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2024-12-11
介護福祉士からキャリアチェンジ。現役生活相談員が語る介護業界の仕事の魅力とやりがいとは|ケアトーク〜介護の声を聞く〜 Vol.3
介護職は、要介護者の生活を支援したり、相談に応じたりするのが主な仕事です。「心身ともに負担が大きい」というイメージを持つ方もいることでしょう。一方で、実際に介護従事者が日々どのような思いを抱いて働いているのかについては、十分に知られていないかもしれません。
そこで今回は、介護福祉士として介護業界に入り、その後、ケアマネジャー(以下、ケアマネ)や、生活相談員としてキャリアを積まれた”さとひろさん”にインタビューしてみました。介護職の魅力や大変さ、やりがいなどについてうかがいました。
介護福祉士の資格を持った現役生活相談員にインタビュー
――介護職を選んだきっかけを教えてください。
高校時代に肘を骨折して、整形外科に通院し、温熱療法を受けていました。一緒に受けている高齢の患者さんと顔見知りになったことで、高齢者と関わる仕事に興味を持つようになったのです。進路を考える時期に親から「手に職をつけた方がいいのでは」というアドバイスをもらったことで、介護福祉士を目指せる専門学校へ進学し、資格を取得しました。その後、特別養護老人ホームに入職し、複数の施設で介護福祉士、ケアマネジャーとしての経験を積み、現在は生活相談員として勤務しています。介護業界でキャリアを歩み始めて22年目となりました。
――入職前と後でのギャップはありましたか?
専門学校時代に実習をしていたので、仕事内容についてはある程度イメージできていました。しかし、入職後は実習時よりもやるべきことが圧倒的に多く、苦労をしたのを覚えていますね。入職1年目でリーダー業務をこなしていたので、経験豊富な先輩方に指示を出す際はかなり負担でした。また利用者が怪我をされたり、お亡くなりになったりした際も精神的につらいものがありました。
介護の仕事と直接関係ありませんが、私自身が口下手だったこともあり、入所当初は自分から先輩方の輪に入れず、職場の居心地はあまり良くありませんでした。それでも、仕事を通じて私の性格を理解してもらえるようになり、次第に周りともコミュニケーションを取れるようになりましたね。
――ケアマネと生活相談員を目指したきっかけを教えてください。
介護職は肉体労働です。夜勤もあるので、体力がないと続けられません。そのため、入職当初は「体力がある30歳くらいには現場を離れよう」と決めていました。それを見越して、介護福祉士の仕事に就いて7年目でケアマネの資格を取得し、その約2年後にケアマネとしてキャリアをスタートさせました。
しかし、今まで現場で身体を動かしていたので、1日中パソコンの前に座り続けることに慣れず、名刺交換や電話の取り方などのビジネスマナーの面でも苦労しました。そんな時、同僚の生活相談員が利用者の家族や行政など、いきいきとコミュニケーションを取っている姿を見て、同じ職場にいながら、まるで別の世界で働いているかのように感じたのを今でも覚えています。
「生活相談員は特別な人が就く職業」というイメージがありますが、その同僚の働きぶりを見ているうちに、自分にも向いている仕事だと感じるようになりました。そこで、働きながら通信制の大学に通い、社会福祉士の資格を取得したのです。ちょうどその頃に、近隣で新たに特別養護老人ホームが開設されることを知り、開設準備室で1年間立ち上げに携わった後、生活相談員としてのキャリアをスタートしました。
――どのような時に介護の仕事の魅力を感じますか?
介護従事者である私たちが、きちんと関われば利用者との良好な変化が生まれることを知ったときです。私が介護福祉士として働いていたとき、肺炎で入院し、家族の意向で特別養護老人ホームに戻ってきた利用者がいました。その利用者の状態は芳しくなく、寝たきりで、会話もほとんどできませんでした。そのため、あと数日でお亡くなりになってしまうかもしれないと誰もが思っていたのです。ところが、私が夜勤でフロアを巡回していたとき、その利用者から「トイレに行きたい」という申し出がありました。私はトイレに行っても排泄は難しいのではと思いつつも、先輩と2人で何とかその利用者をトイレに連れて行ったのです。すると、予想に反して、しっかり排泄をすることができました。
――このようなエピソードの後にさとひろさんにも変化はあったのでしょうか?
