介護情報メディア ケアケア 介護士向けコラム 介護職のお悩み 【インタビュー】介護士の育成プロに聞いた。これからの介護職に求められるものとは?

介護職のお悩み

2025-07-01

【インタビュー】介護士の育成プロに聞いた。これからの介護職に求められるものとは?

「介護ってきつそう…」「未経験でも大丈夫?」と思う方もいることでしょう。
介護の仕事は、誰でも挑戦できる仕事である一方で、知識や技術、そして寄り添う心が求められる奥深い世界です。
 
今回は、認知症ケア専門士 合同会社小森塾代表の小森敏雄さんに、介護の本当の魅力と、長く続けていくためのヒントをうかがいました。未経験の方や、セカンドキャリアを考えている方にも、前向きな一歩が踏み出せるインタビューになっています。

「介護の専門職」として必要な要素とは

――介護のプロには、どのようなスキルや視点が求められるのでしょうか?

小森さん(以下、小森):介護のプロとして長く現場に立ち続けるには、「知識・技術・心」の3つをバランスよく備えることが不可欠です。

介護職は無資格・未経験の方でもすぐに始められる職種ですが、プロの介護とそうでない方の介護では、経験や仕事への取り組み方に明確な違いが見られます。「プロ」として介護に携わる以上、単に業務をこなすのではなく、利用者さんの個々の様子をしっかり見て、適切に関わる力が求められるのです。

「高齢者が好き」「人と関わるのが好き」「相手の話に耳を傾けられる」といったスキルは大前提ですが、「自分や親が介護を受ける立場だったら?」という視点で寄り添える人こそが、真のプロフェッショナルだと思います。

――プロとして長く現場で働き続けるために必要なことや、そのために小森塾で行っていることについて教えてください。

小森:介護には「きつい」「給料が安い」などといったイメージがつきものですが、実は20年、30年と現場で活躍し続けている方も多くいらっしゃいます。そうした方々の共通点は、常に学び続ける姿勢を持っていることです。

介護の世界は奥が深く、学びが多い仕事です。知識を増やすことで、日々の介護業務にやりがいを得やすくなり、利用者さんへのアプローチの幅もより広がります。その結果、自分自身の成長にもつながっていくでしょう。

私が運営する小森塾では、初任者研修から国家試験対策、さらにスキルアップのための講座まで、幅広く学びの場を提供しています。その傍ら、現場で忙しくしている方々に向けて、SNSでの発信も行っています。

現場で長く働き続けるためには、職場や働き方の選び方も重要です。例えば、育児や家事、ご家族の介護などで忙しい方には、業務時間や仕事量を調節しやすい訪問介護が向いている場合があります。また、夜勤対応が難しい場合は通所介護を職場として選ぶなど、自分のライフスタイルに合った無理のない働き方ができるでしょう。

介護現場で学びを続けながら、無理なく働き続ける工夫とは

――新人の場合は、特に「何を学んだらよいかわからない」と戸惑うこともあるかもしれません。実際の現場ではどのような新人教育が行われているのでしょうか?

小森:新人教育については、研修体制がきちんと整っている施設もあれば、明確な基準を設けておらず日々の業務を通して何となく覚えていくというケースも見受けられます。このような施設ごとの温度差がある要因としては、トップに立つ方の姿勢や意識が大きく影響していますね。

これは新人教育に限った話ではありません。現場のスタッフが一生懸命新しい知識を学んで組織に還元しようとしても、管理者の支援が行き届いていないと、組織に浸透させるのは難しく、個人の学びにとどまってしまうでしょう。コロナ禍以降、対面での学びの機会が減ったことにより、その傾向が強くなったように感じています。だからこそ、今、現場の声を聞き、実践と学びをつなぐ仕組みが求められています。

――介護に対して「きつい」というイメージを持っている方も多いと思います。身体的負担に関しては、どのような対策をされていますか。

小森:介護の身体的負担は、正しい知識と技術を習得することで、大きく軽減できます。重労働と思われがちな「移乗介助」「おむつ交換」などでも、身体の使い方を工夫することで、介護する側もされる側も、より負担の少ない動作が可能になります。正しい方法を知ることによって、ケアはよりスムーズに、そして安全に行えるようになるのです。

意外に思われるかもしれませんが、現場で働いている方たちは「きつい」という言葉をあまり口にしません。それは、正しい知識や技術のもと、介護ケアを適切な形で提供できているからだと思います。

近年では、介護現場でも組織全体の負担軽減のために介護ロボットやICTの活用も進み、組織全体で負担を軽減する動きが見られます。これらをうまく取り入れることで業務効率化が図れることで、利用者さんと関わる時間をより多く確保しやすくなり、質の高い介護の提供にもつながるでしょう。

後悔しない職場選びのために施設見学で見るべきポイントとは?

――介護の道に進む方が職場を選ぶ際のポイントについて教えていただけますか?

小森:職場探しをするなら、まずは施設見学をしましょう。実際に現場に行ってみないと、施設の雰囲気や介護現場の実情、管理者の対応などがわからないからです。

施設見学のときのチェックポイントとして個人的におすすめしたいのが、利用者さんのお部屋の環境と、食事介助の様子です。ケアが行き届いている施設では、利用者さんのお部屋がきれいに整えられ、利用者さんの状況に応じた食事介助が行われています。

反対に、利用者さんのお部屋の中が乱れていたり、利用者さん全員がフロアに集められて食事をしていたりする施設の場合は、少し注意が必要です。施設見学をする際に、時間調整が可能であれば、昼食前後に見学するのがおすすめです。

