介護情報メディア ケアケア ケアラー向けコラム ヤングケアラー・若者ケアラー ヤングケアラーの進路・就職の現状|新たな道への相談窓口|介護のミライ会議Vol.1

ヤングケアラー・若者ケアラー

2024-05-29

ヤングケアラーの進路・就職の現状|新たな道への相談窓口|介護のミライ会議Vol.1

ヤングケアラーとは、本来大人が担うと想定されている家族のケアを行っている子どものことを指します。

 

掃除・洗濯・食事などの家事、精神的なサポート、きょうだいの世話、日本語が話せない家族のための通訳など、ケアの内容はさまざまです。こうしたケアを行うために、ヤングケアラーは勉強や部活に取り組む時間がない、友人と遊べないなど、多くの影響を受けることがあります。

 

中でも問題になってくるのが、進学や就職など人生の岐路に立った時。そこで今回は、「一般社団法人ヤングケアラー協会」の理事・高垣内 文也さんに自身の体験も踏まえながら、ヤングケアラーの進路・就職の現状や課題についてお話を伺いました。

ヤングケアラー協会の活動

テーブルの上に座る男性

中程度の精度で自動的に生成された説明

私の所属する「ヤングケアラー協会」は、ヤングケアラーを支援するため2021年に設立された団体です。私も含め、中心メンバーの全員が元ヤングケアラー。こうしたヤングケアラーは、家族のケアを行うために学校生活や就職において、さまざまな制約を受けることがあります。その中で、ヤングケアラーたちがよりよい生活や選択ができるようサポートを行うのが私たちの活動です。

現在取り組んでいる活動としては、次のようなものがあります。

・オンラインでの相談

・就職支援

・ヤングケアラーコーディネーターの派遣

・全国での講演会

・イベントの実施

・自治体との連携事業

オンライン上で直接ヤングケアラーの声を聞き、必要に応じてコーディネーターが行政につないだり、就職支援などを行ったりしています。また、講演会やイベントなどの認知度を高めるための啓蒙活動、各自治体の相談窓口の設置や運営のサポートなどにも取り組んでいます。

20人に1人がヤングケアラー

ヤングケアラーというと、特殊なケースと思っている人も多いのではないでしょうか。しかし2020年に厚生労働省が行ったヤングケアラーの調査によると、中高生の20人に1人がヤングケアラーだという結果が出ています。この調査はヤングケアラーという言葉の認知度が低い中で行ったものであり、今同じ調査をすると、さらに多いという結果が出るかもしれません。

クラスに1〜2人はいるのにも関わらず、多くの人がケアラーは身の回りに少ないと考えているのは、家庭内で起こっていることであり、外部から認識しづらいことが挙げられます。超高齢化社会の今、介護を含めたケアはいつ自分も関係するかわからない問題であるにも関わらず、なかなか認められにくい、という現実があります。

18歳では終わらないケア

従来ヤングケアラーは、小中高生など18歳未満の子どものことを指していました。しかし最近では、18歳以降から30歳までの若者もケアラーとして含むようになっています。

ほとんどの場合、ケアは18歳になったからといって終わりではありません。そして、ケアのために進学や就職をやめる、志望先を変更する、仕事を辞めるなどの選択を迫られるケースが非常に多いのです。ケアラーが家族のために、自分の夢や将来を諦めるというのはとても残念なことです。

そこで当協会では、18歳以上から30歳までのケアラーもさまざまなサポートに取り組んでいます。私もまさに、そんなケアラーの1人。19歳からほぼ10年間、祖母のケアを行っていた経験があります。

19歳から30歳直前まで祖母のケアを経験

私は父方の祖母の介護(ケア)を、大学1年生の19歳から30歳の誕生日の5日前まで行っていました。講義が終わったらすぐに介護のために自宅に帰らなければならず、学生の頃に体験しておきたいサークル活動やボランティア活動、アルバイトなどに制限がありました。

また、就職してからも終業後すぐに帰宅しなければならなかったので、会社の飲み会やイベントなどには参加できないこともありました。27、28歳の頃は介護と仕事の板挟みとなり、退職も考えるように。

しかし私の場合、当時勤務していた企業に理解があり、介護をしながらも仕事を続けることができました。

進学や就職を諦めてしまうヤングケアラーたち

ある意味、私のケースは大学に通え、仕事も継続できたラッキーなケースです。もし勤務先に理解がなく、27歳で仕事を辞めて30歳で再就職しようとした場合、スムーズな就職は難しかったでしょう。

このように、ケアと学業・仕事の両立が難しく、大学に進学できない、志望校に行けない、介護離職をするといったケースが非常に多く見られます。

もう一つ多いケースとしては、ケアラーに学びの機会や社会での経験が少ないため、経験値が低く、就労が難しいケースです。幼い頃から勉強や遊びよりもケアに時間を割いていたため、就職に必要な経験値が足りず、なかなか就職に結びつきません。

