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介護サービス・制度

2024-01-11

ヤングケアラーが抱える問題と支援について【質の高い教育をみんなに】

昨今、さまざまな調査によりヤングケアラーの問題が表面化してきました。

 

もしかしたら「ヤングケアラー」という言葉を聞いたことがない方もいるかもしれません。ヤングケアラーは、大人にかわって家族をケアする子どものことです。

 

ヤングケアラーが抱える問題の多くは、複数の状況に起因しています。この問題に対処していくためには、ヤングケアラーの現状や問題点を把握しておかなければいけません。

 

この記事では、ヤングケアラーが抱える問題点や、今後の支援について解説します。ぜひ、参考にしてみてください。

ヤングケアラーの現状

ヤングケアラーとは、家族やきょうだいの世話をおこなう子どもを表す言葉です。

近年、行政や福祉団体の取り組みによって、ヤングケアラーの実態が表面化してきました。

これから、ヤングケアラーの現状や実情を紹介します。それぞれ確認してみましょう。

ヤングケアラーの定義

日本ケアラー連盟では、18歳未満のケアラーをヤングケアラーと定義しています。なお、ヤングケアラーの定義は、国ごとにさまざまです。

(参考:日本ケアラー連盟「ヤングケアラーとは」

本来、大人が担当する家事や育児、家族介護などを、18歳未満の子どもが代わっておこないます。身体面だけではなく、精神的なケアをおこなっているケースも珍しくありません。

子どもによる家族ケアは悪いことではありませんが、子どもとしての尊厳が問題視されています。

ヤングケアラーの人口

令和2年度の厚生労働省の調査によると、中学生のおよそ17人に1人がヤングケアラーであることがわかりました。

時代や生活スタイルの変化によって、ヤングケアラーは増加傾向にあります。一方で、突然急増したかというと、一概にそうとも言い切れません。

これまでにも、子どもが親やきょうだいの世話をする家庭はありました。かつては、労働者として、子どもが家族を支えるのが一般的だった時代もあります。

ヤングケアラーの人口推移については、今後も慎重に調査し、実態の把握や改善が必要です。

世代別の割合

令和2~3年にかけて、厚生労働省がヤングケアラーの実態調査をおこないました。

全国の小中学校、高校、大学を対象にアンケートを実施したところ、約4~6%の学生が家族の世話をしていると回答しています。

アンケートの結果を、年代別で表にまとめました。

年代ヤングケアラーの割合
小学6年生6.5%
中学2年生5.7%
高校2年生4.1%
大学3年生6.2%

(参考:厚生労働省「ヤングケアラーの実態に関する調査研究について」)

1学級あたり、1~2人のヤングケアラーがいる計算になります。この結果から、ヤングケアラーが珍しい存在ではないことがわかるでしょう。

家族ケアの主な内容

ヤングケアラーがおこなうケアの内容は、主に家事や家族の世話などです。

障がいのある親やきょうだいに対して身体的なケアのほか、精神的なサポートをおこなっています。幼いきょうだいがいる場合は、親にかわって育児をするケースも少なくありません。

身体的な内容としては、介助や見守り、服薬管理、通院の付き添いなどがあげられます。近年では、依存症や精神疾患に悩む親をサポートするヤングケアラーも少なくありません。

1日のケアにかかる時間

文部科学省の調査報告によると、世話をしている頻度について、ほぼ毎日と答える生徒がもっとも多いことがわかっています。

中学2年生においては、ほぼ毎日世話をすると回答した方が45.1%と、約半数を占めていました。全日制高校2年生においても、47.6%と同等の結果がでています。

1日あたりのケアにかかる時間は、平均で約4時間でした。また、3時間未満の回答が多い一方で、7時間以上と答えた方が10%を超えています。

実に、1日のうち3分の1の時間を家族のケアに費やしている計算です。学生にとって、家族ケアが大きな負担になっていることがわかります。

(参考:文部科学省「ヤングケアラーの実態に関する調査研究 報告書」)

