介護情報メディア ケアケア 介護士向けコラム 介護業界の常識 介護現場ではなぜ人間関係で悩む人が多いのか?原因と対応策を徹底解説

介護業界の常識

2022-09-05

介護現場ではなぜ人間関係で悩む人が多いのか?原因と対応策を徹底解説

介護業界で働く人は、優しく、人の役に立ちたいと思って一生懸命に業務に取り組んでいる方が多いです。しかし、介護労働安定センターが実施した調査では、介護の仕事を辞めた理由に人間関係を挙げた人が少なくありません。どの職種でも人間関係の問題はありますが、介護業界は特に悩みや不安、不満を抱えている人が多いことが指摘されています。なぜ介護現場では人間関係で悩む人が多いのか、また改善するためにはどうすればよいのか、その原因と対策を紹介します。

人間関係の悩みはなぜ起きるのか?

慢性的な人手不足といわれる介護業界ですが、「介護労働実態調査の結果」(2020年度)によると、離職率は14.9%と減少傾向になっています。さらに詳しく見てみると、離職者のうち全体の約6割を占めるのが、3年未満のスタッフでした。つまり、勤続年数が短いほど辞める人が多いことがわかっています。

離職の理由には、結婚・出産、収入の少なさなどがありますが、職場の人間関係を理由に挙げた人も23.9%に上っています。人間関係が悪化する主な要因には、「多忙でこころに余裕がなくなる」、「コミュニケーション不足」、「ルールがあいまい」などがあります。

参考:介護労働安定センター「介護労働の現状について~令和2年度介護労働実態調査の結果

理由① 多忙でこころに余裕がなくなる

人間関係を悪化させる要因のひとつが、「多忙でこころに余裕がなくなる」ことです。介護の現場には、直接業務と間接業務があり、さまざまな仕事を覚える必要があります。直接業務とは、利用者への食事介助排泄介助、入浴介助などの身体に関わる直接的な介護です。間接業務は、洗濯や食事の準備、掃除などの間接的な業務を指します。現場では、どちらも欠かすことのできない大切な仕事です。

新しい仕事先では、利用者ごとの直接業務を覚え、さらに間接業務を行う必要があります。スタッフが不足している職場では、ベテランの負担や業務量が増し、こころの余裕がなくなるケースもあります。普段であれば気にならない仲間の些細なミスや言動にもイラついたり、時間に追われることで言葉がきつくなったり、表情が険しくなったりすることで、スタッフの仲が悪化することもあります。

理由② コミュニケーション不足

スタッフ同士の「コミュニケーション不足」も、人間関係に悪影響を及ぼします。介護の現場で働く人は、10代後半から70代以上の方もいます。育った時代や学歴、職歴など背景もさまざまです。無資格、未経験で働き始めた人、さまざまな介護現場でキャリアを重ねてきた人も同じ職場で働いています。そのため、スタッフ間のコミュニケーションがうまくいかないと、スキルや価値観の違いなどから人間関係が悪化することがあります。

また、特別養護老人ホームや認知症対応型共同生活介護(グループホーム)などの施設系では、早朝、遅番、夜勤といった交代制を取っているのが一般的です。勤務する時間帯が違うと情報共有できる時間も限られてしまい、コミュニケーションを取りづらい現状もあります。派遣社員やパート・アルバイトで働いている人も多いので、パイプ役となる管理者やリーダーが機能していないと、良好な人間関係を構築できないこともあります。

理由③ ルールがあいまい

ブラックな介護事業所の特徴として挙げられるのが、「ルールがあいまい」なことです。目指すケアの方向性を明確にしていないと、スタッフ独自のケアになってしまう可能性があります。

例えば、「私のときはこうだから」、「あの利用者さんにはこれがいい」など個々が自分の思うまま、感覚のままにバラバラなケアを主張していれば、価値観の違いが生じます。また、業務の早く終わるケアを良いと考えているスタッフの意見が強ければ、たとえ業務時間が過ぎても丁寧にケアしている人にとってはおもしろくありません。

ルールがあいまいだと、暗黙のルールが横行することにもつながります。暗黙のルールは利用者へのサービスよりも、事業所の事情やスタッフの力関係に左右されることが多く、不適切な内容でも従わなければいけないことの悩みや、不満を抱えることでチーム内に不協和音が生じることも少なくありません。

組織のマネジメント不足

介護の現場で人間関係が悪化する背景に、組織マネジメントの不足も指摘されています。組織の理念や方針、運営体制があいまいだと、「不適切なケア」が放置される恐れもあります。また、「介護リーダーの育成」をおろそかにしている組織では、職場の雰囲気がギスギスしてしまう可能性があるため要注意です。

不適切なケアの放置

組織のマネジメントで問題視されるのが、「不適切なケア」の放置です。不適切なケアには、身体的虐待、精神的苦痛を与える心理的虐待などがありますが、人間関係に影響を与えるのが、いわゆるグレーゾーンの不適切ケアです。

グレーゾーンの不適切ケアには、①利用者自身でできる着脱を時間がかかるという理由で全介助する、②利用者の呼びかけに対し長い時間放置する、③命令口調で利用者へ対応する、などがあります。

