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介護職のお悩み

2024-08-29

通所と訪問介護を併設した複合型サービスとは?検討の背景や創設のメリットを解説

介護報酬改定を前に議論されていた複合型サービスは、今までにない訪問介護と通所介護が一体となったサービス形態のため、導入されるか気になっている方も少なくないでしょう。

 

今後の介護サービス事業に大きな影響を及ぼす可能性があるため、サービス内容について正しく把握しておくと選ぶ際の基準になるかもしれません。

 

今回は、通所介護と訪問介護を併設した複合型サービスの概要と検討されている背景、創設するメリットについて解説していきます。

訪問介護と通所介護を併設した複合型サービスとは?

複合型サービスとは、訪問介護や通所介護、訪問看護、訪問入浴といった介護保険サービスを2種類以上組み合わせることで提供されるサービスのことです。

介護保険法第八条・23によると以下の内容で記載されています。

介護保険法
第八条
23 この法律において「複合型サービス」とは、居宅要介護者について、訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、通所介護、通所リハビリテーション、短期入所生活介護、短期入所療養介護、定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護、地域密着型通所介護、認知症対応型通所介護又は小規模多機能型居宅介護を二種類以上組み合わせることにより提供されるサービスのうち、次に掲げるものをいう。一 訪問看護及び小規模多機能型居宅介護を一体的に提供することにより、居宅要介護者について、その者の居宅において、又は第十九項の厚生労働省令で定めるサービスの拠点に通わせ、若しくは短期間宿泊させ、日常生活上の世話及び機能訓練並びに療養上の世話又は必要な診療の補助を行うもの二 前号に掲げるもののほか、居宅要介護者について一体的に提供されることが特に効果的かつ効率的なサービスの組合せにより提供されるサービスとして厚生労働省令で定めるもの

引用:介護保険法(平成九年十二月十七日)(法律第百二十三号)

新たに議論されているのは訪問介護と通所介護を組み合わせたサービスであり、新設されればこれまでにないサービスが展開されるので、新設されるかどうか注目を集めていました。

訪問介護+通所介護の「複合型サービス」新設は見送りに【2024年介護報酬改定】

2023年12月4日に行われた「第234回社会保障審議会介護給付費分科会」(Web会議)にて、訪問介護と通所介護を組み合せた複合型サービスの新設について議論されました。

介護現場の関係者や有識者から慎重論が多数出たため、「さらに検討を深めることにする」という方針となり、2024年の介護報酬改定での新設は見送られています。しかし、訪問介護事業所が抱える問題や運営実態を踏まえると、今後も引き続き議論されることとなりそうです。

複合型サービスの創設が検討されている背景

複合型サービスの創設が検討されている背景として、3つ考えられます。

  • 訪問介護サービスの利用ニーズの増加
  • 訪問介護スタッフの人材不足
  • 半数以上が同法人で通所と訪問介護を運営

現在の訪問介護事業所が抱えている問題や人口動態の変動による影響など、さまざまな要因が絡んでいます。

以下では、厚生労働省が発表したデータをもとに、説明していきましょう。

訪問介護サービスの利用ニーズの増加

厚生労働省が2023年8月公開した資料「新しい複合型サービス(地域包括ケアシステムの深化・推進)」によると、訪問介護の利用者数は年々増加しており、2013(平成25)年には91万6,000人だったのに対し、2020(令和4)年には106万8,000人にまで増加しています。それに伴い、請求事業所数も2020(令和2年)以降、徐々に増加の傾向です。

また、同資料の「第8期介護保険事業計画におけるサービス量等の見込み」によると、団塊の世代が75歳以上を迎える2025(令和7)年には128万人に、さらに2040(令和22)年には152万人まで増加する見込みです。

以上のことを踏まえると、訪問介護サービスの利用ニーズは今後もさらに高まると予想されるのです。

訪問介護スタッフの人材不足

一方で、訪問介護スタッフの人材不足は深刻な問題です。「新しい複合型サービス(地域包括ケアシステムの深化・推進)」によると、2022年度時点の施設介護スタッフの有効求人倍率が3.79倍に対して、訪問介護サービス職員の有効求人倍率は15.53倍と、施設介護スタッフと比較して高い数字を示しています。

また、職種別の介護労働者の人手不足感を見ると、訪問介護スタッフの不足を感じていると回答した割合は80.6%と他の職種と比べても高い数値です。

さらに、厚生労働省が2023年7月に公開した「訪問介護」によると、ケアマネジャーから紹介のあった方へのサービス提供を断った理由の第1位として「人員不足により対応が難しかったため(90.9%)」というデータがあります。

このような調査結果からもわかるとおり、訪問介護を提供する事業者は慢性的な人材不足に陥っており、訪問介護を必要とする利用者のニーズに応えられていない点が懸念されているのです。