ヤングケアラー増加の要因

近年、生活スタイルの変化にともない、ヤングケアラーは増加傾向にあります。

ヤングケアラー増加の背景には、どのような要因があるのか確認してみましょう。

共働きによる影響

厚生労働省のデータによると、1980年以降、共働き世帯は増加の一途をたどっています。

(参考:厚生労働省「共働き世帯の増加」)

専業主婦と比較して、共働きでは家事や育児のための時間確保が難しいのが実情です。また、本来は夫婦間でおこなうケアも、共働きの一般化によって少しずつ形を変えています。

それに伴い、時間の確保が難しい親にかわり、子どもがサポートをおこなう家庭も少なくありません。

こうした働き方の変化が、ヤングケアラーを増加させる要因になっています。

生活スタイルの変化

ヤングケアラー増加の背景には、核家族化の影響があります。

祖父母や親と一緒に生活する三世代家族も、現在は減少傾向です。それまで、病気や怪我のほか、幼い子どもがいる場合は、家族で支え合いながら生活をしていました。

核家族化の進展により、家族の世話ができる大人の手が減ったため、子どもに頼る機会が増えています。

ヤングケアラー増加の背景には、こうした家族構成や生活スタイルの変化の影響があります。

晩婚による親の高齢化

晩婚化も、ヤングケアラーを増加させる要因のひとつです。

近年、男女ともに結婚の平均年齢が上昇しており、それに伴って出産の平均年齢も高くなってきています。

(参考:厚生労働省「令和3年度「出生に関する統計」の概況」)

晩婚によって、出産の高齢化が進み、子どもが若いうちに親の介護が必要になるケースも増えました。親の相対的な高齢化が、ヤングケアラーを増加させる要因となっています。

ヤングケアラーが抱える問題

近年、ヤングケアラーが抱える問題が深刻化してきています。

これらの問題に対処するためには、ヤングケアラーの実情を把握しておかなければいけません。ヤングケアラーの問題点について、確認してみましょう。

学業の遅れ

子どもが抱える家族ケアの負担が大きい場合、学業の遅れにつながるリスクがあります。

家族ケアを毎日おこなっているヤングケアラーは多く、日常のケアにかかる時間は、平均で4時間ほどです。学校に通う子どもにとって、ヤングケアラーとしての役割は、大きな負担になります。

家族ケアによる負担が原因で、欠席や遅刻につながるケースも珍しくありません。十分な学習時間がとれず、授業についていけなくなる事例もでています。

その結果、受験の準備が間に合わず、進学をあきらめる学生がいるのも実情です。

友人関係の希薄化

家事や育児など、活動時間の大半を家族のために費やすヤングケアラーは少なくありません。

そのため、自分の時間や、友達との時間が確保できずに、友人関係が希薄化してしまうケースも多いです。

話についていけず、孤立してしまうヤングケアラーも珍しくありません。また、このような状況を相談できずに、余計に孤立する悪循環に陥ってしまうこともあります。

健康面へのリスク

ヤングケアラーには、健康面のリスクがあることも留意しておかなければいけません。

家族の世話にかける時間が増える場合、肉体的にも精神的にも大きな負担がかかります。日中、学校がある子どもの場合、帰宅してから寝るまでがケアの時間になるかもしれません。

その日のうちにやるべきことが終わらない場合は、睡眠時間を削っておこなう可能性もあります。

忙しい場合は、カップ麺やインスタント食品などで、食事を済ませてしまうケースもあるでしょう。生活リズムの乱れや、睡眠・栄養不足など、健康へのリスクが懸念されています。

