介護情報メディア ケアケア ケアラー向けコラム ヤングケアラー・若者ケアラー ヤングケアラーへの支援金制度とは?自治体による取り組みを解説

ヤングケアラー・若者ケアラー

2023-12-19

ヤングケアラーへの支援金制度とは?自治体による取り組みを解説

ヤングケアラーは、ご家族の世話や家事を日常的に行う18歳未満の子どものことです。

 

本人にヤングケアラーである自覚がないため、気づかない場合も多くあります。
そのため、周囲の大人がヤングケアラーに気付くことができる仕組み作りも大切です。

 

しかし、ヤングケアラーへ支援をしようと考えても、どのような支援をすればよいのか悩むのではないでしょうか。

 

今回の記事では、ヤングケアラーが抱える問題点や支援者の課題・具体的な施策や取り組みを解説します。ぜひ参考にしてみてください。

ヤングケアラーに対する取り組みと支援額について

ヤングケアラーに対する支援は「ヤングケアラー支援体制強化事業」として、予算が組まれており、次の2つの事業があります。

・ヤングケアラー実態調査・研修推進事業

・ヤングケアラー支援体制構築モデル事業

それぞれ解説します。

ヤングケアラー実態調査・研修推進事業

ヤングケアラー実態調査・研修推進事業は、ヤングケアラー体制強化事業のひとつです。ヤングケアラーの具体的な人数を把握し、福祉・介護・医療・教育などの関連機関の職員への研修を実施する際に必要な財政支援をします。

具体的な補助額は以下のとおりです。

実態調査・把握
実施主体都道府県・市区町村
補助基準額・都道府県、指定都市あたり:766.2万円
・中核市・特別区あたり:413.0万円
・市町村あたり:229.6万円
負担割合・国:3分の2
・自治体:3分の1

(参考:令和5年度予算|こども家庭庁

上記表は、実態調査や把握のための補助額です。実施した場合に補助され、事業委託も可能です。事業導入当初の期間限定の措置として、国の負担割合を2分の1から3分の2まで補助率を拡充しています。

関係機関職員研修
実施主体都道府県・市区町村
補助基準額・都道府県・指令都市あたり:408.3万円
・中核市・特別区あたり:239.1万円
・市町村あたり:171.8万円

(参考:令和5年度予算|こども家庭庁

上記表は、関係機関職員研修を実施する自治体の補助額です。この費用の負担割合も国が2分の1から3分の2に拡充しています。

ヤングケアラーの実態を把握し、地域包括支援センターや学校などの関連機関の職員に研修をすることで、ヤングケアラーの家庭にとって適切な支援やサービスの選択につながるでしょう。このように、ヤングケアラーの早期発見と対策を行われることが期待されています。

ヤングケアラー支援体制構築モデル事業

ヤングケアラー支援体制構築モデル事業も、ヤングケアラー支援体制強化事業のひとつです。

具体的には、地方自治体とヤングケアラーのパイプ役になる「ヤングケアラー・コーディネーター」を設置し、コーディネーターの研修や、ピアサポート(当事者・支援者の支え合い)への支援・オンラインサロンの設置や運営に財政支援が行われます。

ヤングケアラー・コーディネーターをつなぐサービスは福祉サービスだけではありません。環境や状態に合わせて、就労支援サービスにもつなぐ場合があります。また、外国語で対応が必要な家庭に、病院や行政手続きをするための通訳派遣をする自治体の財政支援も実施しています。詳しい補助額などは、次のとおりです。

ヤングケアラー・コーディネーターの配置
補助基準額・都道府県、指定都市あたり:約1770万円
・中核市・特別区あたり:約1131万円
・市町村あたり:633.5万円
ピアサポート等相談支援体制の推進
補助基準額・都道府県、指定都市あたり:743.3万円
・中核市・特別区あたり:503.8万円
・市町村あたり:259.6万円
オンラインサロンの設置・運営・支援
補助基準額・都道府県、指定都市あたり:386.2万円
・中核市・特別区あたり:262.7万円
・市町村あたり:173.3万円
外国語対応通訳派遣支援
補助基準額・都道府県、指定都市あたり:792.0万円
・中核市・特別区あたり:528.0万円
・市町村あたり:264.0万円

(参考:令和5年度予算|こども家庭庁

上記表の実施主体は、都道府県・市区町村となっており、負担割合は国が3分の2を担っています。外国語対応通訳派遣支援を導入し、上記表内の事業を実施した場合に補助をする方針です。

さらに、市町村相談体制整備事業では、ヤングケアラー支援事業を拡充し、市町村あたり約186万円の補助をしています。

ヤングケアラーの支援の実例

ヤングケアラーの支援は、ヤングケアラーの支援者の育成や支援金の支給など、さまざまな自治体や団体が取り組んでいます。本記事で紹介する実例は、次の3つです。

・ケース1:日本財団

・ケース2:埼玉県川口市

・ケース3:大阪府

それぞれのケースを、解説していきます。

ケース1:日本財団

公益財団法人日本財団では、ヤングケアラー連盟とケアラーアクションネットワーク協会に計1,475万円の助成を行っています。この助成事業で、自治体や学校関係者を対象にした研修を実施し「ヤングケアラーの支援者」の育成に取り組んでいます。

具体的には、ヤングケアラーに関する研修動画の作成や普及・普及を目的としたイベントの実施などです。

日本財団では、自治体や民間団体と連携し、日本財団がハブとなるネットワークの構築や政策提言をおこなうなど、支援事業の拡大を目指しています。

ケース2:埼玉県川口市

埼玉県川口市では、2023年度の予算案に1億839万円を計上し「ヤングケアラー支援金」を新設しました。川口市には約2,500人のヤングケアラーがいると予測されているものの、必要な支援が行き届いていないことが課題となっています。

