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経営・業務改善

2022-09-05

介護はICTでこんなに変わる!メリット・デメリットと成功事例

介護業界でも耳にすることが増えてきた「ICT」。特に管理職の方々にとって、介護の現場にICTをどう取り入れるかは大きな課題となっています。しかし、身近になってきたとはいえ「そもそもICTってなに?」「どんなメリットがあるの?」という方も多いのではないでしょうか。この記事では、介護の現場にICTを取り入れることで、どのようなメリット・デメリットがあるのか、どうすれば導入に成功するかなどの事例も含めてご紹介します。

介護業界にICTは必要?

ICT技術は、私たちの身の回りでさまざまに活用されていますが、近年は厚生労働省が旗振り役になって介護現場でもICT化を推進しています。では、ICTを活用することで介護業界はどう変わるのでしょうか。

そもそもICTとは?

介護業界のICT化について考える前に、まず「ICTとはなにか」についてご説明します。

ICTとは「Information and Communication Technology」の略称で、日本語では「情報通信技術」という意味になります。
「技術」という単語が使われてはいますが、単に技術だけを指すのではなく、「技術を使って人々の暮らしをどう豊かにするか」という点が重視されています。

ICT化の具体例としては銀行のオンラインバンキング、スマートフォンやタブレットなどの端末、ネットショッピングのシステム、バーコード決済などが挙げられます。どれも私たちの生活にとって非常に身近なものであることがおわかりいただけると思います。

介護業界こそICTが必要

すでにお伝えしたように、ICT技術の普及は介護業界でも積極的に進められています。しかし、なぜ介護業界にICTが必要なのでしょうか。その理由についてご説明していきます。

・超高齢化により要介護人口が急増する

総務省統計局の調査によると、2021年9月時点において、総人口が前年に比べ51万人減少している一方、65歳以上の高齢者人口は、前年の3,618万人に比べて22万人増加し、過去最多の3,640万人となっています。また総人口に占める高齢者の割合も29.1%と、前年(28.8%)に比べ0.3ポイント上昇し過去最高となりました。

今後、高齢化の傾向はさらに進むと言われ、それにつれて介護を必要とする高齢者も増加することが予想されます。介護業界の人手不足も続くため、その分をICTで補うことが必要になってきます。

参考:総務省統計局「1.高齢者の人口

・少子化により介護人材が不足する

高齢化と共に少子化も進んでいる日本において、今後、介護人材の不足が加速することは明らかです。人材が不足すると少人数で現場を回さざるを得ず、急ぎの対応に追われがちになり、新人や経験が少ないスタッフに対する丁寧な指導がおろそかになる恐れがあります。

その結果、スタッフ一人ひとりの負担が大きくなり、耐えられず退職してしまうという悪循環になってしまうため、ICTで人材不足をカバーする必要が出てきます。

・働き方改革を実現するため

2019年4月に施行された「働き方改革」により、介護業界でも長時間労働やスタッフの処遇、慢性的な人手不足などの改善が必要と指摘されてきました。例えば、要介護者の身体状態の記録や情報共有などは介護において重要な業務ですが、紙による記録・対応を行っている施設や事業所もまだ多いのが実情です。

そういった介護以外の業務をICTで対応できれば、本来、人の手が必要な介護の部分に時間をかけることが可能になります。そう考えると人手不足が著しいと言われる介護業界こそ、迅速なICT化が必要と言えるでしょう。

介護にICTを導入するメリット

では、実際に介護業界にICTを導入するとどのようなメリット、またデメリットがあるのでしょうか。具体例を挙げながらご紹介していきます。

メリット① 業務を効率化できる

介護の現場では、介護記録の記入をはじめさまざまな事務作業があります。しかし、小規模事業所が多いため、総務や経理、人事などの分野で専門の職員を置く余裕がないというケースが珍しくありません。しかもそれらの事務作業を手作業で行っている施設・事業所も多く、業務の効率化ができているとはとても言えない状況です。そこで、時間を取られる事務作業をICT化できれば、ぐっと効率化に近づき、スタッフの負担も軽くなるはずです。

例えば、訪問介護でも、要介護者の状態を紙に記入する方法では事業所に戻ってから再度、Excelやシステムに入力しなければならず、二度手間になってしまいます。しかしICT化すれば、ホームヘルパーが訪問先や移動時間にタブレットなどを使い、空き時間を活用して介護記録の入力が完了します。

メリット② スムーズな情報連携ができる

ICT化には、介護施設と病院・診療所などの他機関と情報の連携がしやすくなるメリットもあります。例えば、介護施設でサービスを受けている方、訪問介護を利用している方などが体調を崩し、一時的に入院するというケースを経験した介護者も多いことでしょう。そのようなときに紙ベースで利用者の情報を管理していると、他機関と情報を連携する際に印刷したデータを郵送したり、FAXで送信したりしなければならず、非常に手間がかかります。

一方、ICT化を行っていればメールにデータを添付して送れますし、もし関係者がひとつのデータを共有できる介護システムなどを活用していれば、よりスピーディ―な情報の共有が可能になります。

メリット③ 介護ケアの質の向上

ICT導入によるデータのデジタル化は、介護サービスの質の向上にも役立ちます。情報をデジタル化して他のデータと組み合わせることができれば、紙ベースよりも幅広い活用が可能になり、より多くの分野において分析できるようになるため、結果的に介護サービスの質を向上させられるはずです。

