介護情報メディア ケアケア ケアラー向けコラム ヤングケアラー・若者ケアラー 海外のヤングケアラー支援の取り組みとは?日本のヤングケアラー支援における課題について解説

ヤングケアラー・若者ケアラー

2022-11-08

海外のヤングケアラー支援の取り組みとは?日本のヤングケアラー支援における課題について解説

「ヤングケアラー」という言葉をご存じでしょうか。ヤングケアラーとはイギリスで生まれた言葉です。障害や病気、高齢などの理由でケアを必要とする家族や幼いきょうだいの世話などを日常的におこなっている、18歳未満の児童のことです。ヤングケアラーは日本でも年々増えつつあります。今回はイギリスをはじめ、海外のヤングケアラー支援の流れや取り組みについて事例を交えながら紹介します。

日本のヤングケアラー認知度とは?

ヤングケアラー」という言葉は日本でも少しずつ聞かれるようになってきました。しかし、令和2年度におこなわれた「子ども・子育て支援推進調査研究事業」によると、ヤングケアラーの認知度は「聞いたことがあり、内容も知っている」が29.8%、「聞いたことはあるが、よく知らない」が22.3%、「聞いたことはない」が48.0%と、聞いたことがないという人が約半数を占める結果になっています。
一般的な認知度は意外に低い結果ですが、実際にヤングケアラーはどれくらい存在しているのか確認していきましょう。

日本のヤングケアラー人口

「子ども・子育て支援推進調査研究事業」の調査によると、「世話をしている家族がいる」と答えた中学2年生は5.7%、全日制高校2年生は4.1%となっています。
これは日本全国の中学2年生17人に1人、全日制高校2年生24人に1人の割合という計算です。現在、中学校1クラス当たりで30人ほどなので、クラスに1~2人のヤングケアラーが存在することになります。
ヤングケアラーの実態や問題点についてはこちらで詳しくご紹介しています。ヤングケアラーが抱える問題の解決に向けて、どのような支援がおこなわれているのかを見ていきましょう。

日本でおこなうヤングケアラー支援

文部科学省は家庭内のデリケートな問題であること、当事者である本人や家族に自覚がないなどの理由から、支援が必要なヤングケアラーが表面化しにくい構造に着目。
その改善に向けて多方向から支援をおこなえるよう福祉・介護・医療・教育の連携プロジェクトチームを結成し、喫緊の取り組みとしてヤングケアラーの早期発見と把握に注力しています。
その他、日本精神保健福祉協会は「子どもと家族の相談窓口」を設置し、家族の問題で悩んでいる若者からの相談を受けています。

また地域における相談支援において中核的な役割を担う基幹相談支援センターは、障害者・障害児がいる家庭を支援するため、総合相談、権利擁護、地域の相談支援体制の強化などを実施。家族のケアに時間を取られて就職が難しい高校生・大学生のヤングケアラーを支援する「新卒応援ハローワーク」も設置しています。

民間企業やNPO団体もヤングケアラー支援に乗り出しています。日本財団は自治体と連携し、ヤングケアラーの早期発見、支援につなげるモデル事業を検討する「自治体モデル事業」、民間団体への支援・連携によるヤングケアラー支援の拡充などを開始。

特定非営利活動法人「ふうせんの会」はヤングケアラー同士で交流する場を設け、元ヤングケアラーがアドバイザーとなり、相談支援する事業をおこなっています。日本でも近年、前向きな取り組みが次々とおこなわれるようになってきました。

近年、国はもちろん民間企業もさまざまな支援をおこなっていますが、そこに課題も存在します。次は、それらの課題について説明します。

日本のヤングケアラー支援が抱える4つの課題

2020年12月から2021年1月にかけて、厚生労働省と文部科学省が連携し、ヤングケアラーの実態調査がおこなわれました。公立の中学校1000校と全日制の高校350校を抽出し、2年生にインターネットでアンケートを実施。およそ1万3000人から回答を得ました。
その結果から見えてきた、日本のヤングケアラー支援が抱える課題について紹介します。