そこで、小学生から中学生までが月5,000円、高校生からは1万5,000円を支給し、学校に行っていない未成年者も対象とされています。今後もチェックリストを作成し、家庭や学校などで聞き取り調査をおこなって支援対象者を決めていく方針です。

ケース3:大阪府

大阪府では、大阪府福祉基金を活用して「地域におけるヤングケアラー支援のモデル事業」として取り組む団体の助成を行っています。申請団体数は11件となっており、助成上限は500万円です。ヤングケアラーの認知度の向上や勉強会に取り組みやピアサポートの支援を実施したうえで、事業成果報告書の提出をします。

助成する団体は、これまでの活動を発展させ、食事や学習支援、ヤングケアラーの相談、体験活動、行政や地域住民への啓発セミナーなども実施しており、ピアサポート事業では、当事者同士の交流の場を提供するなど、さまざまな取り組みがされています。

介護職やケアマネージャーがヤングケアラーの発見につながる可能性も

自分がヤングケアラーだと自覚している子どものうち、ご家族以外に相談した相手は、学校の先生やスクールカウンセラー、ヘルパー、ケアマネージャーの割合が高くなっています。ヤングケアラーの早期発見のためには、福祉・介護・医療・教育などの分野と連携することが重要です。

介護が必要な家庭の中には、ご家族の世話を余儀なくされる子どもも少なくありません。ヘルパーやケアマネージャーは、定期的に自宅を訪問するため、ご家族と話す機会もあるでしょう。

現在、介護保険サービスを利用中でも、家庭の負担が大きいようなら、ケアプランの見直しや、必要な支援を検討することも大切です。

ヤングケアラーの抱える問題点とは

ヤングケアラーが抱える問題点はいくつかありますが、次の2点は特に重要な問題点だと考えられます。

・学業や就職に支障が出る

・誰に相談してよいかわからない

それぞれ解説します。

学業や就職に支障が出る

ヤングケアラーは、親やきょうだいの世話や家事をしているため、学業に集中することが難しい状況です。ヤングケアラーの約半数が、ほぼ毎日ご家族の世話や家事をしており、1日平均2~4時間も費やしています。中には、自分の体より大きい大人の排泄を手伝う場合もあり、重労働をしているケースもみられます。

このように、ケアに関わる時間の長さや疲れの蓄積により宿題や課題に手が回らなくなる傾向です。また、高校生のヤングケアラーについては、進学をあきらめたり就職先を限定させてしまったりしている状況もあります。

誰に相談してよいかわからない

自分がヤングケアラーだと自覚している子どもは、全体の約2%しかおらず、子ども自身が助けを必要だと感じていない可能性も考えられます。また、助けを求めたくても「誰に相談していいのか分からない」「家族のことを相談したくない」という心情から、なかなか表面化されない傾向です。大人になってから「自分がヤングケアラーだった」と気付づく場合も多く、周囲の大人が気づける環境作りが大切です。

支援する側の課題

ヤングケアラーを支援するためには、次のような課題が考えられます。

・ヤングケアラーの認知度の低さ

・本人からの相談がなければ気付きにくい

次から、解説していきます。

ヤングケアラーの認知度の低さ

中高生のヤングケアラーの認知度は「聞いたことがない」という子どもが、約8割以上です。しかし、現実には小学生の6.5%、中学2年生で5.7%のヤングケアラーが存在しています。

日本全体におけるヤングケアラーの認知度は「聞いたことがない」という人が約48.0%もおり「ヤングケアラーという言葉は知っているが、よく知らない」と答える人が約22.3%いることから、認知度は高くないといえるでしょう。

ヤングケアラーの認知度は、性別や子どもの有無・年齢によって異なり、子どものいる50代女性の認知度が高く、男性や若い年齢の認知度が低くなっています。また「ヤングケアラー」を知ることで、適切な行動に移せると考えられることから、定期的な実態調査の把握や広報啓発活動を進めていく必要があります。

本人からの相談がなければ気づきにくい

次に、本人からの相談がなければ気づきにくい点が挙げられます。本人からの申告以外では、学校を休みがちになることや授業中眠そうにしているなど、普段とは違う様子から発見される傾向があります。

ヤングケアラーの支援は、ケアラー本人のみならず、ご家族全体への支援が必要です。現在、国は自治体や福祉・教育機関と連携し、問題点が小さいうちに対処できるようにヤングケアラー・コーディネーターの配置をすすめています。

まとめ:ヤングケアラーの認知度の向上と支援を

今回は、ヤングケアラーの支援金や課題について紹介しました。

ヤングケアラーはまだ認知度が低く、本人や周囲の大人も     気づいていない可能性が考えられます。そのため、自治体や団体では広報活動をおこない、職員研修や支援金など、さまざまな形でヤングケアラーへの支援をおこなっています。

研修を受けた人が増えることで、表面化されにくいヤングケアラーの早期発見や対処が可能になるでしょう。

当事者が気づいていない現実を見出し、適切な生活環境へと導くことを期待されているのです。ヤングケアラーに必要な支援が当事者に届けられるように、地域全体で支えていくことが子どもたちの健全な社会進出や健康維持につながります。

渡口将生

介護福祉士
介護支援専門員
認知症実践者研修終了
福祉住環境コーディネーター2級

介護福祉士として10年以上介護現場を経験。その後、介護資格取得のスクール講師・ケアマネジャー・管理者などを経験。現在は介護老人保健施設で支援相談員として勤務。介護の悩み相談ブログ運営中。NHKの介護番組に出演経験あり。現在は、介護相談を本業としながらライターとしても活動、記事の執筆や本の出版をしている。