介護情報メディア ケアケア 介護士向けコラム 経営・業務改善 【インタビュー】訪問美容で寝たままカラーリングを実現。髪も心も整えるサービス

ケアラー向けコラム

投稿日:
2026-09-28

更新日:
2026-09-28

【インタビュー】訪問美容で寝たままカラーリングを実現。髪も心も整えるサービス

外出が困難な高齢者や障がいのある方を対象に、美容室と同等のサービスを提供する訪問美容サービスがあることをご存知でしょうか。
 
介護福祉の知識を持つ大脇貴志さん(三重県)は、「訪問美容室 Ringo(リンゴ)」を経営し、その知識を生かして訪問美容の活動に取り組んでいます。例えば、椅子に座るのが難しいという方には、ベッド上でも対応できるカラーリングといった施術を行うことで、見た目だけでなく、気持ちまで前向きに変えています。
 
今回は、大脇さんが訪問美容を始めたきっかけや、印象的なエピソード、サービスに込めた想いを伺いました。

訪問を始めた理由は、QOLを高めるヘアスタイル作りがしたいから

――サービスの理念に「QOL(生活の質)を上げて、ライフスタイルをより楽しく過ごしていただけるようなヘアスタイルを作る」とあります。この言葉に込めた想いを教えてください。

大脇さん(以下、大脇):訪問美容を始めて気づいたのは、「当たり前にできることが、当たり前にできない人がいる」という現実でした。

ヘアスタイルを整えたり、髪を染めたりするといった小さな変化によって、お客さまの表情が明るくなり、気持ちが前向きになる方も少なくありません。そうしたお客さまの喜んでくださる姿に何度も立ち会うことで、「訪問美容は髪型を整えるだけでなく、新たな価値を届けられる」と実感しています。このような背景から、「QOL(生活の質)を上げて、ライフスタイルをより楽しく過ごしていただけるようなヘアスタイルを作る」という理念を掲げました。

――訪問美容では、サロンと同じような施術ができるのでしょうか?

大脇:施術内容は、基本的に美容室と同じです。椅子に座れない方やベッド上の方でも、カラーやパーマを行います。他の美容師さんから「難しい」と断られたケースでも、道具を工夫することで施術が可能になることは少なくありません。例えば、洗髪の場合、吸水シートでベッドを保護したり、移動式シャンプー台やペットボトルを使ったりしています。時には、施設のスタッフの協力も得ながら、安全を第一に仕上げています。

時短でも美しく仕上げる、段取りや工夫を心がける

――訪問美容をされていて、ご自身が実践していることはありますか?

大脇:よくイメトレ(イメージトレーニング)をするようになりました。新規の方でも、何度か担当している方でも、「どのようにすれば、よりスピーディかつ確実にサービスを提供できるか」のイメトレを欠かさず行っています。

ヘアの施術がスピーディだと「手を抜いている」「雑に扱われている」という印象を持たれるかもしれませんが、訪問美容の世界に入ると全く逆です。「スピーディに対応し、かつ高いクオリティを提供すること」が重要だと思うようになりました。そのため、段取りをしっかり行い、必要なものをそろえてから臨むようにしています。

要介護度が4や5で寝たきりの方の施術では、体勢の維持が難しく身体が傾いたり、コミュニケーションが難しいケースも少なくありません。

思わず動いてしまう方や、お薬の服用による影響で不随意運動が見られる方は、カットが難しい場合もありますが、その際はサポートを受けながら施術しています。「私でなければカットできないのでは」と思うような場面に遭遇することもあるので、事前にカット方法を十分に検討し、最適なサービスを提供できるよう心がけています。

「当たり前にできていたこと」を再び叶える喜び

――印象に残るお客さまとのエピソードはありますか?

