介護情報メディア ケアケア 介護士向けコラム 介護職のお悩み 【今後どうなる?】不足する介護職員と人材確保における課題について

介護職のお悩み

2024-10-18

【今後どうなる?】不足する介護職員と人材確保における課題について

昨今、介護業界では人材不足が深刻化しており、今後もこの状況が続くことが予想されています。これは無視できない問題であり、解決には介護業界だけでなく、社会全体での取り組みが求められています。

 

この記事では、介護業界における人材不足の現状や、今後の影響について解説します。また、課題解決に向けた取り組み事例も紹介し、社会全体でどのようにこの問題に対処していくべきかを考察します。

介護業界における人材不足の現状

2024年7月に介護労働安定センターが発表した『令和5年度介護労働実態調査』によると、介護事業所全体の60%以上が人手不足を感じており、訪問介護職員においてはその割合が81%に達しました

さらに、厚生労働省の見込みでは、2026年までに25万人の新規介護職員が必要とされており、年間で約6.3万人の確保が求められています。

出典先:厚生労働省|第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について

介護人材が不足する要因

介護人材が不足する要因はさまざまあり、問題に対処していくためには、その背景を理解することが大切です。ここでは、介護業界が人手不足に悩む要因を解説します。

少子高齢化

介護人材が不足する理由の一つとして、少子高齢化が挙げられます。社会全体の高齢化により、介護を必要とする高齢者が増える一方で、働き手となる若年層の人口は減少傾向です。

この影響は介護の現場だけではありません。家庭内でも人手が足りず、家族同士で高齢者をケアすることが難しいというケースも増えています。

こうした問題に対処するためには、社会全体で介護事情について理解し、一丸となって取り組んでいかなければなりません。

介護従事者の減少

介護従事者の年齢層が高まっている傾向です。これまで介護業界を支えてきた働き手が順次に引退していく一方で、新たな人材の確保が追いついていない状況となっています。また、一般的に介護職は大変なイメージがあり、若い世代が介護業界への就職を敬遠するケースも少なくありません。

このような状況が続くと、介護従事者の数はさらに減少し、人材不足の問題はより一層深刻化することが懸念されます。

採用率が滞る人材確保

介護ケアを必要とする方が増加する一方で、2024年7月に介護労働安定センターが発表した『令和5年度介護労働実態調査』によると、近年の介護職における採用率は横ばい傾向で15~16%にとどまっています。この数値からも、介護職の人気が低迷しているのは明白で、今後、介護職の魅力や社会的な重要性をどのようにアピールしていくかが鍵となるでしょう。

人材不足が介護業界に与える影響

人材不足が与える影響はさまざまであり、その内容も多岐にわたります。影響を受けるのは介護従事者だけではなく、介護が必要な高齢者やそのご家族にも影響が及ぶ可能性があります。

ここでは、人手不足が介護業界に与える影響や問題点について、それぞれみていきましょう。

サービスの質低下

介護人材の不足は、さまざまな場面でサービスの質の低下を招く恐れがあります。すでに、一部の事業所では最低限の人員で対応可能なサービスを提供しており、対応範囲の縮小や、新規利用者の受け入れを取りやめる状況もあるようです。

今後、さらに介護職員一人あたりの担当利用者が増加すれば、ケア内容や提供時間の調整が必要になります。このような状況に陥らないためにも、利用者本人やそのご家族が安心してサービスを利用できるよう、ケアの質の低下を防ぐための施策を考えなければなりません。

労働環境の悪化

人員不足が続くと、労働環境に影響が及ぶ可能性があります。とくに深刻な人手不足では、介護職員一人あたりの負担が増え、過重労働が慢性化する恐れがあるため注意が必要です。

このような状況では、ミスやトラブルが発生しやすくなるだけでなく、職員同士のコミュニケーションが希薄化するリスクも高まります。そのため、日頃から職場環境の整備や改善に取り組む姿勢が重要です。

高齢者のQOL低下

介護人材の不足は、働くスタッフへの負担を増加させるだけではありません。万が一、介護職員の人員不足によってサービスの質が低下した場合、利用する方のQOL(Quality of Life=生活の質)にも影響を及ぼすでしょう。

さらに、サービスの質や利用者のQOLが低下すれば、一緒に暮らすご家族の負担が増加することが懸念されます。高齢者やそのご家族が安心して暮らせる未来を実現するためにも、社会全体で介護業界の人材不足について検討していくことが重要です。

介護業界の人材不足を解消するには?

