ビジネスケアラー
2024-03-07
隠れ介護者が抱えるリスクとは?増加の背景と支援方法について
仕事と介護を両立するビジネスケアラーのうち、職場に告知していない方を「隠れ介護者」と呼びます。
近年、隠れ介護者の数は増加傾向にあり、今後も増える見込みです。隠れ介護者が与える経済への影響は大きく、個人だけの問題ではありません。
隠れ介護者が抱える悩みや問題を解消していくためには、企業や社会全体で取り組んでいくことが重要です。
この記事では、隠れ介護者が生まれる理由や問題点を解説した上で、支援の方法を紹介します。ぜひ、参考にしてみてください。
隠れ介護者の概要
隠れ介護者は当事者だけではなく、社会全体に影響があるため、早急な対策が求められます。
ここでは、隠れ介護者の特徴や、現状をそれぞれ確認していきましょう。
隠れ介護者の特徴
隠れ介護者は、ご家族や親戚などの介護をしている方で、かつ周囲にその状況を開示していない方を表す言葉です。
会社に報告しない理由はさまざまで、退職するまで家族介護の状況に気付かないケースも珍しくありません。
他者の介護状況はデリケートな問題でもあり、相手から相談があるまで踏み込んで聞けないのも実情です。
このように、さまざまな要因から家族介護の状況を職場に告知せず、隠れ介護者になる方が増えています。
隠れ介護者の現状
近年、仕事と介護を両立するビジネスケアラーの数は増加傾向にあり、その数は今後も増えると予想されています。
ビジネスケアラーの増加にともない、隠れ介護者の数も増える見込みです。被介護者の人口がピークを迎える2030年には、ビジネスケアラーの数は318万人にも及ぶと予測されています。
(参考:経済産業省「ビジネスケアラー支援に向けて」)
隠れ介護者の増加は介護離職者の増加にも起因するため、企業にとって無視できない問題です。
今後、ますます増加するビジネスケアラーや隠れ介護者に対して、サポート制度の拡充や環境づくりが急務と考えられています。
一般的な介護者との違い
一般的に、介護が必要な方に対して身体的・精神的なサポートを行う方を介護者(ケアラー)と呼びます。
仕事と介護を両立する介護者に対して、ビジネスケアラーの名称を使う場面も増えました。
また、職場に対して介護状況を伝えていないビジネスケアラーに限定して、「隠れ介護者」と呼びます。
当事者のおかれている状況によって呼び方が異なるだけで、介護者であることに違いはありません。
多様化する介護の形に対しての「区分け」と考えるとよいでしょう。
隠れ介護者が生まれる理由
隠れ介護者になる経緯は人によって異なり、介護状況を職場に開示しない理由もさまざまです。
ここでは、隠れ介護者が生まれる理由を3つ紹介します。それぞれ確認してみましょう。
核家族の増加
核家族化の進行は、ビジネスケアラーや隠れ介護者の増加につながります。
時代やライフスタイルの変化にともなって、家族構成も変化してきました。
とくに、昭和時代のような、複数世代が同じ家で暮らす家庭は少なくなっています。
ご家族の誰かに介護が必要となった場合でも、ケアに専念できる人手が見つからず、仕事と介護を両立するケースは珍しくありません。
また、介護に悩んでいる場合でも、その状況をご家族や周囲に相談できず、隠れ介護者になるケースがあります。
少子化の影響
少子化の進行によって、一人っ子世帯は増加傾向にあります。
親の介護が必要になった際、兄妹がいる場合は介護を分担できる可能性がありますが、一人っ子の場合は、頼れる兄妹が存在しません。
介護の負担や悩みを共有できる存在がいない状況下で抱え込んでしまい、隠れ介護者になるケースがあります。
サポート体制や環境の不足
職場の環境によっては、隠れ介護者が生まれやすい状況となる可能性があります。
介護のために休暇や休業を取得したい場合でも、職場によっては調整がスムーズにいかないケースがあるかもしれません。
職場への負担を懸念して、抱え込んでしまうビジネスケアラーも多い傾向にあります。そのほか、介護者制度の存在自体を知らない場合もあります。
家族介護に悩んでいる場合でも、職場への相談や制度の利用ができず、隠れ介護者になるケアラーは少なくありません。
隠れ介護者が抱える悩み
隠れ介護者の問題に対処していくためには、彼らの悩みを理解しておかなければなりません。
現在、ご家族に介護が必要な方がいない場合でも、いつか来る親の介護に備えて、隠れ介護者が抱える悩みを把握しておくのも重要です。
ここから、隠れ介護者が抱える悩みを3つ紹介します。それぞれ確認してみましょう。
介護の悩みを周囲に相談できない
親や兄妹など、ご家族の介護で悩んでいる場合でも、周囲に相談できずに悩むケースは珍しくありません。
とくに、育児の悩みと比較して、介護の悩みを誰かに話すことに抵抗を感じる方は多い傾向にあります。
「家族の問題は、家庭内で済ませるべき」と考え、抱え込んでしまう方も少なくありません。
そのほか、昇進への影響や降格などの懸念から相談できないケースもあるでしょう。役職についている場合は、とくにそう感じる方が多いのも実情です。
このように、相談することへの抵抗感や不安感などから、周囲に打ち明けられず隠れ介護者になるケースがあります。
仕事と介護の両立
仕事と介護を両立する際の悩みで多いのが、慢性的な疲労と時間不足です。
仕事で疲れている場合でも、帰宅後にはご家族のケアが待っています。
十分な休息が取れず、前日の疲労を残したまま、次の日を迎えてしまうこともあるでしょう。