大脇:パニック障害をお持ちで、美容室に行けなくなってしまった方からご依頼をいただいたことがありました。美容室ではカラーのときにシャンプー台へ移動しますが、その「逃げ場がない」感覚の影響で発作が起きやすく、何度も挑戦してみるものの実現せず、何年も美容室に行けない状態だったそうです。

そこで「家なら大丈夫かもしれない」ということで訪問美容を試していただき、まずはご家族の付き添いでカットからスタートしてみました。無事に終えられたことをきっかけに、次は何年もできていなかったカラーに再び挑戦し、こちらも安心できる環境の中で成功しました。

それ以降の2年間、訪問美容でカットとカラーを続けるうちに症状も安定し、外出もできるようになったのです。「もし難しければまた訪問美容という選択肢がある」という安心感を持ちながら、一般的な美容室の施術に再挑戦し、成功されました。最終的に、その方は訪問美容を卒業されましたが、「当たり前にできていたこと」が再びできるようになりました。私自身、QOLを高めるお手伝いができたことは、大きな喜びであり、忘れられない出来事です。

――福祉理美容師や介護職の資格を持っているからこそ、介護の知識を踏まえた判断ができたのでしょうか。

大脇:はい、そうですね。施設の方から利用者さんのお話を聞いて、「施術される方がつらい体勢になるのでは…」と想像できるからです。そこで「実際にやってみれば何とかなる」という発想に切り替えることで、道具を工夫するなど、これまでの常識に捉われない解決策が見えてきました。

これまで私は「お断りゼロ」をモットーに、さまざまな方へカットやカラー、パーマなど幅広い施術を提供してきました。「訪問美容」と聞くと、「大勢の方をワンパターンにカットして終わり」という印象を持たれる方もいるかもしれません。しかし、最近ではカラーやパーマまで対応できる事業者も増えています。やりたいことを諦める前に、まずは私たちのような訪問美容の活動をしている者に相談していただきたいですね。

広がる訪問美容の輪と、徐々に変わる周囲の反応

――訪問美容に関して、サロン仲間や周囲の反応はいかがでしたか?

大脇:埼玉の美容室で働いていた頃、一部のお客さまに訪問美容のお話をしたことがありますが、ほとんどの方は「そんなサービスがあるんだね…」という程度の薄い反応でした。先輩美容師でも訪問美容を知っている方は少なかったですね。2017年に訪問美容を開業した当初は、周囲にとっても想像しにくい働き方だったと思います。

それから年月が経ち、少しずつですが訪問美容の認知度が上がっていると実感しています。例えば、以前自分が勤務していた埼玉の美容室では、スタッフ8名中2名が休日に施設訪問をしていますし、最近では若い世代の美容師から「訪問美容をやってみたい」と、相談を受けることも増えました。今後、さらに高齢化が進むので、訪問美容の需要は確実に高まると思います。興味を持ってくださる方が増えるのは、本当にうれしいですね。

訪問美容がもたらす前向きな変化と、ヘアスタイルに込める想い

――大脇さんのサービスは髪を整えるだけでなく、心のケアにもつながっている印象を受けました。美容が果たす役割について、実感されることはありますか。

大脇:一番は前向きな気持ちになれることだと思います。施術ができないと、髪が切れず伸びっぱなしで気分が落ち込み、白髪を見てまた落ち込むなど気持ちの面で負の連鎖が起きます。

例えば、髪を切ったり、染めたりするだけでお客さまの表情が明るくなります。また、髪を整えると「お出かけしたい」「おめかししたい」という気持ちが自然に湧いてきます。実際にお客さまの声からそのことが伝わってきます。美容を通じて誰かを前向きな気持ちにできるのは、自分が思っていた以上に素晴らしいことだと思います。

――高齢の方や要介護の方に合わせたヘアスタイルで意識されていることはありますか?

