介護情報メディア ケアケア 経営・マネジメント向けコラム 経営・業務改善 介護業界におけるICTの普及率は高い?低い?

経営・業務改善

2022-10-13

介護業界におけるICTの普及率は高い?低い?

介護業界は製造業や小売業などの他の業界に比べて、ICTの普及が遅れているという話をよく聞きます。しかし、それは本当なのでしょうか?実は、介護業界もここ数年、急速にICTの導入事例が増えているのです。ICTの導入によって業務効率が上がり、人手不足を解消できるだけでなく、より利用者に寄り添った介護ができるようになります。そこで、介護業界におけるICTの普及率や普及を阻害している主な原因、ICT導入をスムーズに進めるポイントを解説します。

介護業界のICT普及率

本コラムでは、介護業界におけるICT普及率をテーマとして取り上げます。最近、いろいろな分野でICT化やICT導入という話題を耳にするようになりました。ICTとは「Information and Communication Technology」の略で、日本語では「情報通信技術」と訳されます。ICTは、単に技術だけを指すのではなく、「技術を使ってどのように人々の暮らしを豊かにしていくか」ということに重点が置かれています。

ICTはとても幅広い概念で、さまざまなものが含まれます。例えば、パソコンやタブレットの導入、SNSの活用、ECサイトによるオンラインショッピングなども、ICTの1つです。ICTを導入することで、業務効率の改善や、利用者一人ひとりに寄り添ったきめ細かなサービスなどが実現できますので、多くの業界でICTが利用されています。特に、製造業や小売業、教育産業などでは、ICTの普及が進んでいます。

では、介護業界ではどうでしょうか?他の業界に比べると、ICTの普及が遅れているといわれることがあります。その実態はどうなのか、公益財団法人 介護労働安定センターの調査結果を見てみましょう。

令和2年に行われた事業所における介護労働実態調査結果(複数回答あり)では、「パソコンで利用者情報(ケアプラン、介護記録等)を共有している」が50.4%、「記録から介護保険請求システムまで一括している」が39.1%、「タブレット端末等で利用者情報(ケアプラン、介護記録等)を共有している」が22.0%となっています。逆に、こうしたICTを一切導入していないと回答した介護事業所は25.8%でした。

翌年の令和3年10月に行われた同じ調査では、「パソコンで利用者情報(ケアプラン、介護記録等)を共有している」が52.8%、「記録から介護保険請求システムまで一括している」が42.8%、「タブレット端末等で利用者情報(ケアプラン、介護記録等)を共有している」が28.6%となっており、特にタブレット端末の導入が進んだことがわかります。

また、令和3年10月の調査で、ICTを一切導入していないと回答した介護事業所は22.0%でした。無回答も8.4%ありましたが、令和3年10月の時点で、7割を超える介護事業所が何らかの形でICTを導入していると考えられます。

コロナ禍により、働き方改革が加速したこともICT導入の追い風となり、介護業界でもここ数年、急速にICTの導入が進んでいるのです。この調査結果からは、タブレット端末等を使って利用者情報をスタッフ間で共有するといった比較的高度なICTの活用も、3割近くの介護事業所が行っていることがわかります。

介護業界で導入されているICT製品については、ハードウェアはパソコンやタブレット端末が多く、ソフトウェアは勤怠管理システムや電子申請システム、見守りシステムなどを導入しているところが多くなっています。また、移乗支援ロボットや移動支援ロボットなどの介護ロボットを導入している介護事業所も増えてきています。

介護業界のICT導入を阻害する要因とは

このように、介護業界においてもICTは普及しつつありますが、いざICTを導入しようと思っても、スムーズに導入できるとは限りません。介護事業所へのICT導入を阻害する主な要因は、2つあります。

1つは、「職員のICTに関するスキル不足」です。特にパソコンやインターネットなどを使い慣れていない高齢の職員は、ICT導入に対して反発することが予想されます。「ICTが導入されると自分は使いこなせないので、仕事ができなくなる」などと不安に思う職員もいることでしょう。

介護事業所を対象に行ったアンケートによると、ICT導入への反対意見が最も多い職員の年齢層は50代で、次が40代になり、30代以下の若い年齢層の職員はほとんど反対していなかったそうです。30代以下の若い職員は、デジタルネイティブ世代とも呼ばれ、小さい頃からスマートフォンやパソコンなどに囲まれて育ってきていますので、ICT導入に対する抵抗感はほとんどありません。

もう1つが「導入コストや月額料金がかかる」という問題です。一からICTを導入しようとすると、パソコンやタブレット端末等のハードウェアの購入代金と、利用するアプリケーションソフトの費用が必要になり、合計コストはかなり大きくなります。小売業などでは、かかったコストをある程度商品代金に反映させることもできますが、介護業界では、なかなかそういうわけにもいかないので、導入コストをすぐに回収することはできません。

