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2022-11-22
介護職がおこなえる医療的ケアの範囲は?可能なケアと担当するために必要な条件を徹底解説!
利用者の中には、喀痰(かくたん)吸引や経管栄養などの医療的ケアを日常的に必要とする方がおられます。
しかし、それらの医療的ケアは誰でもできる訳ではなく、一定の条件をクリアした介護職だけがおこなえる業務です。今回は医療的ケアの内容と介護職が実施するための条件について紹介します。医療的ケアができれば、介護職としての専門性が高くなり、利用者のケアに役立つでしょう。専門性の高い介護職を目指す方はぜひ参考にしてください。
介護の医療的ケアとは?
介護における医療的ケアとは、日常生活で必要な血圧測定・服薬介助・喀痰吸引・経管栄養などを指します。医療的ケアは医師や看護師など免許を有する人がおこなえる「医療行為」とは異なります。
介護職の医療行為は法律違反です。しかし、医療的ケアに関しては特定の条件を満たしている場合に限り、介護職でもケアできます。
すべての介護現場において、医師や看護師などの医療職の配置がないため、医療的ケアが必要な方の行き場が少なくなることから、2012年に「介護士による医療行為」が許可され、介護現場での医療行為の基準が明確になりました。
介護職がおこなえる医療的ケア
具体的に介護職がおこなえる医療行為についてみていきましょう。
どの介護職でもおこなえる医療的ケア
介護職がおこなえる医療的ケアは次の通りです。
● 体温計を使った体温測定
● 自動血圧測定器を使った血圧測定
● パルスオキシメータの装着(入院治療が必要のない場合のみ)
● 専門的な判断や技術を必要としない軽い傷ややけどの処置(ガーゼ交換可)
● 医薬品使用の介助(容態が安定しているまたは、医師や看護師の継続的な観察が必要ではない)
● 一包化された内用薬の服薬介助
● 湿布を貼る
● 軟膏を塗る(床ずれの処置は含まない)
● 点眼
● 座薬の挿入
● 鼻腔粘膜への薬剤噴霧
多くの医療的ケアを求められることもあるため、手順や基準値などの基本情報は覚えておくと良いでしょう。
条件付きで介護職がおこなえる医療的ケア
医療的ケアとは、条件が一致した場合に限り、介護職がおこなって良いとされているケアです。ただし、医師等による専門的な管理が必要な場合は、医療行為とみなされます。
● 耳掃除(ただし耳垢栓塞の除去は不可)
● 爪切り(爪やその周辺の皮膚などに異常がなく、糖尿病などの疾患に伴う専門的な管理が必要ない場合のみ可)
● 口腔ケア(歯周病などの異常がない場合のみ可)
● カテーテルの準備や体位の保持
● ストーマのパウチに溜まった排泄物の除去(肌に接着したパウチの取り換えは不可)
● 市販の浣腸薬による浣腸(使用する浣腸に規定あり)
疾病やケアをおこなう部位の状態によっては実施できないため、日頃の観察や情報収集が大切です。
一定の条件をクリアした介護職のみがおこなえる医療的ケア
実地研修を受講した介護福祉士、および実務者研修修了者、また研修を受けた介護職のみが実施できる医療的ケアが次の2つです。
● 喀痰吸引(口腔内・気管カニューレ―内部・鼻腔)
● 経管栄養(胃ろう・腸ろう・鼻腔)
喀痰吸引や経管栄養の実施には、医師や看護師などの医療関係者の管理と介護職の連携体制が整っている必要があります。また、本人や家族の同意を得ているという条件付きで実施可能です。
上記の医療的ケアに対応するための条件は次の通りです。
実施できる条件は、2016年1月以降の介護福祉士合格者または、認定特定行為業務従事者認定証を持つ介護職です。また、就労先が都道府県に登録していることも条件になります。
上記の条件をクリアしなければ、介護職は喀痰吸引・経管栄養に対応できないため注意が必要です。
喀痰吸引についてはこちら(「介護福祉士・技術講習を受けた介護職ができる医療的ケアその①喀痰吸引」)、経管栄養についてはこちら(「介護福祉士・技術講習を受けた介護職ができる医療的ケアその②経管栄養」)で詳しくご紹介します。
介護職がしてはいけない医療行為
介護職ができない医療行為には次のものがあります。
