介護情報メディア ケアケア 一般介護向けコラム 介護の基礎知識 ヤングケアラーと貧困問題の関連性とは?貧困による影響と今後の課題

介護の基礎知識

2024-05-08

ヤングケアラーと貧困問題の関連性とは?貧困による影響と今後の課題

近年、貧困問題が深刻化しており、その問題はヤングケアラーにも影響を与えています。ヤングケアラーの問題を解決するためには、貧困問題の視点からも検討していくことが重要です。

 

ヤングケアラーが抱える悩みの問題は、精神的な負担や肉体的な疲労だけではありません。

 

この記事では、ヤングケアラーと貧困問題の関連性や、直面している課題について解説していきます。

 

事例をあげて分かりやすく紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。

ヤングケアラーと貧困の関連性

2021年現在、厚生労働省の調査によると、17歳以下における子どもの貧困率は11.5%となっており、およそ10人に1人が貧困になる計算です。

(参考:2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況

また、京都府の調査では、貧困世帯におけるヤングケアラーの割合が12.4%にも及ぶことが報告されています。

(参考:貧困世帯と非貧困世帯に分けた分析結果

調査結果から、貧困とヤングケアラーの問題には密接な関わりがあることが分かるでしょう。ヤングケアラーの問題を解決していくためには、同時に貧困対策についても検討を進める必要があります。

ヤングケアラーの現状

ヤングケアラーが抱える悩みや貧困問題について検討するためには、現状を理解しておかなければいけません。

これから、ヤングケアラーについての概要と問題点を解説します。それぞれ確認してみましょう。

ヤングケアラーの定義

ヤングケアラーとは、親や兄弟など、世話が必要なご家族に対して日常的にサポートを行う子どもを表す言葉です。

ご家族への身体的な介護や精神的なケアのほか、家事・労働など、さまざまな内容を大人に代わって行います。

本来は大人が担う役割を子どもが行うため、心身的に負担を感じたり自分のための時間が確保できずに悩んだりするケースがほとんどです。

なお、ヤングケアラーの多くが学校に通いながらご家族のケアを行っており、本人の負担は大人と同等以上と考えられます。

ヤングケアラーの割合

2020年現在、全国のヤングケアラーの割合は全体のおよそ5%となっています。

厚生労働省が実施したアンケート調査によると、ご家族の世話をしていると回答した中学生は全体の5.7%でした。

高校生を対象にしたアンケート結果では、4.1%の生徒がご家族を世話していると回答しています。クラスメイトの1〜2人がヤングケアラーになる計算です。

(参考:厚生労働省ヤングケアラーの実態に関する調査研究について

ヤングケアラーの数は現在も増加傾向にあり、関連する問題は今後もますます加速していくことが見込まれます。

ヤングケアラーにかかる負担

ヤングケアラーは、ご家族の介護や兄弟の世話、家事など多くの負担を抱えています。

一般的な学生における学業の負担のほか、家庭を支えるためのプレッシャーに悩む方も少なくありません。

そのほか、学業や友達との交流の時間だけではなく、自身をケアするための時間確保ができず健康状態に影響がでるケースもあります。

こうした状況を改善するための方法が見つからず、慢性化してしまう傾向があるのもヤングケアラーの問題点です。

ヤングケアラーが抱える問題点

近年、ご家族を支えなければいけないプレッシャーから、精神的な負担を抱えているヤングケアラーは増加傾向です。

また、ご家族に対しての身体的なケアが重度の場合は慢性的な疲労に悩む場合もあります。中には、腰痛や関節痛などの症状から、日常生活に影響を及ぼすケースも珍しくありません。

こうした問題を解決するためには、学校や地域を通じて社会全体でヤングケアラーを支援するための取り組みが必要不可欠です。

貧困問題がヤングケアラーに与える影響

貧困がヤングケアラーに与える影響は重大な問題となっており、これらを解決するための施策が求められています。

ヤングケアラーが直面する貧困問題に取り組むためには、貧困が与える影響やリスクについて理解しておかなければいけません。

それぞれ紹介します。

健康面のリスク

貧困問題は、ヤングケアラーの健康状態に影響を与える可能性があります。

経済的な問題によって、不安やストレスを抱えるヤングケアラーは少なくありません。また、精神的なストレスが、腹痛や頭痛などの身体症状として現れる場合もあります。

ほかにもバランスのよい食事が摂れず栄養面に問題がある場合や、日頃の健康管理が十分に行えず、怪我や病気などのリスクを抱えるケースもあります。

ヤングケアラーを支援していくためには、貧困問題への取り組みと同時に健康面からも支援していくことが重要です。

友人関係の希薄化

貧困問題を抱えるヤングケアラーの中には、友人と交流する機会が作れずに悩む方も多い傾向にあります。

金銭的な事情から、友人と出かけるための資金が捻出できず、関係が希薄化してしまうケースがあります。

また、家計を支えるためにアルバイトをしているため、流行りのゲームや音楽などの話題についていけない・会話に混ざれない・時間の確保自体が困難な場合もあるでしょう。

このような状況から友人関係の希薄化が進み、疎外感に悩むヤングケアラーがいるのが実情です。

学業や進路への影響

ヤングケアラーが将来の進路を検討する上で、貧困や経済的な悩みは無視できません。

高校や大学などを目指すヤングケアラーの中には、家計の事情から進学を断念してしまう場合があります。予備校や塾などに通えず、受験対策が間に合わないケースもあるでしょう。

