ビジネスケアラー
2024-02-28
【ビジネスケアラーの現状】子育てと介護を担う「ダブルケア」とは?|背景や効果的な支援策を解説
「ダブルケア」という言葉をご存じでしょうか?
育児と親あるいは祖父母・兄弟・姉妹など、親族の介護を同時に行うことを指す言葉です。
この記事では、ダブルケアの現状、問題点、そして対策や準備すべきことなどについて詳しく解説します。
ダブルケアがもたらすストレスを軽減し、よりよい生活を送るためのヒントになるので、ぜひ参考にしてみてください。
ダブルケアとは
ダブルケアとは、育児と親あるいは親族などの介護を同時期に行う状態を指します。
横浜国立大学の相馬直子教授と、英国・ブリストル大学の山下順子教授による共同研究において考えられた言葉です。
またダブルケアには、育児と介護だけではなく、両親を同時期に介護しているケースなどの同時に複数の介護を行っている人を含める場合もあります。
ダブルケアは、すべての団塊世代が後期高齢者となる2025年以降には、特に注意が必要です。
40〜50代を迎えた団塊ジュニア世代に、ダブルケアを担う人が一気に増加する恐れがあるためです。
ダブルケアの現状
ダブルケアの現状について、まず「ダブルケアラー(ダブルケアを行う人)」の数について見てみましょう。
ダブルケアラーは25万人以上
2016年に内閣府が発表した「育児と介護のダブルケアの実態に関する調査」によると、2012年の時点でダブルケアの推計人口は25万人以上とされています。
男女比では女性は約17万人、男性は8.5万人と倍以上の差があり、ジェンダーギャップが生まれていることがわかりました。
さらに同調査では、30〜40代がダブルケアラーの8割を占めており、平均年齢は40歳前後という結果も出ています。
ダブルケアの社会的背景
ダブルケアの背景として、日本の晩婚化・晩産化や一人っ子の増加などが指摘されています。1つずつ説明していきましょう。
日本の晩婚化・晩産化
厚生労働省が調査した「出生に関する統計」によると、1975年には24.7歳だった女性の初婚年齢が、2019年には29.6歳になっています。44年の間に約5歳、晩婚化が進んだといえます。
晩婚化は晩産化にもつながり、1975年では第一子出産時の母親の平均年齢は25.7歳ですが、2019年は30.7歳に上昇し、5歳晩産化が進んでいます。
結婚・出産時期が早ければ、育児と介護のいわゆるダブルケアが重なる時期は短くなります。
例えば30代半ばで第一子を、30代後半〜40代前半で第二子を出産すると、育児期間と親の介護期間が重なることが増えるでしょう。
少子化による一人っ子の増加
日本で深刻な問題となっている少子化も、ダブルケアラー増加の大きな理由の1つといえます。
例えば一人っ子の場合、両親の介護を1人で担う確率が高くなります。
さらに一人っ子同士が結婚した場合、互いの両親で4人の介護を行うことになり、夫婦で協力しても、それぞれの親を介護するには難しい状況といえるでしょう。
このように、ダブルケアラーが増えている背景には、日本社会における課題が深く関係しています。
ダブルケアの問題点
ここでは、ダブルケアによってどんな問題や負担が発生するかについて解説します。
最もつらい?精神的な負担
育児も介護も初めての経験という場合や、ご家族の理解・協力が得られない、周囲にダブルケアラーは自分だけというケースでは、精神的なストレスは計り知れません。
特に介護は育児と異なり、先が見えにくいものです。誰にも不安や疑問を打ち明けられない、適切な介護サービスを利用できないなどのケースでは、精神的に孤立してしまう恐れもあります。
教育費+介護費!金銭的な負担
フコク生命が教育費についてまとめた調査によると、幼稚園から大学まですべて国公立に通った場合は約998万円、私立に通った場合では約2,417万円にもなります。
また、さらに介護にかかる費用も考慮しなければなりません。
例えば、要介護状態の親を在宅で介護した場合、要介護1〜5までの平均で月額5万円(年間60万円)が必要になります(家計経済研究所調べ)。