そのほか、時間の確保が困難な理由から、状況の改善方法や介護制度の利用が検討できず、現状を長引かせてしまうケースもあります。
解決への糸口が見つからないまま、限界を迎えてしまう方は多い傾向にあります。
ストレスや健康リスク
仕事と介護の両立から、自分の時間が確保できずにストレスを抱えてしまうケアラーも多くいます。
一般的なワーカーの場合、帰宅後に自分の時間やゆっくりと身体を休める時間が作れるかもしれません。また、休日を利用してリフレッシュする方もいるでしょう。
一方、ビジネスケアラーの場合は、自分のための時間確保が難しく、休日を家事やご家族のケアにあてるケースがほとんどで、介護疲れを感じてしまいます。
このような状態が続くと、肉体的だけではなく、精神的に滅入ってしまうため注意が必要です。
隠れ介護者が与える影響
隠れ介護者やビジネスケアラーによる影響は、社会全体にとっても無視できない問題になっています。
ビジネスケアラー全体が与える経済への影響は大きく、その損失額は2030年時点で9兆円にも及ぶ見込みです。
(参考:経済産業省「介護政策(METI/経済産業省)」)
また、会社や企業にとっても関係のない話ではありません。ケアラーの年齢層を見ると、40代以降の割合が増加しており、仕事の中核を担う働き手が家族介護に直面した場合、職場の生産性に影響する可能性があります。
(参考:日本総研「ビジネスケアラーの実態と企業に求められる取り組み」)
今後も拡大が見込まれるビジネスケアラー問題に対して、会社や企業は事前に検討しておくことが重要です。
隠れ介護者を発見する方法
ケアラーが抱える問題やリスクを最小限に抑えるには、隠れ介護者を早期発見することが重要です。
隠れ介護者を発見するには、日頃から介護について相談しやすい関係・環境を作っておかなければなりません。
しかし、本人が隠れ介護者であることに気付いていないケースも考えられます。
周囲の人とコミュニケーションを取ることによって、本人が介護者だったことに気付くきっかけになる可能性もあります。
このような問題に対処していくには、ご家族の悩みを相談できる関係性や、社員のちょっとした変化に気付ける環境づくりが必要不可欠です。
隠れ介護者への支援方法
今後も増加が見込まれるビジネスケアラーや隠れ介護者の問題に対処するためには、社会全体で支援方法を考えていかなければなりません。
ここでは、ビジネスケアラー・隠れ介護者に対しての支援方法を3つ紹介します。それぞれ確認してみましょう。
ビジネスケアラーへの制度拡充
近年では、時短勤務やテレワークなど、柔軟な働き方に対応する企業も増えています。一方、このような制度が利用しづらい職場も少なくありません。
社員から介護の悩みを相談された際、職場での対応が困難な場合は、専門機関への橋渡しを行う形でサポートできる可能性があります。
介護者のニーズに対応し、職場全体でサポートしていくためには、さまざまな視点から支援方法について検討していくことが重要です。
介護情報の共有
介護・福祉と関係ない職種の場合、介護の情報に触れる機会はあまり多くないでしょう。
いざ、ご家族の介護が必要になった際に、どのように対応してよいかわからずに悩む方は少なくありません。
このような事態を防ぐためには、いつか来る親の介護について、事前に検討し情報に触れておくことが重要です。
職場内での情報共有のほか、社員全体に対しての研修など、介護について検討する機会を設ける企業も増えています。
職場の環境づくり
家族の介護に悩んでいる場合でも、相談できずに抱え込んでしまうケアラーは珍しくありません。
利用できる制度を認知している場合でも、職場への負担を懸念して言い出せないケースもあります。
このような状況を改善するには、人員配置について定期的な検討が必要です。誰かがビジネスケアラーになった場合を想定し、チーム全体で話し合っておくとよいでしょう。
隠れ介護者への取り組み事例
拡大する隠れ介護者問題に対処するために、さまざまな取り組みが行われるようになりました。
現在、国としても、ビジネスケアラーに対しての施策が行われています。その一例としてあげられるのが、経済産業省による「OPEN CARE PROJECT」です。
家族介護の状況や、悩みをオープンに話すことの重要性を解説する内容になっています。“介護の状況は相談しづらい”というイメージを打破するのが目標です。
今後も加速するケアラー問題を考える上で、このような取り組みがより重要になっていくでしょう。
隠れ介護者の今後
超高齢化社会に突入した日本では、今後ますます高齢者が増える見込みです。
高齢者の増加にともなって、ビジネスケアラーや隠れ介護者の数も増加していくと予想されています。
隠れ介護者が抱えるリスクは大きく、企業や社会全体にとっても無視できない問題です。
今後は、ますます国や企業、職場や個人それぞれが一丸となって介護について考えていかなければいけません。
まとめ
この記事では、隠れ介護者が抱える悩みや社会に与える影響について解説しました。
家族介護を行うケアラーの中でも、職場に介護の状況を開示していない方を「隠れ介護者」と呼びます。
隠れ介護者になる理由はさまざまで、周囲から認知されにくいのも特徴です。中には、介護を理由に退職するまで気付かないケースも珍しくありません。
隠れ介護者が与える経済への影響は大きく、その問題やリスクを軽減する上では、早期の発見が必要不可欠です。そのためには、相談しやすい環境づくりが欠かせません。
今後も拡大する隠れ介護者の問題に対処していくためには、周囲が協力し合って取り組む姿勢が重要です。