介護の職場は大きく「施設系」と「在宅系」に分かれます。介護の本質はどこで働いても同じですが、求められるスキルという点では多少の違いがあるかもしれません。

例えば、施設では身体介護が中心になることが多く、デイサービスでは送迎やレクリエーションのサポートが求められます。在宅介護では、利用者の自宅で1対1のケアを行うため、マンツーマンでの対応が必要です。そのため、各施設の特徴をよく理解したうえで職場選びをすることが大切なポイントとなるでしょう。

また、新人教育体制の仕組みや離職率、一人立ちまでのタイミングなども確認しておくと安心です。「ここなら安心して働ける」と思える場所をぜひ見つけてください。

――セカンドキャリアとして介護を選択する方もいらっしゃいます。そのような方々が介護現場で活かせるスキルにはどのようなものがあるのでしょうか。

小森:介護は人生経験が活かせる仕事です。年齢やキャリアに関係なく、いつでもスタートできます。ある程度、介護の仕事に慣れてくると、それまでの経験やスキルは、思いがけない場面で役立つこともあるでしょう。むしろ、さまざまな経験を重ねてきた方ほど、介護現場でより豊かな関わりができると思います。

私はこれまで、他の業種から介護職に入り、楽しく仕事を続けている方たちをたくさん見てきました。セカンドキャリアとして介護職をお考えの方がいれば、ぜひ自信を持って飛び込んでいただきたいと思います。特に中途で入られた方にこそ、初任者研修を受けていただきたいですね。介護のあるべき姿と理想について改めて学び直すことで、基礎固めが着実にできるからです。

介護現場で働くという選択は仕事を超えた学びを得られる

――小森さんのこれまでの介護職のお仕事で忘れられないエピソードと、そこから得た学びについて教えていただきたいです。

小森:ある認知症の利用者さんで、人の名前や顔を覚えるのが難しい方がいらっしゃいました。私はその方と普段からよく関わりがありましたが、ある時、会社の出張で1週間現場から離れたことがありました。1週間も顔を合わせないと、さすがに忘れられてしまっているものだと思っていました。

しかし、現場に戻ったときに、その方から「久しぶりだな」と声をかけていただいたのです!その出来事は今でも忘れられません。言葉にできない信頼関係の力を感じた瞬間でもありました。

また、利用者さんのご家族からうかがった真摯な思いや、看護師の方々との連携の難しさに葛藤した日々も、全て現場で得た貴重な学びであり、今の私の介護観に形づくっているのです。

私が介護教育において大切にしているのは「根拠の言語化」です。「なぜその対応をするのか」を自分の言葉で丁寧に説明することで、介護士としての専門性が周囲により伝わりやすくなり、他職種との連携も円滑になります。

周囲の人たちに変化を求めるのではなく、まずは自分が変わることを優先し、多くの経験から学びました。今は教育者の立場から、その学びを生徒たちに伝えています。

――小森さんが考える、介護職の仕事の大きな魅力とは何ですか?

小森:人間的に成長できることだと思います。利用者さんには一人ひとり違った人生のドラマがあり、その深みや重みに触れることで、自分自身の人生にも彩りが増すものです。

人生の大先輩の方々と、ここまで深く関われる仕事は、他にはないと思います。利用者さんからの「ありがとう」の言葉や笑顔がうれしいのはもちろんですが、もっと深いところで、価値観や人生観が大きく変わる経験ができます。知識と技術があることが前提ですが、それを踏まえてこそ味わえるものが、介護の仕事の醍醐味です。

――最後に、これから介護の道を進む方たちへメッセージをお願いします。

小森:介護業界は「人手不足」「きつい」などのイメージがありますが、実際にはやりがいや誇りを持って働いている方も多く、専門職として長く働いている方もいらっしゃいます。介護の奥深さや人と関わる喜びを知ることで、自分の人生にも必ずプラスの影響があるはずです。あなたの一歩が、誰かの未来を支える力になります。ぜひ、私たちと一緒に介護について学んでいきましょう。

取材を終えて~ライター総括~

介護の現場で求められるのは、知識や技術に加えて「人と関わる心」だと改めて感じたインタビューでした。

小森さんの言葉からは、介護職が単なる労働ではなく、人の人生と向き合い、自分自身も成長していける「生きた仕事」であることが伝わってきました。

これから介護業界に進もうとしている方にとって、この仕事はきっと「誰かの役に立つため」だけでなく、「自分の人生に彩りを添えるため」の選択肢になるはずです。

まずは介護業界に一歩踏み出し、学び続けることで、その先にあるやりがいや喜びに出会ってみませんか?

<取材対象者>小森 敏雄(こもり としお)
介護福祉士/准看護師/おむつフィッター1級/認知症ケア専門士

合同会社小森塾代表。2000年に介護福祉士養成校に入学し、2002年に介護福祉士を取得後、介護施設へ就職し、現場経験を積む。20代半ばからは現場業務と主任としてスタッフ育成と並行して、資格講座や養成校での講師をスタート。2017年にフリーランスの介護講師として独立し、2021年、「介護の魅力を伝えたい」「根拠を語れるプロを育てたい」という想いから合同会社小森塾を設立。介護現場と教育の架け橋として、介護の価値を広げる取り組みに注力している。
 
合同会社小森塾 https://www.komorijuku.jp/
小森敏雄 公式X https://x.com/komori46527
小森敏雄 公式Instagram https://www.instagram.com/t.komori46527/
唯一無二の介護講師 小森敏雄 https://www.youtube.com/channel/UC1HuawZq-R69Mzip7N5IAcg
小森敏雄 介護の本出版 https://www.komorijuku.jp/service5

取材執筆者

佐野 美和

看護師/保健師/養護教諭第2種/衛生管理者
看護師・保健師としての知見をもとに、医療ライターとして活動中。
 1児の母としての視点も交えながら、「難しいことを易しく」「現場の声をそのままに」をモットーに執筆しています。