介護費用を親が負担できればスムーズですが、もし十分な費用を準備できなければ、子どもの進学を諦めせざるを得なかったり、必要な介護サービスを制限したりするなど、深刻なケースが増えることも予想できます。
不本意な離職や転職
ダブルケアを1人で担う場合、精神的・体力的な負担や時間の制約などによってフルタイムでの勤務が難しくなり、離職や転職をするケースも見られます。
既に紹介したとおり、ダブルケアには金銭的な負担も発生します。できる限り収入の減少は避けた方がよいでしょう。
経済的な負担が増えると、その分精神的な圧迫につながり、ケアの質の低下が予測されます。
ダブルケアラーが孤立する
周囲の誰にも相談できない、あるいは理解者がいないという場合、気がつくと孤立しているということも考えられます。
また「自分はダブルケアラーだ」と認識できていないと、抱える悩みの原因が育児にあるのか介護にあるのかが判断できず、適切な支援を受けられない恐れがあります。
子どもに我慢をさせてしまう
子どもが、親の「ちょっと待ってね」というお願いを聞けるようになると、つい介護を優先しがちです。
しかし、常に介護を優先させていると、子どもが自分の意見や要望を表現しなくなり、不満を抱え自己表現力の低下が心配されます。
子ども側も、自身の経験や知識の少なさから、その状況が適切なのか判断できず、知らずしらずのうちに自我を抑え込むことが習慣化されてしまうのです。
子どもがヤングケアラー化する恐れ
学業や余暇の時間を割いて、本来は大人が担うべき介護や家事を引き受ける18歳未満の子どもを「ヤングケアラー」と呼びます。
子どもが小学生以上の年齢になると、親や祖父母に対する思いやりから「介護を手伝う」と言ってくることがあるかもしれません。
しかし、お手伝いの範囲を超えて子どもに役割を担わせたり、あてにしたりするのは避けましょう。
近年、日本でもヤングケアラーが増えており、社会問題とみなされています。我が子をヤングケアラーにしないよう、親の注意が必要です。
問題は多いが制度は未熟
ダブルケアの認知度はまだ低く、ダブルケア専用の窓口を設置している自治体もほとんどありません。そのため、適切なサポートを受けるには時間がかかると思われます。
間近に迫っている2025年問題や、その先の少子高齢化問題の対策をするためにも、早急な改善が望まれます。
ダブルケアの対策
ダブルケアの負担を減らす対策について考えてみましょう。
介護の悩みは「地域包括支援センター」へ
「初めての介護で、本当に何もわからない!」という時に、おすすめしたいのが地域包括支援センターの利用です。
高齢者の介護や医療、福祉などの支援に関する総合窓口で、各自治体に設置されています。
対象の地域に住んでいる65際以上の高齢者と、支援活動に携わる人が利用できます。
介護の予防に関する相談も受け付けているため、気軽に相談してみましょう。
育児の悩みは「子育て支援センター」へ
子育てをサポートするさまざまな情報を提供しています。
子育ての相談はもちろん、ショートステイや一時預かりなどのサービスも紹介してくれます。
また保護者同士の交流の場にもなっているので、情報交換や時には愚痴を言い合うという使い方も可能です。
孤立や孤独を感じている方は積極的に利用することをおすすめします。
適切な介護サービスを利用する
必要な介護サービスを適切に利用すれば、負担が大幅に軽減されます。
例えば自宅で介護をしている場合、訪問介護や通所型のデイサービス・デイケア、短期入所型のショートステイなどを利用するとよいでしょう。
また福祉用具の貸し出し、手すりをつけたり屋内の段差を解消したりする住宅改修費の支給なども利用可能です。
在宅で介護が難しくなってきたら、特別養護老人ホームや介護老人保健施設など、施設介護サービスの利用を検討してみるのもよいでしょう。
ダブルケアラーのコミュニティに参加する
実際にダブルケアをしている人たちと悩みを共有したり、情報を交換したりすることで、精神的なストレス緩和が期待できます。
ダブルケアラーのコミュニティを探すには、SNSで「ダブルケア コミュニティ」や「ダブルケア 地域」などのワードで検索したり、お住まいの自治体に問い合わせたりすると見つけやすいです。