課題1.ヤングケアラーの早期発見が難しい

国内や海外の事例からもわかるように、ヤングケアラーを見つけるのは非常に難しいことです。理由として、ヤングケアラーは本人に自覚がなかったり、家族の問題を知られたくないと隠したりするためです。自ら声を上げるケースが少ないので、国はまずヤングケアラーを早期に把握し、支援につなげることが重要だと考えました。

【課題の対策】
生徒の中に欠席や忘れ物が多い、宿題を提出できないことが多いなど、問題が見られる子どもに着目し、原因に家族の世話や介護があった場合は、スクールカウンセラーやソーシャルワーカーと連携、自治体が提供する福祉のサービスにつなぐことを想定しています。また、地域の実情を把握するため、自治体ごとに独自の実態調査をおこなうことが推進されています。

課題2.どこに相談したらいいかわかりにくい

実態調査ではヤングケアラーの6割以上が、誰かに相談した経験がないと答えています。これは自覚がない、他人に家庭について話したくないなどの理由もありますが、そもそもどこに相談したらいいかわからないのかもしれません。

【課題の対策】
家族の世話や介護を経験した人が、対面だけでなくSNSなどオンラインで相談を受け付ける取り組みを進めています。
また、子どもたちの相談にのるスクールカウンセラーやソーシャルワーカーの配置を支援して、相談機能を強化や福祉サービスの他、民間の学習支援などにつなげていくために取り組んでいます。

課題3.ヤングケアラーに対する認知度

潜在化しがちなヤングケアラーをいち早く見つけるには、教職員のヤングケアラーに対する理解をより深めることが大きなポイントです。それには教育や医療・介護・福祉などの関係者、および児童委員などを対象にヤングケアラーへの理解を深めてもらうことが欠かせません。

【課題の対策】
各地方自治体において教育委員会と福祉・介護・医療が合同で研修をおこない、スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーを含む教職員へヤングケアラーの概念など について理解の促進を図ることが重要です。

課題4.福祉・介護サービスの周知向上

同居する家族に病気の治療や介護が必要な場合、さまざまな医療・福祉サービスがあり ます。しかし、大人がその存在を知らない、あるいは子どもに家族のケアを頼むことを前提にしているため、ヤングケアラー化している可能性もあります。

【課題の対策】
ヤングケアラーの存在を理由に、介護サービスを利用する必要がないと判断されない取り組みが必要です。そこでヤングケアラーがいる家庭に対し、在宅向け介護サービスの提案・提供を十分に検討するよう、自治体などに周知しています。

海外のヤングケアラーに対する認識と取り組み

海外でもヤングケアラーの支援は盛んにおこなわれています。子ども・子育て支援推進調査研究事業」によると、取り組みが最も進んでいるのは、ヤングケアラーという言葉が生まれたイギリスで、多様な公的支援がおこなわれています

イギリスに次いでヤングケアラーの認識と取り組みが進んでいるのがオーストラリア、ノルウェー、スウェーデンの各国です。さらにヨーロッパや北アメリカの各国、ニュージーランドと続きます。

上記の各国以外でも、サハラ以南アフリカは”HIV/AIDS”の流行によって、病気の両親やきょうだいのケアをする状況が生まれています。
一方、日本を含めたアジア諸国は、ヤングケアラーの認識や取り組みが進んでいないとみなされている現状です。