大脇:訪問美容と聞くと、「介護施設で一斉にカットして、みんな同じ髪型にされる」というイメージを持つ方もいるかもしれません。ですが、私としては、お客さまのご要望にしっかり耳を傾けるよう心がけています。

「理想の髪型」が分からなくても、「絶対にしたくない髪型」もあるかと思います。例えば、耳を出したくない、前髪を短くしすぎないでほしい、刈り上げは避けたいなど…、具体的な条件をお聞きしています。さらに、ご本人だけでなく、ご家族や介護スタッフを通じて相談することも大切にしています。

訪問美容の未来へ向けて、美容師が働き続けられる環境を整えたい

――訪問美容をより多くの方に知っていただくために、今後どのような取り組みを考えていますか?

大脇:訪問美容に興味を持っている美容師さん向けに、事業の始め方や準備しておくと良いものなどの情報をブログ上で公開しています。最近はブログからのお問い合わせも増えており、1つひとつ丁寧にお答えしています。

また、今後は訪問美容に特化したアイテムの開発にも積極的に取り組みたいと思っています。例えば、移動式のシャンプー台は、安定性があるものだと15キロほどと比較的重く、腰を痛めることもあります。特に女性が一人で持ち運ぶとなると大きな負担です。そこで、持ち運びしやすく、なおかつ安定性を備えたサロン仕様のシャンプー台を作れたら、より質の高いサービスが提供できると思います。訪問美容は朝や昼のご依頼が多いため、ご家庭のある女性の美容師さんでも働きやすい環境です。今後はこうした環境をさらに整えていけたらうれしいですね。

――最後に、訪問美容を必要としている方や、そのご家族・介護関係者に向けて、メッセージをお願いします。

大脇:訪問美容はまだ認知度が高いとは言えませんが、少しずつこの世界に興味を持つ美容師さんや、新たに挑戦する方が増えています。以前はカットが中心でしたが、カラーやパーマなど幅広いサービスを提供する事業者も増えてきています。

「お店に行けないからカラーやパーマは無理」と諦めている方にも、訪問美容という選択肢があることを知っていただきたいです。実際に施術を受けていただければ、きっと「こんなサービスがあるなんて!」と喜んでいただけると思っています。

「髪を切りたくなったらお店へ行く」と同じように、「行けないなら訪問美容師に来てもらう」という選択肢が、当たり前になる未来を目指しています。今後もWebなどで情報を発信しながら、一般の方にも美容師さんにも、訪問美容の魅力を広く知ってもらえるよう、活動していきたいと思います。

編集後記

今回の取材を通じて、「髪を整える=外見を整える」だけでなく、その人の気持ちに寄り添い、安心や前向きな気持ちへと導く「心のケア」にもつながることを実感しました。

そして、「誰もがその人らしく生きてほしい」という想いがあるからこそ、サロンと同様のサービスを提供している訪問美容が持つ役割に深く共感しました。

特に大脇さんの「絶対にしたくない髪型」を丁寧に聞き取るという姿勢が心に残りました。訪問美容が、多くの方にとって身近な選択肢になっていくことを願っています。

<取材対象者>
大脇貴志(おおわき たかし)

NPO法人福祉理美容協会認定 福祉理美容師/介護職員初任者研修 取得済
訪問美容サロンRingo代表。東京都と埼玉県の主要部で10年勤務後、2017年より妻の地元・三重県に拠点を移し、フリーランスの訪問美容師としてRingoを開業。埼玉でも定期的にサロンワークをこなしマルチに活動中。ヘアーチルドレンでは美容師のキャリアを生かした情報発信を行っている。

訪問美容室 Ringo公式ホームページ https://ringo-hair.com/
大脇貴志さんブログ https://ringo-hair.com/blog/
公式Instagram https://www.instagram.com/ringo_ths/

取材記事担当者

山田絵梨(やまだ えり)
言語聴覚士/がんリハビリテーション研修修了
言語聴覚士として、リハビリ回復期病棟や一般病棟などに10年間勤務。多くの患者さんの言語機能や嚥下機能、高次脳機能障がいを支援してきた実績あり。専門性を活かし、現在はライターとして活動中。信頼性の高い記事を、読者に寄り添う分かりやすい言葉で執筆する。