こうした理由からヤングケアラーの多くが、進学・就職でつまずいてしまうのです。

後悔のない選択を

当協会では、こうした悩みを抱えるヤングケアラーたちへの就職支援を行っています。ケアラーによって課題や悩みは千差万別。すぐに医療や行政につなぐ必要のある緊急性の高いものから、ただ話を聞くだけのものまで、それぞれに応じた対応をしています。

ケアに時間を割き、就職活動に必要な“ガクチカ”、学生時代に力を入れたことが書けないケアラーも多く、一緒に考えることもあります。

こうした進路や就職の相談で私が大切だと考えているのは、ケアラー自身に進路を選択してもらうこと。ケアをやめて自分の夢に進むのか、ケアと進路の両立を図るのか、またその他の道を探るのか…よりよい道を自ら選んでもらうことで、後悔が少ない人生を歩めると思っています。

その選択肢に合った支援やアドバイスを行うのが、私たちの仕事でもあります。

「うちの会社にケアをしている人はいない」という企業

今までヤングケアラー側の課題や悩みなどをお伝えしましたが、企業や行政にもヤングケアラーの問題に関し、課題・問題があります。

協会の活動として企業への講演に出向くこともありますが、多くの経営陣の方が「うちの会社にケアをしている人はいない」とおっしゃいます。ですが、講演後に匿名のアンケートを取ると、ケアをしている社員さんは必ずといって良いほどいるのです。ケアをしている社員の存在に経営者が気づかなければ、仕事とケアの両立は難しいでしょう。

さらに、仕事とケアが両立しなければいずれ介護離職となる可能性があります。人材難の現在、人材確保のためにも企業側にケアラーの把握とサポートが迫られているといえます。

ケアラーをサポートできる地域、自治体に

机の上に座っている女性

低い精度で自動的に生成された説明

現在、多くの自治体がヤングケアラーへの支援に取り組んでおり、当協会も自治体と連携しています。その中で私たちがまずお願いしているのは、実態の調査です。

ヤングケアラーの問題は、低所得世帯の多い地域ではベースに貧困があったり、外国人が多い地域では言語の問題があったりと、地域によって大きな違いがあります。ある自治体でうまくいった方法が、別の自治体でうまくいくというものでなく、それぞれにあったサポートが必要となります。

また、ヤングケアラーの早期発見とサポートのために、縦割り行政でなく、教育や介護、医療などの関連団体が連携して一つのケースに当たることも求められています。

迫られる会社の意識改革

すでに述べた通り、ヤングケアラーの問題は認知されづらいということが挙げられます。しかし超高齢化社会の今、介護・ケアの問題は誰にでも等しく起こりうる、差し迫った現実です。

ここでケアの問題を、育児に置き換えて考えてみましょう。子どもが小さい頃は育児休暇があり、職場に戻ってくれば時短やフレックス、さらには在宅で働くことができる。もしケアにおいても、長期休暇・時短・フレックス・在宅などの制度があれば、継続して働けるという人も増えるでしょう。

育児をしている人はわかりやすく、ケアをしていない人はわかりづらいということはありますが、ことの本質は非常によく似ています。身近にケアラーがいることを踏まえ、どうすれば仕事を継続できるのか、どんな仕事ならできるのか、離職を防ぐために企業も考える時代がきているのではないでしょうか。

働きたい人が働き続けられる社会、すべての人々が生活しやすい社会に

ケアと仕事の両立の問題は、育児と仕事の両立、治療と仕事の両立、障害と仕事の両立など、同じような問題に置き換えることができます。ケアの問題は、多様性のある社会への取り組みの一つだといえるでしょう。

これからは、働き続けたいという意思のある人なら、難しい状況下でも働き続けられる、またそういった人を受け入れられるインクルーシブ(包括的)な会社、社会に変容していく必要があります。ケアに限らず、働きたい人が働き続けられる社会、いろんな立場の人々が生きやすい社会になるよう、これからも働きかけていきたいと思っています。

最後に、ケアで悩んでいる若い人たちに一言。もし辛い、大変だと感じているのであれば、友人や先生、行政に相談してください。もしかしたらどこかに繋いでくれるかもしれません。また、当協会のオンラインの相談窓口に相談していただくのもOKです。私たちのケアの体験も踏まえ、相談に乗ります。

高垣内文也

「一般社団法人ヤングケアラー協会」
理事

元ヤングケアラー(若者ケアラー)。20歳の時に祖母がアルツハイマー型認知症と診断され、約9年間介護に関わる。
当時、周囲に理解されず非常に苦しかった経験から、今苦しんでいる人がいるのであれば救いたいと思い、個人でヤングケアラー支援を開始。
その後、ヤングケアラー協会に参画。
経産省「始動 Next Innovator 」7期生。