介護情報メディア ケアケア 介護士向けコラム 経営・業務改善 介護業界の人手不足を解決!原因と具体的な対策を解説

経営・業務改善

2022-09-05

介護業界の人手不足を解決!原因と具体的な対策を解説

高齢社会を支える介護業界において、深刻なのが人手不足の問題です。慢性的な人手不足によって、介護サービスの質の低下、スタッフの離職率の上昇などが懸念されています。介護業界の人手不足を解決するにはどうしたらよいのでしょうか。今回は介護業界で起きている人手不足の原因や現状から、解決するための対策、人手不足解消につながる効果的な採用方法などについてご紹介します。

介護業界はなぜ人手不足になるのか

介護が必要な高齢者が増加する一方で、介護スタッフの数は不足しています。とくに団塊の世代が後期高齢者となる2025年以降には、ますます介護の人手不足は深刻化するとみられています。少子高齢化において必要な職業でありながら、なぜ介護業界は慢性的な人手不足に悩まされているのでしょう。

人手不足の理由① 採用が困難

介護業界の人手不足の理由の1つに、他業種と比べて採用が困難であることが指摘されています。「福祉人材センター・バンク」の調査によると、福祉分野の求職者に対する求人の割合を示す有効求人倍率は4.17倍。他業界の求人倍率は1.22倍であることから、福祉分野の求人倍率はあらゆる職種の中でも非常に高い傾向にあることが分かります。 求職する人が少ない理由には、「他業種より労働条件がよくない」、「介護に対するネガティブなイメージが根強く、人が応募してこない」などが挙がっています。

人手不足の理由② 給与水準が低い

介護業界では、他業種と比べて給与水準が低いことが指摘されています。介護職は低賃金というイメージを抱く人は少なくありません。厚生労働省が発表した「令和2年度介護従事者処遇等調査結果」によると、介護職の平均月収は31.5万円となっており、年収に換算すると約378万円となります。 一方、日本国内の全職種における平均年収は、令和元年時点で436万円なので、介護職の年収は平均よりも低いことが分かります。そのため介護の仕事は好きだけれど給与が低いため、離職する人も多く、こうしたことも人手不足の一因となっています。

人手不足の理由③ 人間関係の難しさ

介護の現場は利用者や同僚・先輩スタッフ、病院や診療所など他の医療機関と連携しながら仕事をすることも多く、やりがいを感じられる仕事といえます。しかしその反面、人間関係によるストレスを感じている人も少なくありません。 何となくウマが合わない、価値観の違い、年下の上司から頭ごなしに叱責されるなど、人間関係にまつわる悩みはさまざまです。人間関係の悩みはどんな業界・職場でもありがちですが、さまざまな立場の人と協力して業務を行うことが多い仕事だけに、深刻な悩みともいえます。

介護業界の人手不足を解消するには?

介護の人手不足の原因には、「採用が困難」、「低い給与水準」、「人間関係の難しさ」などがあります。これらを解決する効果的な方法が、職場環境の改善です。具体的には、人事評価制度の見直し、キャリアパス、新たな介護スタッフの確保、ITシステムの導入などがあります。

職場環境の改善① 人事評価制度の見直し

介護業界の離職率を下げることも、人手不足解消につながります。離職率が高い理由には、給与の低さや激務であること以外に給与アップの仕組みがみえにくいことや、評価の仕組みが確立されていないことも関係しています。 最近は、人事評価制度を見直す事業所も増えています。業務内容に対して正当に評価される人事評価制度があれば、介護スタッフのモチベーションアップにもつながり、1つの職場で長く働き続ける理由にもなります。また適切な人事評価制度があれば、人材育成にも役立てることができます。

職場環境の改善② キャリアパス

キャリアパスの導入も職場環境の改善には効果的です。キャリアパスとは介護スタッフが、ある職位や役職に就くまでにたどる経歴(キャリア)や道筋(パス)のことです。キャリアパスがあることで、自分の目指すべき道や、やるべきことが明確になり、モチベーションを高めながら仕事をすることができます。 厚生労働省では、介護職の賃金改善に向けた制度を創設していますが、その必要な要件にキャリアパスの整備を設けています。事業所は、定められたキャリアパス要件を満たせばスタッフの給与を上げることも可能となります。

職場環境の改善③ 外国人人材の採用

介護業界の人手不足に対して、国が力を入れている施策の1つが外国人人材の登用です。外国人の介護人材を受け入れ、雇用できる制度は、主に下記の4つです。
  • ・EPA(経済協力協定)に基づく外国人介護福祉士候補者の雇用
  • ・日本の介護福祉士養成校を卒業した在留資格「介護」を持つ外国人の雇用
  • ・技能実習制度を活用した外国人(技能実習生)の雇用
  • ・在留資格「特定技能1号」を持つ外国人の雇用
日本と協定を結んでいるのはインドネシア、フィリピン、ベトナムなどの国々で、今後さらに増えていくことが予想されています。外国人雇用の大きなメリットは、介護において一定の水準をクリアした人材を長期的に雇用できる点です。一方、課題としてさまざまな制約や条件があること、実際に就労してからもコミュニケーションの問題から離職してしまうケースが見られることがあります。

職場環境の改善④ ITシステムの導入

介護の現場では利用者のケアに加え、記録作成や日報などさまざまな書類の作成にも対応しなければなりません。これらの作業はいまだに手作業・紙ベースで行っている事業所も多く、時間がかかってしまいスタッフの大きな負担となっているケースも見受けられます。人手不足になればなおさら、スタッフ一人当たりの負担は増えます。 こうした作業をタブレットなどのデバイス導入によりICT化できれば、負担の軽減や業務の効率化につながります。また、タイミングの見極めが難しい排せつケアや、見守りケアなどにITシステムを導入できれば、少ない人手でも対応が可能になります。