■ヤングケアラーに関する各国の認識と取り組みの進展状況の分類

ヤングケアラー支援の進展度特徴該当する国
1
社会に組み込まれている/持続可能性がある
・ ヤングケアラーの経験やニーズに関して、政府や社会の全てのレベルで広く認識されている。
・ ヤングケアラーのニーズを満たし、ヤングケアラーの心身の健康と発達を増進する、持続的で持続可能性のある政策が実施されている。
・ 信頼できる調査結果と明確な法的権利に基づいた取組みや法律が存在する。
なし
2
先進的
・ 市民、政治家、専門家の間で、ヤングケアラーに関して広く認識されている。
・ 多くの信頼できる研究に基づいている、またはそのようになりつつある。
・ 国の法律でヤングケアラーに具体的な権利が定められている。
・ 福祉の専門家や、国・地方自治体の計画策定のための詳細な条文と施行ガイダンスがある。
・ 多角的なサービス提供と、国全体での取組みが実施されている。
イギリス
3
中程度
・ 市民、政治家、専門家の間で、ヤングケアラーに関して認識されている。
・ 中規模の研究に基づいている。また、研究が増えつつある。
・ ヤングケアラーに対して、部分的な権利が定められた地域がある。
・ 小規模ではあるが専門的な指針が体系化されつつある
オーストラリア
ノルウェー
スウェーデン
4
準備段階
・ 少しの市民や専門家の間で、ヤングケアラーに関して認識されている。
・ 限られた研究に基づいているが、研究は増えつつある。
・ 具体的な法的権利は定められていないが、他の法律を根拠としている、あるいは、他の法律がヤングケアラーに関係している。
・ 国や地方自治体において、ヤングケアラーに対するサービスや取組みが存在する場合も、数が限られている。
オーストリア
ドイツ
ニュージーランド
5
始まったばかり
・ 市民や専門家の間で、ヤングケアラーに関して認識されつつある。
・ 現在の研究は小規模ではあるが増加しつつある。
・ 具体的な法的権利は定められていないが、他の法律を根拠としている、あるいは他の法律がヤングケアラーに関係している。
ベルギー
アイルランド
イタリア
サハラ以南アフリカ
スイス
オランダ
アメリカ
6
ヤングケアラーが認識されつつある
・ 「弱い立場にある子どもたち」という社会集団の1つとして、ヤングケアラーについて、萌芽的に認識されている。ギリシャ
フィンランド
UAE
フランス
ヤングケアラーに対する認識はみられない・ヤングケアラーを認識していない、また、ヤングケアラーに対する取組みが実施されていないと思われる。その他全ての国

参考資料: 「ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書」p.61
https://www.murc.jp/wp-content/uploads/2019/04/koukai_190426_14.pdf

海外のヤングケアラーに対する支援の流れに続いて、さらに詳しく各国の取り組みの内容についてご説明します。

海外のヤングケアラー支援の成功例

ここでは海外の実例として、イギリス・アメリカ・オーストラリア・カナダの例をご紹介します。

イギリスのヤングケアラー支援

【1.ヤングケアラーを保護する法律を制定】
各国に先駆けてヤングケアラーに対する支援を始めたイギリスは、2014年に「子どもと家族に関する法律」を制定しました。イギリス政府は、ヤングケアラーが支援を必要とする存在であると、早期から法的に示したのです。

この法律は、ヤングケアラーを「他の人のためにケアを提供している、または提供しようとしている18歳未満の者(ケアが契約に従っている場合や、ボランティア活動としておこなわれている場合を除く)」と定義。地方自治体に対してヤングケアラーを特定し、適切な支援につなげることを義務づけました。

ヤングケアラー研究の第一人者として知られるサセックス大学のソール・ベッカー教授は、この法律を「ヤングケアラーに『支援を受ける権利』を認め『子どもに教育や発達に重大な影響を及ぼす負担が大きいケアを担わせるのは不適切だ』という政府の強いメッセージを示したという点で画期的な動き」と評価しています。

【2.慈善団体が学内外でヤングケアラーをサポート】
イギリスはヤングケアラー支援において、その存在を見つけ出すことが最も重要だと考えました。ヤングケアラーの多くが幼い頃から家族のケアをしており、その生活を当たり前のことと思い込んで、自分が支援を受けるべき対象と気づけていないためです。
そこで最もヤングケアラーを見つけやすい学校で、欠席が多かったり学業に集中できていなかったりする生徒に対し、教職員やソーシャルワーカーが聞き取りをおこなっています。

また、ヤングケアラーの相談を受ける専門の職員を配置し、ヤングケアラー自らが言い出しやすい体制をとっている学校もあります。実際の対応は、政府から資金提供を受けた慈善団体がおこなっているケースがほとんどです。団体は「ヤングケアラーズ・プロジェクト」と呼ばれ、イギリス全土でおよそ300あると言われています。