ヤングケアラーへの支援状況

国は、2022年度から2024年度までの3年間を、ヤングケアラー支援の強化期間にすると発表しました。

現在、ヤングケアラーに対してどのような支援がおこなわれているか、確認してみましょう。

相談支援の強化

ヤングケアラーを支援する方法として、学校にスクールカウンセラーやソーシャルワーカーが配置されるようになりました。

スクールカウンセラーは、週に何日か学校に滞在し、生徒の相談を聞きます。生徒の気持ちを整理したり、良い対処法を一緒に考えたりするのが役割です。

ソーシャルワーカーは、生徒の生活環境や状況を把握し、支援機関と連携しながら問題に対処していきます。

その他、SNSやスマホアプリなどから、相談ができるシステムも導入され始めました。さまざまな角度から、ヤングケアラーに対して相談支援の強化が進められています。

福祉サービスの拡充

現在、ヤングケアラーに対して、福祉支援の活動が進められています。

きょうだいを世話するヤングケアラーがいる家庭に対しては、家事や育児を支援する活動も始まりました。

サポートが必要な家庭に対して、無償でサポーターを派遣する取り組みをおこなう自治体もあります。

(参考:ヤングケアラーSOS | 高崎市

これまで、ヤングケアラーがいる家庭に対して、適切な介護サービスが提供されないなどの問題がありました。今後は、適切なサービスが受けられるように、自治体との連携強化が進められています。

家庭環境の実態把握

ヤングケアラーを支援していくためには、家庭環境の把握が必要不可欠です。

そのため、実態調査やアンケートを導入する自治体も増えています。その他、学校でも同様の取り組みが始まりました。

また、生活態度や持ち物など、普段と変わった様子が見られた生徒に対しては、聞き取りをおこなう学校も少なくありません。

自治体によっては、ヤングケアラーを発見した際のマニュアルを配布しているケースもあります。

(参考:多機関・多職種連携による ヤングケアラー支援マニュアル

ヤングケアラーを支援する際の課題

ヤングケアラーを支援していく上で、考えなければいけない課題があります。

どのような課題があるのか、確認してみましょう。

表面化しづらい

ヤングケアラー本人が、家族をケアするのは当然と思い込み「相談するほどのことではない」ととらえてしまっているケースは少なくありません。

「ヤングケアラー」の存在を知らず、自身がヤングケアラーであることに気づいていない場合もあります。

実際に、厚生労働省がおこなった調査では、8割の生徒が「ヤングケアラー」のという言葉を知らないと回答しています。

(参考:児童福祉法改正及びヤングケアラー支援について

また、家庭の事情については学校も踏み込みにくく、本人からの相談がない限り、実態を把握しづらいのが実情です。

これらを解消するために、実態の把握とあわせて、ヤングケアラーの認知度向上を図る取り組みがおこなわれています。

サポート体制の不足

2022年から、ヤングケアラーに対して支援強化が開始されました。一方で、まだまだ追いついていないのも事実です。

これらの問題を解消するために、ヤングケアラー同士がつながりをもてるような取り組みがおこなわれています。

(参考:令和4年度ヤングケアラー相互ネットワーク形成推進事業に係る公募について

ヤングケアラー同士の交流の場を上手に活用することで、利用できる制度の認知や、必要な知識の獲得につながるかもしれません。

現在では、ヤングケアラー向けオンラインサロンや、ウェブ講座などもあります。今後は、行政や自治体、個人同士が協力しあってヤングケアラーをサポートしていくことが重要です。

