらがよかれと思ってしたことが相手の尊厳を踏みにじる結果になることがあるんですね。

たとえば立ち上がる動作を補助しようとしたら「できるんだから、手を出すな」といわれたり、食事に苦労している方の口元にスプーンを持っていった際に「赤ちゃん扱いをするな」といわれたり。そういったことにならないように、必要に応じて家族やケアマネージャーの話も参考にしながら利用者さんと向き合うようにしています。

ー利用者さんは家にいたいけれど、家族はサポートが大変だから施設を検討しているといったような意見の相違を目の当たりにすることも多いかと思うのですが、そういったときにはどんな対応を心がけていますか。

実際、そのようなケースは多いですね。利用者さんは自宅で生活することを望んでいるけれど、家族やケアマネージャーから見るとなかなか厳しいんじゃないかという。

僕らがどうこうできる問題ではないこともあって、辛い状況であることは確かですし、板挟みになることもあります。ただ、あまりにもどちらかに肩入れしすぎてしまうと関係がこじれてしまうことにも繋がるので、なるべく中立の立場でいるように心がけていますね。

ー利用者さんを普段サポートされているご家族の方から相談を受けることも多いのでしょうか。

家族からの悩みで多いのは食事やお風呂、着替えなど日常生活における細かな部分の悩みが多いように感じています。具体的には食事を食べたことを忘れてしまって、お菓子やパンなどを際限なく食べてしまう、お風呂に入ろうと声を掛けたら入りたくないと怒鳴られて追い返されてしまった、綺麗にしまったはずの洋服を出して散らかされてしまうといった相談が挙げられます。

他にもベッドからなかなか起きてこない、自主トレをしようと声を掛けても全くやろうとしないといった相談も多いですね。些細な悩みのように思えることであっても、家族にとってはそれがストレスになるので、解決できるところは解決する、見逃さないように心がけることが訪問リハビリ担当者として働くうえで大切なことかなと思います。

ー理学療法士の立場で解決できそうにないことは、状況に応じてケアマネージャーなどに相談することもあるのでしょうか。

そうですね。そういったことは一度全てケアマネージャーに共有するようにしています。また、対応できたことについても上手くいった方法やコツを伝えていますね。基本的には共有するように心がけていますし、やはりチームで動いているので自分1人で判断しないことが大事かなと思います。

ー一人暮らしの利用者さんは、訪問PTやケアマネージャーが誰も来ない日はどう過ごされているのでしょうか。

そういった方については、基本的になるべく誰かが入るようにケアマネージャーが調整しています。たとえば僕が月曜日に利用者さんのところを訪問した場合、火曜日にデイサービスを入れて、水曜日にはヘルパーを入れて、木曜日には訪問で食事を運んできてくれるスタッフを入れるといった具合に。なるべく安否確認が抜けないように調整をしていますね。

ただ、どうしても1人になる時間はありますし、サービスを毎日入れられない場合もあります。そういう場合は、押せる人であれば緊急コールのようなものをお渡しして、万が一の場合は押してもらうように頼むこともあります。また、ショートステイのようなサービスを利用することもありますね。なるべく利用者さんのご希望に添うように、みんなで見守る、支えるといった体制になるように工夫しています。

ー最後に、これまで担当された利用者さんの中で特に印象に残っている方や、まつわるエピソードがあれば教えてください。

今、104歳のおばあちゃんを担当しているんですね。回復期を経て自宅に帰ってきた方なのですが、当初は自分の歩けない姿を受け入れたくないというか、人に見られたくない、だから外に出たくないと話されていたんです。

ただ、その方は体調を崩されるまでコンサートに行ったり、家族とホテルに中華を食べに行ったりと外出を楽しんでいたんです。ただ、104歳ということもあって以前のようにシャキシャキと歩くことを目指すというよりは、余暇的な活動、家族と食事を楽しむ、コンサートを楽しめるように外に意識を向けることから始めるべきではないかと考えたんですね。

もちろんご家族の方とも話し合ったうえで、まずは家の中を自由に歩けるように、次は外に出て人通りがないところをほんの少し歩いてみる。そういったことを訪問リハビリの中で繰り返し行いました。

その結果、今ではご家族と一緒に家の周り、人通りがあるところをぐるりと自主的に歩いていただけるようになったんです。また、ご自身の誕生日には毎年行かれていたお店で再び食事を楽しむこともできました。

ーそれは本当にすごいことですね。

ご本人からも「ケガをする前にできていたことを再開できた、本当に来てくれてありがとう」「あなたから若いエネルギーをいつももらっているよ」といっていただけました。

おそらく病院の回復期にいた頃はコロナの影響もあって、思うようにリハビリができなかったところもあったと思うんです。ただ、自宅に戻ってからちょっとずつ本人のモチベーションを上げて、家族とも歩けるようになって、最終的には行きたかったところにまた行けるようになった。こういった経緯に僕は携わりたかったんだと再確認するきっかけにもなりました。

ー貴重なお話をありがとうございました。

ありがとうございました。