介護情報メディア ケアケア 一般介護向けコラム 介護施設 【インタビュー】クスッと笑えて、じんわり沁みる。介護職の日常を“個性的なキャラ”で描く、現役ケアマネ漫画家・ケンさん

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投稿日:
2025-12-16

更新日:
2025-12-16

【インタビュー】クスッと笑えて、じんわり沁みる。介護職の日常を“個性的なキャラ”で描く、現役ケアマネ漫画家・ケンさん

介護のリアルをユーモアたっぷりに描いた漫画が、X(旧Twitter)で人気を集めています。投稿者は、現役のケアマネジャーであるケンさん。個性的なキャラクターやリアルな展開が共感を呼び、介護業界の内外から多くの反響が寄せられています。投稿を始めたきっかけや、漫画を描き続ける理由についてお話をうかがいました。

「施設ケアマネへの転向」が漫画を描き始めたきっかけ

――ケンさんは、「現役ケアマネジャーならではの視点」を取り入れた介護の漫画をSNSに投稿されています。介護の仕事は、これまでどれくらい続けてこられたのでしょうか?

ケンさん(以下、ケン):介護の仕事に携わって、かれこれ15年以上になります。最初は通所リハビリや訪問入浴の現場で経験を積み、5年ほど働いたタイミングで介護福祉士の資格を取得しました。その際、周囲から「今ならケアマネジャーの試験も受けられるよ」とすすめられ、ケアマネジャーの資格もあわせて取得。現場の仕事は体力的な負担を感じることも多く、将来の働き方を見直したいという思いもあり、資格取得を機にケアマネジャーへと転向しました。その後、10年以上この仕事を続けており、現在はケアマネジャー事務所で、主任ケアマネとして勤務しています。

――ケアマネジャーとして豊富な経験をお持ちなのですね。最初に介護の漫画を描こうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

ケン:在宅ケアマネから施設ケアマネに転向した際に、利用者さんとのやり取りのなかで、「これを漫画にしたら面白いのでは」と感じる出来事が増えたことがきっかけです。介護の漫画を投稿し始める少し前、私は家族を病気で亡くし、しばらく休職していた時期がありました。その間に、気分転換のため、タブレットで少しずつイラストを描くようになったんです。そして、投資の情報収集のために開設したX(旧Twitter)のアカウントで、家族や日常のことを「絵日記」として投稿していました。ちなみに、この絵日記はあくまで個人的な記録であり、特別なテーマや目的があったわけではありません。

その後、職場に復帰したタイミングで、在宅ケアマネから施設ケアマネに転向。新しい職場での日々のやり取りのなかには、思わず笑ってしまうような出来事も多くあり、「こうした場面を漫画にしたら、伝えられるものがあるのでは」と思うようになりました。一般的には「介護=大変」といったイメージが強い傾向にありますが、実際の現場には、思わず笑顔になる瞬間や、心がほぐれるようなやり取りもたくさんあります。

「そういったエピソードを絵で届けてみたい」という気持ちから、日々投稿していた絵日記の合間に、介護の漫画を描き始めました。それまで漫画の制作経験はほとんどありませんでしたが、SNSでほかの方の作品を見ながら少しずつ練習を重ね、気が付けば投稿を始めてから3年以上が経っていました。今では、想像以上に多くの方に漫画を見ていただけるようになりました。

――投稿を続けるなかで、絵日記から介護の漫画へとシフトしていった理由はありますか。

ケン:絵日記を描き続けるなかで、「個人的な日常を描くよりも、介護の現場を描いた方が面白いのでは」と感じるようになったためです。私が投稿を始めた2022年頃にも、介護をテーマにした漫画はいくつかありましたが、それらの作品は、介護の大変さや過酷さに焦点を当てたものが中心でした。もちろん、介護において大変な面は確かに存在するため、そういったテーマを漫画にすることには、大きな意味があると思います。ただ、私自身が現場で日々感じていたのは、それだけではありませんでした。利用者さんの言葉や振る舞いに笑ってしまうような瞬間や、心が和らぐような場面が、介護現場には数多く存在します。そうした部分を伝えてみたいとの気持ちが強くなり、自然と絵日記よりも漫画の投稿が増えていきました。

最近では、過去に投稿した漫画をリメイクすることもあり、以前は画力の面で描ききれなかった場面や表情も、少しずつ表現できるようになってきたと感じています。リメイク時に特に意識しているのは、「介護現場を支える専門職の方々」を漫画のなかに登場させることです。介護をテーマにした作品では、認知症の方のエピソードが描かれることが多いうえに、登場する専門職もヘルパーが主であることがほとんどです。

しかし、実際の現場には訪問看護師や医師、地域包括支援センターの職員など、多くの専門職が関わっており、そうした方々の姿に光が当たる機会が少ないことに、以前から違和感を抱いていました。だからこそ、「現役のケアマネジャーとして働いている自分にしか描けないエピソードを届けていきたい」「介護の現場を支えている人たちの姿を、漫画を通じて伝えたい」という思いで、今も投稿を続けています。