● インスリン注射
● 血糖値測定
● 点滴の管理
● 摘便
● 褥瘡の処置
インスリン注射は、糖尿病患者が血糖をコントロールするための皮下注射です。介護職は、インスリンを含めた、穿刺(せんし)行為は禁止されています。血糖値測定や点滴にも穿刺行為があるため、介護職では対応できません。
摘便は、自力での排泄が難しい人の直腸に指を差し入れ、肛門から便を排出させることです。腸壁を傷つけるリスクがあるため、介護職がおこなうことはできません。
寝たきりの高齢者には褥瘡(床ずれ)ができやすくなりますが、介護職の処置は認められていません。処置が必要な場合は、看護師または医師に報告すると良いでしょう。
喀痰吸引や経管栄養ができることは、介護職としてスキルがあるという証明になります。専門性の高さから、就職や転職で有利になるだけではなく、職場によっては手当がつく場合もあります。
続いては、喀痰吸引と経管栄養はどのようなケアなのか、確認していきましょう。
技術講習を受けた介護職ができる医療的ケアその①喀痰吸引
喀痰吸引は介護の現場において非常に身近な医療的ケアです。喀痰とは唾液・鼻汁(鼻水)・肺・気管などから排出される老廃物・小さなホコリなどを指します。喀痰吸引とは、自力で喀痰を吐き出せない利用者を対象に、吸引装置と吸引カテーテルなどの器具を使用して取り除くことです。喀痰吸引には気道を確保し、肺炎などの感染症を予防する効果があります。
【喀痰吸引が必要な理由】
人間は呼吸時に、外気に含まれる小さなホコリなどを一緒に吸い込んでいます。それらは気管の表面にある粘液に付着し、くしゃみや咳払いなどによって、鼻水や唾液と共に体外に排出されることがほとんどです。
しかし、高齢になると嚥下機能の低下や気管切開などの理由で、自力で喀痰を排出することが難しくなります。
喀痰を体内に留めたままにしておくと、誤嚥や呼吸困難、気道閉塞などの重大なリスクがあるため、喀痰吸引が必要です。
技術講習を受けた介護職ができる医療的ケアその②経管栄養
経管栄養は胃ろうと腸ろうの2種類あります。
経管栄養は、自力で食事ができない人の腹部に穴孔(あな)を作り、チューブやカテーテルを挿入して胃や腸に直接栄養剤を注入することです。
胃に注入することを「胃ろう」、腸に注入することを「腸ろう」と呼びます。短期間であれば鼻からチューブを通して栄養補給する「経鼻経管栄養」をおこないますが、経鼻経管栄養が4週間以上続くようであれば、胃ろうまたは腸ろうに切り替えることがほとんどです。
胃ろう・腸ろうのメリットとデメリット
胃ろうと腸ろうのメリットとデメリットは以下の通りです。
経管栄養のメリットは以下の通りです。
【栄養を補給しやすい】
消化器官に直接栄養を入れるので安定してスムーズな栄養摂取ができるため、栄養状態を維持しやすい。
【不快感が少ない】
一度造設することで鼻や喉にカテーテルを通さずにおこなうことでき、身体の違和感が少なく衣類などで目立ちにくいため、精神的な負担も軽減できる。
【口からも食事ができる】
鼻や喉にカテーテルが通っていないため、口から食べる機能訓練(嚥下)がおこないやすく、胃ろうや腸ろうの造設後でも、経口へ移行したり経口と胃ろうを併用したりします。
【入浴や外出ができる】
体調などに問題がなければ外出や入浴ができます。
続いて、デメリットは以下の通りです。
【逆流することがある】
胃に注入した栄養剤が逆流や嘔吐してしまう場合があります。そのため、注入中は上体を30度以上、注入後も1時間ほど上半身を起こした状態で過ごす必要があります。
経管栄養は実施する対象者によっては非常にゆっくりおこなう必要があり、栄養剤の形状などに注意が必要です。
【穴をあける手術が必要】
経管栄養をおこなうためには、チューブやカテーテルを通すための穴孔(あな)を作る手術が必要です。この手術を一般的に経皮的胃ろう造設術(PEG/ペグ)といいます。
胃ろうと腸ろうの違い
胃ろうと腸ろうの違いは以下の通りです。
胃ろうと比べて腸ろうはチューブが細いため、栄養剤や薬が詰まりやすいので注意が必要です。また、腸ろうのチューブは胃ろうよりも細くて長いため、栄養の投与には時間がかかります。腸ろうは、直接小腸に栄養を入れるため栄養剤を入れるスピードが速すぎると、下痢や腹痛を起こす恐れがあります。
