介護職のお悩み
2023-04-03
「作業療法士はやめとけ」って本当?理由と続ける価値、キャリアの選択肢を解説

ネット検索で「作業療法士 やめとけ」という言葉を見かけて、不安になった方もいることでしょう。確かに、仕事で悩んだり迷ったりすることは、誰にでもあるもの。でも、その気持ちだけで判断するのではなく、少し立ち止まって考えてみるのも大切です。
この記事では、作業療法士はやめとけと言われる理由と、そこから見えてくるやりがいや可能性について、わかりやすくご紹介します。
作業療法士とはどんなお仕事?

作業療法士とは、心身の障がいにより日常生活動作(※1)家事、仕事やスポーツなどが困難になった方にリハビリを通して自立を支援する専門職のひとつです。
具体的には、まず患者さんが何に困っているのかを丁寧に聞き取り、観察や検査を行ったうえで、身体の状態や認知機能、日常生活動作の能力における問題点を明らかにします。あわせて、患者さんと一緒に「いつまでに、どのようなことができるようになりたいか」という目標を立てるのも作業療法士の仕事のひとつです。
さらに、患者さんに合わせた目標達成を目的とした訓練プログラムを計画・実施し、日常生活動作(ADL;Activity of Daily Living)訓練や機能訓練(※2)、福祉用具の選定などを行います。
(※1)食事や着替え、入浴といった日常生活での基本的な動作
(※2)病気や怪我によって低下した、身体や認知機能を維持・向上させるための訓練
「作業療法士 やめとけ」と言われている理由とは
作業療法士は非常にやりがいのある仕事と言われている一方、インターネットでは「作業療法士はやめとけ」という書き込みが存在します。では、なぜそのように言われるのでしょうか。ここでは主な理由を3つ挙げます。
成果が見えにくく、やりがいを見失いやすいときがある
患者さんにリハビリを提供しても、効果を実感できるまでには時間がかかります。そのため、「自分が提供しているリハビリは、本当に患者さんのためになっているのだろうか?」と自問自答することもあるでしょう。
特に作業療法士は、日常生活動作の改善やQOL(生活の質)の向上を目指すため、数値で表せるような明確な成果が見えにくい場合があります。例えば、「以前より服を着替えるのが楽になった」「趣味の絵を描く時間が少し長くなった」といった、作業療法士の支援によるものか判断しづらい生活の変化は、客観的な評価が難しいため、やりがいを感じにくくなることもあるかもしれません。
他職種との関係性に悩んでしまうことがある
リハビリは医師や理学療法士、看護師などさまざまな専門職が連携して行いますが、専門分野がそれぞれ異なるため、考え方が食い違うこともあるでしょう。
特に経験の浅い作業療法士は、周りとの人間関係が十分に築けていないため、他職種とのコミュニケーションに苦労することもあるでしょう。また、人間関係に悩んだ場合、気軽に相談できる先輩や上司がいないと一人で抱え込んでしまう可能性もあります。
働き方と収入のバランスが見合っていない場合がある
厚生労働省が発表した資料によると、作業療法士の年収は全国平均で約432万円でした。これは、2023(令和5)年の日本の平均給与460万円(正社員・フルタイムが対象)と比較すると、やや少なめです。
また、作業療法士の給料は、医療機関が得る診療報酬によって決定します。そのため、熱心にリハビリに取り組んだとしても、診療報酬以上の収入を得ることはできません。
なお、診療報酬は時間あたりの点数で計算されるため、経験の浅い新人でも、熟練したベテランでも、患者から得られる報酬は変わりません。
作業療法士は、「患者さんの手が自由に動けるようになった」といった、ささやかな喜びとやりがいを得られる仕事です。一方、業務が多岐にわたり、職場によって給料が見合わない場合もあります。
参考:厚生労働省| job tag(職業情報提供サイト(日本版O-NET))作業療法士(OT) 、国税庁|令和5年分民間給与実態統計調査結果について
「やめとけ」を乗り越え、続けることで気づいた作業療法士の価値とは?