介護の現場における“明るさ”を描くことで、業界の内外から反響が集まる

――これまでに投稿された漫画のなかで、特に反響が大きかったエピソードを教えてください。

ケン:個人的にも強く印象に残っているのは、「お金持ちなのに、栄養失調でゴミ屋敷のなかに倒れていた方の話」です。介護の漫画を投稿し始めてから、初めて大きな反響があった作品でした。この漫画で取り上げているのは、退職金と貯金の全額を投資に充てて莫大な資産を得たものの、お金の使い道がなく、寝たきりのような生活を送っていたというものです。

出典:https://twitter.com/LBomOmzwA7p8hba/status/1926056911109066784/photo/2

もともと私のアカウントは、投資に関する情報収集のために始めたもので、フォロワーさんにもお金に関する興味関心を持っている方がたくさんいらっしゃいます。そうした影響もあり、「若いうちに資産を築いて早期退職しても、自分も老後にはこうなる可能性があるのでは」と感じた方を中心に、多くの方に見ていただけたようです。また、資産運用にあまり詳しくない方にとっても、「お金がある=幸せなのか」という問いについて、考えるきっかけにもなったようでした。

出典:https://x.com/lbomomzwa7p8hba/status/1926056911109066784?s=46

ほかにも、「拒否が強い利用者さんに対して、担当者が3姉妹になりきって接した話」も反響が大きかったと感じています。この方は「家族以外の人に、家へ来て欲しくない」という理由で介護サービスを拒否していたので、その場にいたヘルパーが長女、看護師が次女に、そしてケアマネ(私)が三女ではなくパン屋になりきったことで、利用者さんを笑わせ、場の空気を和らげることに成功しました。

この投稿に対しては、主に介護業界の方々からの感想が多く寄せられたと感じています。具体的には、「認知症が進行している方を担当する際には、ちょっとした設定を作ってから接することもあるよね」「介護現場では、事態が好転するように、チームワークを求められる場面があると思う」などのリプライをたくさんいただきました。

――投稿のなかでは「強いおばあさん」のような個性的なキャラクターも印象的でした。そうした人物を描くことに対して、ご自身なりの視点があれば教えてください。

ケン:あえて“強いキャラクター”を描く背景には、「高齢者というフィルターを外して、その人自身を見て欲しい」という思いがあります。たとえば、街中で見かける高齢者に対して「おとなしそうな人だな」と感じる方もいるかもしれません。

でも、実際に高齢者と関わってみると、それぞれの方が、独自の人生を歩まれてきたことがわかります。好みや性格、価値観も人それぞれで、高齢者やお年寄りという言葉では、とてもひとくくりにはできません。見た目はおばあさんでも、内面は子どものようにやんちゃな方もいれば、ユーモアに溢れた方も。だからこそ、私は“強い人エピソード”をあえて描いています。

出典:https://x.com/lbomomzwa7p8hba/status/1897053799233265999?s=46

ケアマネジャーは、それぞれのご家庭にお伺いし、利用者さんやご家族のお話をお聞きする機会が多い仕事です。そのなかで、一人ひとり異なった人生のストーリーや、意外な一面があることを日々実感しています。“強い人エピソード”の漫画を読むことで、「もしかしたら、自分の周りのお年寄りのなかにも、実はすごい人がいるのかもしれない」と思っていただけたらうれしいです。

――実体験をベースに作品を描かれているとのことですが、実際の出来事と創作のバランスについて、描くうえで意識していることはありますか?

ケン:漫画のストーリーを考えるパターンはいくつか存在します。たとえば、ある利用者さんとのやり取りが特に印象に残り、その出来事を中心に物語を組み立てることもあれば、複数の方との会話や場面を組み合わせて、1つのエピソードとして描くこともあります。

また、仕事中に「これを漫画にしたら面白いかも」と思った出来事を、思いつくままに描き始めることや、絵の練習中に偶然うまく描けた表情を生かしたくなり、「この表情が生きるのはどんな場面だろう」と逆算してストーリーを考えることもあります。どのような形で描くにしても、共通して意識しているのは、個人が特定されないよう配慮することです。年齢や性別、介護度、家庭環境などの設定には必ずフィクションを交え、特定の人物の実体験として受け取られないよう工夫しています。

――ケンさんの漫画は、シリアスになりすぎず、クスッと笑えるところが魅力だなと感じています。そうした“軽やかさ”や“笑い”を入れるときに意識していることはありますか。

ケン:せっかく介護の漫画を描くのであれば、救いのない話を描いても意味がないのではと感じています。介護はいずれ多くの人が関わる可能性があるテーマであり、実際には厳しい現実に直面する場面も多いものです。だからこそ、あえて明るさや軽やかさを描くことに、自分なりの意義を見出しています。介護を経験された方が、「大変だったけれど、こういう楽しいこともあったよね」と思い出せるような、少しでも前向きになれるような内容にしたいなと思っています。