そのほか、ヤングケアラーとしての役割負担から、授業についていけない方や進路を検討するための時間が確保できない場合もあります。

ヤングケアラーを支援するためには、貧困問題と教育支援の両面から検討しサポートしていくことが重要です。

ヤングケアラーが抱える貧困問題の事例

ヤングケアラーが抱える貧困問題に対処していくためには、彼らがどのような悩みに直面しているのか理解が必要です。

経済的な悩みを抱えるヤングケアラーが直面している問題や事例を紹介します。それぞれ確認してみましょう。

必要なサービスが利用できない

親の介護をしているヤングケアラーの中には、金銭的な理由から介護などのサービスが利用できないケースがあります。

一般的に介護保険サービスを利用する場合は、収入によって1〜3割の費用負担が必要です。貧困に悩む家庭の場合、サービス利用時にかかる費用は大きな負担です。

家族介護に限界を感じている場合でも、必要なサービスが利用できずに自身を犠牲にするヤングケアラーは少なくありません。

こうした経済的な事情から、子どもが親のケアを行わざるを得ない状況があるのが実情です。

自分のための時間が確保できない

貧困に悩むヤングケアラーの中には、家計を支えるためにアルバイトを行う方がいます。

登校前の早朝や空き時間、学校が終わった後に働くケースなどさまざまです。多くの場合、帰宅後にご家族のケアや家事、兄弟の世話などを行うため、自分の時間が確保できません。さらにヤングケアラーとしての責任感から、一人暮らしを断念する方も少なくありません。

これらの問題に対処していくためには、周囲の協力や支援サービスなど、外部からのサポートが必要不可欠です。

将来のことを考える余裕がない

貧困に悩むヤングケアラーが直面する問題として、将来のことを考える時間や余裕がないことがあげられます。

将来就きたい職種によっては、資格取得のための勉強や進学が必要です。しかし、貧困による問題から、将来のための資金が捻出できず希望の進路を断念するヤングケアラーもいます。

また、将来のことについて親と相談する機会が作れず、1人で抱え込んだまま諦めてしまうケースも珍しくありません。

ヤングケアラーの貧困問題に対する取り組み

現在、金銭的な悩みを抱えるヤングケアラーに対して、さまざまな取り組みが行われています。

活動内容は、家計の負担を支援するものから精神的なケアまで多岐にわたります。こうした活動をサポートしていくためには、取り組み内容を理解しておかなければいけません。

ここから、ヤングケアラーの貧困問題に対する取り組みを紹介します。それぞれ確認してみましょう。

こども食堂

ヤングケアラーの貧困問題に対する取り組み例の1つが、こども食堂です。

こども食堂では、無料または安価で食事が提供されます。偏った食生活や満足な食事が摂れない子どもたちに栄養バランスに配慮された食事を届けるのが目的です。

また、家庭以外の居場所づくりとしての役割も担っています。他者との交流を通じて、コミュニティの構築や悩みの解消につながるヒントが得られるかもしれません。

開催場所は、公民館・学校・民間施設などさまざまです。子どもだけではなく大人も利用できます。

参考:ガッコム・むすびえ こども食堂マップ

聞き取り調査

子どもたちの家庭環境や介護の悩み、金銭事情などは把握しづらい側面があります。

ヤングケアラー問題は、当事者や子どもたちが自ら相談を行わなければ、適切なサポートを提供できないのが実情です。

そのため、一部の学校ではヤングケアラーの貧困問題に関する聞き取り調査が行われています。また、相談しづらいケースもあるため、メールやアプリで対応するケースも出てきました。

ヤングケアラーの実態や悩みを把握し、それぞれのニーズに合う方法で支援を行います。

自立支援

ヤングケアラーの問題に対処するために、自立支援を行うケースもあります。

ヤングケアラーの中には、精神的な事情から働けなくなってしまった親のケアを行う場合や親の代わりに働く子どもがいます。

また、金銭的な焦りを感じ余計に体調を崩してしまう親も珍しくありません。そのため問題に対処するには、親とその子どもの両方に対して支援していくことが重要です。

こうした悪循環を解消するために、親の就労支援や家計の管理、家庭環境の改善などを目的としたサポートが行われています。

ヤングケアラーと貧困に関する今後の課題

サポートが必要なヤングケアラーに対しての支援制度は、まだまだ不十分です。

貧困問題から必要なサービスが利用できず、ヤングケアラーへの負担が大きくなるケースは珍しくありません。また、このような悪循環から抜け出すのが困難なのも実情です。

貧困問題を解消していくためには、ヤングケアラーとその親の両方に対して支援していかなければいけません。

適切なサポートを行うために、ヤングケアラーやそれぞれの家庭が抱える悩みを把握し、直面している問題を明確にしていくことが重要です。

まとめ

この記事では、ヤングケアラーと貧困の関連性について紹介しました。

ヤングケアラーと貧困問題には密接な関連性があり、ヤングケアラー本人にとって大きな負担となっています。

とくに、金銭的な問題による健康面のリスクや将来への不安を解消していくためには、外部からのサポートが必要不可欠です。

今後は、政府や自治体、学校など社会全体が協力して、ヤングケアラー支援について検討しサポートできる環境を構築していく必要があります。

この記事を通して、ヤングケアラーの貧困問題について理解が深まれば幸いです。

渡口将生

介護福祉士
介護支援専門員
認知症実践者研修終了
福祉住環境コーディネーター2級

介護福祉士として10年以上介護現場を経験。その後、介護資格取得のスクール講師・ケアマネジャー・管理者などを経験。現在は介護老人保健施設で支援相談員として勤務。介護の悩み相談ブログ運営中。NHKの介護番組に出演経験あり。現在は、介護相談を本業としながらライターとしても活動、記事の執筆や本の出版をしている。