組織としての介護理念や全体の方針がないと、こうしたグレ―ゾーンのケアを「人手不足や事故防止のため仕方がない」と受け入れる人も出てきます。これに対し、利用者の自立や尊厳を大切にするように学んできたスタッフの間では感覚にズレが生じ、意見が対立して人間関係が悪化するケースも少なくありません。

介護リーダーの育成

介護はチームアプローチが大切な仕事です。そのため、介護リーダーの役割は非常に重要です。スタッフ間の良好な人間関係の構築には、専門的な知識・技術のほかに、円滑な人間関係を築くためのヒューマンスキルを持つリーダーの存在が欠かせません。

しかし、介護リーダーの研修や育成を怠っている組織では、管理体制が不十分で、職場の雰囲気が悪くなることも少なくありません。組織としてリーダーを育成する風土がなければ、リーダー自身も孤立し、スタッフの人員配置や業務量で多忙を極め、大きなストレスを抱えて苦しむケースもあります。リーダーの心身の不安定さがスタッフに伝わることで、職場内がギスギスした雰囲気になる危険性は高いです。

人間関係が良くなるポイント

人間関係が良好な職場では、コミュニケーションが円滑に取れているため、助け合いの気持ちも強くなってきます。必要な情報も共有され、スタッフみんなが納得したケアを提供できるので、職場の雰囲気も和やかになります。

こうした働きやすい職場では、離職率も低下します。介護の現場で人間関係を改善させるポイントには、「業務の効率化」「ラポール(信頼関係)の形成」「相談窓口をつくる」ことが挙げられます。

業務の効率化

介護とひと口にいっても、施設系(特別養護老人ホーム、デイサービスなど)と訪問介護(利用者の自宅で行う支援)では、忙しさも異なります。それぞれの現場に合わせた業務の効率化が必要ですが、主に間接業務といわれるものを改善することで、深刻な人手不足の緩和や業務負担の軽減につながります。

間接業務には、掃除や洗濯、記録の入力などがあります。こうした仕事の担い手として期待されているのが、地域の高齢者です。元気な高齢者に介護助手として手伝ってもらうことで、スタッフの負担も軽減されて、職場環境の改善にも役立ちます。各自治体でも力を入れているところが多いので、行政機関に問い合わせてみるのもおすすめです。

また、ICT機器やソフトウェアの導入には、国からの補助金や助成金を利用できる制度も増えています。

ラポール(信頼関係)の形成

ラポールとは、互いの信頼関係が成立していることを意味する心理学用語です。介護の現場では、利用者とのラポールの形成が重要ですが、同時にスタッフ間のラポール形成も大切です。人間関係の難しさに悩んでいるのは、スタッフだけでなく管理者やリーダーも同様です。より良い関係を築くための手段として、ラポール形成の方法を活用するのは、おすすめです。

ラポール(信頼関係)を築くための技術には、ペーシングとミラーリングがあります。ペーシングは、相手の速度や声の大きさ、表情などに合わせて話すこと、ミラーリングは、相手と動作やしぐさを合わせることで、どちらもコミュニケーションのスキルです。ラポールの形成には時間がかかりますが、信頼関係が深まれば、人間関係は改善し、職場に対する満足度も高くなることが考えられます。

相談窓口をつくる

介護労働安定センターの調査によると、相談窓口がない事業所は、相談窓口のある事業所と比較して、労働条件に関する悩みが多いことがわかりました。なかでも不満や不安で多かったのは、「仕事内容の割に賃金が低い」、「有休が取りにくい」、「精神的にきつい」などでした。

一方、相談窓口がある職場では、「悩みや不安、不満を感じていない」という声がスタッフから多く聞かれました。介護職は、人と密接に関わる機会が多いため、人間関係のストレスが高い傾向にあります。こうしたことからも、事業所内に安心して、気楽に相談できる窓口を設けることは、職場環境を良くすることにつながるといえます。

まとめ

介護の現場は忙しく、幅広い年代、さまざまな背景を持つ人が働いています。そのため、スタッフ間のコミュニケーションが不足したり、ルールがあいまいで独自のケアを主張し合ったりしてしまうと、対立して人間関係が悪化することがあります。

また、組織の理念や方針、運営体制が定まらず、組織マネジメントがおろそかになると、不適切なケアが放置されて職場の雰囲気も悪くなり、悪循環に陥る恐れもあります。

職場の人間関係を改善させるには、業務の効率化を図り、スタッフの負担を減らすのも効果的です。こころに余裕が生まれることで申し送りや日々の会話もスムーズになり、助け合いの気持ちも強くなっていきます。そのためには日ごろからの信頼関係の形成が重要で、事業所内に相談窓口を設けることも不満や悩みの解決に役立ちます。

大屋 覚

介護福祉士
保育士
ソーシャルワーカー

大学卒業後、放送作家・プロデューサーとしてメディアコンテンツ制作に携わった後、欧米で研究が進むマインドフルネスを学ぶため社会人として大学院へ入学。「心理学と福祉と情報」の融合的・機能的な研究に取り組む。現場での経験を経て、東京都にて「ツナガレ介護福祉ケア」、「障がいSОS!相談支援ツナガレ」の介護福祉総合サービス事業所を設立。作家・LIVE活動を通して、日本の社会福祉の課題や情報も発信中。早稲田大学大学院修了。