とはいえ、あらかじめ「笑いを入れよう」と強く意識してネタを作っているわけではありません。どちらかといえば、仕事のふとした瞬間に「これを漫画にしたら面白いかも」と思いつくことが多いかもしれません。あまり肩肘張らず、「自分が読者だったら楽しめるかどうか」を基準に考えていますね。

読者が「ご家族との思い出」を寄せてくれることが予想外の喜び

―― 今まで漫画を投稿されてきて、想定外だった反応や、励まされた言葉があればお聞かせください。

出典:https://x.com/lbomomzwa7p8hba/status/1938824716946678215?s=46

ケン:漫画をきっかけに、ご家族との思い出を語ってくださる方がいるのは、とてもうれしく感じています。たとえば先日、玄関に置くタイプの手すりを漫画に描いた際は、「うちもこれを使ってたなぁ」といったリプライを何件もいただきました。最近は引用リポストやリプライでコメントをいただく機会が増えつつあり、同業の方や、ご家族の介護を経験された方からの声が全体の3分の2ほどを占めています。自分の投稿が、誰かの記憶や思い出を呼び起こすきっかけになっているのであれば本当にうれしいですし、漫画を描き続けてきてよかったなと感じています。

――漫画を描く際に、これまで担当してきた利用者さんとのやり取りを振り返って、「気付きがあったな」と思うことがあれば教えてください。

ケン:描くことで自分自身の考えが深まるというよりも、読者の方からいただくリプライによって、「そんな見方もあるのか」と新たな気付きを得ることが多くなりました。たとえば、ご家族の介護を経験した方から、「この利用者さんは、本当はこう思っていたのかもしれませんね」とコメントをいただき、「ああ、そういった考えもあったのか」とハッとさせられたこともあります。自分では見落としていた視点に気が付けるのも、Xで投稿し続けてきたからこそだと感じています。

――投稿を続けてきて、ご自身の仕事への向き合い方が変わったと感じることはありますか。

ケン:大きく変わったという感覚はありませんが、あえて挙げるとすれば、以前よりも利用者さんのお話にしっかり耳を傾けるようになりました。たとえば、「昔はどんなことをされていたんですか?」といった質問をしてみると、思いもよらないお話を伺えることもあります。もちろん、反応は人それぞれで、「昔のことは忘れちゃったよ」とおっしゃる方もいれば、「そういえばね……」と懐かしそうに語ってくださる方もいます。なかには、同じエピソードを何度も繰り返しお話される方もいて、「どうしてこの話を何度も伝えてくださるのだろう」と、その背景にある思いや出来事にも、自然と意識が向くようになりました。

――今後描いてみたいテーマや、漫画を通じて伝えたいことがあれば教えてください。

ケン:漫画は自分の趣味として始めたものなので、特別な目標があるわけではありません。ただ、「現役のケアマネジャーだからこそ描ける漫画」を、これからも投稿し続けていけたらと思っています。介護の仕事に携わっている方はもちろん、ご家族の介護を経験された方、介護についてこれから学びたいと考えている方まで、さまざまな方に漫画を楽しんでいただけたらうれしいです。

<編集後記>

取材前からケンさんの漫画を拝見しており、介護の現場をリアルに描いた作品としてではなく、一つひとつのエピソードににじむ温かな視点や、個性溢れる登場人物に魅力を感じていました。暗く語られがちなテーマに、あえて光を当て、明るさを交えて軽やかに描く。それは、長年現場を見続けてきたケンさんだからこそできる表現であり、作品の根底には、利用者さんやご家族への深いまなざしが感じられるように思います。漫画を通して、家族を思い出したり、過去の自分と重ねたり。そんな、読者の心に灯りがともるような作品が、これからも多くの方に届くことを願っています。

<取材対象者>ケン(けん)
40代半ば、独身、主任ケアマネ、居宅→小多機&グルホ→居宅&住宅型有料→介護付き有料→居宅(現在)(※)。背が少し高い。おばあちゃんにモテる。
 
(※)居宅:居宅介護支援事業所、小多機:小規模多機能型居宅介護 グルホ:グループホーム、住宅型有料:住宅型有料老人ホーム、介護付き有料:介護付き有料老人ホーム の略称
 
ケンさん公式 Xアカウント:https://x.com/lbomomzwa7p8hba?s=21

取材記事担当者

タケウチ ノゾミ
ライター・編集者
福岡県福岡市在住のライター・編集者。介護・医療・BtoBジャンルの執筆経験が豊富なライター。これまでに100以上の介護施設や介護/医療従事者、関連団体などへのインタビューを実施。要介護4の父を介護中。趣味は観劇と美術鑑賞、猫を揉むこと。