その利用者さんの体調も徐々に回復し、普通の生活を取り戻すことができたのです!この出来事をきっかけに、私は施設内の改善に取り組むようになりました。その1つが、食事の時間に使う椅子です。職員の仕事効率を考えると、利用者を車いすに座らせたまま食事させた方が簡単です。しかし、車いすは背もたれがやや後ろに倒れている構造です。その影響で食べ物が肺に入りやすくなったり、食べこぼしがあって満足に食事ができなかったりすることもあります。多少手間はかかりますが椅子に移動させて座っていただき、食べやすいように椅子の脚を切って調節するなどの工夫をしました。その結果、利用者が車いすから椅子に座る状態で満足に食事が取れるようになったなど、大きな改善が見られるようになったのです。
利用者のうれしい変化の兆しに気づき、それを成功体験として積み重ねることができたので、私は介護職にやりがいを感じられるようになりました。
――一方で、つらいこともあるかと思います。
歳を重ねるうちに、夜勤は体力的につらいですね。また、職場の傾向としてストレスが溜まりやすいので、愚痴っぽくなり、人間関係が悪化しやすくなるのではないかと感じることがあります。
また、職員がどれだけ努力して利用者の生活と症状に改善が見られても、結果的に報われない場合もあります。そんな時に自分の仕事の意義を考えて、心苦しくなることもありました。
――それはどのように乗り越えたのでしょうか。
月並みですが、「ありがとう」の一言は大きいですし、心の支えになります。利用者やその家族にお礼や、「この施設に入れて良かった」と言われると、自分の仕事の意義を改めて実感できますね。
――介護職に就かれて20年を経過していますが、継続の秘訣はありますか?
私が利用者の生活環境の改善を行い、目に見える効果を実感できるよう、良い事例を考え、実行し、成功体験を積むことです。
では、それができるようになるためにはどうすれば良いかというと、ただ単にルーティーンに沿って業務をこなすだけではなく、利用者目線で考えることです。私の場合、「その利用者に今必要なものは何か」「介護の質を下げずに職員の負担を減らせるか」など、日々考え続けてきました。
介護業界は離職率が高く、今の施設が合わないから別の施設に転職するといったケースも少なくありません。しかし、どこの施設でも抱えている問題はだいたい似通っています。職場環境が嫌で辞職した人は、次の施設も同じような理由で嫌になり辞職するということを繰り返します。こうした負のサイクルを避けるためにも、現時点の施設内の課題を見つけ、改善を図ることが重要です。それによって職場の環境が良くなり、仕事を続けやすい環境が整うと思います。
――仕事をする上で心がけていることを教えてください。
課題を見つけて、改善することです。利用者の生活をより良くすることはもちろん、職員が働きやすくなる環境も意識的に考えることを心がけています。だからこそ、職員にも自分で考えることの大切さを伝えています。
一方で、考えすぎて一人で抱え込まないようすることも意識してもらっています。相談しやすい人を見つけて、周囲と協力しながら改善してほしいですね。
――最後に介護職を目指している方、実際に就こうか迷っている方に向けてメッセージをお願いします。
「介護福祉士=薄給」というイメージを持たれがちですが、処遇改善が進んでいますので、思っているほど悪くはないと感じています。私のように資格を取得してキャリアチェンジをしながら同じ業界内で働けたり、介護福祉士としての経験を積みながら昇級したりすることも可能です。つまり、意外にも介護福祉士はキャリアアップの幅が広いと思います。
入職前に施設を見学する際は、職員のいる事務所ではなく、利用者がいるフロアを見学することをおすすめします。利用者や職員の様子に違和感を覚えたら、働きやすい環境とは言い難い可能性が潜んでいます。
確かに介護業界は体力的にも精神的にもつらいことがあるかもしれません。その反面、人と接するからこそ得られるやりがいも多くあります。今はYouTubeでも介護業界に関する情報が数多く発信されていますので、興味のある方はまずは調べてみることから始めてみてくださいね。