通常は「胃ろう」を作ることが多いですが、胃がんなどの疾患がある場合は、胃ろう造設が難しいため、腸ろうを選択することがほとんどです。胃ろうは使用している人自身で交換できるものもありますが、腸ろうはできません。チューブを交換したり抜けてしまったりした場合は、医療機関で対応してもらう必要があります。
続いては、医療的ケアをおこなうために必須の喀痰吸引等研修について、詳しくみていきましょう。
医療的ケアをおこなうなら必須!研修の内容を詳しくチェック
介護職として医療的ケアをおこなうために、必ず受講しなければならない「喀痰吸引等研修」ついてチェックしていきましょう。
医療的ケアをおこなうためには「喀痰吸引等研修」の受講が必要
医療的ケアをおこなうためには、基本研修(講義・演習)と実地研修の両方を修了する必要があります。基本研修は都道府県に登録された学校(登録研修機関)でおこない、実地研修は就業している現場で実施します。
医療的ケアは研修を受けた介護職が対応できますが、医療行為であることに変わりはないため、基本研修や実地研修の指導は医療職がおこないます。研修の終了後は都道府県に登録手続きをおこない、都道府県から認定証を交付されて、はじめて医療的ケアを実施できます。
喀痰吸引等研修の種類
喀痰吸引等研修には第1号・第2号・第3号研修と呼ばれる3種類の研修があります。それぞれの研修カリキュラムに含まれる基本研修・実地研修の両方を修了すれば、資格取得できます。
治療をおこなう利用者の症状や、実施できる処置方法によって分類されているため、自身の希望する研修を選択して受講できます。
受講資格
喀痰吸引等研修には学歴や経験などの受講資格はありません。そのため、未経験の方も受講が可能です。特定の資格を取得していれば、研修実施機関により一部研修が免除になるため、詳細については各実施事業所や市区町村の窓口に問い合わせてみてください。
喀痰吸引等研修の内容【第1号】
第1号研修の詳細を紹介します。第1号研修では、計50時間の講義・演習・実地演習が必須です。基本研修の演習では、看護師などの指導のもと、痰の吸引などの練習をおこない、十分な技術が身についたと判断されれば、勤務先でおこなう実地研修に進みます。
第1号研修の全課程が修了後、都道府県に「認定特定行為業務従事者」の認定申請が必要です。認定証の交付を受けた後「登録特定行為事業者」の登録を受けている事業所で医療的ケアをおこなえます。
学習内容 | 時間数または回数 | |||
---|---|---|---|---|
基本研修 | 講義 | 重度障害児・者の 地域生活等に関する講義 | 2時間 | 9時間 |
喀痰吸引等を必要とする 重度障害児・者等の障害及び 支援に関する講義 | 6時間 | |||
緊急時の対応及び 危険防止に関する講義 | 6時間 | |||
演習 | 喀痰吸引等に関する演習 | 1時間 | ||
実地研修 | 口腔内の喀痰吸引 | 回数に限りはなく、 医師などが十分知識や技術を 習得した受講者と認めるまで実施 |
||
鼻腔内の喀痰吸引 | ||||
気管カニューレ内部の喀痰吸引 | ||||
胃ろうまたは 腸ろうによる経管栄養 |
||||
経鼻経管栄養 |
参考:厚生労働省「喀痰吸引等研修の概要」
喀痰吸引等研修の難易度は?
筆記試験の合格率は公表されていませんが、第1〜3号のいずれも選択式の問題形式となっており、9割以上の得点で合格となります。9割と聞くと難易度が高いと思われるかもしれませんが、研修の内容をきちんと理解していれば決して難関ではありません。
まとめ
近年、介護現場でも医療ニーズが高くなっています。介護職のおこなえる医療的ケアは今後拡大するかもしれません。
医療的ケアができる介護職は貴重な存在なので、研修を受け資格を取得した介護職はまだ少ないですが、活躍の場は大きく広がっていくでしょう。
医療的ケアに対応できれば、さらに多くの利用者の役に立てるだけでなく、事業所によっては手当がつき収入アップにつながる場合もあります。また、転職の際には大きなアピールポイントになるでしょう。ぜひ喀痰吸引等研修の資格取得に挑んでみてはいかがでしょうか。