成果が見えにくいことや、収入とのバランスに悩むことなど、「やめとけ」と言われる理由に直面し、作業療法士を続けるかどうか迷う時期もあるかもしれません。
しかし、さまざまな悩みを乗り越え、作業療法士を続けていくことで、他の職業では決して味わえない作業療法士だからこその価値に気づくことがあるでしょう。ここでは作業療法士の仕事の魅力についてご紹介します。
生活に寄り添える、他にはない専門性が強みになる
作業療法士は、専門知識と技術を活かして、患者さんの「生活」をサポートするスペシャリストです。一人ひとりの状況に合わせたオーダーメイドのリハビリを提供し、その人らしい生活を取り戻せるように支援する生活の専門家でもあります。
例えば、脳梗塞で利き手が不自由になった方には、反対側の手で食事ができるよう練習し、リウマチでお箸が持てなくなった方は、自助具(※3)を使って自分で食べ物を口まで運べるよう訓練します。
このように、作業療法士は患者さんの心身の状態だけでなく、生活環境にも目を配りながら、「自分でできること」を少しずつ増やしていくための支援を行います。
(※3)病気や怪我によって低下した身体の機能を補うために工夫された道具
患者さんや家族の「ありがとう」が力になる
作業療法士の仕事は、病気や怪我からの回復を支援するだけでなく、精神的なサポートやご家族の介護負担の軽減など、多岐にわたります。
また、患者さんとそのご家族の生活全体を支え、時間をかけて回復を支援していく中で、「ありがとう」という感謝の言葉をいただく機会にも巡り合うことでしょう。「ありがとう」という言葉は、自分の仕事が誰かの役に立っていることを実感させ、作業療法士としての大きなモチベーションにつながります。
日々の積み重ねが、自分自身の成長につながっていく
作業療法士は、毎日の業務を通して専門知識や技術の習得はもちろん、それ以外にも自身を成長させるさまざまな経験を積むことが可能です。
例えば、患者さんと関わる中で「どうすればその人らしい生活を送れるか」を考え、コミュニケーションを取りながら必要な情報を集めることで、自然に情報収集力が鍛えられます。
また、医師や看護師、理学療法士など、他の医療専門職と連携することで、コミュニケーション能力も向上していくでしょう。
経験を重ねるほど、知識や技術が磨かれ、患者さんのわずかな変化にも気づく、より効果的なリハビリ計画を立てられるようになるといった、「できること」が増えます。
時には、リハビリでうまくいかないことがあるかもしれません。そんな時は、先輩に相談する、または専門書を調べて解決策を探すなど、常に学び続ける姿勢が大切です。
作業療法士として広がるキャリアの選択肢とは
このまま作業療法士として続けるか迷っているなら、「やめとけ」という言葉に惑わされず、資格を活かしたさまざまなキャリアがあることに目を向けることをおすすめします。
本章では、作業療法士を続けることで広がる、キャリアの選択肢について詳しくご紹介します。
現場経験を活かした転職または起業
作業療法士として同じ職場で働き続けるという方は、多くありません。例えば、病院を数年勤務したあとに、介護施設に転職するなど、現場で培った経験を活かして、さまざまな領域へ活動の幅を広げることも可能です。
また、医療系の国家資格は、他の業種に比べて転職しやすいというのも大きなメリットと言えます。作業療法士の中には、現場経験を活かして一般企業へ転職する方も一定数いるでしょう。例えば、現場の作業療法士で培った福祉用具に関する知識を活かして、福祉用具メーカーや販売会社に転職するといった選択肢もあります。
他にもデイサービスや訪問リハビリ事業所などを立ち上げる、自費診療によるリハビリサービスを提供する事業を始める方もいるようです。
かつてはひとつの職場で定年まで勤め上げるという働き方が一般的でしたが、近年は作業療法士もこれまでの現場経験を活かし、自分らしく活動できる領域が広がっています。
教育の場で後進をサポート
数年間の臨床経験を積んだあとに、作業療法士のキャリアパスとして養成校で選任教員(臨床実習指導者)になる選択肢があります。
作業療法士の選任教員(臨床実習指導者)になるためには、5年以上の経験と、指定された時数の研修受講が必要です。研修は、全国リハビリテーション学校協会が主催する「理学療法士作業療法士専任教員養成講習会」の受講が推奨されています。
また、教員の仕事は、人に教えるためのスキルが求められます。そうしたスキルを活かし、作業療法士の先輩として学生達の成長を間近でサポートし、国家試験合格まで導くということは、非常にやりがいのある仕事と言えるでしょう。
参考:一般社団法人日本作業療法士協会|「作業療法教育の最低基準」 、全国リハビリテーション学校協会|第4回(2024年度)理学療法士作業療法士専任教員養成講習会情報
副業やSNS発信で、自分らしいキャリアを構築
近年、働き方改革が進み、作業療法士として働きながら副業に勤しむ方も増えています。作業療法士の経験を活かした主な副業は、以下の通りです。
・訪問リハビリのスポット勤務
・病院や介護施設の非常勤作業療法士
・研修講師
・医療系記事のWebライター
・医療系記事の監修
・動画編集 など
このように作業療法士の資格を持っていると、副業としてさまざまな分野で挑戦することができます。自分の興味やスキルに合った副業を見つけ、自分らしいキャリアを構築しましょう。
「未来を選べる」作業療法士は自分らしいキャリアを築ける仕事

作業療法士の仕事を続けている方の中には、時には「やめとけ」という言葉に心が揺れることもあるかもしれません。
実際には、本記事でご紹介したように、作業療法士にはやりがいがたくさんあり、あらゆるシーンで知識やスキルを活かせる職種です。転職をする場合にも、作業療法士の資格を活かせます。
作業療法士としての悩みを言語化することで、自分が作業療法士として何を大切にしたいのか、目指したい方向性が見えてくるかもしれません。きっとそこから、作業療法士としての自分らしいキャリアが築けることでしょう。