介護にICTを導入するデメリット

ICTを導入すると多くのメリットがありますが、注意しなければいけない点もあります。ICTを導入する際にどのようなデメリットが生じる可能性があるのか、見ていきましょう。

デメリット① コストがかかる

ICT化の最も大きなデメリットは、導入コストがかかることです。まず施設・事業所内のインターネット環境の整備、パソコン・タブレットなどの購入などの初期費用が必要になり、それらを使い続けるランニングコストもかかります。一気にICT化を進めようとする場合には、どれくらいの費用が必要か注意しておきましょう。

デメリット② 操作できるようになるまでに時間がかかる

パソコンやタブレットなどのIT機器を使い慣れている人ばかりではありません。苦手意識があるスタッフに対しては、使い方を教える手間がかかりますし、慣れるまでにある程度の時間も必要です。活用を個人に任せていると、せっかく費用をかけてICT化を進めたのに、面倒で使われなくなってしまったという状況にもなりかねません。

デメリット③ 個人情報漏えいのリスクがある

データをデジタル化すると、利用者の個人情報が漏えいするリスクがついてまわります。そのため施設・事業所での個人情報の取り扱いや管理方法などを確立し、周知徹底する必要があります。

介護でICTを活用した成功事例

介護でICTを用いて、業務の効率化やスタッフの負担軽減につなげた成功事例をご紹介します。

介護記録のICT化で事務的な負担が軽減

介護の記録業務が負担になり、本来のケア業務にかける時間が圧迫されて、定時を過ぎても記録作成が終わらないという悩みを抱える施設・事業所もたくさんあります。しかし、スマートフォンやタブレットなどで、利用者の食事や排泄の状況、バイタルなどを入力できる記録システムを導入したことで、記録業務にかかっていた時間の大幅な短縮につながりました。

見守りセンサー導入で介護負担が軽減

介護の現場において、利用者の安全の確保は非常に重要な業務のひとつです。歩行中につまずいたり、車椅子やベッドへの移乗の際に転倒したりするなど、利用者が大きなケガをしてしまう恐れがあるため、常にスタッフの見守りが欠かせません。

しかし、限られた人員ですべての利用者から一度も目を離さずに安全を確保することは、ほぼ不可能です。スタッフの目が届かないときにも転倒などの事故を防ぐためには、ICTを活かした見守りサービスなどが有効です。

ある施設では、利用者のベッドにセンサーを取り付けた結果、介護スタッフが常に側にいなくても利用者のバイタルや身体状況の変化、身体の動きなどを把握することができました。さらに何らかの異常や変化があったときにアラートを鳴らす機能があれば、離れた場所からでもより効率的な見守りが可能になるはずです。

予知器具の導入で排泄ケアの負担を軽減

排泄ケアは、利用者のQOL(生活の質)に大きく関わる重要な業務ですが、排泄のタイミングは人それぞれであり、かつ日によって大きく異なるものでもあるため、適切なサポートはなかなか難しいものです。

ベテランの介護職員は、利用者ごとの排泄リズムを把握していることもありますが、全スタッフで共有するのは困難です。結局、本人に確認したりおむつをチェックしたりして、こまめに確認する以外方法がないと諦めている施設・事業所も少なくありません。

しかし、ICTによる排泄予知器具を使ったところ、適切な排泄のタイミングがわかるだけでなく、個々の利用者の排泄データを残すことができるため、パターンを把握することにつながりました。さらに入浴やレクリエーションの参加時間の調節もできるようになったと言います。

まとめ

介護業界におけるICT化について見てきましたが、少子高齢化が止まらない日本では、今後ますます介護における人手不足は加速することが予想されています。人手不足を補うためには、ICT活用による作業の効率化は必須と言ってよいでしょう。

さらにICT活用により、介護記録や排泄のタイミングチェックなどの業務をどんどん機械に任せることで、スタッフは本来最も重視したい介護ケアに集中でき、介護の質の向上が期待できます。そうすれば介護をする側も受ける側も、両方にとって多くのメリットがあると言えるでしょう。

一方、介護現場へのICT導入にはコストもかかり、介護スタッフがIT機器に慣れなければならないなどのデメリットもあります。そういった点も考えながら、最初は無理のない範囲でICT化を進めていくこともひとつの方法です。

またコスト面が気になるという場合は、国や自治体などが設けている補助金制度の利用も考えてみてはいかがでしょうか。近年は、介護のICT化における意識が進み、さまざまな取り組みやIT機器が存在しています。施設・事業所の目的に合わせ、適切なものを導入してみてください。

石井 英男

第2種情報処理

東京大学大学院工学系研究科材料学専攻修士課程修了。工学修士。フリーライター歴は30年を超える。PC/IT系からSTEM教育、医療分野まで幅広い分野で執筆を行っており、多くの媒体に寄稿している。インタビュー経験も豊富で、トップインタビューから導入事例までさまざまな実績がある。セキュリティ関連や経営関連のオウンドメディアなどへの執筆も多数行っており、最近は、AIや量子コンピューター、SDGsなどの分野の記事執筆も増えている。