団体ごとに支援内容は異なりますが、放課後に学校や地域の施設を利用してヤングケアラー同士の交流の場を設けたり、ゲームなどのレクリエーションを企画したりして、子どもたちだけの時間を持てるようにしています。

団体のスタッフが個々のヤングケアラーと定期的に面談をおこない、家族ケアの負担が増加していないかなどを確認する試みもあります。もし介護の負担が大きいと判断されれば、家庭訪問をしたり、改善に向けて公的サービスにつないだりすることもあります。

アメリカのヤングケアラー支援

アメリカではヤングケアラーを保護する法律は制定されていませんが、各州での支援が積極的におこなわれています。
例えばフロリダ州では、NPO団体「American Association of Caregiving Youth(AACY)」が、主に12~18歳のヤングケアラーを対象に、学校内でストレスマネジメントを目的としたセッションをおこなっています。さらに昼食時に校内のヤングケアラーが集まるランチタイムセッションや勉強面をサポートする学習セッションなどを実施。
学外ではヤングケアラー同士でピクニックやキャンプなどのレクリエーションをおこない、家族のケアから離れられる時間を確保。家庭訪問や個別対応などの支援も提供されています。
AACYの支援を受けたヤングケアラーが高校に進学後、その97%以上が無事に高校を卒業し、90%以上が大学へ進学していると言われます。

オーストラリアのヤングケアラー支援

1990年代から国を挙げてヤングケアラー支援に取り組んでいるオーストラリアでは、連邦政府と権利擁護団体「ケアラーズ・オーストラリア」の連携によって支援を提供。実際の支援提供のマネジメントは、ケアラー資源センターおよび連邦レスパイト・ケアリンク・センター(CRCC)が担当しています。
各州のセンターがWebサイトでヤングケアラー専用のページを設けるなど、インターネットを利用した情報提供が充実していることが特徴です。具体的には、ヤングケアラーの支援情報やストレス解消へのアドバイス、奨学金情報などが掲載されています。

情報提供に加え、キャンプなどの支援プログラムの実施やカウンセリング、地域への啓発活動、またロビー活動も実施しています。

CRCCは地域レベルで配置され、サービスの提供や無料の電話番号による問い合わせの対応、利用可能な支援についての情報提供などを担当。また学校や家庭に入っている在宅サービス事業者からCRCCに連絡が入る仕組みも整っており、ヤングケアラーの発見やヤングケアラーが抱える問題が明るみになるケースが増えています。

支援にはヤングケアラー奨学金プログラム(Young Carer Bursary Program)があります。これは2014年にスタートした給付型の奨学金で、中等教育機関以上に在学中の12~25歳の国民または永住者で、かつ他の奨学金を受けていない生徒が対象です。1年ごとに募集があり、1年で3000オーストラリアドルが支給されます。

まとめ

ヤングケアラー支援について、世界的な流れと各国の取り組み、実例を通して日本の支援の課題などをご紹介しました。現状では、イギリスが非常に先進的な支援をおこなっていると評価されていますが、それでも「持続可能である」というレベルには達していないあたりに、ヤングケアラー問題の深刻さが見て取れます。

また、日本国内のヤングケアラーの数が多く、驚いた方も少なくないのではないでしょうか。もしかしたら、ヤングケアラーとして生活している子どもたちは、すぐ近くにいるかもしれません。

この記事が、ヤングケアラーとして苦しむ子どもたちのためにつながれば幸いです。

渡口将生

介護福祉士
介護支援専門員
認知症実践者研修終了
福祉住環境コーディネーター2級

介護福祉士として10年以上介護現場を経験。その後、介護資格取得のスクール講師・ケアマネジャー・管理者などを経験。現在は介護老人保健施設で支援相談員として勤務。介護の悩み相談ブログ運営中。NHKの介護番組に出演経験あり。現在は、介護相談を本業としながらライターとしても活動、記事の執筆や本の出版をしている。