半数以上が同法人で通所と訪問介護を運営

厚生労働省の「新しい複合型サービス(地域包括ケアシステムの深化・推進)」によると、通所介護事業所の法人のうち55.4%が、訪問系サービスの事業所を運営しています。加えて、訪問介護事業所の法人でも53.4%が通所系サービス事業所を運営しているという実態です。

2024年7月時点の制度では訪問介護と通所介護を一体で提供できませんが、半数以上の事業者が、訪問介護事業所と通所介護事業所の双方を運営しています。制度は施行されていませんが、2つのサービスを統合して「複合型サービス」とする基盤はすでに整っているといえるでしょう。

現在の制度で通所と訪問介護を併用する際の課題

2024年7月時点の制度で通所介護と訪問介護を併用する際の課題は、以下の2つです。

  • キャンセルなどの連絡調整が煩雑
  • 事業所間での情報共有が困難

訪問介護と通所介護を提供するサービス事業者が別々の場合、事業者間の連携が課題となります。以下で詳しく解説していきましょう。

キャンセルなどの連絡調整が煩雑

キャンセルなどのサービス変更があった場合、ケアプランを作成しているケアマネジャーに連絡をしなければなりません。

通所介護の利用が休みになったからと言って、事業所間でのサービス変更は、、現行制度では難しいのが現状です。さらに、サービスの追加や終了の際には、プランを変更するために「サービス担当者会議」(※サービスに携わる関係者が集まって意見交換をする場)を開催しなくてはならず、連絡の調整が煩雑になってしまいます。このような流れから、現行制度では気軽にサービスを変更して提供するのは難しいといえるのです。

事業所間での情報共有が困難

事業所間で連絡を取り合う方法は、主に電話やFAXが多いのが現状です。SNSなどのチャットツールを導入している事業所も増えつつありますが、まだまだ浸透しているとはいえません。連絡手段の統一がしにくいのが現状なので、別事業所との情報共有や連携をスムーズに行うのは困難といえるでしょう。

複合型サービスを創設するメリット

では、複合型サービスを創設するメリットはどのようなものがあるのでしょうか。

以下の3つで説明していきます。

  • 通所介護での情報が訪問介護で生かされる
  • 関わりの深いスタッフが訪問するため安心できる
  • 急なサービス変更にも柔軟に対応できる

通所介護での情報が訪問介護で生かされる

利用者と接する時間が長い通所介護では、時間をかけて利用者の性格やニーズの把握が可能です。

複合型で介護サービスを提供できれば、通所介護で得た情報を訪問介護側のサービスにフィードバックができ、より質の高いケアが実施できるでしょう。

訪問介護で生活状況の確認や日常生活の支援を実施することで、通所介護での機能訓練の目的がより明確になり、ADL(Activities of Daily Living、 日常基本動作)の維持や社会参加が実現しやすくなります。さらに、通所介護の送り出しに訪問介護が介入することで、定期的な利用が可能となり、切れ目のないサービス利用につながるでしょう。

関わりの深いスタッフが訪問するため安心できる

通所介護で関わりのあるスタッフが訪問介護で自宅に足を運ぶことで、利用者だけでなくご家族も安心感を持って利用ができます。

身体機能も通所介護で把握できていれば、現有能力に応じた支援が可能になり、利用者一人ひとりに見合ったケアが提供されることになるでしょう。

 急なサービス変更にも柔軟に対応できる

基本、訪問介護または通所介護のみのサービス利用では、急な体調不良などによるキャンセルに対応するのは困難です。

一方で、複合型サービスを提供できれば、キャンセル時にサービス内容を切り替えるなど、状態の変化に応じた柔軟かつ適切なサービスが提供できます。

多様なニーズに対応できるサービスだが検討事項も多い

今回は通所介護と訪問介護を併設した複合型サービスの概要と検討されている背景、創設するメリットについて解説しました。

現行制度では急なサービス変更への対応や別事業者間での連携が難しく、訪問介護と通所介護が併設した複合型サービスの必要性が高まっているものの、介護現場や有識者からは慎重論が出ている状況です。介護人材が不足していますが、創設されるまでには、さらなる議論が必要ともいわれています。

2025(令和7)年以降も、訪問介護を必要とする利用者がさらに増えていくことが予想され、複合型サービスのニーズはますます高まっていくので、この先の動向にも注目していきましょう。

1992年より医療法人の事務長および理事・理事長補佐として法人の経営・労務全般を管理し医師等の採用に関与。
介護保険にも統括責任者として施行時より関与しており訪問介護から看護リハ、そして訪問診察まで提供。

通所系のデイケア、デイサービスと施設として介護医療院の運営も関与。
現在は地域包括支援センターの運営管理者も行いながら、理事長補佐として病院の人事・労務・財務等、経営管理全般に従事。