人手不足の解消に向けた具体的な取り組み

介護業界の人材不足を解消するためには、採用・人材育成などの視点も必要です。具体的な取り組みについてご紹介します。

人手不足解消の取り組み① さまざまな求人媒体を活用する

多くの事業所が人材確保に向けて、ハローワークや派遣会社などを活用しています。しかし、「安いから」、「使いやすいから」という理由だけで、結果が伴っていない場合は見直すことも必要です。それぞれの求人媒体の特性とメリット・デメリットについてまとめてみました。

■ハローワーク

ハローワークの最大のメリットは、無料で求人広告できることです。デメリットとしては、所在地のハローワークに事業者登録をしたり、求人内容を細かく記載したりするなど手間がかかることです。

■求人広告

企業が提供する求人メディアには、さまざまな種類があります。メリットは、求人の作成を任せられること、プランによっては取材・撮影も依頼できるため、クオリティの高い求人広告を出すことができます。デメリットは、費用が発生することです。求人広告を利用する際には、どのメディアを活用するか、費用をどこまでかけるかをしっかり検討することが大切です。

■人材派遣会社/人材紹介会社

人材派遣は、スタッフを派遣する会社が雇用主となり、仕事の指示は派遣先から受けつつ、給与は派遣会社から支払われる仕組みになっています。人材が足りないときに活用するケースが多いです。一方、人材紹介は、採用したい事業所と働きたい求職者の仲介を行う仕組みです。紹介された人が入職した際に紹介手数料が発生します。 どちらもメリットは、効率的な採用が可能なことです。派遣の場合は、スタッフの給与や社会保険などの労務管理も派遣会社が行うため、管理コストの削減にもつながります。また人材会社の場合、介護に特化しているところもあり、希望の人材を採用できる利点があります。ただし、どちらもコストが高くなる傾向があるため、事前に条件などをしっかりと確認するようにしましょう。

人手不足解消の取り組み② リファラル採用を検討する

最近、介護業界でも注目されているのが「リファラル採用」です。リファラル採用とは、事業所のスタッフに友人や知人を推薦・紹介してもらう採用の方法です。最大のメリットは、企業理念や社風を理解している自社のスタッフが、人柄や能力をよく知る友人・知人を紹介するので、採用後にミスマッチが起きづらいことです。 リファラル採用の場合、求人広告などを出す必要がないため、採用コストの削減にもつながります。デメリットとしては、不採用のときや入社後にトラブルがあった場合、推薦・紹介してくれたスタッフとの関係が悪化しかねないことが挙げられます。

人手不足解消の取り組み③ 人材育成

人材育成の環境整備を整えることも大切で、人材育成が上手な事業所は、スタッフの定着率も高いです。ここでは介護の人材育成で代表的な制度や研修をご紹介します。

■メンター制度

メンター制度とは、経験豊富な先輩スタッフが「メンター」と呼ばれる指導者となり、新人や若手スタッフの指導を行う方法です。比較的、年齢の近いスタッフをメンターにすることで、相談や質問をしやすい関係性を築くことができます。仕事のスキルアップはもちろん、モチベーションアップや精神面のサポートも期待できます。

■OJT研修

OJT(On the Job Training)とは、部下や後輩に対して実際の仕事を通して指導する教育方法です。最大のメリットは、部下・後輩が実用的な知識やスキルを効率的に身に付けることができること。また、指導する人も教えることで新たな気付きを得たり、業務のブラッシュアップに繋がったりします。

■社内外の研修

スタッフが多い事業所では、社内研修や勉強会を開くことも効果的です。研修を専門に扱う企業のセミナーや自治体の研修にも人的余裕があるので参加させることができます。最近はZoomなどオンライン研修も増えているため、さらに手軽に活用できるようになりました。

人手不足解消の取り組み④ 競合他社との差別化

人手不足の介護業界では、競合他社との差別化を図ることも重要です。事業所ならではの魅力を効果的に伝え、採用に結び付けるにはどうすればいいのか。成功している事業所は、次のような工夫をしているところが多いです。
  1. ① 業務の明確化と役割分担
  2. ② 申し送り方法の統一・標準化で業務を効率化
  3. ③ ICTを活用して記録・報告様式の負担を軽減
  4. ④ 教育内容と指導方法を統一し、ブレのないOJTの実現
  5. ⑤ 職員の自律的な行動を促す。理念・行動指針の徹底

まとめ

この記事では、介護業界における人手不足の現状と原因、その解決方法などについてご紹介しました。採用に向けての取り組みやスタッフの定着率を上げる方法など、できる対策はさまざまです。採用においては事業所ごとに最適な求人媒体を選択することや採用方法を考えることが必要です。 また、定着率を上げるには職場環境の改善や人材育成の計画を立ててみるのも効果的です。今後、人手不足の背景である少子高齢化はさらに進むことが懸念されますが、少しでも人手不足を改善するために有効な戦略・計画を立てて取り組んでいきましょう。

大屋 覚

介護福祉士
保育士
ソーシャルワーカー

大学卒業後、放送作家・プロデューサーとしてメディアコンテンツ制作に携わった後、欧米で研究が進むマインドフルネスを学ぶため社会人として大学院へ入学。「心理学と福祉と情報」の融合的・機能的な研究に取り組む。現場での経験を経て、東京都にて「ツナガレ介護福祉ケア」、「障がいSОS!相談支援ツナガレ」の介護福祉総合サービス事業所を設立。作家・LIVE活動を通して、日本の社会福祉の課題や情報も発信中。早稲田大学大学院修了。