関係機関の連携不足

ヤングケアラーを支援するためには、関係機関やその他機関との連携が必要不可欠です。

例えば、これまでヤングケアラーを支援するための明確な窓口がありませんでした。そのため、どこに相談して良いかわからず、支援が受けられなかったケースもあります。

実際に、福祉に携わる職員同士も、どの窓口で対応して良いかわからずに、困惑してしまう事例もありました。

今後は、各専門家同士が連携をとり、適切なサービスが提供できるように検討していく必要があります。

SDGsの視点から考えるヤングケアラーへの支援

SDGsの基本理念の一つに「誰ひとり取り残さない」があります。

また、SDGsにおける17の目標の3番と4番にはヤングケアラーと関連する「すべての人に健康と福祉を」「質の高い教育をみんなに」があります。

SDGsの観点からも、ヤングケアラーへの支援が重要視されていることがわかります。ヤングケアラーに関連するSDGsの内容を、表にまとめました。


とくに関連の深い4番【質の高い教育をみんなに】の項目を載せました。わかりやすい文章でまとめられているため、ぜひ一度目を通してみてください。

SDGs内容
3番【すべての人に健康と福祉を】
4番【質の高い教育をみんなに】
4-12030年までに、男の子も女の子も、すべての子どもが、しっかり学ぶことのできる、公平で質の高い教育を無料で受け、小学校と中学校を卒業できるようにする。
4-22030年までに、すべての子どもが、幼稚園や保育園にかよったりして、小学校にあがるための準備ができるようにする。
4-32030年までに、すべての人が、男女の区別なく、無理なく払える費用で、技術や職業に関する教育や、大学をふくめた高等教育を受けられるようにする。
4-42030年までに、はたらきがいのある人間らしい仕事についたり、新しく会社をおこしたりできるように、仕事に関係する技術や能力をそなえた若者やおとなをたくさん増やす。
4-52030年までに、教育のなかでの男女の差別をなくす。障がいがあったり、先住民族だったり、特にきびしいくらしを強いられている子どもでも、あらゆる段階の教育や、職業訓練を受けることができるようにする。
4-62030年までに、すべての若者や大半のおとなが、男女ともに、読み書きや計算ができるようにする。
4-72030年までに、教育を受けるすべての人が、持続可能な社会をつくっていくために必要な知識や技術を身につけられるようにする。そのために、たとえば、持続可能な社会をつくるための教育や、持続可能な生活のしかた、人権や男女の平等、平和や暴力を使わないこと、世界市民としての意識、さまざまな文化があることなどを理解できる教育をすすめる。
4-a子どものこと、障がいや男女の差などをよく考えて、学校の施設を作ったり、なおしたり、すべての人に、安全で、暴力のない、だれも取り残さないような学習のための環境をとどける。
4-b2020年までに、開発途上国、特に最も開発が遅れている国、島国やアフリカの国などの人が、先進国や他の国で、職業訓練、情報通信技術、科学技術のプログラムなどの高等教育を受けるための奨学金の数を世界的にたくさん増やす。
4-c2030年までに、開発途上国、特に開発が遅れている国や島国で、学校の先生の研修のための国際協力などを通じて、知識や経験のある先生の数をたくさん増やす。

(引用:4.質の高い教育をみんなに | SDGsクラブ

まとめ

この記事では、ヤングケアラーが抱える問題点と、今後の支援について解説しました。

ヤングケアラーの概念が認識されるようになったのは、ここ数年のことです。まだまだヤングケアラーへの支援制度は十分ではありません。

SDGs17の目標にも、ヤングケアラーに関連する項目があります。SDGsの観点からも、ヤングケアラーへの取り組みは重要です。

ぜひ、この記事を参考に、ヤングケアラーの問題について考えてみてください。

もし、ヤングケアラーとしての役割に悩んでいる場合や、相談事がある場合は、下記の窓口から相談が可能です。

子供(こども)のSOSの相談窓口(そうだんまどぐち):文部科学省

渡口将生

介護福祉士
介護支援専門員
認知症実践者研修終了
福祉住環境コーディネーター2級

介護福祉士として10年以上介護現場を経験。その後、介護資格取得のスクール講師・ケアマネジャー・管理者などを経験。現在は介護老人保健施設で支援相談員として勤務。介護の悩み相談ブログ運営中。NHKの介護番組に出演経験あり。現在は、介護相談を本業としながらライターとしても活動、記事の執筆や本の出版をしている。