介護業界の人材不足に対処するためには、さまざまな側面から問題を検討し、具体的な施策を考えていかなくてはなりません。より効果的に進めるために、ここでは人材不足の問題に向き合っていくための施策案を紹介します。それぞれの施策を確認し、自分たちで実践できそうなことを考えていきましょう。

労働環境の改善と整備

人材不足の問題を解消するためには、職場の雰囲気や労働環境の改善は必要不可欠です。長時間労働や過重労働を防止するためには、職員一人あたりの業務量を明確に把握しなければなりません。

また、困ったときに相談できるような関係性の構築や、職員のメンタルケアに配慮できる環境づくりも必要です。人材確保が難しい状況では、職員が安心して働ける環境を整えるのと同時に、定着率をいかに向上させるかが問題解決の鍵になります。

処遇改善への取り組み

介護業界の人材不足を解消し、新たに介護職を目指す人を増やすためには、処遇改善への取り組みが重要な課題です。

具体的な処遇改善として、賃金の引き上げや福利厚生の充実が考えられます。ほかにも、スキルアップやキャリアアップの機会を提供することで、職員のモチベーションを向上させることも効果的です。

ただし、これらの改善を図ろうとしても、企業や事業所だけでは限界があり、対応が難しいというケースは少なくありません。そのため、社会全体で連携し合い、問題解決に取り組む姿勢が求められるのです。

イメージアップにつながる施策

一般的に、介護の仕事に対して「きつい・大変・賃金が安い」などのイメージを抱く方は少なくありません。介護職員を増やすためには、このようなネガティブなイメージを払拭することが必要です。同時に、介護のやりがいや重要性を広く発信し、社会的なイメージを向上させる施策を実行することで、介護の仕事に誇りを持つ人や、介護職を目指す人が増え、介護離れの防止と新たな人材の確保につながります。

採用基準の明確化

介護業界の人材不足を解消するためには、新しい人材の確保だけでなく、長く働き続けられる環境づくりが重要です。

ただし、働きやすさの基準は人によって異なるため、働き手それぞれの考えをを汲み取る姿勢が求められます。採用する側とされる側の価値観が一致していないと、職員の早期退職につながるリスクが高まるでしょう。

このような事態を防ぐためにも、仕事内容や勤務時間、福利厚生に加え、職場の雰囲気や会社の理念などの情報を共有し、双方のミスマッチを防ぐことが大切です。

海外人材との連携

近年の介護業界では、国内での人材確保が難しくなっており、海外人材を頼る状況が増えています。

そのためには、さまざまな国籍の方がスムーズに連携できる仕組みを整えることが必要です。例えば、多言語に対応できるような取り組みや、異文化を理解するための研修などを考えるのが効果的と言えるでしょう。

このようなグローバル化の推進によって、人材不足の解消だけでなく、多様性を考えたよりよい社会の実現につなげられるでしょう。

介護職の人材不足に対する取り組み事例

現在、介護職の人材不足を解消するために、各地でさまざまな取り組みがおこなわれており、ネットワーク技術を有効活用する企業や事業所も増えてきました。

今後、介護業界の人材不足に対処していくためには、既存の取り組み事例を踏まえておくことが大切です。これから、取り組み内容の一例を確認してみましょう。

SNSの有効活用

人材確保のアプローチ方法のひとつとして、SNSを活用する事業所が増えています。SNSの活用は、多くの方に介護に関する情報や魅力を発信するだけでなく、職員のリアルな声や職場の雰囲気を伝えることも可能です。SNSを発信することによって、介護職のイメージアップが図れるだけでなく、従来の求人広告では届かなかった層にアプローチできるというメリットがあります。

積極的なICT導入

国としても介護ロボットやICTの導入を推進しており、職員の業務負担の軽減とコミュニケーションの円滑化、事務作業の効率化が期待できます。深刻化する人材不足の問題を検討するためには、今後、ICTをどのように活用するかが重要な課題となるでしょう。

柔軟な働き方への対応

介護業界では、「1日1時間から」や「週1日のみ」など、柔軟な働き方に対応する事業所も増えてきました。子育て中の女性や、仕事と家庭を両立したい方など、さまざまな事情を抱える人でも働きやすい環境を用意することで、新たな人材確保につなげています。

例えば、フレックスタイム制やリモートワークの導入に加え、訪問介護員の直行直帰を許可する事業所も増加傾向です。

今後も介護業界の人材不足を解消していくためには、多様な働き方への対応が不可欠なポイントとなるでしょう。

まとめ

今回は、介護業界における人材不足の現状と今後の課題について解説しました。

近年の日本では、さまざまな要因から介護人材の不足が深刻化しており、今後もこの状況が続くと予想されています。このような問題に対処するためには、処遇改善や海外人材との連携、最新テクノロジーの活用など、さまざまな側面からの検討が必要です。

介護を必要とする人やそれを支える人々が安心して暮らせる未来を実現するためには、社会全体で協力して取り組んでいくことが不可欠と言えるでしょう。

渡口将生

介護福祉士
介護支援専門員
認知症実践者研修終了
福祉住環境コーディネーター2級

介護福祉士として10年以上介護現場を経験。その後、介護資格取得のスクール講師・ケアマネジャー・管理者などを経験。現在は介護老人保健施設で支援相談員として勤務。介護の悩み相談ブログ運営中。NHKの介護番組に出演経験あり。現在は、介護相談を本業としながらライターとしても活動、記事の執筆や本の出版をしている。