また、クラウドサービスを利用したり、ソフトウェアの保守サービスなどを契約したりすると、月額料金も必要になります。ICTを導入し適切に活用することで業務効率が向上し、人材不足の解消や人件費の抑制も可能になりますので、長い目で見れば初期投資を回収できるようになりますが、導入時にまとまった金額を用意するのが難しい場合もあるでしょう。

介護業界のICT導入をスムーズに進めるポイント

ICTをスムーズに導入するためには、今解説した2つの問題をクリアする必要があります。職員のICTスキル不足に関しては、その介護事業所で働く職員の意識改革を行うことが大切です。

ICT導入は利用者の利便性も向上しますが、何より介護事務所の職員のためであるということを職員一人ひとりがしっかりと理解すれば、ICT導入に反対する職員も少なくなり、ICT導入後のシステムに対する習熟も早くなるでしょう。調査によれば、介護事業所へのICTの導入とその事業所の職員の離職率には相関関係があり、ICTを導入している事業所はそうでない事業所と比べて離職率が低いという結果が出ています。こうした結果からも、ICTの導入によって、業務効率が上がり、仕事に余裕が出て職員の仕事に対する満足度が上がることがわかるでしょう。

ICT導入によるメリットを介護事業所の職員全員に理解させためには、職員に対する勉強会を開催したり、ICTに抵抗がない若い職員から試験的に導入を行い、ICT導入による利便性向上を事業所全体に伝えたりすることも有効です。

もう1つの問題である初期導入コストがかかるという問題については、国や地方自治体が行っているICT導入に対する補助金制度や助成金制度を利用するという方法があります。最大で数百万円程度の補助金を受給できますので、導入コストがかかるというネックの解決につながります。事業所の規模や導入するツールによって、補助金制度を利用できない場合もありますが、介護事務所へのICT導入を検討しているのなら、補助金制度や助成金制度について調べておくことをおすすめします。

例えば、経産省が実施している「IT導入補助金」は、中小企業や小規模事業者を対象とした補助金制度で、主にソフトウェアが対象となります(デジタル化基盤導入枠では、パソコンやタブレット端末等のハードウェアの費用も補助対象となる)。対象となるのは、従業員数100人以下または資本金5000万円以下の事業所で、通常枠の場合、補助額は費用の1/2まで最大450万円となります。

また、各都道府県が実施している「ICT導入支援事業」という補助金制度もあります。これは、地域医療介護総合確保基金を利用したもので、都道府県によって、対象となる事業所や金額などの条件は変わります。

ICT導入支援事業は、年々実施する自治体の数と助成を受けた事業所数が増えています。令和元年度は実施都道府県数が15、助成を受けた事業所数は195事業所でしたが、令和2年度には実施都道府県数が40、助成を受けた事業所数は2560事業所に増加、令和3年度には47都道府県全てで実施され、助成を受けた事業所数は5371事業所に達しています。こちらは、介護ソフトやタブレット端末、スマートフォン端末などが対象となります。補助金額の上限は事業所規模(職員数)に応じて変わり、職員数31人以上の事業所なら上限は260万円、補助割合は1/2以上となっています(補助割合は都道府県の裁量により設定)。

こうした補助金制度を利用することで、導入コストの高さがハードルとなってICTの導入を躊躇していた介護事業所も、ICTを導入できるようになるでしょう。

まとめ

介護業界におけるICTの普及率は年々向上しており、現在では約7割の介護事業所が何らかの形で、ICTを導入するようになりました。ICTをいち早く導入した介護事業所は、ICT導入によって業務効率が上がり、職員の満足度も向上、離職率も低下しています。

ICT導入に反対を唱える人もいますが、そうした人に対してはICT導入のメリットをしっかり説明することが重要です。導入時の初期コストはかかりますが、業務効率の改善などによって、しばらく使えば十分に元がとれます。補助金制度や助成金制度を利用することで、初期コストもかなり抑えることができます。介護事業所の安定した経営のためにも、ICTの導入は急務といえるでしょう。

石井 英男

第2種情報処理

東京大学大学院工学系研究科材料学専攻修士課程修了。工学修士。フリーライター歴は30年を超える。PC/IT系からSTEM教育、医療分野まで幅広い分野で執筆を行っており、多くの媒体に寄稿している。インタビュー経験も豊富で、トップインタビューから導入事例までさまざまな実績がある。セキュリティ関連や経営関連のオウンドメディアなどへの執筆も多数行っており、最近は、AIや量子コンピューター、SDGsなどの分野の記事執筆も増えている。