仕事を続けることを視野に入れておく
ダブルケアをしながら仕事を続けるのは、精神的にも体力的にも苦しいことがあります。それでも仕事を続けることをおすすめするのは、2つの理由があります。
1つは教育費・介護費などにかかる経済的な不安を軽減するためです。
もう1つは、育児と介護以外の世界とつながることで、精神的孤立を防ぐ目的があります。
一時的な時短勤務や配置転換を会社に打診したり、在宅でできる仕事を探したり、ダブルケアによって自分の可能性を狭めない方法を検討してみてください。
ダブルケアへの備え
将来的にダブルケアラーになる見込みが高い方、将来に備えて情報を集めておきたい方などに向けて、ダブルケアでつらい思いをしないための備えについて解説します。
親が元気なうちに、介護について話し合っておく
親の介護は病気や転倒による骨折などが原因で、急に始まるケースがほとんどです。
慌てずに対応するには、親が元気なうちにご家族で話し合いをしておくことが理想です。
しかし、デリケートな話題なので、子どもから口火を切るのはなかなか難しいかもしれません。
まずは現在の健康状態、服用している薬の有無など軽い話題から始め、「もし将来、介護が必要になったらどうしたい?」と、親の意向を尋ねていくとよいでしょう。
勤務先のサポートについて確認しておく
ダブルケアには時間や手間、お金がかかります。できるだけ仕事を続ける前提で、勤務している企業の育児・介護に関する就業規則を確かめておくとよいでしょう。
例えば介護休職、時短勤務などの制度が挙げられます。
国や自治体の支援制度を調べておく
介護に関する相談なら「地域包括支援センター」、育児に関する相談なら「子育て支援センター」など、お住まいの自治体のどこにあるか調べておくと、急に対応が必要になった時に役立ちます。
また、国が定めた制度についても確認しておきましょう。
例えば「育児・介護休業法」では育児・介護に利用する休業に関する制度が定められています。
ダブルケアに対し独自の取り組みを行う自治体
ダブルケア専門の支援や取り組みはまだまだこれからですが、そんな中でも、独自の取り組みを行っている自治体があります。
大阪府堺市 ダブルケア専門窓口を開設
大阪府堺市では、各区役所内にある基幹型包括支援センターにダブルケア相談窓口を開設しています。
保健師や看護師、主任ケアマネージャー、社会福祉士など、育児と介護の知識がある専門職員が相談に応じます。
具体的な支援として、認定こども園や保育所の利用を優先したり、特別養護老人ホームの入所基準を緩和したりしています。
また緊急時にはショートステイの利用日数を延長できる優遇措置も取られています。
東京都港区 福祉総合窓口を設置
ダブルケアをはじめ、複合的な課題を抱える個人・ご家族に対し、包括的な支援制度を構築しています。
窓口は1つですが、課題が複数の分野にまたがる場合、専門職員や関係機関などと連携し、チームで支援を行っています。
神奈川県横浜市 一般社団法人ダブルケアサポート
自治体ではありませんが、「一般社団法人ダブルケアサポート」という団体が主体となってダブルケア支援に取り組んでいます。
活動内容はダブルケアの認知や教育・啓発活動、調査研究などで、ダブルケアの当事者・支援者の交流の場「ダブルケア・カフェ」の運営、講演会やセミナーの開催なども行われています。
まとめ
育児と介護のダブルケアを担っている人、さらにダブルケアと仕事を両立させている人には、大きな負担がかかっています。
負担を軽減するためには、1人ですべてを抱え込まないこと、ご家族で育児・介護を分担することが必要です。
国や自治体・勤務先の育児・介護に関する支援制度を確認し、上手に活用することも意識しましょう。
また、ダブルケアラーが交流する場に参加し、悩みや不安を共有することも、精神的なストレスの緩和に役立つはずです。
ダブルケアに対する認知度はまだ低く、専門の対策を行っている自治体は決して多くありません。
今後、社会全体でダブルケアについて広く認知し、解決を図ることが重要な課題になるでしょう。